村を抜け、石榴とシュドは北東へ歩き出した









「方角はこっちであってんだよな?」







高原ながら、ちょっとした雑木林になっている
その地域を歩きながら 少し先頭を歩く石榴が訊ねる







「はい、地図にもこの高原を抜けて
手前の山地に城があると記されてます」







シュドが地図と 遥か向こうに見える山とを
交互に見ながらそう言う







「ったく ルデの奴も面倒なところにさら…」







ため息混じりに 自分の後方にいるシュドに視線を移し









すぐ側の林に潜むモノに気付き、石榴が叫ぶ







「シュド、危ねぇ!!」









林の影から飛び出した、巨大な熊に酷似した魔物





シュドに向かって鋭い爪のついた腕を
地面に振り下ろす











〜No'n Future A 第二十話 「野望の礎」〜











地面に大きな窪みをつけたものの







間一髪 シュドは魔物の攻撃を避けていた









その場にへたりこんでいるシュドを
魔物が唸り声を上げながら見下ろしている







シュド!そこから離れろ!!」







石榴が銃を具現化させ シュドに呼びかける





しかし、シュドは魔物を見上げ
ぶるぶると震えてそこにへたりこんだままだ







「あっ…足が震えて…!」







怯えたままのシュドに、





魔物が無造作に腕を振り上げ







「"固まれ"!」







石榴の放った弾丸が、魔物の足を固める









怒号を上げてもがく魔物とシュドの間に
石榴が急いで割って入り







シュドに向かって 石榴は叱責した







「しっかりしろシュド!」








ビク、とシュドが身体を強張らせるが





それに構わず石榴は続ける







「こんなことで怯えてたら、誰かを助ける事だって
出来なくなるんだぞ!」







会話をしている間にも、魔物は腕を振るって
足の戒めを徐々に壊していく







「魔物を倒せとは言わねぇ、けど
戦いから目を逸らすな!









石榴とシュド 二人の視線が刹那ぶつかって









「…分かりました、僕も 戦います!







シュドの目から 怯えの色が消えた







彼は呪文を唱え、魔物に向けて手をかざす









魔物が足の戒めを壊し、石榴へと狙いを定め


石榴はそれに気付いて銃を構えなおす







「スロミル!」







シュドの呪文が発動したのは
そのタイミングだった





途端 石榴へと向かう魔物の身体が
薄い青色の光に包まれ―







襲いかかる魔物の動きが遅くなった







「動きを遅くする術を使いました
石榴さん 今のうちに!


「わかった、"爆ぜろ"!







銃弾が頭に炸裂し、魔物は地面に倒れて
そのまま動かなくなる











「…やればできるじゃねぇか」





「僕に出来るのはこれ位の事ですけど…
精一杯、補助します!」









強く言い切ったその言葉に、石榴はニッと笑った









「それじゃあ頼むぜ、シュド!」















それから 石榴とシュドの快進撃が始まった









雑木林や山の中での道中もそうだが







城にたどり着いてからも、魔物達が
群れをなして二人の行く手を阻む







しかし、









「スリプラウリフ!」


『ナンダ…眠…ク…!?』







シュドが敵の動きを鈍らせたり、









「スゲェ…周りがスローモーションみてぇだ…!」


「これで少しの間、素早く動けます
その間にこの罠の仕掛けを破壊してください!!」







或いは石榴の力を引き出し、









「邪魔だああぁぁぁぁぁぁ!!」







それに答えるように石榴が魔術銃で
向かいくる魔物達を撃ち滅ぼして





確実に奥へと進んでいく











「石榴さん、合図をしたら術をかけるので
下がっていてください!」









石榴に一括されてからのシュドの成長はめさましく







元々の気質の高さと特訓の成果が 戦闘の度に
頭角を現していき、







どんどん 頼れる補助役となっていった













「ほう…侵入者どもめ、中々やるな」









城の一室で 黒い魔物が水晶に映し出される
石榴とシュドの行動を眺めて呟く









「仮にも僕と共に旅をしてたんだ、これくらいは
出来て当然だよ」







黒い魔物から少し離れ ルーデメラもまた
水晶の映像を眺めている







「…今まで何処へ行っていた」


「なに、僕の出番は二人が大広間についた時だから
それに備えてたのさ」







ひょうひょうと言うルーデメラ







「ふん、まあいい…失敗したら
我が闇の力の餌食にしてやる







言って 魔物は腕から黒いオーラをゆらりと滲ませる









「僕を誰だと思ってるのさ?まあ…見ててよ」







ルーデメラがいつものように、不敵な笑みを浮かべた













やがて、二人は城の一番奥にある
大広間へとたどり着いた







「ヤケにだだっぴろい部屋だな ここが一番奥か…?」







警戒を怠らないそのままで、石榴は周囲を見渡す









先程まで魔物がいた通路とは反対に







広間には誰の姿も見当たらない…ように見えた









だがしかし、







「石榴さん、危ない!








シュドの叫びが聞こえるのと同時に石榴の体は
爆風に吹き飛ばされ、背後に立っていた柱に激突する





衝撃に耐えられず柱は大きく窪みをつけて崩れる







「大丈夫ですか!?」


「痛っ、いったいなんなんだ!?







青ざめた顔をしたシュドは急いで石榴のもとへ駆け寄る









吹き飛ばされた時に打撲した右肩を
左の手の平で庇いながら立ち上がる石榴









少し指が触れただけでも痛む肩は骨にまで
損傷があるかもしれない









「僕にもわかりません ですが一瞬
とてつもない魔力を感じました」


「…魔力?」


「はい おそらく、高度な技術をもった
魔導師ではないかと…とにかく治療が先です!







