さぁさ緊迫、さぁ緊迫!


たどり着いた山脈奥にて やっと見つけた火喰い鳥


しかし二度目のアクシデントにより対岸へは渡れず


遠回りを余儀なくされ、二人の道案内へと従う
少女と道化と美女





流石に疲弊も溜まった彼女らの提案により
採掘場だった石室にて足を休めていた五人だが


浅黒い肌の青年だけが戻らず姿を消し


探し回っていた四人の前に、火食い鳥を
狙う者たちの妨害が襲いかかって―








アドムが宣言したのをきっかけに起こった戦闘は


前衛の男二人が敵の注意を引いている間に
少女が大掛かりな式刻法術を発動させたので


十分足らずで、男達が全員気絶して終了した





「き…聞いてねぇぞ、式刻法術使えるガキが
いるなんて…ぐうぅっ!」


「きょれが神バツってヤツだぜ!」


「アンタ達ってスゴいのねー」


「神だらな!」


うめき声を上げて倒れた男を見下ろして
大威張りで悦に浸るグラウンディをヨソに





ズレた革帽子の位置を直しつつアドムは言う





「カフィルさんってナイフだけでなく体術も
得意なんだな、道化師だから身が軽いのかい?」


「この稼業は長いので」


「さっすがだね〜どうだい?無事にトレイタ見っけて
火喰い鳥とっ捕まえたら、オレらと組むってのは」


「著しくご贔屓くださり感激痛み入りますが
今はどうか眼前にご集中下さいますよう、アドムさん」


「まー神として考えてといてやる!ありがたく思」





横から割り込んできた草色頭が抑えつけられるのを
笑って、アドムはぽつんと佇む美女を顧みる





「ケガとかない?大丈夫、スタンリーちゃん」


「ええありがと…それよりさ
あっちから、叫び声みたいなのが聞こえない?」


叫び声?それ、本当かい」


「…私(わたくし)にも聞こえました」





続けて肯定するカフィルの言葉に少し考え


いまだに倒れたままのゴロツキどもへ目を向け


青年は、ハッと気がつく





まさか、ここの連中みたいなのにトレイタが…!?
とにかくそっちへ急ごう!!」







本来五人で進むはずだった"目標地点"へと
近づくに連れ、全員の耳に叫び声はハッキリと届き


少し前のように溶岩溜まりを称える空洞があるであろう
空間が迫ってくるにつれて





流れる汗が弾け消える程のむせ返る熱気と


尋常でない物音、そして吠えるような怒号が響く





「サワギの元は…あろ先かっ!」





足を踏み入れて 真っ先に目立ったのは


円環にわずか足らない三日月の地形と


その中間あたりで目を血走らせ、刃物などを
握りしめ、互いに殺し合っている見知らぬ男達












〜二十一幕 火ト喰イ前線−決着〜











血にまみれ 傷を負っている彼らの身体と


ぐったりと倒れ伏している人影を中央で
たゆたっている溶岩の光が照らし





「オレの腕があったからここまで来れたんだろ!
テメェなんかにあの鳥は渡さねぇ!!」



「一端に働いたような口聞くんじゃねぇ
呑んだくれが!その鼻削ぎ落としてやらァ!





口汚く罵り合いながら殺気をみなぎらせ

我こそが鳥を手にせんと相手の生命を狙っている





「何だこれ…な、仲間割れか?こんなトコで?」


「些か常軌を逸しているようですね…それに
仮にするなら火喰い鳥を捕らえてからのハズ」


「ふょほい!カフィル、あれ!!


戸惑っていたアドムと名指しされたカフィルが
グラウンディの指差す方へ視線を走らせ





入口から対岸、三日月の先端近くに


くすんだ黒い色の網の中でもがく火喰い鳥





―そのすぐ側にある "赤い宝石"を見た







「ちょっとーアタシにもよく見せて…って
何よこの状況?ねぇどうなってんの?」


「オレり聞くなよ」


「と、とにかく今がチャンスだ!
このスキに火喰い鳥を捕まえよう!!


