「あーあ 一匹取り逃しちゃったね
後で大勢で攻めてきそうな雰囲気だねぇ〜クリス君?


「なっ何だよ 俺のせいかよ!?


「別に〜ただ君が気を利かせてさっきの奴を
射ち落としてくれればよかったのになーって」


だったらお前がやれよ!大体俺にばっか戦わせて
お前最近怠けすぎなんじゃねーか?」







二人がケンカをしていると、取り巻いていた
村人達の中から 一人の老人が進み出てきた









ケンカを止める石榴とルーデメラに





その老人はゆっくりと顔を上げた







「我々の言葉がわかる旅のお方は久し振りじゃ…
旅の方 どうかこの村で我等の話を聞いてくださらんか?」





老人の言葉に 周囲の村人がざわめき立つ







村長!そのよそ者達を信用すると言うんですか!?」


「そうですよ それに、そいつ等のせいで
奴等がこの村に報復に来るかもしれないのに!!





「…いや、さっきも見た通りこの方々は強い
もしかしたらこの村を救ってくれるやもしれん」







村人達の意見を手で制し、





「さぁ旅の方 ワシの家に案内しましょう
ついて来てくだされ」







それだけ告げると 村長らしき老人が歩き出す









「…どうなってんだこの村は」


「まー話だけは聞いてみようか」







二人は案内されるまま 村長の家へと向かった











〜No'n Future A 第十三話 「面倒なケンカ」〜











「この村は遥か昔 別の世界から連れてこられた
祖先が作り上げたものでしてな」







二人にお茶をすすめ 村長が厳かに話し出した







「今でも時たま 別の世界からの者がこの村の近くに
現れる事もあり、何故かそう言ったもの達とは言葉が通じるんですじゃ」









話を聞いていた石榴は ひたすら眉をしかめている







「別の世界からって…こっちにもそー言う概念があんのか?」


「魔道を扱うものや神官とかなら必ず習う常識で
異世界理論って言うのがあってね」











ルーデメラの話によると、自分達のいるラノダムークとは
別の次元に 全く違う世界が幾つか存在していて







世界のバランスが傾くと 次元同士の壁が薄くなり


唐突に異世界との接点ができる事がある







一説では 神々の世界も別の次元に存在するらしく





"赫眼の覇王"が君臨していた時代には、別の世界からの
来訪者や物も多くやってきたとの事らしい











「まー何処までが本当かはさておいて、別の世界から
やってくる人や物があるのは 昔から確認されてるよ」







そこまで言うと ルーデメラは出されたお茶を
ひとすすりして、石榴を見やる







「でも クリス君は他の来訪者にはない
異質な部分が数多くあるね」


「どう言う意味―」


言葉が通じず、無用な争いを避ける意味も含め
祖先は隠れ里としてこの村を作ったそうですじゃ」







言いかける石榴の言葉を無視して 村長が続ける







「土地や水源に恵まれている場所もあり、我々は
自給自足で細々と暮らしていたのじゃが…」





村長は大きく溜息をつき、







「ある時 どこからか人狼達が魔物の群れを引き連れて
この村にやってきましてな、村を支配したんですじゃ」


「村を支配?」





オウム返しに言った石榴の言葉に頷いて





「我々は抵抗したのですが かなう筈もなく
年々 若い娘と男達を差し出しているのです」


成る程ね、娘は生け贄 男は多分"ラグラド鉱石"
採る為の労働力って所か」







ルーデメラの言葉に さよう、と村長は短く呟き







「あの人狼の頭領が言うには、その"ラグラド鉱石"だけでなく
"ギェモダケ"とか言うキノコも高値で売れるとか」


「へぇ…"ギェモダケ"も取れるんだ」


「何か珍しいキノコなのか?それ」


「まぁね 滅多にお目にかかれないことは確かさ」





滋養強壮の作用が高いギェモダケの産地…
これは思わぬ情報だね)







