さぁさ追跡、さぁ追跡!


山脈最奥部にて火喰い鳥を再び見つけ出すも


妨害者による同士討ち、消えた筈の青年の
忠告と死、そして一人の裏切りが引き起こされる


場を狂わせた"赤き宝石"とそれに惹かれた鳥は


独自の調査によって内部の溶岩地帯へと通路を
開通させた三人の男達に奪われ


美女はそれを追って場を後にする





死屍累々の場に、残された少女と道化には

鳥の行方を追う他 出来ることは無く―








結果的に火喰い鳥を横取りした三人組が
開けていった"通り道"を使い


二人はモセ山脈から無事に脱出を果たした





けれども先に逃げていった三人組と、それを
追いかけたスタンリーの姿はもはやなく


更には山から脱出したすぐ後に


過酷な山歩きと溶岩の発していた熱気がたたってか
グラウンディが体調を崩して倒れてしまい





彼らは数日間、オイニリでの逗留を
余儀なくされたのであった





「おほ前さ、スタンリーが怪しいなら始めっから
言っといとてくれりゃよかったろ」


「動きが読めん内に手を出すと面倒が増える」


「事故とかがボーガイって知ってたらオレらって
なにか出来たかもしんないし、神チカラでアイツら
助けらりれたし スタンリーのヤツだって…」





ひと通り吐き出し、悔しげに手元のシーツを
握りしめて視線を落とす少女の頭を


軽く叩いてカフィルは言った





「思慮深さと慎重さを身につけてから言え」


だー!もうガギあつかいすんんあっての!」





殴りかかろうとして避けられるグラウンディだが


ベッドから上半身を起こした状態で、なおかつ
寝巻き姿だと説得力は全くない





「明日の旅路は心配ないようだな」


あたたり前よ!神は死んでも死なねーんだ
それよかヒクイドリの行き先わかはったのか?」


「目星は付いている」





どうやら捕獲された火喰い鳥は売り飛ばされ


海を渡ってデュッベ大陸へ運ばれたようだ





「買ったヤツが船ね乗ったっつーコトか?」


「そうだ、ただ好事家の類ではなく多くの荷
共に商船で運ばれたようだがな」


売人ってトコか!とみょかく早めにトリを
とっ捕まえて宝石はかしぇなきゃな!」


「…寝坊したら置いていくぞ」


「しねーよ!いちいち水(メジュ)刺すなっつの」











〜二十二幕 歌ウ者ト奇妙ナ酒場〜











翌日、朝一番でオイニリから南下した場所にある
港町ラハにて二人が乗り込んだ船は





うぶおぅわぁ〜!なんだコレ!ゆれりゅぅ〜!!」


「著しくうるさい」


「だだだだ、だっだてだって船なんてはじめて
乗っ…う、ぎもぢばる…「寄るな海で吐け」





特に何事も無くデュッベ大陸へとたどり着いた





うっぷ、病み上がりりゃ神キツいぜ…」


「今の内に慣れておけ」


活気のあふれる港町・ジョアの広場にて


素早くローブを脱ぎ、道化師はいつものように
芸を披露し人々の足を止める







人通りはそこそこ多いため路銀は稼げたが


肝心の情報というとあまり成果は見られないようで





珍しい荷ねぇ…それならここよりも領主様の
城に近い街に運ばれたんじゃないか?」


「精巧な石像の造り手で有名な村もあるし
ここを中継点に西の大陸へ移動する船も多いのよ」





"火喰い鳥の購入者"に関する手がかりを掴めずにいた





「うー…せしぇめて、この街にいるかどーかが
分かりゃー神動きやすくなんのに」


休憩がてら投げナイフを果物から抜き取り
刃を拭いて渡す少女のボヤキに





「闇取引だと厄介だな…面倒だ」


ナイフを受け取りながら 道化も答えてため息







と、まばらな人の波を縫って一人の男が
二人の側へと歩み寄ってくる





「旅のお方、この街は初めてですか?」





質素ながらも少し風変わりな緑衣に身を包み


色素の薄い頭髪と二十代そこそこといった外見と
