さぁさ出発、さぁ出発!


一昼夜の縁(えにし)を超え、岩山での
山賊とのやり取りと邪神の気まぐれを潜り抜け


二人は、互いの力と秘密とを垣間見る





ケタ違いの式刻法術(ファスミラセ)と
不死の身体を持ちし少女 グラウンディ


邪神によりて空蝉(うつせみ)の身体を
依り代として与えられし道化 カフィル


人のようで人ならざる 両者の行く先はいかに?


そして彼らが旅するのは、何故なのか?


次なるお話は、二人がシュアルを
発ったところより始まるのでございます―








街道を早足気味に進む 相手の三歩後ろほどを
大またで付いて行きながら


グラウンディは尽きる事なく言葉をかける





「なあ、シチタッイだが知らねへが
んなジメジメしたトコに何の用事なんだお?」


「探し物がある それだけだ」


サダシモノ?なに探してんだよ?
だんまってねーで言えよへるモンでもなし」





ぶつりと途切れる会話に一旦ため息をつき


それから思い出したようにグラウンディは
道化師の左隣へと駆け寄って、見上げ様に言った





「そういや 助けてもたら礼がまだだったな
一応言っとくぜ?ありがとな!えーと…」


「感謝される覚えもない」


「なんだよそのツラ、神ブッショーヅラだな」


「…"仏頂面"な 著しく余計な世話だ」





表情こそ、努めて無関心を装ってはいるが


彼の声には不満と気だるさが漂っている











〜七幕 旅ハ道連レ〜











ローブ姿の道化師の様子に軽く機嫌を損ねながらも
少女は会話を続けようと口を開く





「で お前、名前なんてってんだ?いー加減
教えやがれ!呼びづれぇんだよ話しかえっ時に」


「面倒だ 好きに呼べ」


「そゆっ!タイドとんならこれからお前は
"神の下僕一号"て呼んでやるぜ!!」


カフィル カフィル=セツルメント」


「やなのかびょっ!?」





余計な間を一切置かずに即答して、カフィルは
この先の道行きに内心頭を抱えていた









…昨夜から朝方にかけてのゴタゴタの後


道化師の異質さと、邪神の存在とを知って

すかさず旅の同行を頼んだグラウンディを





『断る、必要ない』


彼は開口一番 にべも無く切って捨てた







だがしかし…を自称し、一人旅をして
歩いていた彼女はそれしきの事で諦めず





『助けた分のガリがあるだろ!それにまだ
お前のコト何ひとう聞いちゃいないぞ!』



"借り"なら宿代でチャラだ』


『お前の分とオレの分とじゃ借りのケタが
ダンチなの!神からの借りは一生ゴンだからな?』


『面倒だ、失せろ』





拒否を続けるカフィルへ、言葉を投げかけながら

ひたすらに後ろを追いかけ続け


今もなお ルグール湿地帯への道のりを同行している





…しつこさと根気に段々と面倒くさくなって
相手の同行を黙認しているものの


道化師は現状をあまり気に入っていないようだ







「つーかカフィル、まだ日も出らねぇウチに
村から出てく意味あったのか?」


「…長居すると面倒が増える、だから出た」





廃鉱山から吹き出た炎の柱を 幸か不幸か
目撃した村人はほとんどいないが


目的地が近く、長居をする理由もあまり無く


下手をすれば最悪"邪神"の気まぐれで
シュアルの村が災禍に見舞われる可能性すらある





…彼の言葉には、もっぱら最後の意味合いが
多分に含まれていた







「べどよーメシぐらい食ってってもよかったなじゃ」


「そう思うなら、一人で村へ戻れ」


したらお前さっさとどっか行っちまあだろ!?

