アウィト山を越えて、街や村や湿地帯などを通り越し


二人はリドットの森を歩いていた





「なぁ この森、かなり広くねぇか?


広いよ?フィリオン大陸を両断してるからね
それとも、もう疲れたのかな?」


からかうようなルーデメラの言葉に 石榴はヘン、と鼻で笑って





バカ言え コレ位で疲れるなら
今までの道のりについてこれっかよ」







石榴とルーデメラの今までの軌跡は、


聖戦跡地が存在する ラグダス島から始まり


一番近いスーマ大陸の港町へ向かい、





海を越えてフィリオン大陸へとたどり着いた事になる







そこから更に色々な場所を越えているのだから
最早この程度でへこたれる石榴ではない





「それもそうだね、君ぐらいタフな実験動b…
もとい 旅のお供は初めてかな?」


「今 実験動物って言いかけたろ?」


気のせいだよ クリス君?」





微動だにしない相手の笑みに、石榴は
疑いの視線を向けているのがバカらしくなったようで


視線を逸らすとルーデメラの前を歩き始め





「今回 何を集めるんだよ?





振り向かないまま 後ろへ向けて問いかける





「そうだね、ここでは薬草と毒草が数種と…
まー 主に植物系だね」


大雑把だなオィ」





しかめた顔の向きを変えずに再び反論する石榴





「どうせいつもみたく 目当ての品があれば
指示してあげるから安心しなよクリス君」


「指示じゃなくて命令だ…ろ…」







そこでようやく振り返り、石榴は足を止めた





どうかしたかい?クリス君」


不思議そうに首を傾げたルーデメラに


石榴は引きつった笑みを浮かべながら指差す





「…なぁ、テメェが今 手に持っている禍々しい色
石ころは何なんだよルデ」







右手にピンクと黒と紫の交じり合った
何ともいえない色合いの こぶし大の石を手に





「この間手に入れたラグラド鉱石がちょっと余ったから
暇つぶしにかじった呪いを封じ込めてみたんだ」


悪びれる様子もなく ルーデメラはそう言った











〜No'n Future A 第15話 「聖天使現る?」〜











「で、そんなもん持ってどうする気なんだよ?」


「聞かなくても分かりきった事だろ もちろん
君に効果を体験してもらおうと思ってね」





不意打ちでルーデメラが左手を動かして


いつの間にか拾った小石を石榴に投げつけるが





石榴は避けながら距離を取り 魔術銃を具現化する







「道中暇つぶしとか言って 魔法やら道具を
試すのいい加減止めやがれ!!」


「いいじゃないか、退屈な旅を盛り上げる為
スパイスだと思ってくれれば」


「そんな余計なスパイスいるか!」







小石や軽度の攻撃呪文を放ちながら言うルーデメラに


石榴は魔術銃で応戦しながら返す





コレも最早、二人の旅での定番になりつつある







「バンプソニック!」





ルーデメラの放った衝撃波は 石榴の遥か頭上を通り過ぎる





「何処狙ってやがんだ…っ痛ぇ!


言葉半ばで 石榴の頭上に折れた木の枝が
直撃し、彼は頭を抱える





ニッと笑ったルーデメラが 右手の石を投げつけた





「隙アリ、精々笑わせてくれよクリス君!







石は石榴を目指して真直ぐ進んで―





当たる直前





「そう何度も喰らってたまるか!テメェが喰らいやがれ!!」


石榴は素早く魔術銃を構え 弾丸を一発、発射した







光球状の弾丸は飛来した石を巻き込むと

今度はルーデメラの方へと進み









「くっ!」





避ける暇も防御を展開する時間もなく


ルーデメラにそれが直撃し、辺りに爆煙が巻き起こった







「げっ、マジで当たった…オイ大丈夫かルデ!





石榴が少し慌てて 煙の向こうに問い掛ける





「痛た…やってくれたねぇクリスく…な!?


「な、何だ 何があったんだオイ!!