漂う物腰はどことなくカフィルに似ていて


グラウンディは、思わず二人を見比べる





「いかにもその通りで御座います…アナタは?」


私は見ての通り歌を紡ぎ世を渡り歩くしがなき詩人

…世の美しきも醜きも全てに目を通し
己の糧として歌い上げて生きる者です」





歌うように語るその声は通りがよく魅力的なのだが


わざわざポーズを付け、更に目線まで送られた
道化は笑みを張り付かせてしまう





「それは失礼をば致しました、私(わたくし)は
この場から退かせていただきますので」


構いませんとも、むしろお邪魔でなければ
私の諳んじる詩へぜひお耳をお貸しいただきたい」


「へーほま、お前どんな歌出来んの?」





興味を示す少女へ 詩人は少し身を屈めて返す





「ひと通りは、好みは恋歌ですが伝承歌に英雄譚
神々の逸話や優れた人物を讃える事もあります」


「ほほう、つちゅまりオレみてーな神もか!」


「おや これはまた可愛らしく活力あふれる
小さな神様でいらっしゃる…アナタの一挙一動を
詩に興すのも中々興味深そうですね」


しかし、と切って顔を上げた彼の瞳が


隣の道化を捉えた瞬間キラリと光ったのを
彼女は見逃さなかった





「先程から見受けられる、その不相応なまでに
凛とした佇まい…そして人を寄せぬ雰囲気が私の
創作意欲を掻き立ててやまないのです」


「お言葉はありがたいのですが、私(わたくし)は
一介の道化に過ぎませんので」


「いかがでしょう?これから馴染みの酒場で
お話を聞かせていただけませんか…二人きりで」





遮り気味に彼は、カフィルの手を取り顔を寄せる





浮かべられている柔らかな笑みは端正な顔立ちを
際立たせていたが


熱を帯びて艶かしい眼差しも一際目立っていて


あの目から光線が出せるんじゃないか、と
思わずグラウンディは考えた





多少たじろぎはしたものの、表情を変えず

握られた手を振りほどきカフィルは答える





折角ですが、行かねばなりませんので」


「そうですか…ではまた縁がありましたら
お会いいたしましょう、お元気で」









荷物をまとめて移動し始めた道化師に
慌ててついていきながら、少女は訊ねる





「なんか…エラいお前にキョハミあったみたいだな」


"興味"を持たれても面倒だ 有益な話が無ければ
諦めてこの町を発つ、いいな?」





広場から少し離れた大通りや店の定員などに


"最近、この港に奇妙な生き物を運んだ人間がいる"

というウワサを聞き 興味がある、と訪ねて回ると







「そーゆーアヤシいのなら、矢印亭にいきゃ
知ってるヤツがいるかもな」





ようやく取っ掛かりになりそうな話が出てきた





「よろしければ店の場所をお教えくださいますか」


口頭じゃ難しいな〜ここらじゃ有名な穴場なんだが
ちぃとややこしいトコにあるでな」





店までの道標はあるものの見つけづらい場所に
あるモノが多く、移動が入り組んでいるので
辿りつけない者も少なくないのだとか





「すぐそこの角にも目印があるけど、常連を
見つけた方が早いかもしれん」


心配ムヨーだぜオッサン!神にきゃかれば
そんな店楽勝でたどりちゅけるっての!!」






意気揚々と目印頼りに進んでいくグラウンディの

その後を、止めるのを諦めたカフィルがついていく







…そして彼は


面倒くさいが故に選択したその行為を後悔する







「メジるる、目印なんてドコにあんだぁ!!」





確かに矢印亭への道を示す行路は要所要所に
置かれてはいたものの





民家の壁に落書きみたいに描かれていたり


敷き詰められた道路の石畳がそうであったり


そんな風に巧妙にカモフラージュされている目印
見落とさないように探している最中





おお神よ!今再びの出会いを感謝いたします!」


「うわばばば!来んるなぁぁ!!