ルーデメラの目が光ったのを 石榴は見逃さなかった





「…お前 何かろくでもねー事企んでねーか?」


「失礼だねクリス君、人を疑うのは良くないよ?」







小声でささやく二人を無視して







旅の方!先程のあなた方の強さなら
ひょっとすれば奴等を退治できるやもしれません!!」










村長は一人盛り上がると 石榴とルーデメラに詰め寄った







「このままではこの村はオシマイだ…旅の方
どうか助けてくださ―」


「お断りだね」





村長の必死の頼みを ルーデメラはあっさりと遮る







「たまたま通りがかった村の危機を救おうと思うほど
僕はお人好しじゃないんだけど?」


おいルデ!それは幾ら何でも冷酷過ぎんだろ!!」


「何熱くなってるのさクリス君 事実を言っただけだろ?
それに僕らはこの村の連中に襲われてる 忘れたのかい?」


「そりゃそうだけど…だからってこのまま
この村の奴等を見捨てる気かよ!?









冷めた目で見つめるルーデメラに 石榴は苛立って激昂する







「助けられそうなのは今の所俺たちぐらいしか―」


「そこまで言うのなら君が助けてあげれば?
伝説の武器を持った勇者なんだから」









淡々と告げると 答えを待たずにルーデメラは
村長の家を出て行く







「待ちやがれルデ!何処に行く気だ!!」





石榴の呼びかけに振り向きもせず ルーデメラは
何処かへ姿を消した









村長は事の成り行きを呆然と見つめて、







何と薄情…旅のお方 あなたはまさかこの村を
見捨てていく事はせぬでしょうな?」







不安げに見つめる村長に 石榴は少し気まずさをおぼえる









「あいつと一緒にしないでほしいが…少し考えさせてくれ















村長の家を出て 石榴は村の少し外れの木に背を預け
一人 考え込んでいた









ルデの奴 あそこまで薄情だと思わなかったぜ…」





呟いて 少し目を閉じて









急に人の気配を感じて目を開けると そこには
10歳前後くらいの村の子がいた





何故か右手に果物ナイフを持っていて 石榴は少しギョッとする







「お前は…村のガキか?そのナイフをどうするつもりだ?」


「え ああこれ?お兄ちゃんに果物を向こうかと思って」







そう言うと 慌てたように少年は赤い果物を取り出し


手にしたナイフでするすると皮を剥いて 石榴に寄越す







「あ、ありがとよ…」









石榴が渡された果物を頬張っていると、少年が
隣に座り込んで じっと見つめている







「お兄ちゃん この村を助けてくれるんだよね?


「え、あ 確かにこの村は放っとけねぇけどよ…」









期待を込めた熱いまなざしに 石榴が戸惑っていた











その瞬間 後ろの茂みから突如現れた人狼
少年を左腕に捕まえる







「なっ…テメェは!?





石榴が立ち上がりざまに飛び掛るが、人狼は
即座に後方に飛び 石榴と距離をとる







「へへへ テメェが報告にあった余所者か…
二人と聞いていたが もう一人はどうした?


「…知るか あんな薄情野郎!」


「この期に及んでしらばっくれるとは いい度胸じゃねぇか」


「うわああぁっ 放せ、はなせー!





子供が持っていた果物ナイフで 人狼の右腕を突き刺す





「痛っ なにしやがるこのガキ!







人狼はその右腕で少年を殴り、右腕からナイフを抜く







「やめ…!?





怒鳴ろうとした石榴は 人狼の右腕の傷が
見る見るうちに回復した事に目を見張る





「これが珍しいか?
オレ達の種族の中には再生力が高い奴もいるんだよ」







傷一つない右腕を見せびらかし 持っていたナイフを
石榴の足元へつきたてて、







「ガキを助けてほしけりゃついてきな!」









それだけ言うと 人狼はすぐさま森の奥深くへと駆けていく







「あの野郎っ…リオスク アーク!