大体、ヒイロのシビガミとか まだまだ
聞きたいコト山盛りてんこぼりなんだよ!!」


"死神"な…噂(うわさ)にも聞かないか?」


「オレのキョービは甘いモンにしか向かん」





胸を張って断言され、一旦肩を落としてから





カフィルは足を止めずに呟く





「口は固い方か?」


ふふん、まっかせとけヴぃ!
やーっと話してぐれる気になっただな!!」


「面倒だ…一度だけしか言わんからな


おう とグラウンディは力強く返事をする





進む内に湿り気を帯び始めた空気へ
溶け込むように、彼は低く小さく言葉をつむぐ







「俺は、元々ずっと昔の戦争で死んでいた人間だ」





木々の葉擦れに負けないよう、耳を澄ましていた
グラウンディの青い瞳が丸くなった









争いが下火となり、国による統治が粗方済む以前


引き起こされていた数多ある戦の一つとして

200年以上前に プログレスという公国と
その対立国間での長い戦争はあり


激しい戦い続きで公国内の兵力は極端に不足していった


兵力不足を補うため、プログレス公国はすぐさま
領土内にいる全ての男性を戦線へと投入し





多くの犠牲者を出しながらも 勝利を収めた







「そーいや聞いたホボエあんな…えーと
たしか"プログレチュレイ戦"だっけか?」


"プログレス聖戦"だ」





キッパリと訂正しながら、カフィルは地面に
転がっていた倒木をまたいで続ける





「とにかく俺はそこで一度死に…奴によって
ふざけた身体と"遊び"を強いられた」


「遊び?」


「ああ…著しく悪趣味な"遊び"だ」







邪神・エブライズによって複数の部位に
分けられてしまった自らの体を取り戻すため


ほとんどの感覚を遮断された鋼鉄の身体を引きずり





困難や妨害を乗り越え "道化師"として
長い冒険をさせられてきた…と彼は語った





「あじゃっ、それであのミョーな左腕と身体かよ
…つーか左腕だけなのか?もどたん」


「右目と鼻を含めて 三つだ」





言われてグラウンディは、右側へ回り込んで


フードの下にあるカフィルの横顔と 彼本来のものである
こげ茶色の瞳をまじまじと見上げる





見たトコふつーの目に見えんぜ?腕と大違いら」


「…透けた皮膚と流れん血を除けば、腕も
人と変わりなど無い」







それでも、彼の身体は見た目にも中身にも

普通の人間からは十分かけ離れた異質なモノであり





邪神から渡された"赫色の鎌(レッドサイス)"


