さぁさ悶着 さぁ悶着!


南下する一路の途中、日銭を稼ぐ芸の最中に

二人の前にて現れるは奇妙な太目の中年男


道化の青年と因縁を持つ道化師の男に付きまとわれ


面倒はご免とばかりに場を離れ
逃げるように旅路を急く道化と少女


彼らが行く先には 今度こそ捜し求める
"宝石"の手がかりがあるだろうか―








中年道化師・ルオの追跡を振り切って河を越えた二人は


オイニリの町へと足を踏み入れていた





うはっ、すげぎぇーニギやかだな〜」





人々が横行する広間の真ん中を陣取って


すぐ側の通りで焼きたてのパンや新鮮な果物を売っている
商店へ突入したそうに、グラウンディが瞳を輝かせる





「港町も近いし、モセ山脈への拠点にも
著しく適しているからだろうが…」


ん?なんだよイマめしーツラしやがって」


"厳めしい"な、少し人が多すぎないか?」


「多い方がかしぇ、稼ぎやすいだろ?ただでさえ
あのデブのせーで実入り少なかったんだり」





半分はその通りなのだが、もう半分は少女自身の
胃袋やワガママで消費されている


が、その事実を指摘した所で当人から得られるのは
反省ではなく反感のみのため


白眼視のみにとどめてカフィルはこう言う


「物騒な連中もいるようだ」


「言われみてれば、たしかに何かおっかなそーな
ヤツとかあちこちにいんな」





町民に混じって歩いている軽装鎧の冒険者や

弓など獲物を持つ旅人の姿はこれまででも見かけているが


ここオイニリに限ってはその頻度が高いようだ





「…まあいい、先に稼ぐか」


だなっ!オレもー神ハラひゅったし!」











〜十八幕 火ト喰イ前線−予兆〜











東から高々と昇っていた太陽が西側へ移るまでの間


路上での芸で日銭を稼ぎ、ささやかな食事もそこそこに
二人が町で情報を聞いてみれば





山で"珍しい生き物"を見たというウワサを多く耳にした







火ぃ喰う鳥だとかで、一目見ようとするヤツとか
捕まえよーって連中がこぞってこの町に集まってんのよ」


「アンタらもそのクチかね?けど山に行くなら気ぃつけな」


「モセ山脈はかなり険しい火山でなー地元の人間でも
奥までは行かねぇんだ、無事で済む保障ねぇからな」





実際に山へ踏み入った旅行者が、そこで消息を断ったり


ひどい火傷や傷を負い、這うようにして麓へ出て

そのまま息を引き取る事もあるようだ







露骨に嫌そうな顔してグラウンディが聞く





「な、なぁ…火をきゅう鳥、探しに行くのか?」


「山には入るつもりだが、情報が足りんな」


うー…だよな、そんな気ふぁしてたんだ」





覚悟してついてきた旅路ではあるものの


十代前半の少女としては、やはりコワい思いや
大変そうな事態はなるべく避けて通りたいのだろう





「とぐろでよ、もし山に宝石なかっとしても
その後はどうするつもりなんだ?」


「港から別の土地に渡る…怖気づいたか?」


なっ!こぎゃがってねーし!神をバカにしやがった
罰として甘いモン買いやがれ!今しゅぐ!!


「断る面倒「だ、誰かーっ!
ソイツを捕まえてくれーっ!!



