さぁさ逃走 さぁ逃走!


数多くの罠を潜り抜け、謎多き塔の最上階へ
幼子を引き連れたどり着いた少女と道化


しかし現れし悪魔達は

幼子こそが塔に住まう悪魔だと告げる


悪意と謝罪、二つの意思を見せる幼子に惑い
悪魔と対峙する少女

反して道化は幼子へ鎌を向ける


しかし幼子はおぞましき邪神の術式にて
生み出した傀儡を操り


少女を囮に道化の左耳ごと鎌を奪うと


奇妙な絵と壁で 巧妙に隠されていた扉を開き


一目散にその場から逃げてゆく―








どきょき行く気だネーレ!おいっ!!」


「だから人間は使えないんだ、最初からアイツを
殺させてくれればお兄さんも面倒な目に合わなかったのに」





傍観していた半透明の双子悪魔はつまらなさそうに
言い放ちながら尾を動かし


熊を隠し通路の入口へ直進させると


かじりついた人形を水飛沫を払う様に振りほどいて
無理やりいびつな巨体を潜り抜けさせる





「魂さえ回収できれば他に誰が死のうと構わないけど
僕らの邪魔はしない方がいいよ?死にたくなきゃね」


「おっいちょっちょと待て!





立ち上がりざま掴もうとした自身の手も床も

透過してゆく二体を追うべく隠し通路の入口へ部屋のと向かう
少女の行く手を、牙を剥いた人形達がすかさず阻む





「どいつもこいつも神勝手なコトばかっ言いやがって!」





今にも飛びかかろうとした数体を袖口からの火炎放射で焙って

道化は少女の隣へと駆け寄る





「火種なら檻の破片がある、急ぐぞ」


何すづっしい顔で命令してんだ!勝手に悪魔なんかの
言いなりでネーレ渡そうとしたくぜに」


「助けるにしろ見捨てるにしろ
下手に逃げ回られるより気絶させた方が面倒が減る」





人形への牽制を行ったまま彼は、いつになく神妙な顔をした





悪かった、奴等を確実に仕留める為と言え
事を急ぎ過ぎた」





その表情と言葉は、歯を剥きだし睨んでいた少女に
十分な冷静さと自省を取り戻させた





「…オレこそ悪かった、きゃっ手に先走っちまって」


「今更だ それより奴等を追うぞ」





ほどなく人形達を焼き払い、隠し通路の入り口を潜れば


その向こうには先程と同じような
吹き抜けと螺旋階段が広がっていた





「何だこれっ吹き抜けがもゅ一個!?」


「なるほど…さっきの場所の
著しく不可解な狭さと窓の位置に納得がいった」





どうやらこの塔は最上階のスペースを挟んで
二つの吹き抜けをくっつけた構造となっており


その内の片方が彼らの昇って来た螺旋階段の吹き抜け


もう片方が室内庭園の光源でもあり、塔内を安全に
行き来できる隠し通路に通じる吹き抜けだったようだ





下の方で聞こえる唸り声を頼りに


足を踏み外さぬよう、二人は階段を下りてゆく





「言っておくが 俺はあの女を生かそうとは思わない





前を行くカフィルが出し抜けにそう呟いたのは
階段を中ほどまで降りた辺りだった





「奴等はもとより、あの女も危険な力を持つ
何よりも著しく命を奪いそれを楽しんでいる」





一番下では陽光を反射するガラス張りの床を
いくつもの小さな影を引き連れた金色が一瞬遮り


その軌跡を巨大な黒い塊が唸りながらなぞってゆく





それを見下ろして、足を止めた彼は
グラウンディへ振り返って問いかけた





「…お前はどうするつもりだ?」





流されやすく甘さの抜けない正義感ゆえに
学ばず行動してしまう事の多い彼女ではあったが





「たしかん人の命うばったのは神許せねぇけど
それでも殺すのは違う気がする」





当人なりに逃げたネーレへどう接するか考えていたらしく


真っ直ぐな青い目で 色違いの瞳を見つめ返して答える





「だからオレの神力で、悪いジツ使おうとしたら
動けなくななるようにして反省しゃぜる!

