シュドと旅を共にして 数日が過ぎ





三人はリドットの森を歩きつづけ、







森を抜け フュリオン大陸の南に位置する
高原に差しかかっていた









「森を抜けたにしては、結構木の多い場所だな」







歩きながら 石榴は景色を見渡して呟く







「この辺りはベスビアって言う昔の領主様の
土地らしいんですよ」





シュドが明るくそう付け加え





「もっとも 聖戦の時に魔物達に襲われて
当の領主は死んだらしいけどね」





ルーデメラが引き継ぐようにそう続ける







「…何か 歴史の授業受けてるみてぇだ」







辟易したような石榴にシュドが困った顔で








「石榴さんは 歴史、お嫌いですか?」


「歴史っつーか勉強はあんま得意じゃねーな」


「ふぅん、クリス君ってやっぱりバカだよね


悪かったな どうせ俺は頭悪ぃよ」







そのまま 石榴とルーデメラの口ゲンカが始まりそうに
なるのを、シュドの一言が止める







「あの…お二人とも お茶でも飲みますか?」


「「お茶?」」







二人が声をハモらせて シュドの方を見る











〜No'n Future A 第十八話 「野望の魔の手」〜











「はい、この間入れたばかりですので
まだ暖かいですよ?」







そう言いながらシュドが ルーン文字が施された
銀色の筒と木で出来たコップを出す







筒の方が妙に見覚えがあるような気がして、





石榴はその筒を凝視して―







「おいこれ、何処で手に入れたんだ!?









目を見開いて尋ねる石榴に シュドは
きょとん、としたように少し首をかしげた









「これは祖母からの貰い物で、異世界の品物に
ルーンを刻んで効果を持続させた物だと言ってました」







筒を掲げ 施されたルーンを指で辿りながら
シュドは説明を続ける







「何でもすごく頑丈で入れた飲み物が零れないだけじゃなく、
飲み物の温度がどんな場所でも変化しないとか」





その言葉に 石榴はようやく納得のいった顔をして





「そりゃそうだ この容器はそう言う風に作られてっからな」


「え…それじゃあこれは 石榴さんの
世界のものだったんですか?」







逆に今度はシュドが目を見開いて驚く





石榴は頷いて







「ああ 魔法瓶って言うんだよ」


「ふぅん、クリス君の世界も色々と面白いものがあるんだねぇ」







興味深げに魔法瓶を眺めるルーデメラ





そして すぐさまシュドに微笑を向けて





「天使君 今夜一晩だけ、それ貸してくれない?
新しく作る魔法道具の参考にするから」


「あ、はい どう―」







魔法瓶をルーデメラに手渡そうとしたシュドを
石榴が押しとどめた







「やめとけシュド、こいつに物を貸したら
絶対もとの形で帰ってこねぇから」









その一言は決して冗談で言ったものではなかった





実際石榴は 旅の道中、野宿をしている時や
宿に泊まった時などの空いた時間で


魔術で浮いたり消えたり出来る例の怪しげな袋から


色々な材料や機材を出して薬や魔法道具を作る
ルーデメラの姿を幾度となく見ている







「いつだったか魔術銃を 磨いている最中に取り上げられて
危うくバラバラにされそうだったこともあるし」


「やだなぁ僕は君の魔術銃を強化してあげよう
純粋な気持ちでだねぇ」







睨みつける石榴に対し 悪びれた様子が
微塵もないルーデメラ





「そうですよ、魔術銃をバラバラにするなんて事
ルーデメラさんがするわけないですよ」





ルーデメラを尊敬するシュドが彼を擁護し







「ほら、天使君はちゃあんと僕の善意を
わかってくれているよ クリス君?