「お待ちください、今動くのは…!」


道化の制止も聞かず、何かに突き動かされて
火喰い鳥へと目指す青年を





殺気立っていた先客達が気づかぬワケがなく





「誰だテメェは!」


「ふひっ、またノコノコと鳥を狙いに来た
バカが一人ぃぃ!まとめて殺してやるよぉ!!





足元にクロスボウの矢を撃ちこまれ


怯んだ彼を標的と定めた男どもが、歯を剥き出して
口から泡を飛ばしながら各々襲いかかってゆく





レェッ…むぐ!」





式刻法術を使おうとしていたグラウンディの口を塞ぎ





不用意に術を使うな
また溶岩流に邪魔されても面倒だ」


「わゆっ、分かってらたぁ!」





牽制代わりのナイフを男どもの足元目がけて
投げつけ、間髪入れずにカフィルも駆ける





「た、助かったよカフィルさん」


「礼は後です、数が多いので一気に片付けましょう」





アドムの隣へ辿り着き、再び迫り来る男を視界に入れ


カフィルは左耳のカフスから引き出すようにして

赫色の鎌を具現化させ構えた


へ!?みみみ耳から大鎌が!どっ、どーやって」


「手品です 道化ですので」





半ば強引に言いくるめ、反論する隙を与えず

道化師は先陣きって群れの内部に突っ込み


柄と右腕で攻撃を捌いて





「加減はするが…痛いぞ」


返すように浅い切り傷を与え、彼らの体力を
ことごとく吸い取ってゆく







次々と意識を失う同志に腰が引けたのか


射手が倒れた辺りで、ゴロツキどもは青年や
入口付近で固まっている女子供へ狙いを変える





うぐえぁっ!な、なんでこんなトコに溝が!?」


「悪いけどよそ見は危ないよ、そ〜れっ!





しかし、あっさりと返り討ちに合い


怯んだ所を追いついた道化師に刈り取られて
男達はあっけなく倒され 無事に決着がついた







…元々の深手を負っていたらしい最後の一人が


鎌に切りつけられて体力を吸われる直前





目と鼻の先にいたスタンリーを見て、立ち止まり
ギョロリと目を大きく見開いて





「て、テメェは…あの時の…依頼に来たローブの





こう叫びながら、つかみかかろうとしていた
その事実さえ除けば







奇妙な間が四人の間に流れ





アドムが、気絶した男と金髪の美女を見比べて問う





「今の聞こえたよね?まさかスタンリーちゃん…
コイツらと顔見知りだったりする?


はぁ?ちょっと冗談よしてよ、知らないわよ
こんなムッさいおっさん」


イヤそうな顔で彼女は否定し、アドムの背を
軽く押しながら火喰い鳥を指さす





それよりホラ!邪魔者もいなくなったコトだし
早いとこ火喰い鳥捕まえましょ?」


「え、ああ、うん…でもなぁ」


「火喰い鳥が逃げてもいいの?ホラ、アンタ達も!





いまだ宝石へとにじり寄っている火喰い鳥へと
近づいていく二人の後をグラウンディも続き


慎重にスタンリーから距離を取りつつカフィルも続く





「なースタンリー、ノッポのおっさんの方よりも
ヒキュイ鳥のがそんなに神心配なのか?」


「バッカねーあの人もプロなんだからきっと大丈夫よ
ねっ?アドムさんもそう思うでしょ?」


「ああ、その通りだけど「騙され…んな、アドム!」





呼びかけられ、立ち止まったアドム達が入口を振り返れば







そこには…ひどい出血と擦り傷や火傷
あちこちに負ったトレイタが


足を引きずりながら、四人の元へ向かおうとしていた





トレイタ!?お前っそのケガどーしたんだよ!
いっ今治してやるから待ってろ!すぐ行く!」



いいから!逃げろ、早く、その女はオレらを」





小さな風切り音を鳴らして放たれた矢を受け


トレイタは、その場に仰向けで倒れて
二度と口を開かなくなってしまった







駆け寄ろうとしていたアドムらが
反射的に矢の飛び来た方へ視線を向ければ







「ほんっと人間って余計なトコでしぶとくって
やんなっちゃう、大人しく死んどいてよね





ウンザリとした顔で忌々しげに吐き捨てて


男の一人が持っていたクロスボウを握るスタンリー





何が起きたのかを理解するよりも先に


感情の赴くまま、アドムはスタンリーの胸ぐらを掴む





何で…どうしてトレイタを殺したんだ!