で、あんまひでーなら牢屋入れる!これでどーだ!!


「呪いの類をかけるつもりか…まあいい、任せる」





僅かに微笑み、踵を返して再び降り始めた
カフィルに従いながらグラウンディが訊ね返す





「それよりあのアクミャどもどーだゅって倒す?
つかアイツらユーレイみたいだよな床抜けたりして」


「…少し場合が違う 奴等は任意で実体化も行える
幽霊よりも面倒な手合いだ」





神石の力で偶発的に生まれた幽霊船と違い


邪神の手により穢れを集めて作られた悪魔には
変質した生命力ですら致命傷には至らないと彼は言う





「よく分かんぎゃいけどユーレイ船長倒した時の手は
使えないっで事でいーのか?」


「概ねな、ただ切り札なら別にある」





階段の最下層までたどり着き、壁を探り
更なる隠し通路を移動するも


彼らとの距離は依然として縮まらず


息を上げつつグラウンディは憤慨する





つーか隠しつうりょとか多すぎ!こんなじゃ
いつまでだってもアイツらに追いつかねーよ!!」


「…ならこういうのはどうだ?」











〜四十七幕 ペテント塔ト〜











いくつもの隠し通路を経ながら階を下り


新たな破壊の痕跡や傀儡達の残骸をあちこちに
まき散らしながら追いかけっこを続けた双子の悪魔は





柱が等間隔に並ぶ広々としたホールで


熊の背に乗り、ネーレの抵抗する姿を見下ろしていた





「無駄な抵抗ご苦労さん、いくらお人形を作ったって
僕らは人間みたいに死んだりしないから無駄なのにねぇ」


「そっくりお返しするわするわ、てゆか諦めてよね
おかげさまで持久戦は得意なんだから」


だから?君(にんげん)が悪魔に勝てるワケないじゃん」





数人分の身体をねじってくっつけたような巨人数体を
壁にして、しきりに手の中で奪った左耳を弄ぶネーレだが


抑え込む傀儡は消耗が激しく いつ朽ちてもおかしくはない





「だからもう殺してあげる、おやすみネーレ」


「さあお腹いっぱいお食べ?丸々肥えた魂ごと、ね!





悪魔の命令で勢いづいた熊が巨人の肉壁を切り裂き
一息で金髪の少女へと迫る







まさにその刹那





上から降りて来た巨大な円柱に頭部を貫かれ
熊は床へと崩れ落ちた








呆然としていたネーレは、柱の一部を開いて飛び出してきた
グラウンディの拳を食らって壁際まで吹き飛ぶ





「痛い…ひどい、ひどいひどいひどいどうして殴ったの?」


ぷじゃけんなバーカ!お前が先にやったんだろ
だから神お返しだ!!」






言いつつ転がる左耳を拾い上げたグラウンディは


首筋へ噛みつこうとしていた猫の首をすんででかわして
床へと手の平をつけて叫ぶ





「"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!"」





自らとカフィルが出て来た柱が床へと溶け込み


床から生えるようにして、ネーレを取り込んだ
天井が無い筒状の柱として再構築される





「なにコレ出してよ!出してよ!


