さぁさ注目、さぁ注目!


奇妙なウワサを持つモイロの村を探る道化師と


得体の知れぬ道化師を囲む村人達…


さて 彼らはこの宵闇で何を演じるか―







「貴様…ここで何をしている!?





殺気だった様子の村人達を見回してから


軽く息をつき、カフィルは手を上げながら答える





「申し訳ありません…夜空が余りに麗しいので
止せばいいのについ散歩に出てしまいまして」


ウソつけ!一人でワケが分からない事ブツブツ
しゃべってやがったじゃねぇか気味の悪ぃ!!」


「恐らく風景の美しさに、つい心が高ぶり
賛辞の言葉が無意識にもれたものかと」





いまだ疑わしげな視線をものともせず、彼は

柔和な"道化"の笑みを浮かべて訊ねる





「ところで…皆様方はこのような夜更けに何を?」


「う…そ、それは…」


「騙されてはなりませんぞ皆々様!」


戸惑いかけた村人を一喝し、人垣を割って現れたのは
怪しげな祈祷師だった





「スタブレット殿!」


「なるほど…この物々しさはアナタの仕業ですか」





村人達の用意のよさと状況


こげ茶と濃灰の視線が向けられた一瞬、相手の口が
笑んでいたのも含めれば


"あの会話"のすぐ後に 何があったのかは想像がつく





大げさな身振りで腕を振り動かし、祈祷師は言う





「この男を生かしてはなりませぬ…この道化師こそ
モイロの村を破滅へ導く悪魔!





ざわざわと村人の間に不安が広がり


その波を更に増大させるべく 男のトーンが高くなる





今ならまだ間に合いますぞ皆々様!

即刻村を護るべく悪魔を、ブルヴァーシェ様の元へ
お送りするのです!さぁ!!」






スタブレットの誘導に従う複数の村人の農具や
ランプに追い立てられた道化師は


森の奥の深い茂みに、巧妙に隠されていた穴

押し込まれるようにして落とされる







受け身を取り カフィルが顔を上げた頃には


村人達によって再び岩でフタをされ
穴を塞がれてしまった





生臭いニオイと闇に覆われた洞窟の内部で





「ハメられたか…面倒な」


低い呟きが、静かに響く





『耳が無いんじゃ早めにここ出た方がいんじゃないぃ?
ヤバそうなのいるっぽいしねぇ〜』





心底愉快そうな声へ、吐く息に苛立ちを僅かに乗せ


フードを脱いでダブついた道化衣装を探り、彼は
取り出した火付け道具で小型の松明に手際よく火をつけ


改めて辺りの状況を調べてみた





落とされたのは、暗い通路の途中であり
どちらの端も闇に飲まれている


淀んで湿った空気に紛れ 時折風の流れを感じ





それを頼りに…カフィルは洞窟内を進み始める











〜ニ幕 隠シタ顔〜











緩やかな登りと下りを繰り返しながら、途中で
幾つかの分岐を選んで進むものの


出口どころか、端にすらいまだに着かない





所々の土壁に己の背よりも高い位置の爪痕が刻まれ


側の地面には、噛み砕かれたような跡が残る白骨
死体なども転がっている





「村人か それとも「きゃああぁぁぁぁ!」







悲鳴の方へカフィルが駆けつければ、そこには


黒い獣達に襲われる一人の少女がいた





「いやぁっ、だれか、誰か助けて…!!


