さぁさ合流、さぁ合流!


岩山の坑道に住み着いた山賊団を裁くべく


深夜に行動し忍び込んだ少女は、哀れ
罠にかかって囚われの身に!


粘性の油に絡められ 奇跡の御技を封じられ


あわや男達に手を出されかけた刹那


老人に扮して現れた道化師が、腕を振るい
三人の男を見事に打ちのめす


かくして 牢から少女は解放され…―








瓶(カメ)に貯蔵されていた水で油を流し





「"全ての意志はここにあり!!(レェサニサ)"」





唱えた術で起こした火にあたる事で服を乾かしつつ

グラウンディは、チラリと隣を見やる





「お前さー、ホントにその、だいなっ
…ダイジョブなのか?カラダ ツギハギにして」


「問題ない」





道化師らしい派手でゆとりの多い衣装に隠され


更には顔色一つ変えず行動するカフィルのせいで


牢屋でのやり取りが夢か幻でも見ていたような
錯覚に陥ってしまいそうになる





けれども彼女は…切り離された腕部や脚部


肉が皮膚から透けた左腕


ちらりと微かに覗いた、血の滴らない
人形の部品に似た断面を その目で見ている











〜六幕 一夜ノ遊戯〜











訝しげな眼差しに気付いて、道化師は問う





「…それで、この後どうするつもりだ?」


「ふふん決まってんだろ!神であるオレに
み言はねぇっ!アイツら叩きのっめしてやる!


「"二言"な…年に合わず、著しく気丈なものだ」


「こんなケガなんて神にゃーぺでもねーよっ
術で治すまでででもねー!参ったか!






自信満々にふんぞり返る相手へ 彼は言った





「せめて鼻血は拭け」


「うっ…うるせぇなっも!おら、行くぞ!」





ゴシゴシとやや乱暴に鼻の下を袖で擦りながら


グラウンディが通路へと一歩踏み出して









直後、前触れも無く足元から吹き上がった
火柱に包まれて焼け焦げる








無言のまま目を見張るカフィルの眼前で


小さな身体は一瞬にしてと化し、炎が消えると
身じろぎ一つせず重い音を立てて崩れ落ちる





退屈退屈なっまぬるーいぃ、チンタラやってちゃ
低脳ミソチーズが出来ちゃうよーんっ』





間を置かずに 邪神の声が山中へと響き渡る





『さってさてさて炭鉱でコソコソみじめに這い回ってる
うすギタねぇ山賊風情のみなさぁん?君たちに
楽しい楽しい遊びを提供してあげちゃうぞぉ〜』






言葉の切れ目の合間に、遠くから風を伝って

熱が空気を焦がす音が通路を震わす





現在、アンタらのアジトにいる侵入者ぁ!
そいつを夜明けまでにバラバラでも粉々でも好きーに
原型を留めない状態にしちゃってくださいねぇ♪』





音が次第に大きさを増し 異様な蒸し暑さ
次第に空間へと満ち満ちて行くが


彼の身体からは当然…一滴たりとも汗は滴り落ちない





『もし途中で勝手に山から出たりぃ、侵入者を
仕留めれず夜明けを迎えちゃったらぁ 山ごとみーんな
燃やしちゃうよぉ?ギャヒヒハハハァァ!!








笑い声が途切れると同時に、存外近くから悲鳴が上がり


目の前の少女とは別の方向から 微かに立ちのぼる
嫌な焦げ臭さが道化師の鼻を突いた





『―ってコトだから、がぁんばってねカフィルぅ?





