さぁさ酔狂 さぁ酔狂!


今度は奇妙な死体の騒ぎが収まった頃合


道化と少女の珍道中、期待と不安とを孕んで


寒気に支配された土地を下ってひたすら進み


そうしてたどり着いたのは…―








ステュトスの街はずれにある、うっそうとした
林に囲まれた一軒の家


古くっせぇ上にツタがカべに神からんでるソコに


オレと冴えねぇ相方のカフィルはいた





「で、アナタたちがワタシに頼みたいのは
惚れ薬の作成で合っているのかしら?」


「正確には私(わたくし)、とある方の
代理として参った者でございますが」





バカていねいなアイツへ テーブルの向こうにいる
フード姿の暗い女は楽しそうにうなづく





「そう、まあ材料と代金さえ用意してくれるなら
ワタシはそちらの希望を叶えるだけよ」


「んなんかウッサんクセーけど ホントに出来んのか?」


「相手を虜にする媚薬づくりなんて、ワタシには
赤子の手をひねるよりも楽な仕事…うふふふふ
アハハアーッハハハゲホゲホガフォゴホウォエッ!


笑い声のトチューでいきなりむせやがったこの女


なんかゼハゼハ言ってるし神ダイジョブか?





「あまりご無理をなさらないよう 貴女の腕を
頼りとしている者がおりますので」


ぜひゅー…ぜひゅー…ああ、ゴメンなさい
ワタシ病弱だから笑うといつもこうなるのよ」


いつものコトなのかよ マジでダイジョブかコイツ





魔女だとか言われちぇうみてーだけど
本当にコイツに頼んでいいモンなのか?」


「仕方ないだろう、面倒だが仕事だ」


それに、とカフィルはため息まじりにつけたす





この娘は魔女ではない…本人も言っていただろう」





しぶしぶうなづいてから、オレは心の中で
メンドーなコトを頼んだあの男をうらんだ











〜幕間2 恋ネガウ呪イノ使イ手〜











「頼むぞ…ぜひとも惚れ薬を持ち帰ってくれ…!」





それは オレら二人がステュトスの街について
昼メシを取ってる時に起きたことだ







野宿続きで マトモなメシにありつきてーのに


ケチくせぇバカ道化がアレコレいちゃもん
つけてくるんで食堂の中で口ゲンカして


で、なんとかその辺り折り合いがついて


デザートは一個のみって条件でオレはふところ広い
神らしさを見せつけてガマンしてやることにした





そしたらパンプキンパイ運んできた短い赤毛の兄ちゃんが





「アンタら…金になる仕事に興味あるか…?」


って、ミョーに神重っ苦しい口調で言ってきたんだ





「オレは…ルーバ=ダライトっていうんだが」





近くのイスを引き寄せたパイ男の話によれば


デカい店をやってる家の三男で、将来のために
バイトとしてここで働いてるらしい





「商家としての親の采配に不満はない…が
大変な悩みが、出来てしまったんだ」







ここ最近よく来る常連のムスメに一目ぼれして


そのムスメの事が気になって気になって、ロクに
仕事や勉強が身につかねーとか





「彼女はミューゲリアと言って…今日はココに
来てないんだけど、とてもカワイイ子でね…
なんていうか愛嬌があって…優しくて」


「実際に声をおかけになった事は?」


「何度か話をしたり…遊びに誘ったりは
いつもニコニコして答えてくれて…
でも彼女がオレの事を好きなのかわからなくって…


「知られーよ、それとオレらになんのカンケーが」


「こっからが仕事だ…頼む!魔女んトコ行って
惚れ薬を…作ってくれるよう頼んできてくれ!!」






あまりにもとっぴな単語ばっかだったモンで
食ってたパイを吹き出しかけた





はあぁ?なんっじゃそるりゃ!んなもん自分でむぎゅ」


「静かにしろ、著しく迷惑だ」





口を抑えられるし、やたらまわりの目が集まって
パイ男がもじもじしてやがったから


しかたなく声を落として言ってやる





「イロイロ意味がわきゃんねーけどよー
そういうのって自分でやるべきじゃねぇの?


