さぁさ醜悪 さぁ醜悪!


逃げる幼子、追う悪魔達
後へと続く少女と道化


最下層にて追いつき左耳を奪い返し


幻術と傀儡に苦しめられながらも

二人は聖別された武器にて悪魔を滅ぼす


だが寸前にて元凶たる幼子だけは取り逃し


少女と道化は塔からの逃走を余儀なくされた―








あの後 悪魔が住むと噂されていた塔は


原因不明の地盤沈下によって一階部分がほとんど
土砂に埋もれると同時に外壁もあちこち破損した為


倒壊の危険性もあるとして本格的に立ち入り禁止となった





その話は、"自分達が悪魔だ"という誤解が塔の近辺の
村や町へ広まる前に国を離れた二人の耳にも届いていた





「どうやら領主も近々砦の撤去に乗り出すらしく
調査のための兵を向かわせてるらしいな」


「神ムカつくけどあの塔はなれて正解か…
ネーレのヤツ、生きてんのかな?」


「少なくとも被害は著しく減るだろう」





彼女の末路は知らぬまま、旅路を優先し

ラポリスとの国境を特に何事もなく超えた道化師達は





「で、次に向かっつんのって城下町だっけ?」


「そうだ」


ゴブガ大陸へ向かう冒険者の足取りを追って


シムー国の城下町・スエンサを目指していた





「まあいいや神ソッキョウで追いついてやっからなー
待ってろ!ジニア=ガレージ!


"ガレーシ"な、それに"速攻"だ」





縦に長い右上がりの平行四辺形をしたクワロ大陸を
三等分して東側の半分ほどがシムー国の領地


スエンサはその右端に位置しており


海からなだらかに盛り上がった地形に沿う形で
適度な緑を残しながらも城を中心に建物を密集させていて


向かって北側には港と 作りのしっかりした豪奢な屋敷が


南側には細々とした街並みと、一軒の大きな工場が
町へと足を踏み入れた旅人の目を引く





通路から吹く風には潮の匂いが混じり


町は朝から船や工場の蒸気、立ち働く人々の声で
にわかに活気づいている





うおぃえ!ここの工場でっか!
なんだあのケムリっ何つくっけんだ!スゲェ!!」



「落ち着け、工場ぐらいレリュードの城下町にもある」


「あるけど見たのは神はっじめてだっての
ほかのジョカー町ロクに通んなかったし」


「長居するだけ面倒だからな」





フラフラと横道へ逸れそうになるグラウンディを

カフィルは度々、襟首をつかんで引き戻していたが





進むうちに視界が開け


通路の先から覗いていた"ある建造物"の全容を目にして
立ち止まった彼女の側で 同じように足を止める





クワロを占める三国のうち
シムーは造船を始めとした製造技術により


大きな影を残しながらも技術大国として発展した国であり


その技術力はグロウス図書館の建設にも大きく貢献し


技術を提携した隣国マノレーグを、弱小国家から

世界に名を馳せる"科学の都"へと成長させた実績がある





そして同盟を結んだ二つの国の技術と科学の結晶こそ


ワスクオ海峡を挟んだクワロとゴブガを繋ぐ





「ふおぉぉ…あのデカいハジで大陸渡んのか!


