「さて…それにしても ルデを探しにいく手がかりがねぇな」


「困りましたね」







二人が口々にそんな事を呟いた矢先







「あんた達 何処行くの」









唐突に現れた第三者の声に、二人が辺りを見回す









「何処見てんのよ、こっちこっち!!







更に別の声が 前方の右斜め下から聞こえた


二人が視線を向けると、幾つか石が転がっていて





その石の一つから現れた目と石榴の視線が合う







「ようやくこっち向いたわね」


「気づくのが遅いわよー」


「けど あなた達まぁまぁのルックスねー」









石達が次々にしゃべりだすと言う
あまりの光景に二人は固まっていたが、







石榴はハッとして首をブンブン横に振り 叫んだ









「何で石が喋ってんだ!?腹話術か!!!?」


「なにいってんのよ、当たり前でしょ
あたし達 語り石なんだから」







さも同然のように答える石達に、石榴は少しむかついた









しかし 石榴が口を開く前に





「あなた達が語り石なんですか!?」





驚いたようにシュドがそう言った









「シュド、ひょっとして石がしゃべるのも
ラノダムークの常識に入るのか?」







渋い顔で訊ねる石榴に シュドははい、と頷いて







「その名の通り、会話の出来る石
色々な話を知ってるんです」







僕は初めて会うんですけどね、と微笑む
シュドの後に石達が口をはさむ









「あたし達は喋るだけじゃなく耳や物覚えも
いいから、色んな話を聞くことが出来るのよ?」


「だから旅慣れてる人とかはよく話し掛けてくるわね」


「数は少ないけど、結構探せば見つかるしね あたし達」







(…そういやルデの奴が時々、
話し掛けてたけど あれは独り言じゃなかったのか)







石榴は心の中でそう呟いた











〜No'n Future A 第十九話 「野望の城」〜











「……じゃあシュド 悪ぃがルデのことを聞いてもらえるか?」







もしかしたら何か手がかりがあるかもしれない
期待する気持ち半分





やっぱり石と会話を交わすのはファンタジー否定派の
石榴には釈然としないらしく、シュドに頼み込む







シュドは素直に引き受け しゃがみこむ









「語り石さん 僕達、ある人を探してるんですが
何かご存知ありませんか」


「知らなーい、でも 怪しいお城なら知ってる」


「それはどの辺にありますか?」





石達はわきゃわきゃと喚きつつ





「んーとね、ここからよ」


「えー、東ってか 北東じゃなかった」









西だの何だの色々な意見が飛び交って、小一時間









「やっぱわかんないから少し先の村で聞いて〜」







最後にその結論に行き着いた時 石榴は頭を抱えた







「これだからファンタジーはああぁぁっ!!」





叫びだした石榴を石達は奇妙なものを見る目で





「ちょっとーあの子 大丈夫なの?」


「やーねー最近の子はキレやすくって」


「あ、あのっ…石榴さん?」







おずおずと声をかけるシュドに石榴は
ようやく我を取り戻す







「悪ぃなシュド、大丈夫だから」









その後 石と二言三言、会話を交わし得られた情報は…









怪しげな城がこの先にあるってことだけか…結局は」







有益かどうか微妙な情報に 石榴は眉をしかめる







「でも そのお城が何か関係してるかもしれないですね…」





考え込むシュドに石榴はため息を落とし





「とにかく、村まで行って詳しく聞くか」







二人は先に進むことにした















ちょうどその頃、噂にのぼったその城のとある一室で





縛られたルーデメラを中心に 魔物達が周りを取り囲んでいた







その少し離れた場所で





側近の魔物を引き連れた 禍々しい姿の黒い魔物
ルーデメラを見つめている









「さらわれて 人のいる牢屋に放り込まれたと
思ったら、いきなりここに連れて来られて」







ルーデメラは縛られたまま 器用に肩をすくめる







「まったく忙しい限りだね」


「なぁに 今まで捕まえた人間達の中でお前は一際強い
魔力を持っていたからな…ボスに差し出そうと言うわけだ」









彼の隣で さらってきた魔物がそう言った





魔物達全てが奥の魔物に向き直り、そいつは
ルーデメラを睥睨し ゆっくり立ち上がって









「ほう…そいつか、強い魔力の持ち主と言うのは
確かにこの者は」


「レイズトフライアス!!」







奥の黒い魔物の台詞を遮り、





いつの間にか縄を解いたルーデメラが広範囲の術をぶっ放した







まともに攻撃をくらい 大半の魔物が動けなくなる





「お前…何をする!?





さらった魔物が風を呼び出すが、ルーデメラが短く何かを
呟き 右手の指で何かを虚空に描くと


そこに光る魔法陣が現れ 嵐を起こす





風同士が干渉を起こし、魔物のまとう風が消え去った所を







「メルティボム!!」







ルーデメラがすかさず呪文攻撃で叩いた









魔物達が敵意と殺意を表しながらルーデメラを取り囲む







「…どういうつもりだ」


「言っておくけど 僕はわざとさらわれて来たのさ」







周囲に集まる魔物達に ルーデメラは
指で次々魔法陣を書いて術を発動させつつ







「あの場で倒してもよかったけど天使君が人質だったし」









自分を囲んでいた魔物達が動けなくなったのを確かめ、









「最近 妙に魔物が系統だってる気がしたんでね
少し捕まった振りをして様子を見たのさ」







堂々とルーデメラはそう言ってのけた











ルーデメラの強さを目の当たりにして、尚
排除するために動こうとした側近を抑え





黒い魔物は重々しく口を開いた









「そうか…お前は強い魔導師なのか?」


「ここらじゃ僕の名前を知らない方がモグリだよ」







ニッコリ笑うルーデメラの言葉に ボスと呼ばれた
その魔物は―ニヤリと笑った






「我が力を振るえば貴様は死ぬだろうが
その力をみすみす失うのは惜しい」





魔物が右手を差し出して宣言した





「どうだ 我と手を組まぬか?


