「じゃあ、気を取り直して船の中を案内するぞ
ついて来いガキども!







半ばヤケ気味になりながらも、副船長バンザが
立ち上がって部屋から出ると


廊下で石榴とルーデメラを促した





二人もつられて立ち上がるが、ルーデメラは
バンザを見ながら口を開いた







「ああ、言っておくけど僕は船にずっと居座る気はないよ?







まるで手の平を返したようなその一言に、
皆が硬直するのも構わず ルーデメラは続ける









「目当ての魔物を倒すまでクリス君が船から逃げないよう
監視するつもりだから それじゃ」







一方的に言い放って部屋から廊下へ出て、





船を出ようとする彼を反射的に追いかけ


石榴はルーデメラの腕を掴んだ







「オイちょっと待ちやがれ 何処に行くんだルデ









ルーデメラは面倒くさそうに振り向き、







決まってるだろう?戦うのは君の役目だし
僕はこんな狭くてボロい海賊船に乗る義務はない」





ニッコリ微笑むと 右手の人差し指を上に向け





「だから、上空から見守っててあげるよ」









ほんの一瞬 沈黙が訪れ…次の瞬間





「行かせるかぁっ!絶対ぇ高みの見物か
船ごと魔物を倒す気だろテメェ!!」



「何だと!?とばっちりで船を沈められる位なら
船内うろつかれる方がまだマシだ!!」








石榴とバンザの叫び声が ハーモニーを奏でていた











〜No'n Future A 第十話 「意外な窮地」〜











「安心してよ、痛みすら感じないように
散らせてあげるから 放してよ」


『できるかあぁっ!やっぱり沈める気じゃねーか!』







振り解こうと腕を振るルーデメラだが、石榴の方が
力があるらしく 全く腕が離れない





バンザもジリジリと距離を詰め、ルーデメラを
逃がさないように出口を確保する








「まだまとわりつくならいっそこの場で全員―」







ルーデメラの台詞が全て終わる前に





船が 大きく揺れた





途端に石榴とルーデメラが両方同時にバランスを崩し
廊下の床の上に転がった







だが、石榴の腕はそれでもルーデメラを放さず


バランスを取りながらバンザもおっかなびっくり
ルーデメラの側にやってきた









「ルデ テメェだけトンズラなんて、
そうは問屋がおろさねぇぞ…!


「悪いが命に関わるんでな、この船に留まってもらおう」











ルーデメラはしばし男二人の視線を受け流していたが







「……君達もしつこいね」





降参したように肩を竦めると、







「そこまで言うならここに留まってあげるけど…
後悔しても知らないよ?