「とぢまえず悪魔どもを片づけるまで待ってろ!
カフィル!今耳くっつけてやるきゃら屈んんで」


「それは後だ」





言いつつカフィルは、グラウの手に左耳を握らせたまま
宙に浮かぶ悪魔達と対峙する





「言ったよねお兄さん、死にたくなきゃ邪魔
「俺にとってはお前達全員 罪人だ」


「だから僕らを裁こうってワケ?人間の分際で」


「いいや、裁くのは俺じゃない」


そどとーり!オレが神としてテメーら悪魔どもに
ぎっちり神罰加えてやっから覚悟いやがれ!!」






満身創痍の二人を眺め 白と黒の悪魔は嘲笑う





「だからってそれでネーレを護ってるつもり?
かえって僕らの仕事を助けてるとしか思えないんだけど」





アドルクの台詞の合間にアドリスが床へ沈んだのを見て


「てめっ…やらせるきゃ「でも邪魔だから
先に君らから殺してあげるよ」






再び床へ片手をついた少女の、手のすぐ側から

沈んでいた白い悪魔の顔面と腕が伸びる


とっさに後ろへ飛びのき少女が爪から逃れるも


悪魔はまたも床へと潜り、足首を掴んで引っ張り


たたらを踏む少女の喉を


間を置かず迫った黒い悪魔の爪が真横に裂いた





噴水のように血しぶきをあげながらも果敢に振り上げる
少女の拳が悪魔達の身体へ幾度も触れるが


半透明の身体はその拳をも透過し 何一つ手ごたえを残さない






「だから僕らにそんな攻撃通じないのに、まあせいぜい
無意味なあがきを続けてごらん?死ぬまでね





暴れる少女を背後から白い悪魔が押さえつけ


楽しそうな笑みで黒い悪魔が喉の傷へ手を差し込んで
しぶく血に構わず中を掻き回し…








「があぁっ…ぎゃうあぁ…あ゛っ、あぐぅ!


「ん〜いい声で鳴くねぇ♪そう思わない?ネーレ」





裂かれた喉から舌を引っ張り出される幻覚に苦しめられ
床をのたうつグラウンディの足と腕をへし折りながら


白い悪魔は側にある柱へと呼びかける







そう、少女は左耳を握った時点から幻術を見せられ


ネーレの防御壁を作った直後 熊と巨人の残骸から
新たに生み出された人型傀儡に殴り飛ばされ


道化と柱から離れた横手の壁へ叩き付けられていた





カフィルはと言うと新たな傀儡を炎とナイフで牽制しつつ
少女への接近を図ろうとするも


まるで効き目はなく劣勢を強いられている





だから人間は愚かなのさ、ねーアドリス
そろそろトドメ刺そっか?ソレ」


「だねアドルク〜ああ安心してお兄さん
死体はすぐに僕らのお人形にしてあげるから」





せせら笑う悪魔二人の目の前で


半透明の悪魔の、赤子ほどの身体をすり抜けて
打ち下ろされた石の拳が少女の胸を貫く


遅れて黒い悪魔の胸へ銀色のナイフが突き立った





透過するハズの悪魔の身体へ
投げられたナイフの刃はすり抜ける事無く突き刺さり


声もなく黒い悪魔は一瞬でひと塊の灰と化し


黒ずんだ錆びだらけのナイフと共に床に落ちた







「アドルク…?アドルク!?