オレらは君を信用してたのに!どうしてだよ!!
なぁなんでなんだスタンリーちゃん!答えろよ!!


「…っるさいわねぇ、汚らしい手で触んないでよ」


「は?何言って―むぐっ!?


言葉半ばで 問いかけるアドムの口が唇で塞がれる





目を白黒させ、それでも首に回された腕と
唇を引き離そうと思考する彼は肩に力を込めるが


強烈な脱力感と苦しみに襲われ、動けなくなる





残された二人の目の前で青年の髪が白く変わり


若々しく張りのあった皮膚が枯れ木のごとく
色褪せ、たるみ萎びて 背丈とともに縮んでゆく


大きく痙攣してもがいていた身体も


見る間に抵抗が小さく、弱々しくなって…







ほどなくスタンリーから開放され
ゴミのように地面に捨てられたアドムは


ミイラと見紛うほどに老いさらばえていた





「うぅぐ…あ、、ひゃふぁ…え、は…?」





言葉にならないうめき声を上げて手を伸ばす
彼の頭を、流麗なロングブーツが踏み砕く






「お気にのブーツが汚れちゃったわぁ〜
ここ出たら新しいの買わなくっちゃ」


「う、ウソびゃろ…スタンリー、お前一体なにを」


生命力だっけ?そういうモノをいただいただーけ
まあ今回は魂抜けるほど吸っちゃったけど」





目を見開いて、アドムの死体を見つめていた少女が

オイニリでの噂と"老化した男"の姿を思い出し





それを今起きた事態と結びつけた





「ラキュミ村や、昨日のヤツをあんなにしたのも
全部…ホマエの仕業


「だったら何?仇討ちでもするの?」





美しい顔一面に嘲笑を浮かび上がらせて





「にしても大して期待してなかったけど
払った分の半分も活躍しなかったわねぇコイツら」


侮蔑の視線を気絶したままの男達へ移すと

スタンリーは クロスボウに矢を番えて放つ





一人、また一人と矢を受けた者の命が消える





「何のつもりだ」


役立たずの目障りなゴミを片付けてんのよ
アンタ達だってコイツら死んでた方が楽でしょ?」


答える合間も彼女は矢を番え、人へ撃つのを止めない





イカれけきぇんのか!?いくら悪人だからって
ムテーコーのヤツを、テメェっ!!」



「悪いんだけど偽善はヨソでやってくんなぁい?
甘ったるすぎてゲロ吐きそう」


神を神バカにしゃやがって!いい加減
うつのを止めないなら力尽くで」


糾弾途中のグラウンディの顔面へ狙いが定められ


容赦の無い矢がまっすぐに飛んで行く






…だが、命中する手前でカフィルの振り下ろした
鎌の刃によって寸断されて地に落ちる





「こんな悪所で悪魔狩りとは、面倒だ


「あ、悪魔ぁ!?