どうやら煙の向こうで ルーデメラは動揺しているようだ


煙が濃すぎる為 どうする事も出来ず石榴は佇んでいた





やがて煙が収まって ルーデメラがいた場所に目をやると―







「…油断した、ね まさか僕がこんな事になるとは」







青い目をした緑色の猫が 自分の手…だった
前足を見つめて呟いたのだった


しゃべる声音は やけに高い









「な 何だ、猫!?


「何だはないだろうクリス君 君がこんな風にしたくせに」





悠々と喋る猫に 石榴は訳が分からないといった顔で、





「何で猫がここにいんだ ってか猫なのに喋るな!
大体ルデは何処行きやがったんだ!?



「…鈍いねクリス君、状況を考えてごらんよ」


「うるせぇ 俺は猫の戯言に付き合うヒマはねぇ!!」







喋る猫に一喝し ルーデメラの姿を探す石榴





猫は溜息をつくと、手早く口の中で呪文を唱え







「バンプソニック!」





石榴の身体スレスレに 衝撃波を放った







目を見開いて猫を見つめる石榴に





「この世界でも 猫は普通喋らない
まだ分からないなんてバカじゃない?君





青い目で見つめながら 猫は明らかに見下した







「っ!……まさ、まさか ルデ…なのか?」


ようやく気が付いてくれたみたいだね」











二人とも とりあえず近くの倒木に腰掛けて

自分たちの現状を話すことにしたらしい







猫の姿になったルーデメラは、至極 落ち着いた様子で言い放った





「この姿だと 使える術も限られるみたいだね」


何がどうなって、猫なんだよ?これだからファンタジーは…」





石榴は未だに納得行かない様子だ





「今の所 原因は石に封じた僕の呪いと君の放った
弾丸の効果が、ヘンな相互干渉を起こしたんだと思う」





いやーでもしかし猫になるとは、と


ルーデメラは余り深刻そうになく呟く







「てゆうか 何でそんな落ち着いてられんだよ!?


「逆に聞くけど 何でクリス君が取り乱してるわけ?


「だってよく分からず猫になった上に
戻る方法も分かんないんだぞ!不安じゃねぇのか!?」






石榴の叫びに ルーデメラは微笑を浮かべ





「不安が無いわけじゃないけど、今更起こった事を
いつまで悔やんでいても仕方ないだろ?」







ピョン、と石榴の肩に乗って 尻尾を揺らしつ





「肝心なのは、今後をどうしていくか
…もちろん 僕は元に戻るつもりだけど?」







間近で見る青い目を 石榴は黙って見つめ返す





「君にも責任があるんだから 呪いを解く為に
僕に全面的に協力してよね?


「…分かった











そして その日から二人はリドットの森を歩き回りながら、





呪いを解く為試行錯誤を繰り返した







猫の姿では 使える術が余りない上、

ルーデメラは元々呪いを解く呪文は使えない





「呪文を除去する方向なら何とかなるけど
呪いその物の解除とかは僧侶の分野だし」


「分野とか分けられてんのかよ…益々
ファンタジーって感じだな」


魔術導師は魔術に精通してるのが普通だけど
僕は回復や補助とかサボってたし」







石榴の魔術銃でも 相互干渉の影響も強く


流石に本人が呪いの解ける
イメージなど思い浮かぶわけもなく、効果ナシ





仕方なく 呪いを解く為の術式や薬を
行っては効果をみる方式になる







しかし 先程も言った通りルーデメラは
呪いの解除は専門外





その為 イマイチ効果が芳しくなかった















「えーと、次は何をとればいいんだよ?」


「試す術式に必要な調合順でいくと…ルビアの根だね
そこの、木の根本に生えてるそれだよ」





肩に乗ったルーデメラの指示で石榴が
薬草を取る姿も、すっかり板についてしまった頃







「これか?」





木の根本に伸ばした石榴の手が、


横から伸びた別の手と触れ合った





「「あ」」







石榴が手の視線を追うと そこには緑色の服を着て
大き目の籠を背負った金髪の人物がいた





その籠の中に半分ほど盛られた草花の類は、今の石榴なら
薬草だと一目見て分かるものばかりである







初々しい少女のような顔立ちのその人物は





「ごっごめんなさい!