「君の言う事はもっともだ…だけどな、もし
オレがあの魔女に依頼を持ちかけたら オレだけでなく
オレの家全体の汚点として周囲に知れ渡っちまう…」





どういうこっちゃ、と思って見上げれば


アイツはボソッとこう言っていた





「地位ある立場の人間は世間体を著しく気にする
…まして後ろ暗い事柄が絡めば、尚更だ」


「よきゅ分からんけどメンドーだな」


「同感だ」


「も…もちろん依頼料は払わせてもらうよ…!
前金と成功報酬、合わせて15M(マースィ)…





ここんとこ銀貨(リフォント)銅貨(デルロッカ)ばっかで
お目にかかってなかった金貨が出てきたから、つい





「まっきゃせろ!」


テーブルから乗り出して叫んじまったんだ









「…ロクに聞かずに安請け合いするとは」


旅には金がかかるだろ?そんだけありゃ
しららく神困らなくていいじゃねーかよ」


「旅費の圧迫はお前が原因だがな」





色違いの目でニラまれて不覚にもひるむけど





クスリの代金もふくめて前払い分のマースィ金貨
受け取っちまったんだから


もう断れない以上、きっちり仕事するべきだろ

…うんオレ間違ってない!





そうして不本意そうな道化師と一緒に


教えてもらった家へと入り…この顔色の悪い
トローリって女にクスリを頼みに来たってワケだ







パイ男も街の連中も"あの女は不気味だ"って
ひたすら気味悪がってたし


家の外も中も、本人のカッコもウワサ通り
ひたすら不気味でうさんくさかったが…


魔女かとたずねると、トローリは首を横にふった





「ワタシは古来から伝わる"呪術"やそれに類似する
歴史や知識を研究したり、伝承に乗っている術式や
薬作りを行っているだけの 一介のしがない薬師よ」


「でも街のヤツときゃ神不気味がってたぞ?」


「あっちが勝手に敬遠してるだけよ、街へ迷惑
かけた覚えないし…むしろ貢献しているんだから」


「へーなんか役にたっちぇるのか」


「ええ、上司を呪ってほしい役人の依頼を受けたり
キノコ好きと毒の効能について語り合ったりとかね」





…訂正 やっぱやってる仕事こみで
この女、神うさんくせぇ





とにかく代金を渡してクスリ作りが始まって


数日ありゃ出来るって言ってたんで、パイ男に
報告がてら材料集め手伝ったりしてたんだが





完成間近の日にトローリん家へ行ったら







作りかけのクスリを煮てる鍋のソバで
バッタリと倒れてるトローリがいて神ビビった






「あと少しで完成するのに、常備薬が…ゲホっ」


「常備薬?」


「普段ならコホン、自分で取りに行くんだけど
今は製造途中のクスリがあるから目が離せないし」





ややワザとらしくセキをしてるふうに見えるけど


この女が病弱って言うのも、時々粉をとかした
青紫色の水を飲んでたのも知ってるから


そのジョービヤクってのがないと困るんだろうな…
クスリ作んのにも





神として見捨て切れねーから、助けるつもりだけど





「でもトローリみょクスリ作れるんなら
なんでビブンで作んねーんだよ?」


「調合と製法が特殊だからワタシのトコじゃ出来ないの
手間もかかるからアイツしか作ってくれないし」


「なるほど…ではこのカサッカという医者が
働く診療所で薬を受け取ればよろしいのですね?」


「ええ、"トローリの代理だ"って言えば
通じるハズだからゴグフッ


「血ヘドはひゃいたー!?」


病弱にもホドがあんだろ!いいから寝てろ!