男のだみ声が響いて、顔を向けた二人のすぐ側を


身軽ながらも薄汚い格好をした小男が駆け抜けていく





すかさずグラウンディも小男の後を追って民家が
立ち並ぶ路地へと走り出していった





一呼吸置いて道化師もその後を追えば


あっさり少女に追いついたので、共に泥棒を追って
細い路地を縦横無尽に進んでゆく





「待ちやがれっどろばううぅぅ!」


「別に"泥棒"の被害にはあってないだろう、何故追う」


あに言ってんかカフィル!アイツ捕まえれば
有り金巻き上げた上に取られたヤチュからお礼も
もらえるし、おたずねモンなら賞金も手に入んぜ!」


「著しく性質が悪いな」





ぼやきながらも彼女を放っておくと更に
面倒な事態になりかねないので


合図をして、道化師は投げナイフを数本構え


少女がすぐ横にある民家の壁へと手の平をつけた





「"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!"」







走り続けていた泥棒は、壁から生えてきた長い板
行く手をふさがれて刹那立ち止まり


振り返った次の一瞬で、飛んできたナイフ
服の袖やズボンを縫いとめられ


顔面スレスレにもナイフが刺さったため
完全に動きを止めたのだった











「財布取り返してくれてありがとな兄ちゃん!」





泥棒を役人へ引き渡した後、財布を返してもらった
革鎧の身軽そうな旅人がそう言った





「いえ、私(わたくし)は人並みの事をしたまで」


謙遜すんなって!兄ちゃんがドロ捕まえて
くんなかったらオレら路頭に迷うトコだったし、なっ」


彼のその言葉に、隣にいた二人の男も首を縦に振り


その内の片方である禿頭の男が少女へと歩み寄る





「おチビちゃんも一緒に追っかけたんだって?
助かったが、あんま危ないことしちゃダメだぞ」


だぁぁ!ガキあつきゃいすんな!!」





言いつつ、くしゃくしゃと草色の短髪を撫でる
無骨な手を払おうと少女は奮闘するが


かえってその様子が子供らしさを誘っているのだと

当人はまるで気が付いていないようだ





にしてもゲール!何こそ泥にしてやられてんだよ
そんなんじゃ火喰い鳥捕獲も夢のまた夢だぞ!?」


「ご、ゴメンよぅ!ここ来たばかりのカワイコちゃんに
宿屋までの道教えてたら、他の連中が絡んできて
どうにか振り切ってホッとしてたら」


「ドロボーされたと?にゃさけねー」





ハッキリとした発言にゲールと呼ばれた
つんつん頭の青年が、面目ないとばかりにうな垂れる





「町の方々からもお聞きしたのですが…皆様方も
山に現れた珍しい生き物を探しているのでしょうか?」





気になる単語が出てきたので道化が水を向ければ





おおよ!まー兄ちゃんは道化師だし
町に来たばかりってんなら知らないのも無理はねーか」


どこか自慢げな様子で、彼らは"火喰い鳥"にまつわる
様々な詳細を語り始めた









山脈での目撃談はここ最近 深部へと入りこんで
戻ってきた炭鉱夫からもたらされたもので


溶岩から吹き上がる炎をついばみ、炎を吐き出し

橙色に輝きながら羽ばたいていた鳥
の姿が鮮やかに
目に焼きついた…と、男はそう語った





身内や知り合いに"与太話"だの"恐怖で幻を見た"だのと
そしられながらも その話は人から人へと伝播され





誰かが―それは幻となった伝説の珍獣だと言った





「まぽろしのチンジュー?」


「そっ、何でも生き胆だか肉だか食えば不老長寿が
約束されたらしいぜ?」







乱獲によって消えた種族だったが、別の大陸にいた
生き残りが海を越えて山に住み着いた


いや代々溶岩が吹き出す深部で生息していた


違う、伝説の鳥とは関係のない単なる変異種だ





…などなどの憶測や風聞が、それこそ国境や
海を越えて様々な人間の耳へと届くと





見世物や好事家のペットとしての売買目的


伝説と同じく不老長寿を願う者による依頼や

希少な生き物の調査などなど



不特定多数の欲や好奇心が動いた結果





「オレらみたいな腕に自身のあるヤツらとか
雇われ狩人とかが"火喰い鳥"を捕まえようと
この町に集まってきたっつーワケだ!」


「それでやたらイカツいのがいんのか、で
お前らホクイドリ捕まえたらどーする気なんだ?」


「ほく…ああ、火喰い鳥な?そりゃーまあ
大人の事情っつーかなんつーか、なぁ?


同意を求められ、スキンヘッドとゲールが
どこか気まずそうに苦笑い





どーせ売っぱりゃうんだろ?けど泥棒ごときに
してやられてたヤツらがホカクなんて出来んのかよ?」





小バカにしたような少女の物言いに、ゲールが
顔色を変えて噛み付いてきた


べ、別にアレはちょっと油断してただけだっつーの!
それに仕掛け用の爆弾だってまだ届いてないし!」


バカ!他のヤツらに聞かれて出し抜かれたら」


「いいじゃねーかミデタ、どうせ聞いたって素人じゃ
マネできっこないって!それに条件に見合う爆弾
作れる腕のいいヤツは他にはいねーだろ!」


「ああ、あの陰気なオッサンじゃ常連にしか
爆弾売ってくれないしな」





"爆弾"と聞いて 少女と道化が顔を見合わせる





「そういや、メグリのヤツはいつ戻るんだ?」


「谷の山道が開通したって話も聞いたし、そろそろ
ラクミから戻ってくるんじゃないのか?」


「こないだ空から降ってきた岩がルク河の橋に
落ちたらしいから、近辺で足止め喰らってたりしてな」





続々と飛び出す耳慣れた単語に焦りと確信を
二人が抱き始めていた、その時







よろよろと…一人の老人がうつむき気味に歩いてくる





「ああ…みんな、こんなトコにいた…のか」


「ん?誰だこのジーさんは…って、え?





白髪混じりの髪に、生気を失ったシワだらけの肌
枯れ木のようなその男は


不釣合いなぐらい立派な 軽装鎧と短剣を装備していて


そんな相手が間近まで迫って 小刻みに震えながら
顔を上げた、その瞬間







旅人三人組が 目玉を大きく開いて硬直する





「そ…そんな…ウソ…だろ…!?」


「そのカッコに、その顔…まさか」


「め……メグリ!?





