さぁさ奔流、さぁ奔流!


火食い鳥の捕獲のため 集いし多くの冒険者の
一部であろう二人組に頼まれ


早朝からモセ山脈へと発った道化と少女


急な勾配と活発な溶岩流によって発生する
熱気に苦労しながらも山道と洞窟を進み続け


彼らの地図を頼りに火食い鳥がいるであろう
奥まった箇所へと目指す


落盤によるアクシデントをすんでで切り抜け


溶岩溜まりがちらほらと見える地点を越えた
すぐ先にて、仲間と逸れた美女に出会う


以前出会った修道女に似た面差しの彼女を加え


火食い鳥の探索は、再び開始される―








スタンリーの足の怪我と これまでの道行きを考慮してか


地図と地形を照らし合わせて先導を続ける
アドム・トレイタ両名の歩みも慎重さを増している





「うぎゅー…ムシ焼きはしゅきだけど
ムシ焼かれんのはゴメンだぜ…」


「全くだな」


じりじりと、左側の肩口や足の付け根から


焼かれる感覚とうっすら立ち上る肉の焦げるような
ニオイに耐えながら カフィルも足を交互に動かす





曲がりくねった地形を抜けて


先程よりも大規模な溶岩溜まりをたたえた大空洞へ
足を踏み入れた五人は





「ん…おい見ろよ!アレってまさか…!」





遥か向こうの対岸に、一羽の鳥を見た





ほっそりとした身にまとう輝きは 足元を流れる
赤銅色の溶岩を写し取り、はね返すような橙色


遠目からではそれ以外に目立った特長は見られないが


その体色と、溶岩から吹き出した炎
細いくちばしで啄ばむ様は間違いなく





間違いねぇ…アレ絶対ぇ火喰い鳥だわ」


よっしゃそうと決まれば早速捕獲だ!
グラウちゃん、対岸に橋かけてくれ橋!!」


「っしみゃぶっミャっかせろ!!


「落ちんよう気をつけろ」





いささか興奮した様子の二人組に当てられ


早足気味にグラウンディが煮え立つ溶岩をたたえた
縁へとたどり着いて、その場へと屈みこみ





「…ねぇ、今ヘンな音しなかった?」


スタンリーのその一言で つきかけた両手が止まる





へ?マルヮじでか?」


「多分溶岩が煮え立つ音か何かだよ!そんなに
不安になんなくたって大丈夫だよスタンリーちゃ」


安心させようと笑いながら語るアドムの言葉を
嘲笑うように、巨大な破壊音が鳴り響く











〜二十幕 火ト喰イ前線−妨害〜











溶岩に浸った壁面の一部が崩れ、赤々と輝く
流れが溶岩溜まりへ勢いよく注がれるのと


同時に、音に反応し対岸の鳥が逃げ去ってゆき





見る間に流れこんだ溶岩によって
溶岩溜まりが体積を増してせり上がり


五人の足場を今にも飲みこもうとしていた





「やばっ…逃げろ!!





元来た通路へ退避してゆく五人を追って


溢れでた溶岩流が地面を伝って流れ出す





「このままではいずれ溶岩流に呑まれます」


アンタに言われんでもわーってるよ!