唐突に消し去られた相方を呼ぶ悪魔を他所に


カフィルは倒れ伏すグラウンディの元へと駆け付け

いまだ握られたままの左耳のピアスから赫色の鎌を具現化すると


少女の胸に風穴を開けた石の傀儡を断ち割る





石の傀儡を作る事で柱からの脱出を果たしたネーレが
一連の流れを見て、信じられないと言いたげな顔をした





「アレ、あの部屋にあったナイフナイフっ…
ほとんどさびてて使えなかったんじゃ」


「道化稼業が長いせいで著しく手先は器用でな





あの時 先に祭壇へ辿り着いていた彼にとって

無事だったナイフを隠し持つ事は造作もない





歯噛みして距離を取ろうとしたネーレの足元へ
普通の投げナイフを放ち


足を止めた隙に鼻先まで詰め寄った道化の鎌の刃が
撫でるように彼女の左腕を掠めた





「うっ…うそ、力が力が吸われてく…!?」





皮一枚ほどのかすり傷にも関わらず


その傷を起点に恐ろしいほど生命力を吸い取られ
ネーレは青ざめた顔でヒザをつく





「著しく生命力が高い…どれほどの魂を奪ったか知らんが
貴様はここで終わらせる」





言いつつ鎌の刃を振り上げるカフィルだが





人型傀儡とアドリスの猛攻が背後から押し寄せては
防御に回らざるを得なかった





「よくもよくもよくも人間の分際でアドルクをあぁぁ!
殺す切り裂く骨も残さない無残に苦しめ!!」



「この期に及んで面倒な…!」





自らも攻撃に加わりつつ傀儡を増やし道化を攻める
白い悪魔と、それらをいなす道化とを見比べ


じりじりと彼らから後ずさったネーレは





術で増やした傀儡を更に道化へけしかけつつ

ゆっくりとした足取りで血塗れで倒れた少女の元へ辿り着き





「お兄さんはどう死にたい?刻まれる?バラバラ?
それとも虫に食われながらゆっくり腐るとかっ?!」



「どれも著しく御免被る」





道化と悪魔 両者の意識がお互いを向いた瞬間を狙い





少女の身体へ触れて、小さな声で禁忌の祝詞を唱えた





「"汝と我、穢れを楔に身を移せ(ディフシィミール)"」





唱え終えた瞬間


二人の少女の身体が一瞬輝き、ついで金髪の少女の
身体ががくりとかしずいて…





「これでグラウの、この素敵な身体は
アタシのアタシのもの!」



勝ち誇ったような歓喜の言葉をほとばしらせたネーレは







入れ替わっていない自らの身体に気づいて愕然とした





「えっ!?えっ!?なんでなんでなんで入れ替わってないの
グラウは確かに死んでたはず死んでるはずはず」


「…信じてたのに神るらぎりやがって、この悪魔!







聞こえて来たグラウンディの声に


二度目の驚愕の表情で見下ろしたネーレは
同時に伸びあがった拳に、アゴを殴られて腰を抜かす





「あ゛ーもうこれれ二回死んだじょ!」


「著しく蘇りが遅い、早く手伝え」





起き上がるグラウンディへ、ネーレの生み出した傀儡を
斬り捨てたカフィルが呆れたように告げる


直後 アドリスが自らの頭部に生えた角を引き抜き
カフィルの頭部へと投げ当てた





とっさに鎌で弾き返すも角の破片が顔へと当たり


「っ…ぐぅっ!





次の瞬間…彼の腕から赫色の鎌が消え去り


道化は短く呻いて喉を押さえ、その場で動きを止める





「カフィル!?どうしっちまっ…まさか!


「そのまさかさ、お前だけは楽に死ねると思うなよ!」





顔を歪める彼を残った傀儡が羽交い絞めにして


そのまま体当たりで挟む形で壁へと二度三度叩き付け





「最悪の苦しみを味わったまま幻に囚われて死ね!」





磔状態の道化の喉へ、壁から飛び出た白い悪魔が
鋭い爪を食いこませて







「"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!"」





悪魔の爪が喉笛を裂き貫く寸前で


祝詞により意思を持った銀色のナイフが傀儡の身体を
上から乗り越えてアドリスの脳天へと穿たれる






「なんっ…ナイフが、ナイフが」


「追っかけっこ中にオレもナイフをとらってたんだよ!」





正真正銘、最後のナイフは幸いにも血に穢れることも
破壊の憂き目に会う事もなく役目を果たし


白い悪魔を灰へと変えて滅ぼした





悪魔の消滅と同時に幻術から解き放たれた道化師が
戒めから抜け出し傀儡をも片づける







だが二人が一息つく間は与えられない





おい!また逃げんどがやぅ、待てネーレ!!」





よろよろと壁に隠されていた扉を開いて
塔の外へと飛び出していくネーレを追いかける









必死で逃げるも痛手を負った彼女は森の中で追いつかれ





許して!アタシあの悪魔が悪魔が怖くて」


へたりこんだ姿で涙目になり許しを請うが





もう騙さでないからな!とにきゃくお前は神チカラで
術封印して牢屋にぶちこむ!!」


散々塔で色々な目に合った少女は既に聞く耳を持たず


道化師に至っては、場を任せつつも妙な動きをすれば
即座に彼女の息の根を止めるつもりである





…最も彼はきっかけさえあれば相手を亡き者に出来ないか

少女の説得と合わせて現在進行形で考えているが







だからだろう





何だ?こんな場所に誰かいるのか?」





木々の合間から、騒ぎを聞きつけた木こりが
近づいて来るのに彼女だけがいち早く気づけたのは





「助けてっ…助けて!





