建物の内部や装置までの移動、更には戦艦内にも
当然 洗脳された男達による軍勢がしいてあり


要点には必ず一人から数人の異能力者が手配され


今まで一人として無事生きて戻れたものはいない
…はずだったのだが







基礎能力が飛躍的に高まっているハズの洗脳兵は
全て赤子同然に軽くいなされ


異能で透明化した中年が死角から遠距離銃を構えるも


スコープを覗いた直後、彼の姿を見失い





ナッ!?ド、ドコニ「後ろだよ?」





振り返る間もなく 距離を詰められたサシルに
一撃もらって昏倒させられる





万全な監視侵入者用のトラップなども勿論
備えられていたのだけれども


死角をやすやすとすり抜け、極小のカメラでさえも
たやすく見つけられた後に破壊され


閉鎖された迫り来た格子状の熱線を、宙に浮かんで
危なげなく回避され そこから普通に
隔壁を壊されて別の場所に移動するなど


平然とした破壊と通過がなされてしまい





無敵を誇っていたマプスの勢力は大混乱に陥った











〜番外―他所の世界の片隅で・後編〜











「アノ、流民ト商業(ロクバン)Sの異生物ガ
転移装置ニタドリ着イテシマイマシタ!」



内部の兵力じゃ足りない!各国に配置した
異能者をすぐさま戦艦に呼び戻せ!!」


「コチラニ向カッテイルダト!?殺セ!何トシテモ
絶対ニマプス様ノ元マデ来サセルナ!!」








大わらわの司令塔の様子に マプスは苦い顔をする





製造(サンバン)の名を関しておると言うのに
侵入者一匹殺せぬモノを作るとは…愚図が!





吐き捨てて、彼はモニターのサシルを一瞥して続ける





「複数の異能を使いこなすとは…あの男もしや
第十三軍団(ユディトレギオン)の人間か…!」









兵達による決死の努力も虚しく


破竹の快進撃…というには物足りなさすぎるほどの
一方的な道行を経て





サシルは 傷一つなく戦艦の最奥部へと着く





「ついたよーやく〜あ、マプスさんアナタが?


「いかにも、よくぞたどり着いたと褒めてやろう
だが貴様はここで終わりだ…選べ 死か降伏かを!






彼の前へ傲然と佇みそう言ったのは


鎧の様な外装をまとい、複数の腕や頭の触覚や
肌の鱗など見るからに"異星人"な人間大の男


かろうじて人形の体裁は保っているのだが


異形と形容しても差し支えのないその姿形では
"男"でなく"雄"と呼称した方が適切なように思える





だがその態度よりも姿形よりも





シェイルサード!アイツが持ってるアレっ」


「間違いない欠片だ、うん…スウィードルの!





ペンダントのようにぶら下げられた"白く輝く石"
なにより二人の目と気を引いた





ギャギャギャ、どうした?ようやく我が
恐ろしさを思い知ったか、さあ選べ!降伏か死を


「あいにくどっちも興味ニャいニャ」


「してるしね、不足 迫力と実力
ってコトでもらうよ返してソレ 悪いけど」


態度は相変わらず軽くて冴えがないものの


藍色の瞳には、強い意志が宿っている





「黙れ!流民めがAランク貴族(イチバン)の
血を引く我に指図をするな!」






カッと目を見開いたマプスが手を伸ばし


途端、サシルは縫いつけられたように身体を
自由に動かせなくなってしまう





「うぐっ…う、動けニャい…!?


「おおっ?力だね、キツいこりゃ」


「幾ら第十三軍団が複数異能の持ち主であれど
その念動力は解けん!読ませてもらうぞ貴様の心…!





音もなく近づいてきたマプスが、胸に手を当てると


彼を通してマプスの脳内へ様々な光景が流れこんでくる







「ズイブン雑念の多い…しかし、貴様の根幹さえ
抑えてしまえば後は意のままに…何っ!?





突如ふつりと光景が途切れ、闇に覆われだす
視界にマプスが動揺を浮かべる






「くっ…何故だ!?なんだこの闇は!!