コウモリにたかられ、うずくまって腕を
必死に動かすレミィだが


敵は逃げることはおろか怯みすらしない





"吸血性の高い"コウモリの群れが、彼女の身体へ
牙を突き立てるのは時間の問題と見て取り


カフィルは彼女の頭上にわだかまるコウモリに向け





松明の火を、思い切り強く吹きかける





ゴウ!と風が唸り数匹のコウモリが火に巻かれ


道化師の腕に弾かれて落ち、燃え上がる





それにより残るコウモリも一斉に飛び散り


辺りから去っていった







コウモリを撃退したことを確認し、道化師は
震えたままでいるレミィへ優しく声をかける





「大丈夫ですか?お嬢さん」


「あ…その声は道化師様、ありがとうございます
また助けていただいてしまってすみません」


「お役に立てたのなら幸いです さ、お手を





差し出された眼前の手を取り、レミィは
ゆっくりと立ち上がる





「本当にありがとうございます…道化師様
どうしてこんな所にいらっしゃるのですか?」


「…おそらくは、アナタがここにいる事と
同じ理由かと思われますが?」





その一言に、彼女は息を呑む





「やはりご存知のようですね

聞かせていただけますか?この村で起こる
災害と…彼らが隠している事について」







続けられた問いかけに少しためらう間があったが


真剣なカフィルの様子は見えずとも伝わったらしく





「はい、お話します…」


伏目がちになりながら、静かにレミィは語りだす









いつの頃からか村では 畑や家屋、墓などが荒れ

家畜が変死する事が起こるようになった





森の奥の洞窟から、何かが村を行き来する姿を
目撃した村人が中を調べに入ったが


戻ってくるものは一人としていなかった








それ以来…時代が経つにつれ村人達はそれを
"神の仕業"と認識し、災厄を鎮めるために


"供物"として生贄を捧げる習慣が出来たのだ


彼女は、亡き父からそう聞いていた







「なるほど…だから村長はこの話について
口を閉ざしていらしたのですか」





恐らく生贄を決める際、スタブレットだけでなく

村長も共にいたであろう事は想像に難くない





「そしてアナタも、村人達によって
ここへ落とされた」


「いいえ…分からないのです」


「分からない、とは?」





コクリと首を縦に振ったレミィは、今度は
自らの身に起こったコトを語りだす





「アレは…ちょうど夜の刻でした
誰かが家の戸を叩いてきて…」









恐る恐る半分ほど開けた扉の先には


血相を変えたアリンが佇んでいたらしい





『レミィ、今すぐ逃げよう!』


『どうしたのアリン…何だか様子が変よ?』





肩で息をしながら彼は、重々しい口調で告げる





『今度の村の生贄に 君が選ばれたんだ


『そ…んな…私、が…?』


『ここにいたら死んでしまう、そうなる前に
一緒に逃げよう なっ?今なら間に合う!


『でも…私…』







いきなりの事態に戸惑う彼女の腕を引き


アリンは、自らの胸へ華奢な身体を抱きしめる





君が好きなんだレミィ…僕の気持ちを
分かっておくれよ、なぁ…』





そのまま琥珀色の髪を撫で 震える可憐な唇に
口付けをしようと顔を近づける








『や…止めて!』





気配を察して、思わず抵抗して腕を振り解き


急いで家へ飛び込んだレミィは扉を硬く閉ざす





『レミィ、ここを開けてくれ!』


『ゴメンなさい…どうしていいのか分からないの
頼むから、今日の所は帰ってアリン』


そんな悠長なことを言ってるヒマは無いよ!
この村を出なければ君は―』


『お願いだから帰って!』







やがて、扉の向こうで足音が遠ざかっていき


涙を流しながらも彼女は息をつく





…その直後、後ろから衝撃を受けた









「そうして気がついた時には、この洞窟にいました」





あまりに突然の事が続いて しばらくは
何が起きたか理解できなかったのだけれども





「時間が経つに連れて…自分が"生贄"として
放り込まれたと、理解されたのですね?」





一拍の間を置いて 小さく首が縦に振られた





「とにかく…依然としてここにいるのは宜しくない
今は脱出に専念しましょう…おっと」


そこで、チロチロと燃えていた松明の火が消え


辺りが一瞬にして闇に包まれる





「どうかされたのですか?」


「火が消えただけです、少しお待ちを」





言いながらカフィルは火付け道具を取り出すが


辺りの空気で湿気てしまったのか、中々火がつかない





「あの…もしよろしければ、私にお任せください」


「何かあるのですか?」







彼女は両目を閉じ、胸の前へと両手をかざす





"主の意志を受け 満ちよ陽光(サーニャップ)"





