「しかし 俺が言うのもなんだけどよ、
よく俺やルデの言葉を信じたよな?







リドットの森を歩きながら 石榴は
前を行くシュドに問いかける







「だって嘘をついているように見えませんでしたし」





ニコニコと微笑みかけるシュド





「そ そうか?まーありがたいっちゃありがてーんだけどよ」


異界人と喋る猫のコンビなんて、普通は
信用されないからねー」







石榴の肩の上で ルーデメラは目を細めて笑う









「ところで、シュド君だっけ?君は薬師なのかな」







ルーデメラがシュドの背負う 薬草が入った
籠を見つめて問いかけると





シュドは大げさに目を見開いて手を振った







「いえそんな大層なものでは…」


「けど、森に慣れてる感じするよな」


「はい 僕、生まれてからずっと
おばあちゃんと二人でこの森に暮らしてるんです」





シュドのその言葉に 石榴はへぇ、と短く呟く





「薬草はたまに来る旅の方や商人の人に
お売りしてるくらいで…あ、あそこが僕の家です」









彼の手が指し示す先に、





ぽっかり森に開いた空間があり 一軒の家が建っていた











〜No'n Future A 第十六話「腹黒に憧れる聖天使」〜











どことなく素朴なその住まいの周りには
小さな畑や井戸のようなものもあり





周囲の森の木々と合間って、何とも言えない
雰囲気をかもし出していた







井戸の方にいる小柄な老婆が 近づいてくる
シュド達に気が付いて顔を上げた











「シュド お客さんかい?」


「そうなんですよ、おばあちゃん」







シュドが丁寧に二人を指し示して、







「こちらの黒髪の方が石榴さん、で 石榴さんの
肩に乗ってる猫が ルーデメラさんです」







名前を呼ばれたと同時に 二人は彼女に頭を下げる







「珍しいねぇ 異界の方と猫の旅人とは」


「…やっぱり俺って、この世界じゃ珍しいんですか?」


「おやまあ、随分と言葉が達者な方だねぇ」









感心したように石榴を見つめる彼女







先程まで黙っていたルーデメラが





石榴の頭に飛び乗ると、丁寧な口調で尋ねた







「つかぬ事を伺いますが、あなたかこちらの
シュド君の親類に 聖職関係の方はいますか?」


「あらま 猫が喋ったわ







目を丸くするお婆さんに、シュドが猫を指し示しながら







「ルーデメラさんはご自分の呪いを解く為に
僕に協力して欲しいとおっしゃられたんですよ」











二人に会った経緯を説明され







彼女は目を細めて納得した











「そうかい、この猫がアンタの憧れた
魔術導師なんだねぇ」


「…あの、これは呪いで猫になってるだけで
本当は普通の人間だから」







物珍しげにルーデメラを見つめるお婆さんに
石榴は穏やかにツッコミを入れた







「それでお婆さん、僕の問いの答えは?


「ああそうだったね 近頃忘れっぽくてねぇ…
確かにあなたのおっしゃる通りよ」









お婆さんは シュドの顔を見てしみじみと呟く







「早くに死んだシュドの両親が、力のある神官でねぇ
この子の薬草の知識も両親譲りさね」


「父さんと母さんに比べたら、僕なんか
まだまだ未熟者ですよ」








照れたように呟くシュドを 半ば感心したように眺めてから





石榴は肩に乗るルーデメラに小声で聞いた









「…何で分かったんだよ、そんな事」


「この家に張られた結界と二人から感じる力に
聖職者特有のモノが漂ってたからね 嫌でも分かるさ





こともなげに言い放たれた一言に、石榴は眉を潜めた





「わかんねぇよ普通」









「とにかくそういう事情なら、二人ともゆっくりしていきなさい」





ニッコリ微笑んで お婆さんは続ける





「この森は魔物も滅多に出ない場所だし
久々に私も 旅のお話をお聞きしたいねぇ」


「僕も微力ながら 呪いを解くのにお手伝いさせていただきます!」







意気込むシュドに 石榴は自然と微笑みながら返事を返した







「おう、こちらこそよろしく」


「…まぁ しばらくご厄介させていただきますよ」













二人がシュドの家に居候し始めてから 三日が経ち、





ルーデメラの姿は徐々に戻りつつあった









「やっぱりちゃんとした術を知ってるだけあって
効き目が現れてきてるね」







魔術で出した鏡を見つめながら ルーデメラが言う








「…そうだな、この前よりゃ人に近いよな」









緑色の獣毛に覆われた猫獣人、といった表現が
ピッタリの 今のルーデメラの姿を





石榴は複雑な表情をしながら答える









「ルーデメラさんの提案した 術式と薬を交互に
試すやり方がうまくいったんですよ」







ニコニコしながらシュドがそう言う







「僕は少しお手伝いをさせていただいただけです」


「いやそんな事はねーって、俺とルデだけだったら
まだコイツきっと猫のままだったよ」







指差す石榴を横目で睨みつけてから


ルーデメラは少し溜息をついて







「それは否定できないね…けど、天使君?