エブライズの最後の一言は カフィルの脳内にのみ届く











空気を介して片目と鼻先、そして左腕にまとわりつく
熱気が徐々に薄らいでいくのを感じつつ





「…悪趣味な面倒を」





舌打ちを一つ落として 道化師は現状を整理する







ここから坑道を抜けて外へと出るには時間がかかり


先程の邪神の台詞と、宿を出た際の空模様から
恐らく夜明けが近いと察する





見えざる炎の檻に囲まれて 自らの命を天秤にかけられた
山賊達は血眼になって彼を捕らえに来るであろう





捕らえられた後の末路と…その先を容易に思い浮かべ


邪神の気まぐれに巻き込まれてしまった
ゴロツキどもと、床に転がる少女に彼は同情する







「…俺を恨んでも 構わない」





完全に炭化し、辛うじてヒトの形を保っている
黒い塊へただ一言だけそう呟いて


すぐに背を向け、出口を目指して地を駆ける







あっ、ちぃ…なんなんな…今のは?」







呂律の回らない少女の声が、背後から聞こえて


立ち止まり、振り返ったカフィルの双眸が





焼け焦げたはずの小さな身体が パリパリと
音を立てながら床から起き上がるのを捉えた






見る間に焦げた部分が ウロコの様に剥げ落ちて


逆再生したかの如く、黒い塊が草色の髪の少女の
姿形を取り戻していった






「まさかオレ以外(いぎゃい)にも神の力が
使えるなんて思わかなかったぜ…あに見てんだスケベ」





頬を赤くし、胸元を隠すグラウンディだが

彼の鋭い視線は 強い疑いを持って青眼を貫く





「どうやって生きていた」


「…死んだに決まっててんだろ?
話してやるから服よこっせ、ハズい」





差し出した手の平を数瞬眺め…道化師は変装に
使ったボロを渡してやった


眉をしかめつつも、渋々それに袖を通し彼女は続ける





「コショウなく、オレは特別にゃんだ…死んだら
何度死んでも必ず生き返る 死むほどのケガならな」


"誇張"と言いたいらしいのは置いておいて





要約すれば、致死レベルのダメージを受けた時のみ
発動する自己再生能力により 復活したらしい





「辻褄は合うな 著しく不可解だが」


「飲みこみ早っ、目の前でオレが燃えても
復活ししてもさわがなかったの お前が始めてだわ」


「…生憎その手のモノは見慣れた、行くぞ





歩き出すカフィルに釣られ、グラウンディも動く





「わわっわ待てひょ!神をコクェにしやがった
悪党どもへのお礼がまだだろ!」


「夜明けまでに出られなければ悪党共々消し炭だ」





肩越しに投げかけられ、彼女の片眉が跳ね上がった


「…どういぶ意味だ?」







足を止めずに道化師は 少女が復活するまでの
合間に起こった"邪神"のゲームについて端的に語る







にゃるほど、邪神だかなんだか知らねーが
神にケンカ売るたぁダイダインフテキじゃねぇか」


「"大胆不敵"な」


じゃかしい!いけ好かねぇけど とにかく
夜まけまでにこんな穴グラ脱出すんぞっ」


「…どうやって?」





問いへグラウンディは、土壁に手をつけて答える





「"全ての意志はここにあり!!(レェサニサ)"」







唱えた言葉に反応し、手の平を伝って土が盛り上がり





いくつもの石の蔦が土砂を押しのけて生み出され


一つの方向を目指して伸びて行く





「何をした?」


「外に生えろと念じた!コイツをたどって
さっさっささとオサラバすんぞ!」



「…名案だ











蔦が伸びる方へ従い、二人は複雑な空洞を
迷う事なく突き進んで行く







「いたぞ!」


「あのガキも一緒だ!!」





数度ほど罠や山賊の一団に出くわしたものの


グラウンディの式刻法術(チカラ)とカフィルの
サポートによって難なく切り抜け





彼らは岩山の出口、数十メートルまで迫っていた







っしゃ出口だ!どーにか間に合ったぜぅ」


「待て不用意に飛び出すんじゃ」


言いかけて、彼は自らを追い越す一条の閃きに気付く







それは細く風を裂いて少女の足へと突き刺さった
一本の細長い針であった





「イタテっ、なんだこ…ぐあっ…!?あ、が…!」





途端、彼女は掻き毟るように喉を押さえてヒザを突く







追いついて針を引き抜き様に道化師が

枝分かれしていた路地の暗がりを見やるも





僅かな時間差が仇となり、飛び出してきた数人の男達に
押し倒され 全身を余す所なく押さえ込まれてしまった







ぐぞ…ヒギョ、モノっ…」





息も絶え絶えにあえぐグラウンディを足で小突き





「テメェは後で殺してやるよガキィ…
まずはこの男から、血祭りにあげてやらぁ!


大降りの斧を担いだ 傷だらけの厳つい大男が

がなりたてるようなダミ声を上げる





「よくもおかしな術で子分を黒コゲにしてくれたな
…お望み通りグズグズの肉片にしてやる!」






命令を受け、両手両足を戒められたまま
仰向けにされたカフィルの胴目がけ





「や…やめろぉぉぉぉぉ!!





大上段に振り上げられた斧が 打ち下ろされた









……生々しい音も血飛沫もそこにはなく





重量の乗った斧の刃は、やたらと頑強そうな
金属のぶつかる音を立てて


彼の胴体を中途半端に切断したまま止まった





「へ、ちょっ…何やってんすかお頭!?」


「さっさとこんな野郎バラしちまいやしょうよ!」


「うるせぇ!固くて刃が抜け…んっ、ぐうぅ!