と慌てて言うと 手を引っ込めて後退った







「いや 俺こそ悪ぃ、まさか他の奴が
この森にいるなんて思ってなくてよ」


「…あなた 僕達の言葉が話せるんですか?





金髪のその人物は、驚いたように目を見開く







「ああ、まーな」


「すごいですねぇ!」





純粋な尊敬の眼差しを受け、石榴はちょっと
照れくさそうに頬を染めた





「ふぅん クリス君あーいう女の子が好みなんだ」


「ちっ違ぇよバカ!







からかうように尻尾を顔にぱたつかせるルーデメラに
石榴は真っ赤になりながら怒鳴り返す





「え 猫が喋ってる!?」


「ん、ああ コレはだな…」





言いかけた石榴の口を ルーデメラは尻尾で塞ぐ





「僕はルーデメラ=シートルーグイ、実は訳あって
呪いをかけられてしまってね」







何か言いたそうだが 原因の一端を作ったせいもあり
石榴はとりあえず黙ったままでいる





厄介な呪いらしくて、解く為に色々術式を行ってるんだけど…」







そこでルーデメラは ちらり、と金髪の方


…正確には 後ろの籠の中身を見やり





「君 薬草に詳しそうだよね?出来たら協力してもらえるかな」









金髪の人物はしばし呆然としていたが、ややあって





「アナタが…あのルーデメラさんですか!?





驚きと興奮が入り混じった顔付きで叫んだ







「そうだよ、僕の名前を知ってるみたいで光栄だね」


勿論です!僕の方こそ光栄です!
あの有名な"夢幻の使者"のお力になれるなんて!!」





金髪は ライトグリーンの目をキラキラさせて言う





「僕なんかがお役に立てるなら 喜んで協力します!


「……ありがとう、よかったねクリス君
人手が増えたから君も楽になるでしょ?」







ニヤニヤと笑うルーデメラに 石榴は呆れたように





「女までこき使う気か…性悪魔導師


と呟いた









「あ お二人とも長旅でお疲れでしょう?
僕の家へご案内しますので、是非泊まって行って下さい」





嬉しそうに二人を導こうとし、途中で
何かに気付いたように金髪が立ち止まる





「…って、スイマセンいきなり興奮しちゃって
自己紹介がまだでしたね」


「ん ああ、そういやお互い名乗ってなかったな」


「申し遅れました…僕の名前はシュド=エンブラ
いいます、よろしくお願いします」





丁寧に挨拶したその様子に 石榴は少し好感を覚えた





「俺は緑簾 石榴、よろしくな…シュド、さん」


「シュドで構いませんよ」







可愛らしく微笑むシュドに 石榴は頬を掻きつつ





「流石に初対面の女子を呼び捨てにすんのはマズイだろ…」


やっぱり照れてるんだ カッコ付けちゃって」


「うるせーよ!」







ルーデメラがここぞとばかりに茶化す中、シュドが
おずおずと手を上げた





「あの 僕は…なんですけど」








石榴とルーデメラは その場でしばし、凍りついたように固まった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ようやっと15話目にして ノンフュ内の癒し系
乙面(?)のシュド登場ですよ!


石榴:つか あの出会いはないだろ、昔の少女漫画かっつーの


ルデ:天使君の顔が女の子みたいだからって、内輪でも
女装ネタとかあるみたいじゃない


シュド:Σええっ!そ、そうなんですか!?


狐狗狸:(ギク)ちなみにルデは今回言った通り、回復や
戦闘補助、防御の魔法は出来ません


石榴:かなり強引な話題変更だな


シュド:そうなんですか?ルーデメラさん


ルデ:まー魔術の解除防御壁を張る魔法道具は出来るけど
そっち系の僧侶の分野はサボってたからね


石榴:…戦闘の体力回復は専ら 召還獣
俺の魔術銃だのみだよな


シュド:あの 石榴さん、何だか疲れた顔してますよ?
僕が回復魔法を


狐狗狸:(遮って)それは次のネタだから言わないの!




次でルデの呪いが 解けるかな…?(オィ)


次回 ルデが何と新たな萌えに目覚め(殴/嘘です)