「やれやれ 大分元の姿に近づいてきたけど
これじゃ猫獣族だと誤解されるね」


「……いや それより俺は、お前の今の姿の方に
物凄く言いたい事がある







苦虫を噛み潰したような石榴の表情も 無理は無い





ヒゲこそ無いものの 猫耳と猫尻尾をつけた
ルーデメラの姿は


はっきり言って現代なら


何処ぞのコスプレイヤーかと言われそうな物だった







…性質が悪い事に ルーデメラのその姿が
妙に似合っていたりする









ふと、頭に疑念が湧いたのか








「ひょっとして呪い云々ってのは嘘で、お前
俺を騙してんじゃねーよな?







石榴が疑わしげな眼差しでルーデメラに問いかける





「そんな事はないよ 現に猫になってただろ?


特別に調教した猫腹話術で誤魔化すとか」


「じゃあ徐々に戻っていった僕の姿は?」


きぐるみ特殊メイクでそれっぽく見せてる」





頑として譲らない様子の石榴に


ルーデメラは呆れたように苦笑して、シュドの方を振り返る







「クリス君って たまにおかしな事をいうんだ
困るよねー天使君?


「え、ええと…」







話を振られて戸惑うシュドと、







「仕方ないさね、自分のいた所と
この場所が違うから馴染みにくいんだよ」







諭すようなおばあちゃんの口調に





石榴はそれ以上 何かを言う事が出来なくなる









「早いところ、この世界の常識
馴染んでもらいたいもんだね」







鼻で笑うルーデメラを悔しげに見つめ、
石榴は本気で こう思った





(出来れば早く現実に帰りてぇ)





話題を切り替えるように、シュドが明るく言う







「でもこの調子なら 後少しで完全
元に戻れると思いますよ」


「本当にねー 初めにうちに来た猫とは
見違えるほど美形になったよ」







シュドと並んで 彼の祖母も微笑みを浮かべている









「この分なら、後どれ位で元に戻れそうなんだ?」


「そうですね…明日くらいには、完全に
元の姿に戻れると思いますよ?」







それを聞いて 石榴は安心したように息を吐くと
ルーデメラの方を向いて、言った







「したら明日には旅を再開しようぜ
いつまでも此処にお世話になるわけにはいかねーし」


「お二人とも 旅立ってしまわれるんですか?」


「元々僕らは旅の途中だったからね」





寂しげなシュドを宥めるようにルーデメラは言う





「おやおや、せわしない子達だねぇ
もう少しゆっくりしてもバチは当たらないよ?」







溜息混じりにおばあさんはそう言うが、







「すいませんね、クリス君がどうしてもって
言って聞かないもんですから」


「何だよ俺のせいかよ!」







ルーデメラが申し訳なさそうに言った言葉に





石榴が目を吊り上げて文句を言おうとしたが







「気にしないで下さい、僕 明日には
お二人が無事に旅に出れるよう頑張りますね!」









気丈に微笑むシュドを見て、言葉を失ってしまった








「それじゃあ あたしも腕によりをかけて
料理をご馳走しようかねえ、シュド」







明るく言った彼女の言葉をきっかけに







はい!じゃあお二人とも また後で!!」









シュドとおばあちゃんの二人は 台所へと向かった











〜No'n Future A 第十七話 「聖天使の旅立ち」〜











賑やかな食卓も終わり 夜も深けて







「…ルデ 起きてるか?


「クリス君 普通夜は寝るものだよ」







石榴は身体の向きを変えて、ベッドの上から
ルーデメラに話しかける









「なあルデ、世話になったんだし
シュドの為に何か力になってやろうぜ?」


「例えば?」





そう返され 石榴は頭を悩ませながら、





「そりゃまあ 修行をつけてやるとか
何かアドバイスをするとか」







ルーデメラは興味なさそうに天井を眺める







「そんなの個人の問題だろ?他人が口出すことじゃないよ」


「っでもなあ!」


「大きな声出さないでよ 天使君が起きちゃうだろ?」









指摘され 石榴が口を抑えてシュドの方を見る






幸い、シュドはぐっすりと寝ているようだ









「話す事がないならもう寝るから、おやすみ」







黙り込んだ石榴に ルーデメラはそれだけ言うと
背を向けて寝に入ってしまった





仕方なく、石榴も目を瞑った













夜が明けて、術式を試し





ようやくルーデメラの呪いが完全に解けた







「クリス君に呪いかけられた時はどうしようかと
思ったけど、ありがとね 天使君」


「え?あの呪いは石榴さんが!?」


あれは自業自得だろ!
ヘンなデマ言ってシュドを騙すなよ」







ルーデメラの軽口を 不機嫌顔ながら冷静に返す石榴







「よかった…これでお二人とも、無事に旅を再開出来ますね」





少し寂しげに シュドが微笑む











「おいルデ…」







呟き ジッと見つめてくる石榴に





ルーデメラは溜息を一つ落とした







「随分 天使君には迷惑かけちゃったから…
僕ら二人で修行をつけてあげようか」


「え、いいんですか?」


「いいとも、それで君が魔術導師に向いているか
少し見てあげるからさ ねークリス君」


「お、おう!







