さぁさ鳴動 さぁ鳴動!


港にほど近いオイニリの町は、モセ山脈に
突如現れた"火喰い鳥"の話題で持ちきり


そのウワサにつられ鳥の捕獲に人が集まり


とある騒ぎをきっかけに、火喰い鳥捕獲の話を
冒険者三人から聞けた少女と道化


しかし三人の仲間と思しき男が変わり果てた姿で戻り


彼の口から 雪原の村の惨状と爆弾屋の店主の
死亡とが告げられる





男の変貌と村の変死に関わる"女"が邪神の手先と
確信する二人の前に、少女の法術を目にした男が現れ


火喰い鳥の捕獲に協力を仰ぐ―








立ち話もなんだからと喫茶店に入って





「聞いてるとは思うけどさ、モセ山脈って険しさが
ハンパ無くて奥まで行くの大変なんだよね」


と、アドムと名乗った革帽子の青年が

自己紹介もそこそこに説明を始める





「準備とかして何度か挑んでるんだけどさ、落盤で
塞がってるトコとかあってまだ火喰い鳥には
お目にかかれてないワケなんだけど」


「はいひゃい、それで?」


「ええと、それで君の力があれば今度こそきっと
火喰い鳥の捕獲も出来ると踏ん」


「オイニリ特製パンプティング…いや、待てまま゛ってで
きょっちのフルーツクリームパイも神気になる!」






だが肝心のグラウンディは、一心不乱に
メニューを睨みつけているだけでロクに話を聞いていない





アドム青年の隣に座っている ひょろりと背が高く

浅黒い肌をしたトレイタという青年が耳打ちする





「…おいアドム、本当にこんなガキンチョ
式刻法術なんて使えるのかい?ジョーダンきついぜ」


「いやマジで使ってたんだって、オレこの目で見たし」





不安そうな顔つきになるのも最もだ、と


チラリとデザートの選択に迷っている草色頭を見下ろし
カフィルは内心でそう思い ため息











〜十九幕 火ト喰イ前線−遭遇〜











「とにかくだ!」





気を取り直し、アドムは向き直って言った





「使える人手がいるに越した事はないからな
火食い鳥の捕獲に、ぜひ協力してくれないか?


かまわにぇーぜ!おごってもらってるし
オレらもヒクイドリに興味あっからな!」


「え、いやおごるなんて言ってないんだけど」





言った途端に少女が席を立ったので、何らかの危険を
察知してアドムは慌てて口を開く


「わわっ分かったよおごるよ!


ふふん♪しょーこなくっちゃな」





ニヤリと笑って少女が座り直すのを見て
苦笑いでアドムが息をつくと


そんな二人の様子に肩をすくめ トレイタが彼へ訊ねる





「お嬢ちゃんの承諾はもらえたが、アンタは
何か意見とかないのかい?保護者の兄ちゃんよ」


「…確かにこの娘は式刻法術を使えますが、今だ未熟
片や私(ワタクシ)は先程も申し上げた通り
道化を生業として各地を渡り歩いております」





じろりと青い瞳が見上げてくるけれど、カフィルは
涼しげな面持ちを崩さぬままで続ける





「大した助力も出来ませんが、それで構わないので
あれば同行させていただきたいと存じます」


「ふーん、ま、アンタも中々やるってコイツから
聞いてるし 精々がんばってくれや」


視線で差され アドムがこくこくと頷く


そこまでされたのなら、彼に言えることは
たった一言だけだった





「…私(ワタクシ)のような道化めが
お役に立てるのならば幸いです」









食事の合間に山へ入る準備だの手順だのを
茶々を入れあいながらも話し合って


明日の早朝からモセ山脈へと出発する日程が決まったので


二人から泊まっている宿を聞いて別れ、ニ三度
文句を飛ばしながらも今宵の宿を確保して







部屋に入るなりグラウンディがカフィルへ言う





「あんでゃよ、アイツらと別れてからずーっと
神ブッチョーヅラして、言いたいコトあんのか?