即座に魔術銃を具現化すると 石榴は
少年をさらった人狼を追いかけて走り出した













森の中の広い空間に少年を抱えて佇む人狼に
石榴が追いつくと 周囲から人狼や魔物が続々と姿を現した







「ちっ やっぱり罠か…」





小さく舌打ちをして 石榴は少年を見やる





「お兄ちゃん 助けて…」


「余計な抵抗するんじゃねぇぞ…
ガキの命が惜しければなぁ!







言って 人狼が鋭い爪を子供の首へとあてがった









刹那、石榴は無言で魔術銃を向ける





一発の銃声と共に異様な叫び声が響いた







「ギャアアッ 痛ェ!撃ちやがったなァ!?
でもこれくらいの傷すぐに再生…」







叫ぶ人狼の一人が命中した右腕を見やるが


先程とは違い、傷口はまったく治らない





「何だと 何故再生しねェ!?







そんな様子などお構いなしに、石榴は立て続け
銃の引き金を引いた





腕を完全に吹き飛ばし 子供が解放されて


人狼から離れたのを見計らうと、頭に一発打ち込んだ





頭を吹き飛ばされた人狼が地面に倒れる









「…俺は 子供を狙う奴が一番大嫌いなんだよ
お前等 皆消し飛ばしてやるから覚悟しろ







赫い目をぎらつかせ 石榴が銃を構える









彼を囲んでいた人狼や魔物達の心を、
いつの間にか恐怖が支配していた













最早その森に立っていたのは 石榴只一人だった







子供は いつの間にか村へと向かって逃げ出している









魔物達は死屍累々と転がり、生命力が強いのか
一匹だけ辛うじて息がある







「…村のやつらが心配だ、早く戻らねぇと」





荒い息を整え 村へと向かおうとした石榴に
虫の息の一匹がせせら笑う





「ケッケッケ、行っても無駄だ…今頃はお頭達が
村のものどもを八つ裂きにしているだろうな」


「何だと…!?」


「隙だらけだぜ 死ねぇぇぇ!!







振り向いた石榴の眼前に 瀕死の魔物の鉤爪が迫り









「メルティボム!」







突如起こった爆発に、魔物は欠片すら残さず吹き飛ばされた









爆音の余韻がまだ残るそこに、割って入る声







「しばらく様子を見てたけど、本当に引き受けるつもり?
君ってよっぽどのお人好しなんじゃないの?」







石榴は 横手から颯爽と現れたルーデメラを睨みつけた







「…何のつもりだ ルデ!


「ふぅん、命の恩人に言う第一声がそれなんだ
クリス君は案外恩知らずなんだね」





、と石榴は言葉を詰まらせる







ルーデメラはその様子に満足そうな笑みを見せて





「少し気が変わったのさ、今から村へ急げば
まだ間に合うはずだよ?









石榴はルーデメラに問い詰めようと口を開くが







「…まぁいい 話は事が終わってから聞いてやる!
急ぐぞルデ!!


「そうこなくっちゃ」









二人は 村へと向かって駆け出した








――――――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:急ピッチながらノンフュ十三話UPしました!
この話で微妙に物語の伏線盛り込んでみたりしてます


石榴:つーかよ 話の中でルデが言ってた
俺の異質な部分って…どういうことだよ?


狐狗狸:こういうネタ晴らしは本編でやりたいけど…
手短に言うならば


ルデ:(遮って)異世界人の筈なのに 術無しで僕達と
話が通じていた事とか、魔術銃を扱える事だよね 主に


狐狗狸:Σちょっと ルデそれ私の台詞!!


ルデ:あとついでにこの話「No'n Future A」のタイトルは
作者の造語で「他世界の現実」って意味もあるんだよね


狐狗狸:Σそこまでネタバレするなあぁぁっ!
最終話ぐらいまで取っとこうと思ったのにっ!!


石榴:今から最終話の話なんかすんなよ まだこの次の話
書き上げてもいねーうちから


狐狗狸:石榴までそー言う事言わないでくれる!?




予告通り仲間割れしましたが…微妙過ぎてスイマセンでした


次にはこの話に決着つきます 意外な情報つきで(何)