次の矢を装填しながら、彼女はこともなげに答える





「アンタ、ソイツから聞いてないの?
アタシはあのガキ邪神"お手製の悪魔"ってヤツよ」





信じられない、と言いたげな眼差しで
グラウンディは呼ばれたカフィルを見上げる


彼は…嫌悪感を隠そうともせず剥き出していた





「何体目かは知らんが…奴は貴様のような化物を
いくつ生み出せば気が済むんだ」


知らないわよ、アイツに聞けばぁ?
ま、死にたくなければ大人しくしてなさい?」





加虐的に笑ってスタンリーは照準を道化へ定めた





「そうすればそこの鳥は売っ払って、石はちゃんと
溶岩にでも放りこんでおくから」


「狙いの甘い素人の矢など捌くのは容易い」


「確かに連射ができないと不利よねぇ〜けど
そこのガキもろとも息の根止める手ぐらい…」


言いつつ、彼らの行動を注視しながら


スタンリーが一歩火喰い鳥へと歩み寄った


次の瞬間





身を引きずっていた網の中の火喰い鳥が
突き出したクチバシで宝石をつまみ上げ


赤々とした輝きが…鳥の体内へ飲みこまれていく





ほぼ同時にどん詰まりの壁面が轟音を上げて
吹き飛び、ガラガラと崩れだした






「ぶわっ!?ま、ななななんだら!?」





土煙が舞う中から 人の声がだんだんと近づいて





「…げほっ、おい見ろ!貫通したぞ!


「よっしゃーオレらの計算は正しかっ…ってええ!?





壁に開いた穴から、見覚えのある革鎧禿頭
つんつん頭の三人組が現れる





「こ、コイツぁ火喰い鳥じゃねーか!
しかも罠にかかって身動き取れてねぇみてぇだ!!」



「どうなってんだ?とにかくツイてるぜ」


バタバタと羽を動かす火喰い鳥を、網ごと
掴んで麻袋へと放り込んで





彼らは 自分達を眺めているカフィル達に気づいた





「おいチノ!ミデタ!
あそこにいんの昨日の二人じゃね!?」


なんでココに!?ま、まさか火喰い鳥を
罠にかけたのってあそこにいる嬢ちゃん達か!!」


「ヤベェ!すげぇこっち見てる、逃げよう!」


「へ!?おいちょ、待てよゲール!





言うが早いが、麻袋を背負ったゲールを先頭に
きびすを返して一目散に穴の奥へと退散してゆき


…三人組の姿は見えなくなってしまった











あまりにも立て続けに起きた予想外の出来事に
その場の全員が、ポカンと眺めていたのだが







「…はぁ!?そっから横取りとかありえないし!





我に返ったスタンリーがそう叫び、すぐさま
ぽっかりと開いた大穴へと走ってゆく





「ひょいテメェ!どこ行く気だっ!!」


横取りした連中しばくに決まってんでしょ?
正直そこの道化師妨害なんてオマケよオマケ

…あの鳥捕獲にいくらかけたと思ってんのよ!?」


最後の方はほぼ独り言のように呟いて


あっという間に、クロスボウを担いだ
金髪美女の背中が闇へと消えていく





「逃がしゃないぜっ、待ちやがれ!







追いすがるグラウンディだが…数歩も進まぬうち
足が止まり、その場にへたり込んでしまう





「どうした!」


「ぎ、ぎぼちわづぅい…頭がぐらぐりゃする…」


「溶岩の熱気に害されたか…長居は無用だ
一刻も早くここを出るぞ」





弱々しく頷いた少女をローブ越しの左腕で支えながら


立ち去る前に、一度だけ道化師は振り返り





志半ばで果ててしまった二人組に 黙祷を捧げた








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:火喰い鳥捕獲は、妨害者全滅&首謀者逃亡
ついで横から掻っさらわれる散々な結果に終わりま


スタンリー:全くヒドい終わりよね?待たせた挙句
雑になるなんて三文以下の文章じゃない
こんなのそこのガキンチョでも書けるわよ?


グラウ:バカにすんら!コイツよりオレのが
神上手く話が書けらりゃあ!!



狐狗狸:じゃあ書いてくれ、マジで


グラウ:人任せにすんな!そんなだだらテメーは
いつまでもヘボダ文書きなんだっつーの!!


カフィル:同感だ…一つ聞くが、俺より鳥を
優先するのは奴の命令か?


スタンリー:今までの悪魔どもと一緒にしないでよ
アタシは"アンタの妨害"以外は何だって
好きにやっていいコトになってんのよ


狐狗狸:よーするに、鳥の捕獲は独断ですな




…彼女の再登場とか、まだ残ってるであろう
謎な部分は今後語っていきますので


次回 港から別の大陸へと舞台が移り…