ここを抜けた先の横穴にゃ登れる足場もある!
ひとまずそこでこのクソッタレ溶岩流をしのぐしかねぇぜ!!」





生き物のようにじわじわと距離を縮める溶岩の脅威を
背にして彼らは、見えてきた横穴へ急いで駆け寄り


高台代わりに出来そうな岩場へとよじ登り始める







そんな切羽詰まった状況の中





ふわっ?!いだだ…でゃれだ神を押したのは」


同じように横穴へ足を踏み入れたグラウンディは


不意に突き飛ばされ、通路へ投げ出されてしまう


文句を口にしながらも立ち上がろうとして





少女のすぐ横に迫る溶岩の波に気づき、すでに
避難完了していたアドム達が顔を引きつらせる





だが、素早くカフィルが腕を掴み


小さな身体を横穴の奥へと放るように押し込み
間一髪の所で事なきを得た





「全く、著しく世話の焼ける…」


焼けちぇんのはお前の服っ!つかヨウギャン
来てるからはやkじゅヒナンしろ!オレもだけど!」








二人が小高い岩場へ避難して程なく


溶岩流が、向こうの地面を埋め尽くしてゆく





けれど横穴から彼らの足元へ流れてきた溶岩は
予想よりずっと少なかったので


流れが落ち着くのを待って 五人は各々が
しがみついていた岩場から降り立った





「あ…あびゅなかった…」


「ホント、ギリッギリだったわね…あー怖かったぁ」


「大丈夫かいお嬢さん方?ケガとかは?」


「特にはないけど、まださっきので心臓
バクバクしっぱなしなのよ〜」





言いながら手を当てるスタンリーの、うっすらと
汗ばんだ豊かな胸へついつい目が行き


訊ねたトレイタはゴクリと生唾を飲む





「うっわコイツ スタンリーの胸ジッと
見てた〜ヘンチャイ!神ヘンチャイ!!


「へ、へへ変態違うわ!コレだからお子様は…
おっオレは単に彼女が心配だっただけで」





浅黒い顔色を赤くして必死に否定する青年へ


金髪美女は、チラリと意味ありげな眼差しを
送りながら胸を両手で強調してこう言った


あら?だったら胸をさすってくれない?
人の手で撫でてもらえたら少し落ち着くかも」


「そ、そうかい?じゃあお言葉に甘えて」


いやいやいやそー言うのはオレに任してよ!
ほらオレ手当とか得意だし!ねっ?」





横からしゃしゃり出てきた相方とにらみ合い


今にもケンカが繰り広げられそうになっていた
場の空気を カフィルの一言が切り替える





「今ので火喰い鳥も奥へ逃げたようですが
この先、いかが致しましょうか?」


「それなら心配は無用だ」





にらみ合いを止めて、自信満々にトレイタは返す





「少しばかり遠回りになっちまうが、こっから奥へ
進む道を知ってんだ…そっちを当ってみよう」


「へぇ〜どうやって知ったの?そんな道」


「信頼出来る情報筋からのネタも加味しながら
僕らが独自で調べあげたんだ!スゴいでしょ?


すっごぉぉ〜い!アンタ達って実は一流の
冒険者なんじゃない?アタシ尊敬しちゃうっ!」





感嘆して手を叩くスタンリーの様子に、すっかりと
やる気を取り戻したようで





「そりゃまあ、オレらこの仕事長いからな!」


「じゃ、落ち着いてきたしそろそろ行こっか
三人とも はぐれずについて来てくれよ?