言葉が終わると同時に、両手の空間に
明るい光の球が満ちた







「驚いた…式刻法術(ファスミラセ)ですか」


「ええ、お父様に教えていただきました
…目が見えなくなる ずっと前に





少し離れた空中へ灯りを浮かせ 彼女は微笑む





「道化師様の灯りとして、ちゃんと
お役に立てていますでしょうか?」


「ええ、問題ありません…助かります





同じように微笑み返して 彼は火の消えた松明と
火付け道具とをしまいこむ











そうして二人は、再び洞窟内を歩き始めるが


依然として外へと出られる兆しは見られない





けれども諦める事なく足を黙々と動かすうち







「待ってください、何か…聞こえませんか?」


そう呟いたのは レミィだった





「申し訳ない 私(ワタクシ)はあまり耳が…
それで、何が聞こえたのですか?」


「何か…鳴き声のような…こちらへ近づいて来ます」







その言葉通り、低い唸り声が一定の地響き
引き連れて少しずつ大きさを増し





闇の奥から―牛に似た巨大な獣が姿を現した





獣は血の色をした瞳を爛々と輝かせ、牙を剥き出し


ヨダレを垂らして二人を見据えている





「道化師様…一体何が」


「下がっていてください!」





レミィの盾になるようにして立ち塞がった道化師は

袖の下から何本かのナイフを取り出し、獣へ投げる





幾つかは刺さり 短い呻きがあがるも


その巨体は怯む事なく二人へと襲いかかって来る


鋭いカギ爪が銀髪の頭上へと振りかぶられ


彼はとっさに腕を上げて―





ガキン!と硬い音が鳴り


次の瞬間 獣の爪は強く弾き返されていた





「"ヴモォォォォ?!"」


「走れ!」





戸惑う獣を置いて、彼女の腕を掴んで
カフィルは来た道を引き返す







荒い息遣いが地響きを伴って追ってくるが


細かい分岐を進んでいくうち、徐々に遠ざかり…


やがて聞こえなくなった





「逃げられた…のでしょうか…?」


「恐らくは しかし困りましたね…ますます
奥深くへと入り込んでしまったようで」


「待ってください!誰かの声がします…」


「どちらからか、お分かりになりますか?」


はい…この先から、聞こえてきます」





盲目の少女が指差した方向へ歩を進めるうち


カフィルにも "人の声"が聞こえるようになった





「この先に、どなたかいらっしゃるようですね
…同じく生贄にされた方でしょうか?」


「そうかもしれません…けど、この声
どこかで…?」





通路の向こう側へと出かけて 二人は立ち止まる





道化師はその向こうに光と、見覚えのある
人物のシルエットを見かけたから


少女は…よく知っている声の主がいたから







通路の先には、ランプの明かりを掲げた一人と
対峙するように 一人の男が佇んでいる


二人の側は切り立った傾斜となっており


その下には、ちょっとした広場のような空間と


いくつもの岩や材木…骨などが散らばっている





アナタ様もお人が悪い…あの娘は大層な上玉
味見もせずここへ放るなど勿体無かったのでは?」


怪しげな法衣をまとう背は…間違う事なく祈祷師







「盲目の娘など金にならんからな、馬鹿な女だ
オレを拒まなければ生かしておいてやったのに…」





そして…彼の影に隠れている"もう一人"





「まぁいい、大した財産も無かったし
これであの目障りな家も…墓共々処分できる」


おお怖い怖い、アナタに逆らったらば
化け物の餌食として生涯を閉じねばなりませんな?」


「生贄の財産を半分ももぎ取るアンタこそ
神をも恐れぬ大悪人じゃないのか?祈祷師さんよ」


「ふふ…これからも末永くお願いしますぞアリン殿







彼女を案じ、駆けつけたはずの青年







「そんな…アリンが、私を…!?