石榴の左腕をそっと地に下ろしながらシュドは分析する









戦闘経験が豊富な石榴でも感じなかった魔力を
読み取れることができるとは







ここに辿り着くまでの道のりで
シュドも大分成長したようだ









それよりも石榴の気にかかったのは





『高度な魔導師』という単語だった











石榴の脳裏に浮かぶのはこの世界で
初めて出会った人物であり







一緒に旅をしてきた、先日さらわれた仲間







彼もこの世界ではかなり高等な魔術師らしい











「いや、まさかな」









たとえ幾度となく喧嘩をし、使い走りにされたことなど
両手の指では数え切れないほどだが





シュドがいる以上 彼が不意打ちという
卑怯な真似をするとは思えない







なにより彼よりも遥かに劣っている石榴に





そこまでする理由はない…筈だ









「そうです、ルーデメラさんが
そんなことするはずありません」







おそらく石榴と同じことを考えていたであろう
シュドが力を込めて同意する







「だよな、幾らなんでも―」







治療が終わり 石榴が動き出そうとしたその時





不意にシュドの体がぶるりと震える









それを見て、何事かと石榴が身構えるのと
シュドが呪文で障壁を築くのはほぼ同時







一瞬遅れてシュドの障壁に強大な魔力が激突し





周囲に大きな火花が飛び散る









魔力の飛んできた方を見やった石榴とシュドは





驚きのあまり目を見開く









「余計な事しないでよ、天使君」









真実は時として残酷なもの





二人の目線の先には、柱に寄りかかるように
して立っていたルーデメラだった









「うそ……ですよね?」







呆然とした石榴の耳に誰かの呟きが聞こえた









シュドの声か、と石榴の鈍った頭が判断するのに数秒







それはルーデメラが次の行動を
起こすために十分な時間であった











ルーデメラが小さな球状の何かを投げ、







それがシュドの身体に当たった その瞬間







真実を受け入れられない石榴の目の前で、
シュドの華奢な体が崩れ落ちる









「…て、てめぇ シュドに何をした!


「眠らせただけさ 彼を巻き込むのは本位じゃないからね」







石榴の怒りの視線を轟然と受け止め







「悪いけど用があるのは君だけだよ、クリス君
死にたくなければかかってきなよ」









ルーデメラは丸い玉を地に投げつける







地につくなり玉は弾け 紫色をした煙幕が周囲に立ち込める







「なっ…!」







視界を煙に遮られ、困惑する石榴を嘲笑うように







「バンプソニック!」


「ぐあっ!?」





横手から飛び来た衝撃波が石榴を直撃する





「隙だらけだねクリス君、天使君を見習いなよ?」


「っ…テメェ!!」







音を頼りに 石榴は振り向きざまに銃を放つ





しかし手ごたえは無く、代わりに







「君の本気ってこんなもんだっけ?」









思いがけず近いルーデメラの声と共に訪れた
背後からの衝撃に 石榴は思わずのけぞった







一瞬遅れて、蹴りを入れられたと気づく









「甘いよ 僕はこう見えても体術も
ある程度こなせるのさ」


「くっそ…煙幕で何も見えねぇ…!」







背中を抑えながら 石榴は辺りを警戒する









煙幕が晴れるのを期待するだけ無駄だよ
これはそう言う風に作ったから」


「…だったら、これはどうだ!」





石榴が魔術銃の銃口を床へと向けて





「"吹き飛ばせ"!」







発射された光弾は、床と接触した瞬間





豪風となって広間中を吹き荒れ
煙幕を全て吹き飛ばした!









煙幕に隠されていたルーデメラの姿を認めると







「これでこそこそ隠れられないだろ、ルデ!」


「ふぅん…なかなかやるじゃないか
でも、僕の発明品を甘く見られちゃ困るよ?







ルーデメラがパチン、と軽く指を鳴らした瞬間





吹き飛ばされたはずの煙幕が徐々に集まり
再び大広間を満たす









「厄介なもん作りやがって…これだから
ファンタジーはっ!!」







煙幕の中、悪態をつきながら
目をつぶり、石榴は意識を集中させる









四方でルーデメラが呪文を唱える声が聞こえ









気配が、徐々に近づいている









「そこだっ!」







赫い目を閃かせ 石榴が引き金を引いた







「くっ!?」





思ったよりも確かな手ごたえ





「どうせ煙幕で何も見えねぇなら、気配を
探した方がよっぽど確実みてぇだな!」







今だ濃く立ち込める煙幕の方向に
石榴は銃口を向けながら言う







幻術でフェイント入れたのに 僕の足に
掠らせるなんて…見くびってたよクリス君!」







聞こえるルーデメラの声に 余裕の響きはない







「来いよルデ、今日こそ一回ぶっ飛ばしてやる!


「出来るもんなら やってみな?」









紫色の煙の中 二人の戦いが激しさを増した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:はい、遅ればせながら ノンフュも20話
相成りまして野望シリーズも架橋に


石榴:遅 ぇ よ!二週間以上たってんじゃねぇか!


ルデ:しかもシリーズがまだ終わってないしね
本当 執筆サボるのもいい加減にしたら?


狐狗狸:サボってない!何ていうかこう 上手く
書けなかっただけ!


シュド:ああああのっ ご、ごめんなさい
僕のせいですか?


狐狗狸:う、え、ううん…


石榴:シュド、作者のせいだから気に病むな


ルデ:そうそう 自分の執筆ペースをわきまえられない
作者は責任もって僕がお仕置きしとくからね?


狐狗狸:Σちょっ!




ついに石榴とルデが敵対…!?二人はどうなる
そして、眠らされたシュドの安否は!?


次回 ルデが予想もしない行動に…?!