武器としてだけでなく、身体を取り戻す過程で

どうしても使わざるを得ないモノらしい









「…鎌と姿を見た者が"死神"のウワサを
勝手につけても、著しく不思議でもない」





周囲の森林の枝葉がさざめきながら濃さを増して
日の光を遮り、道化師の顔により強く影を作る


が…彼がそう発言したのと同時に


コケに覆われた石につまずきそうになって





っだあぁ!神ジャマであ この石フゼイ!!」


彼女はズボンや自分に泥が跳ね返る事もかまわず
ぬかるんだ地面ごと石を蹴り飛ばす


中々の放物線を描いて茶色と緑に彩られた石は

枯れ木の一つにぶつかって消えた





「……聞いてたか?人の話を」


あったりまだめぇだろ!よーするにお前は
身体取りもどそうおとる…まあ道化師で死神だ」





中途半端に話半分で聞いていたっぷりが
あからさまに口調と態度に出ていて





鋭く白い彼の視線から逃れるようにグラウンディは
強引に話を進める





「で、お前の目的探しモンはわぁったけど
どーやっ身体もどすんだよ?手ががががりとかは?
そこ詳しく教えろよ 旅のキモだろーなあなあ」





本来なら、彼はシュアルでルグール湿地帯での
詳しい情報をもう少し求めるつもりだったのだ





…この娘の介入と 一夜のドタバタが無ければ







それを言うだけ、余計な口論を招くと知っているので
面倒を避けるため当人はそれに触れないが


あくまで自分への興味を失わず、そしてあくまで
一緒に旅をする気満々なグラウンディを見やり





ようやく 足を止めてカフィルは向き合う





「逆に聞く…お前は何を目的に旅をする」


おっ!?オレに聞きかえし、がっ…!」


「平気か?」





思わずの問いかけに、グラウンディも立ち止まって

涙目になりながらも口を押さえて答える





「ら、らいひょーぶら…神はコレぐらい
へいちゃらぷーよ けどオレの質問が先だろ?」


聞いてばかりで教えぬのは、著しく不公平だ
…そうは思わないか?」





真剣なこげ茶と鈍色の瞳を見返しながら、彼女は

"それもそうか"と割合あっさり納得して口を開いた





「オレにはな…使命があっだんだよ」


「使命?」





こくん、と小さく草色の頭が一つ頷く





「どんな使命かは覚えてねーが、気がついた時にゃ
ソレがどんべもなく大事な使命で 早く思い出して
世界をすくわにゃきゃいけねー
って理解してた」







遠くを見るような少女の面差しには、十代前半の
見た目に不釣合いな決意と落ち着きが漂い


それがどこか"人ではない特別な存在"を匂わせて





彼は やや懐疑的な眼差しを向けて呟く





「世界か…著しく荒唐無稽な話だな」


コットムゲーなモンか!オレは神なんだから
世界ん一つや二つすくって当たり前だろ!」


「…神と自称できる根拠は何だ?」


「んなもん、オレが特別な存在だららだよ!」


胸を張って堂々とグラウンディが言い切った瞬間


彼女のまとっていた神秘的な雰囲気は一気に
どこかへと消え失せた







「そうか」


あっ!信じてにぇーな!?お前も見てだだろ!

死んでも死なねぇ身体にスゲェ力!おまけに
大事な使命とくら、オレもう神決定だろ!!」





確かに、少女がケタ外れの法術を使っていたのも


普通なら死んでいるハズの状況から生き返った所
カフィルはしかと目撃しているのだが


自分よりも遥かに年下にしか見えない少女に
胸張って偉そうに言われても


信憑性と説得力が、まるで足りない





ついで昨日今日会ったばかりの、得体の知れない
相手を信用しきれないのもまた事実







「それは俺にも当て嵌まる、か…」


「何ふぁ言ったか?」


気のせいだ、それより足元に気をつけろ」


「へん シンパイのむりょーだね!例え暗くても
足場悪くても全然モンダイな゛っ!?





言った側から木の根につまずき、グラウンディは
顔面からモロに倒れこむ


幸い倒れた先は乾いた地面だったので

どうにか泥にまみれる事だけは免れたようだが
なんとも痛そうである





「景気よくいったな」


ふるへぇっ!今のは足元に急に根っこが…」





したたかに打ち付けた鼻を押さえながら
起き上がった彼女が、四つんばいのまま固まる







足元のコケとカビがまんべんなく覆われた太い木の根


絡まりあう根っこの奥まった隙間に…人の手らしき
白い骨が挟まっているのが、見えてしまった





嫌そうな顔で反射的に数歩分後退り


勢いよく半身を起こすとグラウンディはすかさず
ローブからはみ出た 道化師の派手な衣装の袖を強く引く





うげげっビキミなモンが…おいカフィル
こんなキショい場所ささっと抜けようぜ?」





彼は袖にくっついた手を振り払うと





「俺には用がある、嫌なら一人の旅に戻れ


それだけ告げて すたすたと薄暗い木々の合間を
一人で分け入って進んでゆく







ほんの少しの間、少女はその場に取り残され





だるっえぇが帰るっつった!オレを
置いてくなんてフトドンキセンバン神無礼だぞ!」






それでも持ち前の負けん気を発揮して
銀髪の道化師の後を追いかける





待ちやがれ!つかさっきなアレ普通手ぐらい
貸したりすんだろ…てなんか言えコロラロー!」


「自分の身は自分で護れ 面倒だ」


「てめっそれでも男かヒボデマシー!!


"人でなし"ぐらいの罵声は言われ慣れているのか

前を行く彼はまったくの無反応だった







そんな二人組の遥か真後ろで…





グラウンディの足を引っ掛けた、絡まりあう
太い木の根が 小さくうねった









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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:旅目的を公開しつつ、遅かりながらも
湿地帯での探索話です 今月中に見せ場も作る予定


グラウ:ジョーホースシュならもうちょい村にいても
よかったんじゃねーの?せめて朝メシ食うまで!


カフィル:恨み言なら邪神に言え


狐狗狸:まあ、他の場所で粗方現地でのウワサは
集めてたみたいだし…内容は次回出るからカンベンね


グラウ:神ずっりいー…それと邪神のニャロウ
道化なんだか死神なんだかハッキリさせてやれよ


エブライズ:やー道化師はジョーダンで進めたけど
ケッコー気に入っちゃったみたいなんだよねぇ


カフィル:面倒だが、身元も旅の動機も
ついでに身体も誤魔化せる


狐狗狸:ちゃっかり立場を有効利用…長い年月
生きてるだけあってたくまし(ry)




彼の過去やら少女の"使命"やら 伏線だらけですが
出来うる限り消化するように努めます


…少なくとも鎌の用途はそろそろ明らかになるかと


次回、彼の探し物は湿地帯の奥に…!?