青い目で彼らと老人とを交互に見やってから
グラウンディは、不思議そうに訊ねる





「あのジイしゃんが仲間じゃないのかよ?」


「そんなワケあるか!メグリはオレらと同い年だ!」


「でもよチノ、これどう見たってジジイだぜ…?」





言われて改めて仲間の様子を眺め、禿頭に汗を
にじませたチノが問いかける


おいメグリ、何があったんだ?爆弾は?」





メグリは、シワだらけの顔を悲しげに横に振った





「村はもう…ダメになってた…」









遠い道のりを経てたどり着いたメグリが目にしたのは





―廃村寸前となった、ラクミだった





谷を塞いでいた雪壁も取り払われ 活気を取り戻した矢先

"村で生活する男の急激な変死"が相次いだらしく


原因が分からぬまま、僅かに残った村人は口々に

元凶と信じて疑わない"一人の女"を責め立てた





「あの女が…あの女が息子を!亭主をぉぉ!


「アレは、あの女は人間じゃない…悪魔だ…」







他所から来た旅人であること以外、女の素性は分からず


男達がほとんど死に絶えた時には既に村から
姿を消していたようだった





ポーネントのオッサンも…例外じゃ、なかった」





谷への入り口でミイラのようになって息絶えていた、と
村人が涙ながらに語るのを聞き


それでも諦めきれずに彼は 爆弾を拝借しようと
夜陰に紛れて店に忍びこんだが





目当てのモノを手に入れる直前で爆音が響いて


間一髪で外へと飛び出した数秒後に、店が跡形も無く
吹き飛んでしまったのだ





吹っ飛んだぁ!?どうして!!」


分からねぇ…ワケが分からず…オレ
無我夢中で、ここまで来た…んだ、なのに…どうして…」





かぶりを振っていたメグリの身体が、突如
ガタガタと激しく痙攣し始める





「おいメグリ!大丈夫か、メグリ!!


女が…金髪の、女が…唇を吸って…
身体の力が、全部…全部抜けひぇ…ああ…」


しぼりだすような声でそう言ったのを最後に





倒れこんだメグリは、動かなくなった





「メグリ!!」





三人は一斉に彼の元へと集まって







鼓動がかすかに動いていることを確認してから
ほっと息をつき、それから落胆して呟く





「どうなってんだよコリャ…てゆうかどうすんだ!
あのオッサンの爆弾が仕掛けの肝だってのに!!


「あの爆弾の前金にいくら使ったと思ってんだよぉ〜」


言ってる場合じゃねぇだろ!とにかくメグリを
医者にでも見せねぇと…」





二人がかりでぐったりとしているメグリを担ぎ


残った革鎧の一人が 道化師に向けてこう告げる


悪いな兄ちゃん、話はここまでだ」


いえ…こちらこそ色々話していただいたというのに
お力になれず申しわけありませんでした」







去って行く彼らを見送って、少女は言う





「なあ、やっぴゃりアレ絶対エブリャイズの仕業だろ」


「"エブライズ"な 間違いないだろうな」





しばらくの間、グラウンディは口をつぐんでいた





その横顔には 新たな敵に対する不安や邪神の手口への
対策について考えているといった雰囲気ではなく


たまさか話題に出たラクミ村の惨状に対して


何より別れ際に言葉を交わした 爆弾屋の主人の訃報
対しての、哀しさがたたえられているようであった





「色々メンドーでハラ立つオッサンだたたけど…
会えなくなんのは 神寂しいな」


「…そうだな」


同意するように短くカフィルが答えた直後







「ああ、いたいた!あの子だっ!!





しんみりとした空気を突き破るように、丈夫そうな
革帽子をかぶった青年が声をあげ


駆け寄り様にグラウンディへと問いかける





「君 さっきの泥棒とっ捕まえる時さ
式刻法術で通せんぼしてたろ!オレ見てたんだ!!」



「お、おお、そらがどーしたんだよ?」


いきなりの事に戸惑い気味になりながら少女が返すと





「一緒に火喰い鳥の捕獲に協力してくれないか!?
報酬は弾むよ、頼む!!






青年はそう言って、両手を合わせて二人を拝んだ








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:火薬を扱える所は他にもあるが、あの近辺なら
ポーネントさんが有名でした…惜しい人を亡くしました


グラウ:とあ言ってホントは口調がメンドくせーから
出らんないようにぬたんじゃねーの?


狐狗狸:予定調和です、そんな事実はありません


カフィル:著しく白々しい


狐狗狸:うぐ…とりあえず"謎の女"の話題は一旦
置いとくとして、老人化?とかについて心当たりを一言!


カフィル:面倒だ断る


エブ:それに先にネタバレたらつまんねぇじゃぁ〜ん


狐狗狸:ごもっとも…しかし何でだろう
正論なのに腑に落ちないのは


グラウ:へん、少しはカビの気持ちが分かったか!


カフィル:"神"な




あの三人組は 今後の話で出るかどうか未定です


山へ赴く二人は、"火喰い鳥捕獲"に協力するのか…?