これも、ある世界での現実の話


機械による文明の発達も目覚しく


世代を経て 人類は宇宙へと進出し

惑星間での発展や外交などを行なってきた


進化は物質のみに留まらず 異種族による
結婚などを認める法律や医療技術、更には
武器や人類の能力そのものも大きく変化した





…だがしかし それが争いや混乱の火種と
なりうるのも、どの世界でも変わらない







「ギャギャギャ、この力は素晴らしい…
これがあれば宇宙の支配も夢ではない!





だが、この度の異変にはその世界には

"存在しない"はずの力が関わっていた











〜番外―他所の世界の片隅で・前編〜











第13銀河惑星ルゴゴ かつて生命の息づかぬ
死の星と呼ばれていた不毛の大地は


高度な科学技術により劇的な進歩を遂げた


中心都市はテラフォーミングによって
取り戻された緑と継ぎ目のない建築物が見事に融合し


整然としながらもどこか心和む景色となっていた





…が、すらりと立ち並んでいるはずの高層建築や
象徴的な場所は無残にも破壊の跡があり


民家のある区画は火が消えたように閑散としている







倒れ伏し、横たわる老人を懸命に助け起こそうと
動いている奇妙な形状の機械が





曲がり角から現れた軍用機の足に潰され蹴散らされる





「マプス様ニ立テツクヤツハドコダ!」


「ドコダ!ドコダドコダドコダァ!!」





機械に乗ったまま、虚ろな目を獣のように輝かせ
口の端から涎を垂れ流した中年と青年が叫ぶ


機械は球体に針金のような手と足をつけた不恰好な形状で


半円状の上半分は透明になっており、そこに
様々なデータが映しだされている





イタゾ!20m先ダ、標的ハ射殺!残リモ殺セ!」





進撃する機械の足元を、銃器を抱えた男達が通り抜ける


年齢も服装も全員バラバラで 薄汚れた身なりの者や
明らかに富裕層と思われる人間までいる


しかし…彼らの瞳は一様に濁っていた







武器を持つ男達に追われ、人々の群れは必死で逃げまとう


彼らも年齢・服装ともにバラバラではあったが

大半はあちこち汚れ、女性や子供 老人などが多かった


だが機械と男達の距離は開くどころか狭まるばかり





殿を務める負傷した兵士らしき者達のうち二人が
先へ行く少女の側まで駆け寄り、必死の面持ちで告げる





「ダメです、このままでは連中に追いつかれます!


「我々にここを任せてお逃げください!」


いけません、ここにいる方々やアナタ方を見捨てて
私だけ逃げるわけにはまいりません!!」





逃げまとう人々の足取りにつまづいたのか





ニャン!いたた…」


一匹の、小さな白い猫に似た生き物がその場に
倒れこみ 逃げ遅れて取り残され


起き上がり振り返った"猫"へ青年と中年が手を伸ばす





「ガガ…しゃベル白ブタ…潰シてミンチ!


「ミンチ…?ミンチ、ミンチ!


「ミンチミンチミンチミンチミンチミンチミンチ
ミンチミンチミンチミンチミンチミンチミンチ
ミンチミンチミンチミンチミンチミンチミンチ」



ニ゛ャー!ニャーはおいしくな、っニャ!?