「…僕がしがない魔物風情と?笑わせてくれる―」







小馬鹿にするルーデメラの言葉を遮り、







「こちらに協力するなら、この材料を分けてやろう」









言ってボスが右手を握り、また開く







開いた手の平の上には
キレイな茶色の石が幾つか転がっていた









「それは…ニラムロトの結晶…!








ルーデメラは少し目を見張った











ニラムロトの結晶は 取れる場所が少なく





気候の変化などで年々採れる量が減る、
貴重な魔道材料の一つで


純度の高い物ほど市場にかなりの高値で
取引される代物である





彼の目の前にあるそれは、間違いなく高純度


捨て値で捌いても一般人なら10年は楽に
食べていける値段だ











「しないのならば…勿論 お前を含め
捕らえた人間どもを皆で喰らってくれる







まさに飴と鞭のような魔物の交渉に
ルーデメラは しばらく何かを考えて、







「…いいよ、その話 乗ろうじゃないか









不敵な笑みを浮かべてそう言った















「あれが石の言ってた村か?」


「看板にクレース村って書いてありますね」







石榴とシュドが辿り着いたその村は、
はっきり言って荒んでいた





村の外には 人っ子一人見当たらない







「今まで見た村の中でも ヒドイ荒みようだな」


「…僕達の前に現れたあの魔物の仕業なんでしょうか?」







言いながらも二人は、村へ入り
情報収集のため 飯屋へ足を運んだ









流石に飯屋には人がいたが、皆 活気が無い







飯屋にいる村人達は 石榴達に怪訝な目を向ける





入り口の近くの席にいた男が尋ねる









「お前達 よそ者だろ」


「そ、そうだけど…」


悪いことは言わん この村は呪われとる、すぐに帰るがいい」





別の者がそう言うが シュドは困り顔で





「でも、僕達 この村の人達に聞かなきゃ
いけないことがあって…」


「事情を知らぬよそ者に 話すことなど何も無い」


「この村はニラムロトの結晶を魔物に横取りされて
滅びる運命…」







ニラムロトの結晶という単語に、石榴が反応する





ルーデメラがさらわれていなければ、
間違いなく自分が取りに行く筈だったアイテムの名前に







「どういうことなんだ 詳しく聞かせてくれ









言い渋る村人達に、シュドは頭を下げて頼み込む









「お願いします 僕達、大切な仲間が魔物に
さらわれてしまったんです!!」



「何か知っていることがあったら 教えてくれ!!


「何と…!」







店内にいる村人達が 一斉にざわつく









やがて、一人が代表して口を開いた







「そう言うことなら…教えてやろう 知っていることを、な」













村人達の話によると、







この辺はニラムロトの結晶が採れる場所があり
村はそれによって生計を立てていた







しかし、18年前に現れた魔物達がその場所を独占し





徐々に蓄えが無くなって衰退する村に拍車をかけるように


村の周辺で旅人や村の者が 突然現れた魔物にさらわれるらしい









その魔物も 風を操るものから、巨大な熊のようなもの
なんとも形容しがたいグロテスクなもの等様々らしく







命からがら帰ってこれた者の話では、





ここから北東の方角にある古城に皆連れて行かれ


そこでニラムロトの結晶を取る労働力にされたり
魔物の餌食になるのだという












「やっぱりが怪しかったのか…」


「その城について 何か知っていますか?」









更に問いかけると、村人が城のことを話し始めた











ベスビア領の領主が治めていた古城だが





聖戦の時 魔物の総攻撃に合い、領主は死を遂げ
城は主を無くしたまま荒れ果てた







現在 城の持ち主は、領主の血を唯一受け継ぐ
貴族のアイドと言う男だとか









「とにかく、知っていることはそれだけだ」


「お前達に同情したから 話したが…
その城にだけは行かぬ方がいい」


「悪いことは言わん、その仲間のことは忘れろ







口々に言う村人たちの言葉を振り切って







「貴重な情報を教えてくれて ありがとうございました」





シュドが深々と頭を下げ、





「それじゃあ、行くか シュド」







石榴が村人達をそこに残してシュドと二人で村を出た












「その古城に行けば ルーデメラがいるかもしれねぇな…」


「僕達も 城に行きましょう!









二人は 古城への道を歩き出した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:話がもう少し進んだけど 思ったより長くなったなぁー


石榴:てかルデ お前自力で脱出出来たろ?


ルデ:そうも行かないさ、色々事情があったし


石榴:つーかシュドが開放された時に呪文ぶち込めば
俺達がこんな苦労することも無かったろ!!


ルデ:そうも行かないさ あの状況じゃね


狐狗狸:どういう事か説明プリーズ


シュド:大雑把に分けると攻撃呪文は標的に向かって飛ぶものと、
標的に照準を合わせて発動するものの二種類なんです


ルデ:飛ぶものはもちろん風の影響を受けるし、照準を
合わせる方だって術者の集中を乱せばそれまでさ


石榴:そーいやあの時の魔物は 風使ってたな…




ルデ:まあ僕なら風系統の術同士干渉させて打ち消したり
召還獣を呼び出すことも出来たけど…
天使君が人質に取られて迂闊に動けなかったし




シュド:ルーデメラさん 僕のことを
考えてくれてたんですね…(キラキラした目)


ルデ:…ああ、うん まぁね(苦笑)


石榴:あ、ルデが珍しく押されてる




本当 ルーデメラが悪人みたいになっちゃって
どうしましょ(待てやコラ作者)


次回、裏切ったルデの待つ城に二人が乗り込む…?