意気揚々と二人が道案内を再開し始め


残る三人もその後へと続くのだが…





「しっきゃし…さっきオレを突き飛ばいたの
ダレらんだろーな?」


「確信はあるのか?」


「なんとらくな、神のカンだ…けどま、いっか
あん時ゃみんな必死だったからな」







歩きながら呟き、一人納得しているグラウンディの
草色の頭を見下ろす彼の脳裏には


切り立った岩肌の上から落石があった直前





岩陰に紛れるようにして、人影が覗いていた
光景が蘇っていた









幸い 道中で三度の危険はまだ訪れてはいないが


奥へと進むほど山の表面よりも溶岩溜まりや
熱気のこもる洞窟内を歩く比率も多く

それに伴い、水分補給の回数も増えてゆき


旅慣れている冒険者二人組の顔にも
強い疲労の色が浮かんでいた





「それにしてもこの山アッツいわよねー
アンタもそう思わない?グラウ」


神同意!アピュクてもーやんなるりょなー」





なので女性陣二人が息切れしながら音を上げたのは

ごくごく自然な成り行きだった





「ってコトなんで、ここらでちょっと休憩しない?」


「気持ちは分かるんだが ぼやぼやしてっと
他の連中にいつ火喰い鳥掻っさらわれちまうか…」


か弱い乙女二人が、こんなに苦しんでるのに
少しも休ませてくれないの?ねぇ」





猫なで声で言いつつ 彼女は胸の谷間をわざと
見せつけるようにしながら彼らにすり寄ってゆくと


あっさりと野郎二人は鼻の下を伸ばして手の平を返す





「ま、ままままあ目的地まであと少しだし?
一休みして英気を養うのもいいよね!」


「そーだな、スタンリーちゃんの言う通りだぜ!
ってコトでこの先で休憩な!いいなお前ら!」



「「やりぃ!!」」





少女と美女は、笑顔でハイタッチを交わした









休憩をとったのは、4〜5m程度の広さの
物置に出来そうな石室で


内部にあるツルハシの残骸や崩れた石塊


人為的に抉られた奥の岩壁と、壁の上部を
繰り抜いて作られている通風口らしき穴の存在が


ここが以前採掘場所だったことを物語る





「風が入ってくるだけ、少しはマシねー…
てゆうかお兄さん アンタ涼しい顔してるわね」


「そりゃコイツはリェーケツカンだからな」


"冷血漢"な、著しく我慢強いだけですよ」





素っ気なくも礼儀正しく答える道化師を
濃い灰色の瞳で楽しげに見つめて





「でもさ冷静にグラウ助けたり、服についた火ぃ
さっと払えるなんて並の男には出来ないわ〜
なんだかカッコいい♪ホレちゃいそ」





回りこんだスタンリーが、思い切り彼の
左腕へ両腕を回して抱きしめる


衣服に包まれていてもなお主張する胸が
押しつけている腕を包むように変形している様は

残る男二人の目を引き、少女の機嫌を損ねる





…が、カフィルは表情一つ変えずに腕を振り


抱きついていたスタンリーを跳ね除けた


「っあん!」


「すみません…服の内側に仕事用の小道具が
縫いつけてありますので、お手を触れぬよう


「あらそう残念、キラわれちゃったかしら?」





どこかからかうように身を引く美女を見て


背後でほんの一瞬、満足そうに笑った少女
道化はしっかり目撃していた





「ねーえお二人さん、アンタ達のどっちでも
いいからちょっとついて来てくれない?」


へ?まあいいけど 何する気だいお嬢さん?」


やだ、女の口から言わせる気ぃ?
アンタ達だって ついさっき行ってたじゃない」


ややワザとらしく恥じらいながら


彼女の瞳が、近くにいたトレイタの股間をチラリ





その視線と 少し前に用を足しに二人が
休憩場所から離れていた事実を思い出し





トレイタと、ついでにアドムが顔を赤くする





「あ、アハハ!そうだよな、じゃオレちょっと
スタンリーちゃんのエスコートしてくるわ!」


「えっちょっおま…変なコトすんなよ!絶対すんなよ!





背の高い青年と金髪美女が小さな元採掘所から
出て行くのを見送って


手持ちの道具を確認しながら道化師は言う





「…お前はまだ大丈夫か?」


「ば、きゃか神バカにすんな!まだ平気だ!」





真っ赤になった少女の拳を左手で受け止めつつ
彼は黙って、道具の整備に専念する









それから5分ほどが経過して…





戻ってきたのは スタンリーだけだった





あれ?スタンリーちゃん、トレイタは?」


「終わってから声かけたんだけど、アタシには
目もくれずに"用事があるから戻っててくれ"って」


「えぇっ…参ったな〜地図 アイツに預けてるんだよ」


「じゃフォレら、こっから動けなくなんのか!?」


「あ、いや大体の地形とかは頭に入ってんだけど
あの地図には最短の道程とか注意するトコとか
事細かに書いてあるから…ちょっと声かけてくるよ」





言ってアドムが石室を飛び出すが







…ひょろりとした青年も、革帽子の青年も
それからしばらく戻っては来ない





しびれを切らしたグラウンディが立ち上がり





遅ひ!リャちが開かねー!オレらも
あのノッポ探しに行くぜじぇ!」



「引っ張るな、生地が伸びる」


「はぁ!?ちょ、せめてちょっと休んでから…
ああんもう!待ちなさいよアンタら!!