「あ、はい あの…天使って僕のことですか?」


「他に似合いそうな呼び方が無いからね
…そう呼ばれるのは嫌かな?」







クスっと笑うルーデメラに対し
シュドは顔を真赤にして首をぶんぶか横に振る







「とっとんでもないです!」









二人のやり取りに 石榴が腑に落ちない顔をした









「…実は会った時から気になったんだけどよ
何でこいつに憧れてんだよ


「僕のような実力の高い魔術導師を尊敬するなんて、
天使くんは中々お目が高いと思うけど?」







偉そうに格好をつけるルーデメラに見向きもせず


石榴はシュドに真剣な眼差しを向ける







「何か理由があるんだろ 良ければ聞かせてくれよ」





「…僕を無視するなんていい度胸だねクリス君」







黒いオーラを垂れ流すルーデメラだが
石榴は全く動じなかった







「あ、あの…話しても いいんでしょうか?」


「ああ、緑色魔人はほっといて 是非始めてくれ」











シュドは少し戸惑いながらも、







ぽつりぽつりと 話をはじめた









「三年前に、用があって街に行った帰りに魔物に遭遇して
通りすがりの魔術導師の方に助けていただいたことがあるんです」


「割とありがちな動機だね」





ルーデメラの呟きに 石榴がギッと睨みつつ





「テメーはそういう事を言うな…それで?」







石榴に話を促され シュドは再び話しはじめる







「その時から魔術導師になりたくて、魔導師目指して
ずっと魔術の勉強をしてるんですけど
どうしても攻撃魔術が憶えられなくて…」





「え?何で魔術導師になるのに魔導師目指すんだ?
てゆか メイストリードってなんなんだよ?」









ワケがわからないという表情の石榴に、


ルーデメラが呆れたように ふぅ、と息をついて







「クリス君は知らないだろうけど、魔術導師は
魔道に精通した存在であり、それを志し そして
無残に散っていく魔導師連中は後を絶たないんだよ?」







ルーデメラの言葉に被せるように、


シュドも石榴に対してフォローを入れる









「魔導師の照合を持つものが 数年に一度行われる試験
合格して、晴れて魔術導師になれると聞いています」


「…そんな本格的なもんだったのか、魔術導師って」







石榴の感心した眼差しを受けて、ルーデメラは
満足げに口の端を歪めたが





すぐさま 真剣な表情に戻った







「でも 魔導師として協会に所属する為には
最低でも自分の身を守れる程度の攻撃呪文
身に付けてなければならないのさ」


「…何かややっこしいんだな 本当に
一つも出来ないのか?攻撃魔法」





石榴の問いかけに シュドが首を縦に振る





「三年間 ずっと勉強してるんですけど、
満足に発動できないんです…」







悲しげにうつむくシュドを見て 石榴は慌てて慰める







「そんなに気落ちすんなよ、ルデなんか攻撃呪文とか
物騒な魔法しか使えねーんだしよ!」









無言で近寄ったルーデメラが、石榴の背中に
猫爪の一撃を食らわした







アダッ!な 何すんだルデ!!」


「そーいう余計な事言わないでくれる?」


「だからってそのサイズの爪で引っかくんじゃねぇ!
痛ぇだろうが この化け猫もどき!!


「そんなに興奮してると 出血が余計激しくなるよ?
天使君、クリス君の背中治療しといてね」







ルーデメラの言葉に シュドははい、と頷くと
石榴に駆けより、すぐさま呪文を唱えた





怪我をしてものの数分も経たず


石榴の背中は傷一つ無い状態に戻った







「ど、どうですか 石榴さん」


「おおスゲェ、もう治ったのかよ ありがとな





シュドは頬を赤く染めながらはにかんで言う





「いえ お役に立てれば幸いです」


「ルデ、お前も少しはシュドを見習ってみたらどうだ?」


「おやヒドイ 僕も色々な発明や術を協会に提供して
少しは世間に貢献してるつもりだよ?」







ルーデメラの言葉に続くように、







「そうなんですよ、ルーデメラさんの編み出した
術や道具は役に立つって 色々噂で聞くんですよ」





シュドが石榴に対して熱弁する





「へーそうなのか、意外だな 何か」


「僕もいつかルーデメラさんみたいに 色々な道具や術を
編み出して、人の役に立つのが夢なんです







眩しいばかりの純粋なオーラが シュドから溢れ出す







「ふぅん そうなんだ…立派な目標だね」









目を細めて どこか気の無い風に答えるルーデメラ













「もうそろそろ夕食の支度をしなきゃいけないので
その時にまたお話を聞かせてくださいね」







シュドがそう言って、台所へと姿を消した







「…何かお前 ここに来てから大人しいよな」







シュドがいなくなってから、石榴がボソリと呟いた







「おや、わかるんだ?」


「まーな いつもの腹黒さが控えめになってるし」





ルーデメラは尻尾をゆっくり左右に振りつつ、





「なんかね 聖職者とか好きじゃないんだよね
肌に合わないっていうかいけ好かないというか」


お前自身が邪悪だからじゃねーの?」


「…クリス君 君って勇気があるね
背中の一撃じゃやられ足りないなんて」







両手に鋭い爪を生やして笑うルーデメラに


石榴は反射的に魔術銃を発動させた








――――――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:…スイマセン やっぱり二話じゃシュドの話は
終わりそうにありませんでした


石榴:つかよ、スタメンの出会う話とかは いっそ
三話を目安で作ればいいんじゃねーの?


狐狗狸:おお その手があったか!


ルデ:無駄に語りと設定が長すぎるせいだと思わないんだ?


狐狗狸:(ギク)と、ところでシュド 通訳の術の
制約について詳しく教えてちょ


シュド:わかりました!


石榴:またもや強引な話のすり替えだなオィ


シュド:通訳の術は効果も短い上に自分にしか
かけられないんですよ


ルデ:僕もちょっとだけ研究したけど、根本的にあの術は
余りアレンジ出来ないシロモノでね 精々術の継続時間を
延ばすくらいでとても他者にかける事は出来ないよ


狐狗狸:長い解説 ありがとうございます


シュド:じゃあ石榴さんはどうして…


ルデ:ああ、彼の場合は特殊なんだ(ニッコリ)


石榴:……凄く腑に落ちねぇが そういう事にしとく




次回にはこの話の結末を書きます 必ず…
だって早くスタメン五人だしたいし(爆)


ルーデメラの呪いは解け そしてシュドは…?