「そうなるな」


"世界初の可動橋" メントモウ大橋である











〜四十八幕 私雨〜











遠く霞むゴブガ大陸と城下町を繋ぐ橋は
二本の監視塔を通すようにして、いくつかの石柱に
支えられる形で石造りの橋板が敷かれており


たもとから塔にかけての櫛のような高い欄干と
所々の部位には惜しみなく鉄が使われている


けれど監視塔間の橋板の欄干は たもと側と比べて低く


大きさと物珍しい形状だけでも少女の驚きは
見開いた青い瞳から十二分に伝わってくるのだが





「ホントにあの橋、動ゴックのか?」


「見ていれば分かる」





言われて少女が再び橋の方へと向いた時


興奮が最高潮に達したらしく、非常に言葉に表しづらい
奇怪な叫び声が周囲の注目をがっつり集めていた







キリキリと金属がこすれ合う音が響き


それに合わせて橋が真ん中から左右へ割れてゆっくりと
持ち上がり、たもとから半ばの辺りを境に割れて


壁のようになった両端の橋板の合間を


一隻の奇妙な帆船がポンポンと煙を上げて通過していった





「あの船、帆がほっほんどねーぞ!」


「最新式の蒸気機関が組まれた船だ
お前もウワサには聞いていたハズだろう?」


「ジョウギ?なにかハキャンのか?」


「…後で教えてやる」





ため息を吐く道化を他所に、少女はキリキリと
音を立てて戻ってゆく橋に見惚れている









シムーの近海で穫れる魚介は
流れの速いワスクオ海峡により運動量が上がるのか


身が締まって弾力があり独特の滋味が増している


そんな魚介をふんだんに使った地元の店の料理に
舌鼓を打つグラウンディにとって
改めて説明された蒸気機関の仕組みなど右から左だったが





「あのワスクオ海峡の流れは速く人力はおろか
天候によっては航海を見合わせる程に荒れる」





メントモウ大橋の成り立ちについては


前のめりになって真剣に聞き入っていた





「安全な国交を行うべく頑丈な橋の建造は
著しい急務だったが、もう一つ問題があった」







平行四辺形を三等分した南半分…大陸の南側は
全てニムスボスの領地であり


軍事国家として悪名高いニムスボスの侵略と


シムー国が技術大国として発展した代償とも呼べる
"もう一つの問題点"により


海峡へ軍船が定期的に巡回する必要があった





「故に一部が動き船の通行を可能とする、あの橋が出来た」


「あんなデケェもん動かせるなんけ神すっげー機械だな!
あの橋渡って向こうの大陸うぃくんだよな!」



「デュッペやウックスまでの関所よりは
面倒が少ないだろうが、一応の手間は覚悟しておけ」





その言葉に国境を通る度に苦労していた記憶がよみがえり
少しだけ苦い顔をしてはいたが





「子連れの道化師だなんて珍しいわね」


よーく見とけ!神のオレのジャグリングしてる
木のボールにナイフが命中したらハキシュガッチャイ!」


「セリフ噛んでるぞちみっ子ー!
だががんばってっからおヒネリだ、そーら!!