やたらと緑衣の吟遊詩人に遭遇し


両手を広げて熱烈に迫ってくる相手を撒いてから
戻ってくるのに余計体力を使ったり





「ホントにこっちで合てっんのかよ?」


「俺に聞くな」





立ち並ぶ露店の隙間を通り、壁やゴミなどに
遮られた細い路地を歩きまわり





海沿いの高台まで登らされ


景色を眺めがてら休憩していた折に
そこでも吟遊詩人と鉢合わせ





なんたる奇遇でしょう!この母なる海に抱かれる
海鳥の風情を味わえるこの場所で会えるとは
ぜひこの感動を歌わせて…どこへゆくのです!?」


一気に下へと駆け下りる羽目になったり…









散々町中を歩かされ、すっかり辺りも暗くなり
夕食時が過ぎてしまっても


少女は 土地勘のなさと意地とで


引くに引けず涙目で矢印亭を目指し続けていた





「著しく往生際の悪い」


うるせえ!あの詩人とメジュルシはゼッテー
エビファイスのシワザに違いねぇ!
神としてこんなトコで屈してたまるか!!」


「…路上で野宿か、面倒な」





それでもめげずに進む二人は建物に挟まれた
壁についた扉をくぐり、階段を下りてゆ


「止まれ」


ふぁっ!?な、らんらよ?」





不満気なグラウンディへ カフィルは階段途中に
佇んだまま左を指さす





そこには壁…に見せかけた扉があり


"矢印亭 この奥すぐ"という表札が街灯に
うっすらと照らされていた





「マジかよ…こんらんよく見つけたな」


「妙な位置から人の声と酒の匂いがしたからな」





風向きや時刻にも助けられたとはいえ、道化の
鋭敏な聴覚と嗅覚に感心しつつ


少女は扉を開け 奥へと踏み出していく





ちょっとしたトンネルを抜け小さな段差を上がると


四方を壁に囲まれた店がちょこんとあった





窓からは暖かな光と楽しげな話し声が夜の静寂を
壊さぬ程度に響きわたっていて


看板の代わりか、扉の真ん中には


中央へ矢尻を向けた四本の矢が飾られている





「やっちょ…やっと着いたんだ!





辿り着くまでの道のりを思い出して、青い目に
涙をためながらもぐっと拭って


勢いよく扉を開いて店内へと足を踏み入れ







少女は…その場で立ち尽くした





抑え目の照明に映しだされた店内は穏やかで
手入れが行き届いており


遅い時刻にも関わらず、数人の客がカウンターや
テーブルについてくつろいでいて


カウンター越しの店主と談笑していた男が

軽やかなドアベルに反応して振り返り





「ああなんという奇跡だろう!
やはり私とアナタ方は出会う運命にあるようだ!」



通りのいい魅力的な声で嬉しそうに立ち上がり
両腕を広げていたのを目の当たりにして







「なっ…にゃらなんでお前ここにいんががが!?