二対一の立場に分が悪くなった石榴が





「とりあえず 日も暮れてきたし
今日はこの辺で野宿の準備をしようぜ」





話題を変えるようにそう言った







「そうですね、じゃあ早速場所を探しましょうか」


「やれやれ 理屈で勝てないからって話を誤魔化すとは
やっぱりバカなんだねクリス君は」







その後 色々言い合ったりしながらも









三人は雨露がしのげそうな手ごろな場所に
陣取って夜を過ごした













朝の三人のメニューは、





シュドの手持ちの材料による 野菜シチューだった







「あの…どう、ですか?」







不安と期待が入り混じった顔でシュドがたずねる





石榴もルーデメラも、シチューを二口三口
口に入れて 微笑んで答える









「うん 相変わらず美味いな」


「天使君 いっそ女の子だったら
すごくいいお嫁さんになれるのにね」


「お前はそういうことを言ってやるなよ」











シュドが旅の仲間となってから、







石榴とルーデメラはリドットの森を抜ける合間も


必要な素材探しやシュドへの修行などを行っていた







実戦経験はまだないものの、防御壁を張る術や
治癒の術などを繰り出すスピードは上がりつつあり





ルーデメラの被害に遭う石榴は
よくシュドの回復呪文の世話になった







また、薬草や茸などの素材についても知識が深く





ルーデメラの探す魔法道具の素材集めにも
その知識が大いに役に立った







何より 野宿の時、シュドが手持ちの材料と
道中で見つける食べれる素材で





素晴らしく美味しい料理を作ってくれることが
二人にとっては何よりもありがたかった











「だって クリス君、ろくに料理も作れないじゃないか」


「うるせーよ、お前だって見た目だけは
キレイなくせに何であんな味になるんだよ!」











シチューを食べながら低レベルなケンカを繰り広げる二人









このケンカが二人にとって日常茶飯事だと気づいてからは







シュドももはや 止めることは諦めていたりする









「あ、あの 僕…あっちでお鍋洗ってきますね」







そう言って、シュドは鍋を少し離れた岩棚に置いて





呪文を唱え 鍋の中に水を生み出して洗い始めた







「悪いなシュド 手伝おうか?」


「大丈夫ですよ、僕は皆さんのお役に立てれば
満足ですから」


「いい子だねー天使君は、クリス君も見習いなよ


「その言葉 そっくりそのままテメェに返すぜ」









普段とまったく変わらない、緩んだ光景







そこにつけこむように 突然風を切って
三人の真中に魔物が舞い降りてきた





『!?』





攻撃態勢に入ろうと三人が身構えた途端


魔物が短く何かを呟き、それと同時に魔物を中心に
突然 荒れ狂う突風が起こった







風にあおられ、三人は態勢を整えるのに必死だ





魔物の起こした風が、その場に置かれた食器や
鍋を根こそぎ巻き込み 地面に叩きつける







「リオスク アー…」





魔術銃を具現化する前に、魔物が風を操り
横薙ぎに石榴を襲い







辛うじて避けたものの 宝珠が弾かれ


少し離れた地面に落ちる







石榴が宝珠を拾おうとした、その瞬間









「動くな!」


「うわああぁっ!!」







荒れ狂う風の中、声のするほうを見ると





魔物がシュドを人質にとり、







「ククク…こいつの命が惜しくば大人しくしろ」







魔物は 鋭いカギ爪をシュドの頬に当てていた









「ぐ…」





石榴は悔しげにうめき、ルーデメラも
唱え終えた呪文を圧し留めた





「さあて、お前たちにどっちか選ばせてやる」







ひたり、とカギ爪をシュドの喉へと移動して
魔物が風を取り巻きながら問い掛ける








こいつの命と引き換えに自分たちが助かるか
さもなくば全員順番にオレに食われるか









カギ爪を喉にあてがわれながらも、シュドは叫ぶ







「石榴さん、ルーデメラさん!
僕のことは構わず攻撃してください!!」


「そんなこと 出来るわけないだろ!!





ククク足掻け足掻け!さあどうする、
こいつを見捨てるか今ここでオレに―」









下卑た笑いを張り付かせた魔物の言葉を遮って







僕が代わりに人質になるよ、代わりに
天使君を放してもらいたい」





ルーデメラが呪文を中断し 魔物に向かってそう言った





「ルデ!?」


「ル…ルーデメラさん…!?」







二人は驚きと困惑の入り混じった表情で
ルーデメラを見やる







「大丈夫さ 僕の事は心配要らないよ
これでも考えがあるからね」










浮かべた微笑は シュドや魔物の目には







他者を気遣う気丈なものと思われたのだが





石榴にだけは、本心を隠した邪気のある笑みに映った









「オレはどちらでも構わんが…望みとあらば
そうしてやろう、来い!





ルーデメラがそのまま魔物へと近づく





再び風を操り、魔物はルーデメラと自分を繋ぐ
通り道を作り出した







魔物はシュドを解放し、代わりにルーデメラを
その腕に抱えると





風を自分の身にまとって飛び上がった







「ひゃーははははは、さらばだ!」









そして魔物は、勢いよく飛び去っていった





ルーデメラと一緒に











残されたシュドと石榴は 魔物の飛び去った方角を見つめ
しばらく呆然としていた









しかし、シュドが気を取り直し石榴に言った







「石榴さん 早くルーデメラさんを助けに行きましょう!」


「え…でも 探す当てがねぇし…」


「けど、あのままじゃルーデメラさんが危ないです!







必死の面持ちで言うシュドとは裏腹に





石榴は正直、ルーデメラを助ける気が起きなかった











ルーデメラと普段からケンカをしているのもその一つだが





さらわれる直前に見せた微笑と台詞


そして魔物を攻撃せずにあっさりさらわれた事が





どうしても心に引っかかったのだ







何となく 前の時と同じく、ルーデメラに
上手い具合に騙されている気がひしひししている石榴だが







しかし、出会って間もないシュドに
ルーデメラの本性を伝えても





信じてもらえないのは火を見るより明らか









「でも、あいつ こっちじゃスゴイ魔導師なんだろ?
きっと自力で何とかするって」







気休めのように言うが シュドの表情は変わらない







「…僕のせいで ルーデメラさんが連れて行かれたんです」





後悔と自責の念が入り混じった顔でシュドは呟く





「シュド…」


「石榴さんが行かないなら、僕一人ででも
ルーデメラさんを助けに行きます!」









決意し 真剣な面持ちで言うシュドに、





石榴は溜息をつきながらも









「そこまで言うお前を 一人で行かせられるかよ」







シュドの肩を叩き 力強く言った







「俺も奴を助けに行く」


石榴さん…!」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ようやっと新章書き始めましたノンフュ〜


石榴:遅すぎだろこれ、つーかどんだけ話長くなるんだ今回は


ルデ:天使君が活躍するこの話、二話で終わらす予定
だったらしいけど どうみても二話以上かかりそうだよね


シュド:ごっ、ごめんなさい 僕のせいで…


石榴:シュドのせいじゃねーよ


ルデ:そうそう、悪いのは作者だから


狐狗狸:おっしゃる通りで…


石榴:つかよルデ、お前 何で魔物にあっさり
さらわれてんだよ


シュド:あの…考えって一体…


ルデ:それは作者が早く次の話を書けばわかることさ




今度はなるべく早く次の話書きます スイマセン(謝)


次回 とんでもない事実が明らかに?!