ルデに返事を返す石榴の胸中には
喜びの他に 半分不安が交じっていた





(修行って…何やるんだ?)












家の外に出て、ルーデメラが説明を始めた







「範囲はこの家から半径20メートル
僕は幻術と魔法道具しか使わない





言いながら、ルーデメラが石榴に視線を寄越す


その視線を受けて、石榴が言葉を引き継ぎ





「俺は今回 ルデのサポートとして動くが
ルデと同じく攻撃はしない」







頷いて ルーデメラが視線をシュドに戻し







「その条件で、制限時間内に僕を捕まえること
異論がなければ早速始めるよ?


「はい、よろしくお願いします!







シュドの返事に頷いて ルーデメラが呪文を唱え始めた









「がんばれよ シュド」


「はい、僕 がんばります!」


「イリュード!」







呪文によってルーデメラの分身が出現し
本体と分身が森の中へ駆け出したのを皮切りに





シュドの修行が始まった













修行が始まって数十分、シュドはルーデメラの出す
幻影に翻弄されつづけていた





"夢幻の使者"と名乗るだけあって





彼の作り出した分身の幻影は、触らない限り
分からないくらい本物そっくり


声のブレも細かな仕草も鮮明に写し取っていて


おまけに生半な消去呪文では消えないという
非常に厄介なシロモノだった









「捕まえました…あっ







伸ばした手がルーデメラの身体を掴んだように見えた瞬間





そのルーデメラの姿がふつりと掻き消える


勢い余ったシュドがよろめいた刹那







「"粘つけ"!」


「うわあぁっ!?」







声と共に石榴が放つ光球をすんでの所でシュドが避ける





地面に光球が着弾し、粘着質の物体がわだかまるが





それらをかわして シュドが森の中を走り回る







つかず離れずの状態で石榴とルーデメラも森の中を走る











「流石にこの森に住んでるだけあって、歩きなれてるな…」







少し嬉しげに石榴がシュドの方を見やるが







「君が甘いんだよクリス君 足止めはもう少し
上手くやんなきゃ…こんな風にさ!









言ってルーデメラがスイカ大のボール
シュドの近くの地面に投げ







派手な音と光を炸裂させた







「わあっ前が見えないっ、あっ!?





その音と光に驚き シュドは完全にバランスを失う







シュドの倒れる先には ルーデメラの作った
魔法道具の罠があった





「後は罠が作動したあとに、もう一発
足止めを食らわせれば終了だな」







微笑みながら、成り行きを見守るルーデメラ







しかし、それが発動するよりも先に





石榴が魔法道具を打ち抜いた









悪ぃなシュド、幾らなんでも
見てらんなかったから助けちまった」







近寄って 石榴は倒れこんだシュドを助け起こす







「あ、あの ありがとうご…」





お礼を言おうとして、シュドが石榴の銃
気付いて 目を大きく見開く





「ざ、石榴さん その銃はもしかして…!


「あー、コレの説明は後な とにかくルデを
何とかするのが先ぐはっ!







石榴の言葉を遮ったのは、
背後から現れたルーデメラの攻撃呪文









「裏切ったねクリス君 罰として呪いをかけてあげるよ







言って ニヤリと笑うルーデメラを







「上等だ、もう一度テメェを猫にしてやらぁ!!」





石榴は睨みつけて銃を構え、そのまま
二人の攻防が始まる











「お二人とも ケンカは止めてくださいーーー!!!」









魔法と銃弾が飛び交う中、シュドの悲痛な叫びが木霊するが







シュドが慌てている暇も有らばこそ










「うぎゃあああああー!」







石榴はルーデメラの術を受け、全身が氷漬けになってしまった









魔術で生み出した氷で全身包めば、君でも
抜け出すのに時間がかかるでしょ?」







ニッと笑って、ルーデメラがシュドの方を向き







「まだ制限時間まで間があるから頑張りなよ」







それだけ告げると あっという間に森の奥に消える











シュドは困惑したようにルーデメラの消えた方向と、
氷漬けの石榴を交互に見比べたが







「石榴さん 今助けます!!