真っ青になりながら後ずさる猫が次の瞬間かき消え


少し離れた場所に立つ少女の腕の中へ出現する





「おやめなさい!これ以上の狼藉は許しません!」





悲鳴に似た兵士達の呼びかけに構わず、彼らは
ためらうことなく少女に向けて銃口の照準を合わせ…







発砲間際の男達の合間を 一陣の風とともに
ひとつの影が駆け縫って過ぎる






その直後、男達と機械が動きを止めて


くずおれるように倒れ伏し 意識を失った







何だ…一体、何が起きたんだ?」





逃げまとっていた人々が足を止め、驚いたように
倒れた彼らの方へと視線を向ければ





一人の青年が静かに人々へと歩み寄ってきた





「ネーニャ大丈夫?待たせたね」


「おっ…遅いニャシェイルサード!危うく
ニャーの可憐な命が散るトコだったニャ!!」


「扱いこの剣の、なくてさ慣れてゴメンゴメン」





頭を掻きながら 冴えない笑みで青年が
少女の腕の中にいる半泣きの白い猫へと言って


手にした灰色のビームサーベルへ念を送る


一瞬にして灰色の光が、手の中の銀筒へ
収まったのを見て 彼は筒をホルスターへしまう





「アナタは…マプスの支配に陥ってない方なのですね」


「そうだね 君ありがと、くれて相棒を
瞬間移動(テレポート)で助けて〜あるね勇気」





シェイルサード青年の口調にやや面食らいながらも





「近距離のみの異能力ですけどね、こちらこそ
私や皆を助けていただき感謝します」


猫を抱いたまま近寄った少女が微笑んで頭を下げ





間髪入れず、二人の間へ兵士二人が割って入り
キッと厳しい視線を青年へ投げかける





女王(クイーン)!労働階級の連中に
頭を下げてはなりません、ましてこんな
得体のしれない流民階級(ハチバンメ)になど!」



「なっ…アンタだって兵士階級(ゴバンメ)だから
同じ労働階級でしょうが!!」


居丈高な男に、逃げていた難民らしき
ボロボロの服の女が叫び返す





「そーだそーだ!エラそうにすんなヘボ兵士!」


「やかましい黙れそこの小僧ども!!」





子供にはやしたてられ顔を赤くする兵たちの傍ら


少女の腕からぴょこんと飛び出して肩によじ登る
ネーニャへ彼は、不思議そうな顔で問いかける





「…流民階級って?」


「ニャんか、この世界はショクギョー階級
貧富のランクが決まってるみたいニャ」


「へー面白いそりゃ」





のん気な返事を青年がした所で、兵を諌めた"女王"


彼の前へと進み出て真剣な面持ちで口を開く





「今は少しでも味方が欲しい所です…どうか私達を
お助けください、シェイルサード様」






懇願するような彼女の様子に一瞬だけ苦笑を見せ





「あ、いいですよ?呼んでサシルって長いんで」


シェイルサード…サシルは、普段通りの
どこか頼りなくも人懐こい表情と言葉で答えた







訝しげな兵士が女王からサシルを遠ざけつつ





「とにかく、ここではいつマプスの手の者に
狙われるかわからん 一旦場所を移しましょう」





都市からさほど離れていない廃墟へと、ここにいる
全員を護衛しながら案内する









―事の起こりは 豹変した人間による犯罪や失踪
惑星のあちこちで増加し始めたことだった





始めは労働階級のみだったので気にされなかったが


時を追うごとに、学士や貴族の階級にも現れ始め


ついには王族にまで該当する者が出現し


そうなって…惑星ルゴゴの上空に


"マプス"と名乗る侵略者を乗せた一隻の戦艦が出現した





『我はこの惑星(ほし)を足がかりとし、宇宙全てを
統べる者となる!兵となるものよ 我が元へ集え!