「…協力の必要があったのか?」


「なんだそんなコトかよ!どーせ目的いっそなら
あいちゅらいてもゼンゼン平気だろ?」


「あの"宝石"の性質を忘れたか?」





冷ややかな一言に、少女の顔色が変わる





うっ…しょ、それはまー、メンドー起きる前に
なんときゃすればいいだろ?オレの力とかで!」


「要するに行き当たりばったりか」


神のカンって言えよ!そりに宝石なくても
ヒクイドリ捕まえたら分け前もらえんだから得だろ!」


「失敗したら著しく無駄骨だがな」





淡々と反論した道化の頭に、枕が直撃した


だあぁぁぁぁーもう!
失敗した時んコトなぶて考えてんじゃねーバカ!」






立て続けに図星を刺されてふてくされたグラウンディが
早々に布団をかぶって寝始めたので





清潔感はあるが簡素なベッドに腰かけながら


腕を組んで、カフィルはラクミ村の悲報と

そこから戻った青年の話を頭の中で復唱し





…静かにただ一言 こう呟いた





「何にせよ、面倒だ









日が昇る前の薄青い空気に包まれた室内で


ひとまずは身体を休めた道化師に起こされ、目を
しょぼつかせながら少女も支度を済ませる





「夜ろ次はあしゃとか…こんな神フキソクな起きかた
してらら背ぇ伸びないじぇ…くぁ〜


「寄りかかるな、自分の足で歩け」





彼らの泊まる宿はぎりぎり開いていたけれども


食堂に誰もいないので カウンターへと歩み寄って





アドム=ニスの名義で二名、この宿に
泊まっている方がいると聞いておりますが」


「ああはい、ええと…」


うおっ!?もう来てるし、早っ!」


声をかけられ、二人が振り返ると





大き目の丈夫そうな荷物袋を担ぎ、身体のあちこちに
昨日見た防具以外の装備をつけたアドムとトレイタが


バタバタと階段から下りてくるのが見えた





「やる気なのは結構な事だがトバシすぎて
バテんじゃねぇぜ?お二人さん」


「うっちゃい早く行くじょ、神ねみぃんだよ」


「ゴメンなグラウちゃん このくらいに出ないと
モセ山脈まで半日くらいかかるから」





明るいうちで無いと危険な道のりだと、再度
言い含めたアドム・トレイタが先陣切って歩きだし


それに二人もついていく







オイニリから山道入り口までは、そこそこの距離に
反してさほど苦労せずに着いたのだが


昇り始めた山道は かなりの急勾配がある上に
足場も悪いのでぐっと歩みが遅くなる





「た…谷とは別の意味れキツ…ぜぇ…」


音を上げるグラウンディのペースに合わせての休憩も


四人の道行きが遅れる要因の一つだ





「厳しいのは分かるけど、もうちょっと
ペース上げてくんないとさー先越されちゃうってば」


「うるせー…神らってキツいもは…キツい…」


「おいおいグラウちゃんよ〜耳尖ってるからって
神様気取りは無いだろ?なー兄ちゃん」





同意を求めるトレイタへ、道化師は微笑で返した







それでも日があるうちに山の内部へ続く洞窟へと
たどり着いた四人が灯りを片手に奥へ進むと





山脈へ入ってからずっと感じていた熱気が増す





ぶわっち!なんかミュワムワしてきた…」


「火山だしね、噴火は百年以上してないみたいだけど」





山道から入れる洞窟は、元々それなりの深さを持つ
天然のモノが石炭などの採掘によって広げられ


火口付近まで貫通している箇所もいくつかあるらしい





途中で枝分かれしてる部分なんかも多いが

基本はほぼ一直線に掘り進められているのだとか





「とは言え、地元の人間でも採掘しにくんのは
出入り口から近く!が鉄則らしいぜ?」


「ベテランでも奥に進まないらしいし、溶岩の影響や
落盤で塞がってるトコ多いってのもあるしな」