そう言って石榴の方に向き直り 呪文を唱え始めた





「クリアスペル!」







呪文を完成させ シュドが氷に手をかざすと
そこから暖かな光が広がり、


氷が見る見るうちに溶けていく





氷を全て溶かし、中からボロボロの石榴が助け出される







「ありがとなシュド」


「いいんです、ジッとしててください…」







微笑んで、シュドは口の中で呪文を唱える







「ヒーリング!」





暖かな光が石榴を包み 傷を見る見るうちに癒していく


しかし、その最中







「"神の紡ぎ糸 捕縛の鎖 礎を絡めとれ"!」







ルーデメラの言葉に反応し、光る投網がシュドを絡めとった









「修行の最中でよそ見してちゃ駄目でしょ?
はい、僕の勝ち















修行が終わり、三人は家の前まで戻ってきた







「おやおや お帰り三人とも」







戻ってきた三人をおばあちゃんが出迎えるが
三人はしばらく黙っていた











最初にルーデメラが口を開く







「君 ハッキリ言うけど魔術導師どころか
魔導師すら向いてないんじゃない?」





シュドを見下すルデを石榴が掴みかかる





「そこまで言うことねぇだろ、大体
お前が俺を氷漬けにしたからっ!」



「いいんです石榴さん」







その一声に 石榴がルーデメラの襟を放して
彼の方を見やる









この上なく落ち込んだ様子のシュドに


石榴はかける言葉も見つからない







「僕は ろくに攻撃呪文も発動できないし
魔術導師になれるはずも…」


「人の話は最後まで聞くものだよ、二人とも」









遮るようなルーデメラの声に


シュドはうっすら涙を浮かべた顔をあげる







魔導師には向いてないけど、僧侶系の術者には
向きが良さそうだったからね」







石榴は口を挟まず ただルーデメラの言葉を
ジッと聞いている







「意外と世間に知られてないけど、実は僧侶や神官
魔術導師の試験を受けて 資格を獲得するケース
ごく僅かだけどあるんだよ?」









シュドの目が驚きと期待に彩られる









回復・補助専門の魔術導師を目指すにしろ
実戦経験を積まなきゃどうしようもない」







そこでルーデメラは、自分を指し示して







「…まぁ 僕みたいな腕のたつ魔術導師と一緒に
世界を旅すれば、少しはマシになるだろうけど?」


「ルデ お前…」





ふふんと笑うルーデメラに視線を返し、





石榴は シュドに向き直る











「シュド、どうする?
俺たちと一緒に行くのか?」


「…僕は……僕は









悩むシュドの肩を おばあちゃんが優しく叩いた







「いっといでシュド」


「でも おばあちゃんを一人で残すなんて…」









心配そうな眼差しを送るシュドに、





おばあさんは優しい笑みを浮かべて







「なーに遠慮してんのかねこの子は、
魔術導師に憧れてたんだろ?だったら世界を見なきゃ







金色の髪を いとおしげに撫でた









シュドは、俯いたまま 涙ぐむ









「……はい」













彼女は二人の方を向いて







「うちの孫のこと、よろしくお願いね」







深く 頭を下げた











「わかった 安心してくれバアちゃん
これからよろしくな、シュド


「…さあ、行こうか天使君」









シュドは涙をふいて ニッコリと笑った









「はい よろしくお願いします!








――――――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:何とか無理くりながらシュド編終了〜


石榴:本当に無理くりだな、もう少し修行の部分
深く描写しとけよ 話の肝だろ?


狐狗狸:いや 私的には話の肝はシュドが
旅立つシーンなんで、そこに力を注ぎたかったんです


シュド:管理人さん…そこまで僕の事を…!(感激)


ルデ:単に面倒くさかっただけじゃないんだ


狐狗狸:(ドキッ)そ、それにしてもルデの幻術や
魔法道具とかってスゴイよねー流石夢幻の使者!


石榴:図星かこのヤロ


シュド:でも ルーデメラさん、本当に何でも
出来ちゃうんですよー憧れます


石榴:…でもコイツ、回復魔法とか苦手って
言ってたけどな


ルデ:僕は苦手分野の魔術は もっぱら召還獣や
魔法道具で代用しているのさ


狐狗狸:ついでだから魔法道具についてもう少し
詳しい説明お願いします




ルデ:原理は魔力自体を溜めて道具の特性を
発揮させるか 術自体を封じ込めて特定の動作等で
発動させるかの二つだね




シュド:そうなんですか、勉強になります


ルデ:魔法道具の大半は基本使い捨てだね、何度でも
使えるタイプもある事はあるよ


石榴:道具作りもそれなりに大変なのか


ルデ:まーね でも天使君が仲間に入ったお陰で
補助系の魔法道具作りの研究もはかどりそうだ(喜)


狐狗狸:…うーわーこき使う気満々だぁ




狐狗狸はルーデメラに氷漬けにされました


次回 捕らわれのルーデメラを石榴とシュドが救出!?