「あ…あとグラウンディって言ったわよね?」


おお、それぎゃどうかしたのか?」





口のハシから血を流しながらも、トローリは
真剣な目をしてオレへこう言った





「アナタぐらいも危ないから、うかつにアイツに
近寄っちゃダメよ?殴ってでも距離取りなさい」








…この時は まったく意味がわかんなかった







で、説明されてたステュトスで大きめの白っぽい
建物の中に入ると トローリんトコとは
ちょっと違う感じにクスリくさかった





「…お前、ひょっほしてクサいのガマンしてる?」


「鼻が利くからな」





トローリんトコにいる時とと同じくらい、眉間にシワ
よせてるカフィルが面白くてからかおうとして


受付のヤツに呼びかけられて部屋へ通される





「おや、街の方ではありませんね?
本日は一体どうなされました?





イスに座って出迎えた、カサッカって男は


白衣とかいう白い上着をかけていて やたらと
大人しくて頭のよさそうなフンイキのヤツだった





おお〜なんかスッゲー医者っぽい、頼れそう


あ、目があった…ん?なんだこっちジッと見


「幼女!幼女じゃないかっひゃっほーう!!」





一瞬 なにが起きたのか理解できなかった





気づけばやたらうれしそうに笑いながら神速
イスから立ち上がった医者に手を握られてて





どーしたのかなオジョーちゃん!風邪かな?お腹が
痛いのかな?それともどこか怪我でもしたかな!?」



「い、いひゃオレじゃなくて」


家の誰かが病気なのかい?呼びに来るなんて
エラいねぇ〜お姉さんかな?お母さんかな?すぐに
駆けつけてあげるよ、でもその前にちょっと診察しよっか」


「いらねーよ必要ないかあ!それより手ぇはなせ!


あ!大丈夫やましい気持ちとかないから!
手とか出さないから、あくまで病気じゃないかとか
簡単に検査しておくだけだからね?安心し」


よるな!キミョヂ悪いんだよお前っ!!」





屈んで目線合わせながら話しかけてくる医者の手を
どうにか引きはがして


置物みたくつっ立ってる道化の後ろへ逃げこむ





「やれやれ照れ屋さんだなぁ…あ、君がこの子の
ご家族ですか「違います」


「よりのよって神がこんな神メンドー男の
家族だなんてジョーダンじゃねーぜ」


「そうだね君の言う通りだね、重要なのは君が
幼女という名の神ということさ!で、お名前は?」





なんでだろう、はじめてオレを神あつかいしてる
ヤツなのにうれしくない


どころか果てしなく気持ちが悪い!