「足りないね読むには、心を俺の得意でも強くても」







動き出した腕に気づき 慌てて読心を止めて
マプスはその場から距離を取る





それでも近づいてくるサシルを認めると


マプスは手の平を前へ突き出した





「近寄るな第十三軍団の犬め!」


「あのー無いんだけどその俺なんちゃらレギオンじゃ」





聞く耳を持たない侵略者の、胸元の石が
星さながらの瞬きを見せて


空気が振動し…薄い膜の光がマプスを包む





ニャッ!アイツ石の力でバリアーをっ!!」


「たとえ異能無効だとしても、そのバリアーは
貴様の力で破ることは不可能!我に攻撃は届かん!



"無効"じゃなくて、"封印"なんだけどね」





呆れ混じりに、サシルはビームサーベルで斬りかかり





ビームサーベルがかち合い、バリアーと衝突し
激しい音と火花が散った瞬間


伸ばした手で"バリアーを掴んで"取り払った





馬鹿な!素手でバリアーを取り払うなど
そんな馬鹿げた芸当出来るはずが」


狼狽するマプスの身体へサーベルが振り下ろされた





「あった手では悪くない、けど足りないよ
俺をするには実力が相手にまだまだ」








…が、間一髪での瞬間移動が間に合ったのか
離れたところにマプスの身体が出現する





だが無傷とまでいかず 血を滴らせている傷口を
抑えながらよろめいている





「くっ…貴様、第十三軍団などではなく
この石と同じく異なる次元から訪れたモノか!


「お、分かるんだね?それ君は」


「当たり前だ 洗脳程度ならば異能があれば容易い
…だが規模の大きさ、抵抗力の高い異能持ちをも
屈させ、どころか異能を与えることも出来る!





言いながらも逃げようとするが、あっさりと
追い詰められてマプスは荒い息をつくばかり





「このような力を持つ高エネルギー物質を
我が手に入れたのはまさに大宇宙の意志!」



「じゃいいから返してよ、コトで意志って大宇宙の」


「貴様に返すぐらいなら…共に塵にしてくれん!」





隙をつき、マプスが操った手の動きに合わせて
放たれた波動が…洗脳兵の一人を操る





やがて船内に"戦艦と転送装置の爆破"を告げる
警告音が響き渡り 室内が赤く明滅する






ギャギャギャギャギャ!我の死は始まりだ!


奢れる惑星の愚民どもを道連れに我は破壊者として
名を馳せてくれ゛っ」



言葉半ばに、サシルの腕が鋭く閃き


ビームサーベルの光が刹那瞬いた直後…音もなく


マプスの身体が細切れの肉体として崩れた





「終わりだよ…足りない君には、死んだか
なんで分かんないよね?






何の表情も浮かべずに呟かれたその言葉には


あらゆるモノが畏怖を覚えずにはいられない
絶対零度の怒りが含まれていた







少しの間をおいて…沈黙から我に返ったネーニャが
肩にしがみついたままで騒ぎ立てる





「そ、そんニャことよりこのままじゃヤバいニャ!
ニャーたちも下の人たちもオシマイニャ!


「足りないかな救うには、さすがに力が下の人々を」





足元を見下ろし真顔で悩んでいた彼の手の中で


拾い上げられた"白い石"が 殊更に強く輝き出す





シェイルサード!スウィードル様のカケラが!」


光ってる…俺に、してるの?呼応」


光は、同意を表すように瞬いた





「わかった 貸して力を、スウィードル





石を片手に握りこみ 胸元へと持っていくと
サシルは目を閉じて意識を集中させる


―同時に、彼の周りの影が炎のように大きく立ち昇る











退避していた別の廃墟にて





「…ん?」


「どうした薬術階級(ヨンバンメ)の先生?」


「いや、今ちょっと変な揺れが」





治療の手を止め、兵士へそう返す相手の言葉半ばで


間を置かずに都市の大地が激しく振動を始める





「な、何が起こってるんだ?!





戸惑う声に答えるかのように、塔から平板な
機械音声が辺りへと警告する





『緊急措置が作動しました 間もなくこの装置は
爆発いたします、半径500kmの被害が予想される為
付近の者達は直ちに避難してください


繰り返します 間もなくこの装置は爆発いたします
半径500km付近の者は直ちに避難してください








爆発!?う、ウソでしょっ」


「けどこの揺れは尋常じゃないよ!!」


「み、見て上!上から何かが落ちてくる!!