観念したようにゆっくり立ち上がった











騒ぎが収まったのを見届けて カルロスは


立ち上がると、部屋の入口まで近寄った






「それでは客人、ゆっくりして行け…ちなみに
有事の際はノックしてほしい」





ドアに手をかけ、視線をバンザの顔に向け





「それでは眠りに入るぞバンザ 起こしたら殺すからな」







不穏な発言を言うや否や、カルロスは部屋のドアを閉めた







Σちょっと待…ムグゥ!?」


「よせ…ウチの船長 昔っからああなんだよ」





石榴の口を片手で塞ぎつつ、バンザが言葉を続ける





「寝てる所を不用意に起こすと、誰彼構わず半殺しだぞ?」







そこで 石榴は抵抗をピタリと止める







バンザは石榴を解放すると、顔をドアの方に向けながら遠い目で





「…この前なんか この船に砲撃してきた敵海賊の
艦隊を一人で全滅させたしよ」


「そんなデタラメ眼帯男が船長で、海賊稼業
成り立つのかよ これだからファンタジーは…」







釈然としない理不尽さをぼやく石榴、そこに







「所でクリス君 別に逃げやしないから
そろそろ腕を放してくれない?気持ち悪いんだけど」









石榴はそこでようやく、ルーデメラの腕を
まだ放していなかった事に気が付いた















「相部屋ですまねぇが、ここを使ってくれ
"コンクーアン"が出たら呼びに来るからな」







バンザはそれだけ言うと そそくさと部屋のドアを閉めた







「何か随分慌しいな あの副船長って奴、
やっぱりお前の事を恐れてんのか?」


「だろうね それに、いつ目当ての魔物が出ても
不思議じゃないから気が抜けないんじゃないの?」














あの後二人は 船内を一通り案内してもらい





ついでに 海賊船の船員達と夕食も共にして
客室用の船室に案内された











船室の窓からは満天の星空と果てしない海が一望でき、









石榴はその風景を飽く事無く眺めていた











「やっぱ海って広いんだなーこんな状況でもなきゃ
ノンビリ船旅も楽しそうだよな」





「ガキはこれだから困るよ、こんな
無駄な水の寄せ集め無意味に騒ぐんだから」







刺々しい背後からのルーデメラの文句に
気分を害した石榴が顔を歪める







うるせーな、船も海も初めてなん…何やってんだよルデ」









石榴が彼の方を見ると、ルーデメラは


船室の隅の方に寄りかかっていた







機嫌な悪そうな彼は、視線だけ石榴の方に向ける










「悪いけど 僕は水が苦手でね 船の上は落ち着かないんだよ」







そう呟く彼の顔色は 心なしか冴えなかった







「もしかして お前カナヅチか?」


「…泳げないのは事実、とだけ言っておこうか
その嬉しそうな顔は心底ムカツクね」


「そうか それでお前ずーっと黙りっぱなし
だったのか、道理で過ごしやすいと思ったぜ」







まるで鬼の首を取ったような顔をした石榴に、
思い切りルーデメラは眉をしかめるが







「先に言うけど、船の揺れが酷いと集中力が保てないから
召還獣はおろか大抵の術は唱えられないと思うよ?」





彼の言葉で 石榴の顔から笑みが消える





「それに、水中の敵って こっちが陸上で戦っても
倒すのにかなりてこずるんだよ?







逆にルーデメラがニヤニヤと笑みを浮かべながら
矢継ぎ早につらつらと言葉を並べ、







「いざとなったら空中で援護する気だったのに…
言ったでしょ?後悔しても知らないよ、って」





ハァ、とわざとらしい溜息をついた











石榴が自分の置かれた状況を理解するのに
さほど時間はかからなかった





「マジかよ…船の上で俺一人で魔物と戦えってのかよ









絶望的に呟く石榴の言葉が まるで合図かのように







日中とは比較にならないほどの揺れ
激しい波音、そして





「"コンクーアン"が出たぞ!早く甲板に来てくれ!」





血相を変えてバンザが船室に駆け込んできた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:はい 宣言通り、ルデの弱点書きました!


ルデ:…ダメ狐くん、新薬と新呪文 どっちを試したい?(ニッコリ)


狐狗狸:ひぃ!


石榴:つかよ、俺達の倒す魔物の特徴とか全然出てこねーけど
その辺はいいのかよ?


狐狗狸:あーそれは次回の話&あとがきで一斉に語る予定


石榴:ヲィ待てやこの手抜き作者!




敢えて今大まかな補足を入れるとしたら、"コンクーアン"は
薬の材料となる水棲魔物の亜種って感じです


通常"コンクーアン"の種族は特定の海域の底にたむろしてて
性質も余り獰猛ではないので、捕獲が主なんですが


稀に"コンクーアン"みたいな その海域から外れた所で
海上に出る位活動できる、活発かつ獰猛な奴がいて
そう言うのから獲れる材料も貴重ですが 退治の危険も大きいです


で、"コンクーアン"は上記の部類の中でもかなりの大きさかつ
凶暴性を持っている…という感じの設定で(本編に書けや)




この次で船の話は完結する…予定(待ちなさい)