半ば強制的に休憩を終わらせ、二人を連れて
辺りをふらつくアドムと合流したのだが





全員で付近の岩陰や通路や横穴などを探っても


トレイタは影も形も見当たらない







「っかしいな、トレイタのヤツどこ行ったんだ…?」


「まさかだけどさ…火食い鳥を先に捕まえようと
アタシ達置いてった、ってコトはないわよね?」





アドムは間を置かずに問いかけを否定する





「それはない アイツとは長い付き合いなんだ」


「長い付き合いだからこそ、魔が差すとも言えますが」


「否定はしないさ、だが散々バカやってきてるけど
アイツはそーいうマネはしでかさない男だよ
でなきゃ何年も組んで旅なんて」


強く信頼を叫んでいた青年が、言葉を途切る





美女の背後から手を伸ばしていた男に気づいて





「危ないスタンリーちゃん!」


「きゃああぁぁぁ!?」





駆け寄って手を伸ばすが一歩遅く、スタンリーの
身体は無骨な腕によって羽交い絞めされ


横合いから振り下ろされた棍棒が頭をかすめて





身を引いたアドムは僅かに流血しながら


唐突に現れた、こ汚い身なりの男達を睨む





「懲りずにうろちょろしやがって、テメェら
目障りなんだよ!いい加減よぉお」



あの鳥はオレらのモンだぁ〜」


「とっとと帰れば、命だけは見逃してやるよ
さーどうするよ?


「お前らも火喰い鳥狙いか!いや、それより
スタンリーちゃんは関係ない、その手を離せ!


「信じられるかよバーカ、それにこの女
大層な上玉じゃねぇか!誰が離すもんか」


いやぁ!ちょっと放しなさいよスケベ!」


脂ぎったいやらしい顔を近づけられ、スタンリーは
美しい顔をいっそうしかめて逃れようともがく





そのやり取りの合間に視線を交わして





「ん?そこのおかしな優男、テメェ何し」


呼び止める声を無視し、カフィルの手元がひらめく





「ぎゃっ!」


短い悲鳴を上げ スタンリーを捕まえていた男は
手の甲からナイフを生やして身じろぎ





「"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!"」





間を置かずに発動したグラウンディの術により


足元から生えた出っ張りに体勢を崩して転倒する





彼らが混乱している隙を縫ってスタンリーは
戒めから抜けだして三人の元へ戻る





「た、助かったわ、ありがとっ!


「神としてトーゼンの行動だべぜ!」





しかし、連携の取れた二人の行動がゴロツキどもの
闘争心を余計炊きつけたらしく


男達は手に手に獲物を握りしめ、歯を剥きだしている





「こりゃやるしかないね…スタンリーちゃんと
グラウちゃんはなるべく下がってて!」









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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:作中に足りないお色気部分は、これから
スタンリーさんに賄ってもらおうと思います


スタンリー:アンタ盛大にぶっちゃけるわねー
出番が増えるのは構わないけど、その辺隠さないのは
どうなのよ?ネタバレもいいトコじゃないの


狐狗狸:いいじゃないですか!むしろ某少年雑誌の
学園漫画に出てくる女教師ポジ目指しましょうよ!


グラウ:意識ししゅびてたら、まーたピャクリって
言われちまうぞバ管理人


カフィル:"パクリ"な…自重しないと面倒だぞ


狐狗狸:しーてーまーすぅ―!大体ヒロイン枠の
グラウがペタパイのお子様なのがいかんのじゃ!


スタンリー:まあ十歳前後とかだと、幼児体型
なるのは妥当よね〜肩凝らなくて羨ましいけど?


グラウ:じゃばてあひそてったらショレよこせぇぇ!


スタンリー:ちょ、胸掴まないでよ痛いってば!




責任転嫁してゴメンよグラウ…大丈夫だよ
世の中には君みたいな子の需要もあr(禁則事項)


次回 火喰い鳥捕獲、ついに決着か…!?