一人が指差す方を見れば、空から炎をまとった
何かの"欠片"
がいくつも辺りへと落下を始めていた





地上と天空とに異変が起こったことを感じ取り


難民達の合間へ瞬く間にパニックが伝染し







…彼らが動き出しかけたその時、その身体が
自らの影の中へと沈みだした





「な…足元の影が!」


『落ち着いて、護るから皆を…俺が!』


「この声…サシル様だわ!





女王の声で、全員があたりを見回すけれど
冴えない青年の姿はそこにはない


その合間に身体はするすると影の中へと落ちて


抜け出すヒマも与えられずに
とぷん、と僅かな水音を立てて人々は沈む





だが…薄闇に包まれたその中はほのかに温かくて


静かなその雰囲気が不思議と心を落ち着かせる





女王が辺りを見回せば 側近や怪我していた難民
…更には操られていた男達までいるのが見えるが


皆、ぼんやりと薄闇に浮かんでいるようだった







全員がいるのを確認して 女王は明らかに
数が多すぎる事に気がつく





「まさか…都市中の人達がここに?


そう、全員間に合ったどうにか これで」





声の方を彼女が見やれば、ふわりと
まとったローブと髪をなびかせたサシルがいた





サシル様!?アナタがこれを…いえ、こんな力
どのような科学でも技術でも異能でも当てはまりません
アナタは、アナタは一体」


続く言葉は、飛びついてきたネーニャが手を
彼女の口に当てた事でふさがれる





「知らニャい方がいいコトもあるニャ」


「ってコトにください、しておいて…ダメですか?





困ったように頭を掻く彼の姿に、どこか可笑しさを
誘われて女王はクスリと笑った





「いいえ、構いませんわ」









……影に取りこまれ、保護されていた人々が
再び地上へと舞い戻った頃には全て終わっていた





マプスの乗っていた戦艦は宇宙で残骸と化し


惑星の三分の一に散った宇宙船の破片と
中央部に立てられていた"塔"の爆発によって


都市は壊滅的な打撃を負っていた





が、惑星ルゴゴの民…特に都市にいた生物は
全て その被害を一切受けることはなく


やがて操られていた男達も 全員が正気を取り戻し
それぞれいるべき場所へと戻ってきた







事態が落ち着いて、女王と兵達は深い感謝の
念をこめて二人へと頭を下げた





「サシル様、そしてネーニャ様…
この度は誠にありがとうございました」



「アナタ方のおかげで、この惑星もマプスの支配から
解き放たれて平和が戻りました」


「照れるなぁこれで いやー俺は、じゃ」


片手を上げて立ち去ろうとする青年だが


そうはさせじ、と女王はローブごと彼の腕を掴む





「が、しかし都市はこの通りの有様ですので
申し訳ありませんがご助力願います」





苦笑交じりでさえ、少女の微笑みには男を
トリコにするような美貌と


逆らいがたい圧力が備わっていた





…図らずも都市崩壊の原因となったため


こうしてサシルとネーニャはしばらくの間
都市の復興を手伝わされたのであった








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:一話で終わらすハズだったんですけど
設定盛りすぎて、ちょっとはみ出ました


ネーニャ:はみ出すぎニャ、てゆうかニャー
今回あんま役立ってニャかったニャ〜


サシル:えー?もんだと思うあんな けどなぁいつも


ネーニャ:失礼しちゃうニャ!お金だしたりとか
ニャーだって色々サポートしてるニャ!!


狐狗狸:それ以外出来んでしょうが…せめて
女王様みたく瞬間移動とかしてから言いなさいね?


ネーニャ:うぐっ…それより、あのマプスってヤツ
ニャんか能力色々あったけど石の力ニャの?


狐狗狸:大半はそうだけど、マプスは元々
サイコメトラーで読心には長けてたんだよね


サシル:上手かったんだ、とか洗脳それで


狐狗狸:石で能力カンストさせてたけどね、つーか
そう考えるとスウィードルの欠片本当ヤバい力だな


ネーニャ:ニャニを今更 スウィードル様ニャら
これくらい当然だニャ!





女王の私兵は"そろそろ異能持ち送って消すか"
ぐらいの考えで甘く見てたんだと思います マプスが


読んでいただき、ありがとうございました〜