呼びかける方向へ二人が意識を向けるも一歩遅く


耳を握りしめ べったりと血だらけになっている少女と

灰色に崩れかけた顔と赤黒い肉の透けて見える
左腕をさらして鎌を握りしめた青年が


怯えた金髪の幼子へと迫る光景は


事情を知らぬ木こりにとっては


いたいけな少女が今まさに
悪魔の毒牙にかかろうとしているようにしか映らなかった







「やめろおぉぉぉ!」


うおっ!?神危ないだろ何ずんだっ」





斧を振り上げ突進した木こりから少女が距離を取る





幼子を後ろへかくまい、なおも斧を持ち上げて
木こりは二人を牽制した





「この子に近寄るんじゃない!立ち去れ悪魔め!!」


オレらりゃ悪魔じゃねぇ!悪魔はソイツだ!
ソイツが他のヤツっらを…!」





言い返す少女を止め、鎌を消した道化は首を横に振る





「よせ、著しく時間の無駄だ」







彼にとって 神石の反応が無い
この塔へ再度立ち寄る理由は薄くなっていたが


それで少女が納得しない事もまた承知していた為





「奴を倒すつもりならば今は逃げろ」


ひとまず今は、そう言いくるめて退却を図る





悔しげに歯を軋ませながらも


斧を手にじっとこちらを睨む木こりに護られ
二人にだけ見えるようにうっすら笑うネーレを指差し





「今に見でと、お前は絶対神許さないからな!」





それだけを叫んでグラウンディは、カフィルと共に
その場から退散したのだった







二人が立ち去ったのを確認し


斧を下ろして木こりは息を吐き、背後にいた
ネーレへと笑いかける





「怖かっただろう?大丈夫だったかい」


ありがとうありがとう!お兄さんが来なかったら
悪魔に食べられる所だったわだったわ」


「そうかそうか、あの塔は悪魔が住んでるって
ウワサがあるからもう近付いちゃダメだぞ?」


うん!あ、でもアタシあの塔にお友達
おいて来ちゃったの来ちゃったの…」





困ったように見上げる幼子の頭を撫で


木こりは、胸を強くたたいて見せる





大丈夫!オレが一緒に行って探してやるよ!!」













「ああ危なかった危なかった」





塔の最上階 気に入りの椅子に腰かけネーレは呟く





「しばらくあの二人は来ないけどけど、それにしても
グラウの身体は惜しかったなぁかったなぁ」





ため息交じりに手の中で弄んでいるのは


先程まで一緒だった木こりの血がべったりとついた楔





「まあ悪魔達を消してくれたんだから不幸中の幸いかなかな
それにしても あの隠し部屋どうしようかしら、まさか」


「まさかあんな場所に聖別された武器が隠されてたなんて
ほんっと、してやられたって感じよね?」






闇の中からかぶせられた言葉にネーレの表情が険しさを増す







ヒールの高い黒のロングブーツが赤い絨毯を踏みつける


そこから伸びた長い脚


同色で露出が高く 実用的な服装に飾られた
豊満な肢体とが薄闇からにじみ出て


最後に肩で揃えた濃い金髪の―

センティフォリアと似た顔立ちの 美しい女が現れた





力を与える時に言ったはずよね?