血の気をなくし、レミィはふらりとよろめく





少し離れた距離のせいか、灯りが乏しいからか
彼らは二人に気付く事なく言葉を続ける





「ああ、それにしても本当に残念だよ」


おや まだあの娘に未練が?」


「それもあるが…それだけじゃない」





直後、アリンはスタブレットを突き落とす





「長い付き合いだった隠れ蓑を、こんな場所で
手放さなきゃならなくなっちまったコトだよ」






傾斜を転げ落ち あちこちを打ちつけながらも
彼は身を起こして相手を睨む





「き、貴様…裏切ったな!?


テメェは欲張りすぎたんだよスタブレット
オレの秘密も知っている…悪いが死んでくれ」


「クソッ…舐めるな若造が!あんな化け物など
式刻法術の一つや二つで」





身構え、呪文を唱えかけたスタブレットの腕が


肩から無残に千切れて飛ぶ





引きつった顔で振り返った彼は、自分の腕が

"化け物"に噛み砕かれている現実と直面する





ヒィッ!い、いつの間にいやがったんだ!
やめろっ来るな…来るな来るな来るな来るな


獣の咆哮と祈祷師の断末魔が辺りへと響き





「い…いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!





あまりの残酷な事実に、耐え切れず悲鳴を上げて
レミィは意識を手放した







その身体を受け止め 地面へ降ろしたところで


アリンも二人の存在に気付き、ランプをかざす





なぁんだ生きてたのかアンタら 案外しぶといな」


「生憎な…村の災害は化け物の仕業
貴様は、それを利用していたと言うところか」


「概ねはな…だが、知ったところでどうなる?」





ニィ、と唇を吊り上げ 青年はナイフを取り出し
倒れたレミィ目がけて突進していく


彼女を庇うようにしてカフィルもまた駆け





かざした左腕へ、ナイフの刃が深々と刺さった





グッサリいったなぁ〜このまま切り落っ」


だが、邪悪に歪んでいた彼の顔面に右拳が炸裂し


アリンは吹き飛ばされ、目を見開いて
殴られた頬を押さえる





「遅い」


痛えぇぇぇ!な、何だよテメェ…!
刺さってんじゃねぇかナイフ!何なんだよ!!


「面倒だ…終わらせるか」


「こっ…こんな事してただで済ますと思うか!
おい!引きずり落とせ!!


「誰に向かって言って…!」







足を引かれる力に、道化師が下を見やれば


広場でスタブレットを貪っていた"化け物"が
その片腕を絡ませていた






すかさず立ち上がったアリンが彼を蹴落とし


カフィルは、広場にて二匹の獣に挟まれる







「ソイツらは昔から洞窟に住み着いててな…
オレが肉を持ってきてから懐かれちまったんだよ」





相手を満足げに見下ろして青年は嘲る





「簡単な命令なら聞ける可愛い奴らだよ
…さぁ!餌に喰らいつけ!!








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:長い上に収まらなかった…でも次回では
必ずこの話を終わらせます!マジで!!


声:オレの正体明かすんじゃなかったのぉ〜?


狐狗狸:次では絶対明かすから!なんか術とか
使う素振り止めてくださいマジで!!



カフィル:必死だな


狐狗狸:当たり前だ命かかってんだし!でもまぁ
式刻法術(ファスミラセ)は一応書けたからいいか


カフィル:理論は後日書いておけよ…説明が面倒だ


狐狗狸:頼んでもしてくれないでしょ君は


声:テンポ速いのはいーけどさぁ〜意味が
分かんないのは良くないんじゃないぃ?


狐狗狸:スンマセンでした、マジ私の筆不足が
悪いので勘弁してくださいませ…(平伏)




ファンタジーに生贄ネタはつきものかと…
本気で分かりづらくてスイマセン


道化師の正体、そして声の主は…!