「へー…なー、ヨーギャンってなんだ?」





袖を引かれてカフィルは短く応える





"溶岩"な 字通り高い熱で溶けた岩だ」


「なにそれ神シュゲーな、一度見てみたい」


感心しながらそう言ったグラウンディは





「「えっ!溶岩知らねーの!?」」


直後、思わず叫んだ二人の声に驚かされていた









険しい高低差と岩肌、そして熱気に囲まれた
洞窟と山道を交互に通り抜けながら


大目に持参した水をこまめに補給しつつ

地図を持つ彼らの案内に従って
冒険者と道化師一行が道なりに進んでゆくと





大きな岩に塞がれたどん詰まりに突き当たる





アレ?ここ確かこないだは岩なかったよな?」





訊ねるアドムへ、トレイタも首を縦に振り





「まーな、けど火食い鳥狙いのヤツら他にもいるしな
大方ムチャな連中のせいで落盤が起きたんだろ」


「何にせよマズイな…何とか出来るか?グラウちゃん」


「ふふん、よーやくオレのでヴぁばんだな!





自慢げに岩へ手を突いて"いつもの文言"を唱えれば


ぽっかりと、人が通るに十分すぎる大穴が開いた





「「おおおぉぉ〜!!」」


「ざっとこんなもぬだぜ!」





目の前の光景と、それを起こした少女を前にして


半信半疑だったトレイタも彼女の力を信じたようだ





「ただの生意気なチビかと思ったけどやるじゃねーか!


「あたたり前だろ!オレは神だからな!!」







塞がれていた通路を意気揚々と突破すると





一気に辺りへ熱を帯びた空気が充満してゆく





あつちゅちゅ!なんかスゲーあっちぃ!!」


「ああ、この近くに溶岩溜まりがあるからな」


周囲と手元の地図とを見比べ、アドムがそう言う





暗かったはずの洞窟の先が明るくなるにつれて


三人はとめどなく流れる汗を拭い続け…





少し開けた場所へと出ると、切り立った岩肌へ
沿うように張り出している細い通路の右側には


赤銅色に輝く小さめの池のようなモノがあった





「ひょっとひてあれがオーガンか!?
スゴいすぎるんだけけど!てーか神アツっ!!」



気をつけろよ?落ちたら骨も残らずドロッドロだぜ」





おっかねー、と小さく呟いてグラウンディが
溶岩溜まりからやや距離を取る





通路の幅も人二人分ギリギリなので


前後にズレて縦に並んだ格好で進んでおり

全員、右側の溶岩と足元へ特に気を使っている









…不意に、小さな石が上から落ちてきて


顔を上げたカフィルが







「止まれ、上だ!!」





とっさに声を張り上げ、同時に前を進んでいた
少女の腕を掴んで位置を入れ替える





反射的に顔を上げた二人が
頭上へと振ってくる人間大の岩石を目にして


あまりの状況に、真っ青になって固まってしまい

動けぬまま立ち尽くしていた次の瞬間





「"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!"」





グラウンディの言葉に呼応して、手をついた岩肌の
一部が粘土のように曲がりくねって突出し


岩石を包むように広がって激突を防いだ





そのまま伸びた岩肌は岩石を取りこむと
元の場所へと縮んでゆき…





全てが収まったその後には


何事も無かったように岩肌の壁が左側にそびえていた







一部始終が収まったのを見届けた少女と共に


万が一に備えて、左耳のカフスへ手をかけて
身構えていた道化も安堵の吐息をもらす





ふぃー神アブねー、キキイッパスだぜ」


「ひ、ひょっとして"危機一髪"?でもま助かったよ
ありがとなグラウちゃ「きゃああぁぁぁー…!」


かぶせるような女の悲鳴は、通路のすぐ先から聞こえた





「今の悲鳴…また落盤か!?