城下だけあってか自分達に対し概ね好意的な住人達と


橋を始めとした目新しいモノの数々に
グラウンディはすっかり気分をよくしていた





そんな彼女が一人であたりを見て回りたい
口にしたのは、ある意味では自然な流れなのだろう







「好きに見回っていて構わんが通りを離れるな

特に、向かいの通路から先は踏み入るなよ」


何度も言わなくげも分かってるての!
少しは神を信用ぎてくれよな、全く」





浮足立った彼女を抑える方がより面倒な事になると
直感したカフィルは釘を刺した上での自由行動を認め


携帯食料や錆止め油など消耗品の買い出しへと繰り出す





買い物を終えて店を移動する都度、見慣れた草色が
視認できる範囲にある事を確認しつつ





式刻法術の資料を求めて小ぢんまりとした書店へ立ち入り


数冊を手に取り、素早く内容を眺めるも





めぼしいモノがない事に落胆して本を閉じ







「全く…あの跳ねっかえりにも困ったモンだ」


「城の書庫にも無いモノが城下の書店にあるなんて
希少術式を知る式刻士に出会うぐらいの確率ですよね」


棚の向こうからの不満げな呟きに気づく





足音を殺し、道化がそっと棚から覗き見れば


そこには声に違わぬ表情をした白衣の二人組がいた





「あんな小娘をこの計画に推すなんて
所長ももう長くはないな」


「最近じゃ例の希少鉱石に夢中でロクに研究室から
出てこないって話だし イカれてるんじゃないですかね?」


「おいおいそれをオレ達が言うかぁ?」





含みがある笑いをこぼす彼らの白衣の襟に縫われた


割れたフィーグの実を中心に葉で円状に飾ったような
特徴的な紋章とそれが示す集団の存在


そして彼らに関する様々な噂を、道化は知っていた


「ふむ…」





荷物袋の中身を今一度確認し







「失礼ながら、アナタ方のその白衣の紋章
マノレーグ王国直属科学機関"ディア"の方々とお見受けします」





静かに隣へ現れた道化から、白衣二人は
いっそ大袈裟なまでに肩をびくつかせて身を引いた





「なっ…何だねチミは?」


「私(わたくし)はしがない旅の道化師でございます」





四十半ばほどの尖った眉の男は恭しく一礼する彼へ
値踏みするような視線を送る





「奇異なる噂を好み各地を巡っておりまして
その折に立ち寄ったこの国にて高名な科学者様のお姿を
お見かけした為 滅多にない僥倖と思いお声をおかけしました」


「別に我々がこの国で活動していてもおかしくないでしょう
スエンサと我が国の首都イアは姉妹都市なのですから」





どぎまぎした様子で答える団子鼻の男の言う通り


必要とあらばディアの活動範囲は国内に留まらず
同盟国や友好国にも及ぶ


特に国の発展を担ったシムー国へ赴く
研究員や発明家も少なくない





「ええその通りです、しかし今はゴブガにて
"まやかし雨"なる恐ろしい雨の呪いによる病が
流行っていると聞き及んでおりまして」


アレは呪いなどではない!単なる公害だ!」


「なるほど、しかしながらその雨が大陸を越え
クワロの北でも降り注ぐと噂で耳にいたしますが」


「そのような事実は確認されておりません」





強く否定されるが、カフィルは知っている





クワロにて病による被害者こそいまだないが


スエンサより南の地方やラポリスの境界に近い
北端の山岳で目撃された"虹色の雨"の話と


呪いで変化したとされる土地の惨状を





だが敢えてそれを指摘せず





「仰る通り…しかしながらその雨と病、大陸を渡る
私(わたくし)どもにとっても他人事ではありません」





整った顔へにこやかな笑みを浮かべて、彼は続ける





「ですので微力ながらお力になりたく申し出た次第」


「力にって、道化師風情が我々に
何をしてくれるというのだね?」





小バカにしたように尖り眉毛の男の鼻先へ





「芸を磨く上での鍛錬により体術には
自信がありますが、一番の助力は情報





道化は自らの荷物袋から取り出した一冊の書
厳重な布包みを解いて突き付けた





「こっ…これは!?


「グロウス図書館重要指定書架の」


瞬時に白衣二人は目の色を変えて本へ手を伸ばすが


難無くそれをかわし、本を布で包み直し

袋へとしまいながら彼は告げる





「こちらの書は先日の図書館での一件にて依頼を受け
縁あって渡された貴重な品なのです」


そうとも!我々が保有すればその書は真価を発揮する
分かっているのなら渡したまえ」


「無論そのつもりです、しかしながらただ書を渡し
優秀なる科学者様方の甘受におすがりするだけというのは
私(わたくし)には心苦しいのでございます」





慇懃無礼な物言いに頬をひくつかせながらも


彼の持つ重要書架を諦める事が出来ず、団子鼻が口を開く





「一体、いくら払えばいいんです?」


「言ったはずです…
微力ながらアナタ方のお力になりたいと」


「つまり本を提供する代わりにお前を雇えと言う事か?」





警戒心を隠しきれない尖り眉毛へ

少しの沈黙を置いて、ため息交じりにカフィルは答えた





「私(わたくし)のような道化を信用できないと
仰るお気持ちはよく存じております」





ワザとらしく本を袋からちらりと覗かせ


「なれば時はかかりますがシムー国王へ謁見を願い出て
国の書庫にてこの書の保管を願い出ると致しましょう」


「い、いやいや待て待て早まるな!