顔を真っ赤にして唸る頭領だが 押しても引いても
斧はガッチリと食い込んで動かない







手伝うべきか手下達が 迷いを見せた瞬間





「「「「ぐあぁっ!!」」」」





地面から飛び出したゲンコツ大の土塊に、道化師の
動きを封じていた四人が吹き飛ばされる







「"全ての意志はここにあり!!(レェサニサ)"」





自らに術を施行し 白い光に包まれた後


何事も無くグラウンディが起き上がる





「オイだいじゃっ、ダイジョブかお前!今助けるっ!」


「式刻法術っ…小賢しいガキがぁぁぁ!





怒りに震えた頭領が、ツバを飛ばして地を蹴り
握り固めた拳を繰り出してきた





「げっげ、以外に早…っ!」


予想だにしなかった速度のため対応が遅れ
グラウンディは思わず身構える







けれども、その拳が彼女を直撃するコトは無かった







「お…お頭?」





手下の呼びかけに 筋骨隆々の腕を硬直させ
だらしなく口を開けた頭領は





…白目を剥き 泡を吹いて倒れた







倒れ伏す巨体と、その背に佇んでいた


身体に食い込む斧をそのままに
赫い大鎌を握る道化師へ 山賊達は釘付けとなる





ウソだろ!お頭がこんな…」


「あ、赤い鎌…!?お前、いやアンタもしかして」


『否色(ヒイロ)の死神!?』





叫びを無視して柄を掴み、無言で引っ張ると

斧はあっけなくカフィルの身体から離れた


ソレを放り捨て 鎌を消失させて彼は叫ぶ





「走れ!」





弾かれたように出口を目指すグラウンディを追い

カフィルも坑道を突っ走る





怯えて佇む山賊達を置き去りにして





二人が鉱山から外へと飛び出して―間もなく









赤黒く燃える火柱が、先程までいた洞穴から
追い縋るように吹き出して…消えた








「…な、え、えぇ!?


あまりの展開についていけず、少女は目を
大きく見開いたまま 固まってしまった







穏やかな朝の白い光に似つかわしくない光景に


軽やかな拍手の音が、挟み込まれる





『やーギリギリだったなぁ、お疲れぇ〜お二人さん』





音も無く現れた 半透明のエブライズが楽しげに言う





『君が死ななかったのはビックリだったけどぉ
まっ、より面白いテンカイになったから許したげるぅ』


「なっ…ダレだテメェ!何してやるがっ!!」


『コイツから聞いてたでしょ?夜明けをすぎちゃったら
邪神のオレがぁ、山ごと燃やすってぇ』


「ふ…っざけんな!オレ達まで殺す気きゃよ!」





怒鳴りつける少女を、殊更楽しげに見下ろして


邪神は笑いながら言葉を継ぎ足す





『大丈夫ぅ、ソイツも道化師だから死なないぜぇ?

欠けても取れても歪んでもぉ チカラさえあれば
直るようにしといてあるからぁV』


「…チカラ?」


『そっ 式刻法術と同じ活力・精力・生命りょ「黙れ」


ウソのように笑顔が消え去った





『ナニ命令してんの?オモチャの分際デ…』





赫眼に満ちる おぞましい気配に少女は総毛立つ


道化は、動じず色の違う瞳で エブライズを睨む







息苦しい空白を置いて…







ま、今回は許したげるよぉ いずれバレるしねぇ』





邪神が、軽い口調と楽しげな笑みを取り戻す





『じゃ、次の遊び考えとくから楽しみにねぇ?』









姿が消えてもなお残る、ゲテゲテと耳につく
笑い声に身を振るわせながら


恐る恐る グラウンディは訊ねる





「…お前、あんなヤツにずっと」


「面倒が嫌なら 忘れろ





それだけ告げて 歩き出すカフィルの背を





しばし見つめて…決意した面持ちで少女は言う





「待てよ!悪の神をブッ倒さじ放ってたら
神失格だ、オレもついてくぜ!!」









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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:二ヶ月もぶっちしてスイマセンした…はい
という感じで一応 二人の謎はこれからどんどん
解けていくので今は伏線だらけです


グラウ:勝手にて殺すし変のな出るし意味わかめー!


エブライズ:否色の死神てセンスなぁ〜い(笑)
もう本当ダッサダサァ、ギャヒハッハゲラゲラ!


狐狗狸:わーらーうーな!(涙)私だってその辺
中二くさいとか、二人の設定がチートかもしれんとか
色々葛藤ありまくりの中で書いてんだぁ!


カフィル:著しく劣った筆でな


狐狗狸:バッサリ切り捨ておった…


エブライズ:さっすがカフィルぅ〜今のはいいよぉ♪


グラウ:まあ、ジゴウジキョクってヤツだな


カフィル:"自業自得"な




次回で少女一人旅の理由や 邪神が彼にナニをしたか
出して行く方向です、今度こそね!


道化師の旅路に、本格的に少女が同行し…