さっきの反動で弾かれたように駆け出す二人を追って
グラウンディも走り出す


「カフィル!早くひろよ!!」





岩が落ちてきた方へ目を向けていたカフィルもまた


一拍の間を置いて、薄闇に沈む前方へと進む









駆けつけた四人が見たのは


崩れた土砂と岩の側でへたりこんでいる一人の女性だった





肩ほどの長さの金髪が鮮やかに輝く 目の覚めるような
美女を間近にしてアドムとトレイタは息を呑み


グラウンディは目を丸くして叫ぶ





センティ!?センティあねーか!!」


「「え!知り合い!?」」





けれども名前を呼ばれた当人は、不安そうな顔色へ
困惑を貼り付けてこう返す





「誰それ…人違いじゃない?」


へ?いやじぇも、顔スゲー似てるし」


「そう言われても困るわよ」





よくよく見返せば、確かに顔こそ以前出会った
修道女に似ているが


目の前の女の瞳はより灰色が濃く


服装も実用的ながらも女らしさが強調された
シャレた物で 戒律の厳しい修道女ならば着ない代物だ







それでも首を傾げてる少女から、青年へ
視線を移して彼女は言う





ねぇ、岩の下に足が挟まれて動けないの
誰でもいいから助けてちょうだい」


「は、はい今すぐ!「おおおオレもオレもっ!!」





幸いにも救助が早かったおかげか怪我も軽く


応急処置を施され、水を分けてもらった
彼女は明るく微笑んだ





助けてくれてありがとっ!
アタシはね、スタンリーって言うの」





どうやら地元の狩人見習いらしく、最近ウワサの
火食い鳥を一目拝もうと仲間と山へ入ったらしいが


入り組んだ構造と険しい道のりのせいか途中ではぐれ

使っていた道具のたぐいもどこかに落とし


さまよっていた所、急に側の土砂が崩れたとの事





「そうだったんだ、そりゃさぞかし心細かっただろうね」


「ええ でもアンタ達が来てくれて助かったわ」


「いやー当然の事をしたまでだよ、なっトレイタ?





顔を紅くしてデレデレしている二人を見つめたまま
スタンリーは上目遣いでこう言った





頼りになるのね〜…ねぇ、もしアンタ達も
火食い鳥目当てなら一緒に連れてってくれない?」


「この先は危険ですので引き返した方が」





丁寧な口調で語りかける道化師を押しのけて


もちろん大歓迎さ!そうだよなアドム!」


「そうとも、僕らにお任せを!!」


青年二人は、あっさり彼女の同行を許可する





お言葉ながら、怪我も負われているようですし
今すぐ町へ戻られるのがあの方の為かと」





なおも小声でささやくカフィルだが







何を言ってるんだい道化の兄ちゃん!
こんなキレーな美人さんの頼み断れるかってーの!」


「それに、怪我をしている女性に一人で山道を
歩かせる方がよほど危険なんじゃないですかね?」


「困ってるヤツ見シュてたら神の名がすたるぜ!」





見事に三人とも真反対の意見を出したので、やむなく
同意するしかなかったのだった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:引っ張っといて結局協力する事に、そして
火食い鳥話が本格的に動き出します!次で!


スタンリー:だといいけどねぇ…てかアタシの顔
ずっと見て、そんなに似てるの?センティってのに


グラウ:おう、神ズッゲー似てる!


スタンリー:ふーん ま、助けてくれた恩も一応
あるからいいけどさーアンタって溶岩も知らないの?


グラウ:だっ!らっでしょーがねーらぼっ!
ずっと村育ちで旅に出たばかっだったし!!



カフィル:…俺も村育ちだが、溶岩ぐらいは
この身体になる前から知っていたぞ


グラウ:だばまりぇぇぇぇぇぇ!!




道中の溶岩溜まりは大本の溶岩溜まりと繋がって
点在してるモノのひとつとなってます


一人追加の進行で、ついに火食い鳥と対面!?