殺した奴の魂を大勢取り込んで力を蓄え、辺りの人間どもにも取り入って
色々な街や村で争いの種をまけって」


「心外ね…ちゃんとちゃんと仕事はしてたわよ」


「古巣に引きこもってばら撒いたウワサに釣られた人間を
ちまちま殺してただけでしょ?ホントせっこい女」


「だからあの悪魔どもを差し向けたって言うの?言うの?」


「流石に自分の立場ぐらいは分かってるようねぇ」





言いつつ一歩踏み出そうとしたスタンリーの耳に
肉と金属を引き摺る音が届く





横へと飛びのいた彼女の残像を斧で切り裂き


喉から血を流した木こりが、不自然に曲がった足も
気にせずスタンリーへと突進していく





距離を取りながら彼女は


ため息交じりに視界に入れた木こりへ手の平を向ける





「穢れで固めたアイツらと違って、アンタなら
アンタならアタシと一緒で殺せるで」


「"呪われし火種よ、今こそ力を得て
主の怨敵を薙ぎ払え(ナジュベムバ)"」






祝詞と共に向けた手の平を握りこんだ直後


景気のいい爆音と共に、木こりの四肢と頭部が弾けた





「ちゃちな幻術とお人形作りしか出来ないガキ悪魔どもと
アタシが同列だと思ってんの?おめでたい脳ミソね」


なっ…こんな力を持ってるならアンタが始めから」


分かってないわね、この塔仕掛けが面倒だから
確実にアンタを追い込むのがアイツらの仕事だったのよ」







双子悪魔が滅ぼされる事は計算外だったものの


塔の一件に道化師達が関わる事は分かっていたので
それも踏まえた作戦自体は、成功したとも言える





「奴等のおかげで消耗してくれたし、腐りかけの
ババアだったアンタも十分いい夢見れたでしょお?」


「いやいやいやいや来ないでっアタシまだ生きてたい


楔を投げつけ椅子から離れたネーレが
スタンリーから反対にある出口へと走り出す





が、辿り着く直前で扉が爆発し


爆風に吹き飛ばされて彼女は床へと叩き付けられた





「この術疲れるんだから無駄打ちさすんんじゃないの」





それでも逃げようと這う両腕へ矢を撃ち込まれ
痛みにもがくネーレへ


悠然と歩み寄った悪魔は、その小さな身体を持ち上げ
椅子へと無理やり座らせる





「そんじゃ醜く肥えたその魂、頂いてくわね♪」





引きつった顔で全身をくねらせて暴れる
最後のあがきを嘲笑うかのように


スタンリーはネーレの唇へ自らのそれを重ねる





淡い緑色の瞳が限界まで大きく見開かれ


唇が離された直後、可憐だったその顔は
原型がすっかりと失せるほど醜悪に朽ち果て崩れ出す



…そして この世のものと思えない気味の悪い
叫び声をあげて少女の姿を借りた老婆は事切れた







おぞましい表情の死体を濃い灰色の瞳で一瞥し





「よかったわね、これからもアンタはこの場所に守られたまま
この地に居座れるじゃない」



ぺろりと唇を舐めてスタンリーは、再び闇へと踵を返す








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:グロ成分とバトル描写マシマシでお送りした塔話も
ようやっと終了です、も゛ー


グラウ:ジゴグギトクとはいえ神おつかれ…しかし
あの柱のヤツは降りんのスゲー便利だったな


スタンリー:柱?


カフィル:円筒の中心に細い柱を組み込んだ形で
階下へ降ろし、細い柱を伝い一気に降りた


狐狗狸:イメージとしては消防士の滑り棒
ちなみに聖別されたナイフって何本あったの?


グラウ:ちょうど二本だな、だだらオレとカフィルとで
持ってスキが出来たらアイツらに刺すつもりっつた


カフィル:あの女と…互いのうちどちらかが囮になる
予定だったが、俺の耳に幻術を仕込んでいたとはな


アドルク:だから言ったじゃん、あの女は悪魔だって
僕らと考えるコトもほぼ一緒なんだし


アドリス:万が一の為僕らの角も幻術仕込んでるしね
僕らとしては仮の身体でも幻術効いた方が驚きだよ


狐狗狸:エブ曰く"仮だろうと身体は身体"らしいよ?




なお、手袋越しは衣服と同じ扱いです


次回 隣の大陸を悩ますが彼らを惑わす…