「落ち着け」


「この矢印亭こそが、我が魂の休息場なのですよ」


「つまりは仰っていた"馴染みの酒場"と?」


その通り!案内を申し出る前に避けられてしまい
悲しみにくれていましたが、こうして再会出来た事が
何よりも喜ばしい…さあ遠慮せずこちらへどうぞ」





楽しさを帯びた情熱的な熱線、もとい熱視線


浴びせながらキザに手の平をかざす吟遊詩人の姿に
二人は揃って肩を落とした





「じゃオレらぎゃ迷ってた時間って…」


「著しく 無駄だったようだな」







とはいえトボトボと入店した彼らへ





「アンタらも災難だねぇ、ヨハンさん
気に入った相手にゃ折れるまで声かけてくっから」


「とはいえ常連同伴ナシにここ見つけるのは
大したもんだ サービスで安くしとくよ」


クスクスと笑いながらも、常連らしき客達や
店主が積極的に話しかけてくれたので


比較的楽に情報を聞く事が出来た







決定打となった情報をくれたのは、密売などの
裏事情に明るいと自称した中年だった





「ここだけの話…競りの最中、新しく入荷した
珍種の鳥が宝石を吐いたらしくて騒ぎになったとか」





その宝石にはかなりの価値がつき


吐いた鳥や他のどの"商品"よりも高値で競われたが


「ここの領主様に仕える、さる役人が
大枚叩いて買い取ったってさ」








名は明かされなかったが、役人の住む街を聞き出し


店を出る中年を 何とも言えない顔で睨む
少女の肩を道化が叩く





「それにしても不思議な事を聞くのですね」


「演じる芸を鍛える一環で、こうした噂(うわさ)の
真偽を確かめているのです…道化には過ぎた領分
思われるかもしれませんが、ね」


そんな事はありません!伝承や不思議な事件に
興味を誘われるのは人の性なのです」



キラキラと瞳を輝かせ、両手で肩を捕まれ


思わずカフィルは半歩身を引いたのだが





「そこに職務や年齢、性別の差などはありません

       そう!ひたむきに心のままに世界と向き合ってこそ
     自らは磨かれてゆくのです…その有り様こそが美しい!






お構いなしに吟遊詩人・ヨハンは陶酔しきった
面持ちで天を仰ぎ、芝居がかった仕草で言葉を続け


勘定をしていた最後の客と店主は

"また始まった"と言いたげな顔で
ただただこちらを見ていた





「私は思うのです、アナタ方と道行きを共にするのが
運命であると…そうは思いませんか?」



「「思(いません・わねぇ)」」





二人の声はほぼ間を置かずに重なった








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:年内までに書きたい部分が終わるか今から
スゲェ不安になってます…どうしてこうなった


カフィル:著しく自業自得だな、繰り返すが


ヨハン:どうかこの方を責めないであげてください
私はこうして皆様方にお目見え出来て、喜びに
身体を震わせているのです!共にこの喜びを分かち


狐狗狸:スミマセン誘い文句は後にしてください


ヨハン:おや申し訳ない、少々不躾でしたね


グラウ:ったきゅただでさえ酒場はガキあつきゃい
とか外で待たされんの多いってのに、あんなムダに
神メンドーな目印作りややってケンカ売ってんのか!


ヨハン:アレはジョアの町を少しでも楽しんで欲しい
との店主の遊び心も含まれているのですよ、町を愛し
海を愛しそして客へ喜びを提供してくれる…正に


狐狗狸:あの尺足りなくなるんでその辺で


ヨハン:失礼、つい長話が過ぎてしまいました
所で神のお嬢さん?アナタはどこから来たのでしょう


グラウ:レリュードだっけか?そふひょう…
じゃね、そういう大陸の港からだけど


ヨハン:ああ、竜の眠る雪深き谷を始め荒々しくも
孤高の麗しさを持つ土地が多いと聞いています
…最近になって 恐ろしくも興味深い話も色々と


カフィル:領主同士の争いも無く統治が進んでも
何らかの事件は起こるものでしょう?


ヨハン:しかし突然過ぎる寒村の荒廃、炎をまとう鳥を
追い求め消えた者達…寂れた鉱山に焼きついた
人型の炭、幻の如く現れ消える屍!一体どのような
悲劇があったのか!悲劇に至るまでに彼らが見



カフィル:…面倒だ、放っておくか


狐狗狸&グラウ:異議(ウィギ)ナシ




今までの土地でも十分治安がいい方で、統治が
行き渡ってる領土のが珍しい…それがCFG世界


次回 新たな同行者が増えるか?そして宝石を
手にした役人はなんと…!