その呼びかけに、豹変した青年や中年のほとんど全員が
賛同し…どころか失踪した者達までもが尖兵と化し


惑星全体に攻撃を仕掛け 瞬く間に占領していった









「ルゴゴの王族(ゼロ)から薬術(ヨン)に
至るまでのほとんどの特権階級は、降伏戦死
惑星外への逃亡…いずれかの道を選びました」





悲しげに続ける女王の言葉によれば


異能の"付与""底上げ"を目当てに
進んでマプスに与する者まで現れる始末で





その現状を嘆いた彼女自らが立ち上がり


残った僅かな側近や兵士達と共に マプスから
惑星と平和を取り戻すべく


都市の奪還と、人々の救助への尽力を目的に
こうして行動を始めたようだ







「始めはウチらも信じらんなかったんだけどさ
女王様と兵隊の人達が ガレキから母ちゃん助けんの
手伝ってくれたもんだからオレもやんなきゃと思って」





農作階級(ナナバンメ)だと名乗った青年は
老いて杖をつく母を支えながら、そう答える





「そうそう、私らも女王様に助けられたモンの一人さ」


「どうにか奴らの目を逃れながら こっそり
同じような難民を助けたりしてるんだよ」





青年を皮切りに、口々に難民の者達が言葉を放つ





「本当ならワシも女王様と共に武器を取り
マプスめに一泡吹かせたいんじゃが…」


いけません、怪我をされた人達を無闇に
戦火に巻き込むなどしたら女王の名折れです」





老人を諌める女王に感心しつつ、ちらりと
サシルは兵士の数を確認して問いかける





「気のせいかな?足りない気がするけど少し
兵の人が俺のそれって、にしても」





怒りとやるせなさをにじませ、兵達は静かに答える


「元はもう少し整った兵団として、女王を
お護りしながら救助を行っていたのだが…」


「マプスの連合軍による奇襲によって部隊が襲われ
先程まで、逃亡を余儀なくされていたのです」


「合流したニャーも危ないとこだったニャ」





ウンウンと力強くネーニャも首を縦に振る





「難民の救助と避難がすんだら、折を見て
マプス討伐の反乱軍を編成するつもりだったが」


「この状況では…こちらの呼びかけに
答えられる者も現れるかどうか…」


弱気になってはいけません!今こうして
サシル様が私達をお救い下さったのですから」







兵を元気づけ、改めて助力を乞おうとした
女王よりも早くサシルが動いた





分かった、コトなら任せてよ なるほどね〜そういう」





気楽に言って歩き出す彼ヘ、兵士が声をかける





「ま、待て!一体どこへ行くつもりかサシル殿っ」


「時から、たんだよねー来たあの塔なって気に
出来た?ひょっとして、来てから人がマプスって





都市の中央部に高くそびえる奇妙な"塔"を指さされ
彼以外の全員は、思わず目を見張った











敵陣の本拠地に攻め込むような無茶を、と止める
女王達に構わず むしろ彼女らを安全な場所へ
避難するように注意すらして


サシルは単身、"塔"を目指して歩き出した





「それにしてもフツーの剣がニャいニャんて
変わった世界だニャ」


「だね、楽かな?キツめ制限もだけど
ごまかせるのは異能って"力"が コトで俺の」





言って彼は 宵闇に似た黒さの長髪を指で弄ぶ





「そのおかげで、ここでは珍しくカミが
腰まであるしニャ けど短い方が似合うニャ」


「あるじゃん、えー足首まで髪の毛もともと俺」







緊張感のない会話をする最中に、サシルの背後へ
巨大なガレキが念動力(サイキック)で飛ばされるも





届く直前で力は"消え失"せ 手前で落ちて崩れる





「にしても洗脳かーなのかな?また最近流行り
知ったら泣くだろうな、スウィードルが」


まったく!スウィードル様の力をニャんだと
思ってるんだか、異世界のヤツったら!」





肩にしがみつきながら憤慨するネーニャを横目に


周囲の機械を破壊しつつ、サシルは塔の周囲を
ぐるりと一周して呟く





「みたいだねやっぱり、この塔が怪しい変な」


「でも…見たトコ入り口っぽいトコニャいニャ」





一つ唸ってから 彼は"口に出さず"に訊ねた





〈俺のさっきから語りかけてる心にけど
入り口知らないかな?ここの ねぇ君〉


〈な…精神感応(テレパス)返しだと?!





動揺するマプスの兵らしき相手へ尋問を行なって





さほど離れていない公的施設を利用し


そこへ塔…もとい遥か上空にあるマプスの戦艦への
転送装置までの"隠し通路"を作った事を聞き出し


程なくその場所へと到着するも


入り口らしき場所はやっぱり見当たらない







「ここも入り口ニャいニャね〜どこから」





困り果てるネーニャを他所に、ビームサーベル
ひるがえしたサシルが一人分の穴を壁に開け





「ここから、じゃん決まってる侵入!」


おじゃましまーす、と場違いすぎる挨拶を
口にしながら早速内部へ侵入した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ちょいギャグ&ベタなSFチック世界
飛びこんだ神コンビの話を書いてみました〜


サシル:ここも久しぶりだないやー、てゆうか
先に行っちゃったなんでネーニャのさ?


ネーニャ:この世界の力を色々見たい〜とか言って
シェイルサードがモタモタしてたのが悪いニャ!


サシル:そうだった、ああ俺のどういう風にここだと
知りたくてね力がなるか〜ゴメンゴメン


狐狗狸:どうも何も、アンタの力と剣術は
その世界に倣ったものにしかならんでしょーに


サシル:そうだけどさー…階級とかこの世界
決まってんの?感じでそういやどんな


ネーニャ:ニャんか宇宙全体で階級がある社会っぽいニャ
ちニャみに経済のランクは、が超一流でA〜F順
一番下がFニャんだって


狐狗狸:0の王族から7の農作まで細かくランクが
分けられてるけど8の流民はFのみなんだよね


ネーニャ:その辺はシェイルサードの力が
髪の長さで分かるみたいな感じで分かりやすいニャ


サシル:腰までギリギリ前の時もあったな〜そういや




ラノダムーク=足の付根まで、現代=肩ギリギリ
CFG=腰と肩の中間ほど…となります


読んでいただき、ありがとうございました〜