やたらと息荒くして近づいてこようとする
ヘンタイ医者とオレの間へ入りながら


カフィルが落ち着き払ってこう言った





「私(わたくし)どもはトローリ嬢の代理として
処方薬を受け取りに参りました次第でございます」






途端に、カサッカの顔が苦々しく歪んで





「あー…あの根暗女のクスリね、はいはい」


ウソみてぇに大人しく引っこむと、棚のビンとかを
つかんだりしてなにかをし始めた





「トローリと知り合いらろか?」


「知り合いも何も、アイツとは幼馴染さ」





様子をうかがってると、深いため息をつきながらも
医者はテキパキと作業をこなしていく





「昔ははにかみ屋の美人だったのに今じゃ魔女とか
呼ばれる始末、どうしてああなったんだか」


「そしょれお前が言うのかよ」


「きっついね〜でも君みたいな可愛い幼女なら
そんな言葉もご褒美さっ!もっとその青いつぶらな
眼差しで僕を見下してもいいんだよ!」





…トローリが"気をつけろ"って言った意味


なんか、スゲェわかった気がする







調合だかなんだかが終わってカサッカから
灰色がかった白い粉が入ったビンが差し出され





受け取ろうとした直前で、ひょいっと手がかわされる


「ってらにすんだ!おいクスリ渡せよ!」


「あぁ怒った顔もかっわいー、でもそーだなー
君がかわいーく"お兄ちゃん、おクスリちょーだい"って
言ってくれたら渡してあげる」


はぁ!?ふじゃけんなぶんにゃぐんぞ!!」


「えっ殴ってくれるの!?うわーい!!」





怒鳴るけれども相手はますますニヤけるばかり


どころかマジで殴ろうとコブシを握れば、むしろ
"よろこんで"とか顔面差し出す神気持ち悪さ





面倒だ、言ってやれ」


しまいにはカフィルまで呆れてそう言い出しちまうし





結局、背にハラは変えられなくて





「おっ、おニィ、ちゃん…おクシュリ…ちょーだ、い」





…顔を真っ赤にしながらオレはヘンタイ医者の
要求に答えるしかなかった









神にあるまじきクツジョクと引き換えにクスリを
持ってくれば、トローリは気合入れて仕上げにかかり






      「マルカイオンガンオンペニポルカイコーヘルイン…
    マルカイオンガンオンペニポルカイコーヘルイン…!



「なんなよそれ、ファッスミラセか?」


「いいえ、何か唱えてると落ち着くしそれっぽいでしょ?
特に意味なんて無いわよ」





この女もつくづくヘンだと思いながらも、どーにか
約束のホレグスリが出来あがって


宿で、こっそりやって来たパイ男と顔を合わせる







「ありがとう…ありがとう…!





まあイロイロ気にいらねぇけど 本人よろこんでっし
残りの金ももらえるから


ようやくこれで、この仕事も終わる…





クスリの容器へ手を伸ばしたパイ男へ





「本当に、それをお望みですか?」





ふいに外ヅラ用の口調で、カフィルが問いかける





「惚れ薬で振り向かせたとしても それは
モノでその方の心を動かしただけに過ぎません」





動かずにいるパイ男とアイツの間に


なんとも言えない張り詰めた空気がただよう





それでもアナタがその薬を使うのなら
後悔しないと約束してほしい…
その薬を作った
"魔女"からの伝言でございます」







しばらく黙っていたけれど





「…ああそうさ」


パイ男は、そう言って容器をつかみとった





「オレは彼女に告白する勇気のない卑怯者だ…
けど、どんな事をしたって…彼女がほしいんだ!







真剣な顔つきでアイツが出てって、オレは
道具の手入れをしている道化に聞いた





「たしかにトローリそんなコト言ってたきぇど
伝言なんて、されれなかったろ?





ピタリと手を止めて、カフィルは


左右で色の違う瞳でオレの目を見返して答える





確認したかった、単にそれだけだ」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:当初のメインは惚れ薬とトローリだった
…ハズなのにロリコン医者に持ってかれた


カフィル:アレで腕前と評判はいいのだから恐れ入る


グラウ:だよら〜つかコイツ病人にもこーいう
態度とってんじゃね?だとしたらブタびゃこモンだろ


カサッカ:失礼な、僕は幼女を傷つけたり悲しませたり
絶対しないんだぞ!
等しいで護れずして幼女を語る
資格もないし医者としても失格でしょーそれ!


トローリ:ゴホ、アンタが変態なのは知ってたけど…
ここまでこじれてたなんて予想外だわ


カサッカ:あ、あの時は患者に幼女分が少なすぎたせいで
思わずがっついちゃっただけなんだって!そうとも
妄想でグラウンディちゃんのこの草色ショートをカリカリ
モフモフしたり尖ったお耳をペロペロしたいと思った程度で


グラウ:ぎゃー!よりゅなぁぁぁ!!(式刻法術発動)


カサッカ:あうふっ!もっとぉぉぉ!!


狐狗狸:うわー救いようのないド変態だわコレ


トローリ:呪い殺した方が世のためかしゲヴァ(吐血)


カフィル:…混沌具合が著しすぎる




青年が果たして望む結末を得られたか…旅の身の
二人には知る由もない事なので割愛させていただきます


読んでいただき、ありがとうございました〜