そう告げれば、二人は面白いようにうろたえ


その反応と今までの発言、そして噂と時期を鑑みて

彼はディアの者達がまやかし雨の件に関与し
解決のため動いている事を確信する







二人の本音としては素性の知れない人間を
雇い入れるなど言語道断


しかし雨の件は早急に解決すべき事案


それも消失により図書館に収められていた重要な資料が
全て失われた今、目の前にある本が解決の糸口に
なりうるかもしれない





だからこそ余計な時間はかけられないのだが





同盟国とはいえど他国の書庫へ寄贈されるとなると
認可されるまでの間、待たされることになる





どころか信憑性を認められず本が処分されたり


万一道化の気が変わって売り払われる可能性もある





「ど…どうします?」


「オレに聞くなゴメス、少しは自分で考えろ」


「いやアイツの次に権限があるのドメスさんでしょ
チーム最年長なんですし」





疑心と損得とを天秤にかける白衣二人と


じっくりと返答を待つカフィルの耳が





店の外からの不穏なざわめきを聞き取る









「一体何事だ?」


「…見て参りますので少々お待ちください」





確信に近い嫌な予感に内心で頭を抱えながらも
様子を見に外へと飛び出す道化につられ


顔を見合わせたドメスとゴメスも続く







大通りの向こう側…城から南へ寄った通りに
続く道の一つを人だかりが遠巻きに囲っており





そちらへ歩み寄れば予想通り


白衣の女を護るように悪人然とした男二人と睨み合う
草色の髪の少女がいた





眉間にしわを寄せる道化と苦い顔をした白衣二人に
気が付いた野次馬の一人が言う





「あの子アンタらの知り合いかい?
マズいよ早く助けてやんな」


「アイツら、ここら一帯を取り仕切る
ルーカス一家(ファミリー)の連中だよ」


ひぇっ!?るるるルーカス一家ですと!」





書店へ逆戻りする白衣二人に構わず


道化は人だかりを掻き分け通路へと進んでゆく











…少女の名誉の為に言うのならば


彼女は言いつけ通りに大通りの露店や店先だけを眺め


時折、忠告された向こう側のうっすらと暗い通りから
漂う据えたようなニオイや

ちらりと覗く怪しい風体の男


道行く大通りの男へ手招きする化粧が濃く
背や胸、腿を強調する服を着た女へ

少しばかりの嫌悪を覚えながらも
道化が戻るのを待っていた





ある路地から聞こえて来た声を聞くまでは







「おいおい無許可で何しよーとしてんだ?あぁ?」


「うるさい 大事な 試作 移動に邪魔 どけ!


おうコラ!てめ礼儀ってモンをしらんのか?
ウチのシマで舐めた真似してんじゃねぇぞああん?」


いかにもといったガラの悪い台詞を口走るのは
図体の大きく人相があからさまに悪い男二人





彼らに言い返しているのは


滑車のついた奇妙な箱のようなモノを隣に置く

ボサボサの茶髪と白衣が遠目にも目立つ小柄な人物





誰が見ても分かりやすい構図が目の前にあったなら





「お前らなにびぃしてんだ!」


当然のように加勢してしまうのがグラウンディだ





じゃかましい!ガキは大人しく引っ込んどれ」


「コイツはウチの一家の許可ナシにおかしなモン
持ち込んで勝手な事しようとしてんだよ」


「貴様 オレ様 誰か 知らないのか?」


その白衣見りゃ分かるわ!頭のおかしい科学女が
ちったぁ常識わきまえて出直してきやがれ!」





苛立ちに任せ片方が箱へ入れた蹴りは
庇った白衣の女の右腿へ当たった


衝撃で少しよろけるものの女はそこから
逃げようとせず男へ言い返す





「機械 蹴るな!」


「だったらテメェは蹴っていいんだな?」


お前だにしてんだ下がってろ!てゆうか今
手ぇだぢだろ!顔といいお前ら悪人だな!!」


「あ゛ぁ?正義気取りも大概にしろよクソガキ」







後はもう小一時間程、双方睨み合ったまま
売り言葉に買い言葉の応酬がかわされていた


けれども男達がしびれを切らすのは時間の問題で


路地からは血が流れてもおかしくない
一触即発の空気が漂っていた





そんな彼らの元へ臆さず道化師は割って入った





「申し訳ありません、助手が粗相を致しました」


「テメーがこのガキの保護者か
今さら謝りゃすむとでも思ってんなら大間違いだぞ」


お気分を害されたのもごもっとも
しかしここはどうかお許し願えませんでしょうか?」





女二人を背後へ下がらせて彼は
非常時に備え袖口に隠していた蓄え

幽霊船で入手していた宝石の残り全てを手の平に乗せ


ちらりと見せたソレを指を握りこんで隠してから


声をかけて来た方の男の手へと受け渡す





「ふん…」





拳の中を覗きこみ、そこに宝石がある事と


少ないながらも見事な価値があるだろう細工を
確認してニヤリと太い笑みを浮かべる





「兄ちゃんのいう事ももっともだ、ここで
騒いで人に迷惑かけんのはよくねぇな…帰るぞ


「おうよ 次はねぇからな?」







捨て台詞を吐いて立ち去る男達を見送り





騒ぎが収束したのを確認して野次馬が散ってゆく中





振り返ったカフィルは、怒りの形相で
睨んでくる二人へ淡々と返した





「あの手の連中に一々構うな、面倒が増える」


「そんなにぇ「お前 何故 邪魔した?」





台詞を遮られて呆然とするグラウンディを無視し





「あんなの オレ様 倒せた これ 使って


声と視線に敵意を漲らせて女が白衣の右側をめくれば
露わになった右腿には油の染みついたズボンと


誂えられたであろうベルトに収められた

銃に見えなくもない、太く長い奇妙な筒があった





なんだそれ!なんでそんだもん持ってんだ!?」


「作った 決まってる…邪魔 入った 機械 蹴られた
時間 ムダにした お前のせい 謝れ


は!?何言ってんだオレだ悪人からお前を守っ
大きなお世話 もういい 帰る」





言いたい放題言ってスッキリしたのか白衣の女は
返事も待たずに箱を押して去っていく







が、言われっ放しの少女はたまったものではない





「な…なんだアイヅィ!?神腹立つっ!!


地団太を踏み、女を追って文句を言い返してやろうと
決意し駆けだした少女の前に





「その気持ちはよく分かるよ」





立ち塞がるようにして現れて同意したのは


ゴメスと呼ばれた団子鼻の青年だった





ルシロがご迷惑をおかけしました」


「あの茶色のボシャシャボシャの仲間か」


「ええそうです…腹立たしい性格をしているけど
アレでもウチでは最年少の発明家なんです…ですが…」





語るうちに段々と声のトーンを落とした青年は


肺の中の空気を絞り出したようなため息を吐き出し

両肩を落とし俯いて







「よりにもよってルーカス一家にケンカ売るか
あのアホ女あぁぁ!!」



悲鳴とも怒号ともつかない叫びを繰り出した





「る、ルーカシュ一家?あの悪人どもの事か?」


その通り!シムー国内、とりわけこっから先
南に進めばデカいスラム街になってんだけど
そこを支配してる危険な連中 言うなれば火薬庫だね!」







時代や文化の発展具合に関わらず


都市や城下町など大規模な市街地には ほぼ例外なく


スネに傷持つ人間がたむろする薄暗い通りや
非合法な店は必ず存在している





技術大国として発展したシムーもその例に漏れず


街の南側にある大きなスラム街

国の汚点として住人達に認知されながら
今日に至っても存在し続けている





「それでも手ぇ出さなきゃ一応安全なのに
わざわざ関わりに行くなよぉ…!」





半ば捨て鉢な声を上げながら
グネグネと身悶えする白衣の男の姿を眺めるうち


グラウンディの脳内を満たしていた怒りがしぼみ


代わりに男に対する気色悪さと近寄りがたさ

そして言い知れぬ不安が沸きあがる





「なーカフィル、こいつらに関わったら
メンデョユなコトになるって神のカンが告げてんだが」


「正しい判断だが残念ながら無理だな」





冷淡な宣告に嫌そうな顔をした少女へ





「…不本意だが、少しでも人手が欲しい
嫌だと言っても君達に協力してもらうからな」





青年の背後から現れた尖り眉毛の中年白衣

ドメスが、苦々しくダメ押しの一言を放ったのだった








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:予定より大幅遅れですが雨編始まるよ!
ついでにこの世界の技術レベルは大体産業革命初期前後だよ!


カフィル:著しくおぼろげに推定されているがな


ルシロ:我が国 作った 蒸気機関 工場 それで 動く
試験的に 大きな街 同盟国にも 工場 数か所 ある


ゴメス:まだまだ鍛冶屋や職人の技術力が強いようですが
いずれ工場での安定した生産が世界中に実現するでしょう


グラウ:神想像つかないけどスゴごうだな


ルシロ:今は鉄 糸と布 簡素な部品 作るだけ
いずれ なんでも 出来る


狐狗狸:貨幣鋳造も捗るかもねー


グラウ:金ってでいえばカフィルお前
あの船での宝石隠し持ってやぎゃったのか!


カフィル:蓄えは必要だからな、だがもう無い




"宝"に執着が強い幽霊船のモノなので、あの宝石の
品質と市場価値はかなり高いのです


次回 二人と科学者達はへ挑む…?