さぁさ炸裂 さぁ炸裂!


若き修道女をも巻き込んで、奇矯な爆弾屋の
説得に乗り出した旅人二人


しかして実質上手くは行かず


分厚き雪壁に苛立ち少女が 法術での開通を行い


振動によりて起こった雪崩に道化が巻き込まれ
道化の救助を、少女と修道女が必死に頼む


臆す村人を件の爆弾屋は嘲笑うも


少女の喝と心動かされた村人達の懸命ながらも
緩慢な救助行動を眺めるうち


自らの品を手に、彼も行動を始め―








爆発によって雪が蒸発し、積み重なった小山の量は
見る見るうちに減っていった





「…おい!服が見えるぞ!この下だ!!





鮮やかな服の端を中心に 村人達が慎重に周囲を
掘り出していって、ようやく道化師の顔が現れ





「しっかりしろ!今助けるからな!!」


道化の兄ちゃん、大丈夫か!気をしっかり持て!」





更にしばらくの時を経て…冷たい雪の下から
彼の身体は引っ張りだされた











〜十二幕 竜ノ谷ヘ〜











雪崩の起きた山道の入口から、やや離れた場所に
村人達が暖を取るための火が起こされ


彼らは白く息を吐き出しながら 火の周囲に
つどって身体を温めていた





ひゃ〜冷てぇ!災難だったなぁ兄ちゃん!」


「ほらもっと火の前に当たってけ、アンタすっげぇ
身体冷たいんだし なっ!





その言葉に、渡された毛布に包まったまま
カフィルは首を横に振る





「お心遣い感謝します、ですが皆さんの救助が
早かったおかげでこの通り五体満足ですので」


そう告げる彼の背を、突き飛ばすようにして
グラウンディが目一杯押した





「やしぇガマンすんな!しっかりあったまっとけ!」


「そうそう、アンタの連れのその娘っ子
すっげー心配してたんだからさ!」





見上げるように睨む少女の視線と、村人達に負け
道化は進み出た炎の前へ…さり気なく左側であたった







そこへ 温かなスープを持ってセンティフォリアが現れる





「宿屋の方と協力して作りました、簡単なものですが
身体を温められればと思いまして…」


「ご厚意痛み入りますが それは私(わたくし)の
連れに渡してやってくださいませんか?」


「しかしオリェ腹神へってたんだよ!あんがとな!」


修道女の手から急いでスープを受け取ったグラウンディは
すぐに中身を飲み干そうと口に入れ


当然、口の中に広がった熱さにのた打ち回った





「ふわちゃちゃちゃちゃっ!?」


「あーあー、そんな急いで飲むから…」


「私、水をお持ちします!」





大慌てで駆けていくセンティフォリアと、呆れる
村人に見守られて涙目で舌を出す少女を眺めて


小さく微笑んだカフィルの瞳が


村人の輪の外で そっと自らの店へと戻ろうとする
ポーネントの姿を捉えたので





間髪いれず彼は人々を掻き分け ポーネントの前へと立つ





「…まだ我輩に用があるのかね?先程のは単なる試作品の
実験ついでに過ぎんぞ、あの小娘とここの者達に乗せられ
行動したとは言え 我輩がそう易々と」


長々と言い募ろうとした相手の言葉をさえぎって





「ええ承知しております アナタが自ら発破を行う事を
嫌うのは、私(わたくし)を助けた件から著しく明らか」





仕事用の微笑をたずさえながら 道化師は
大仰な手振りで言葉を連ねる





「ですのでポーネントさんには爆弾の提供と発破場所の
指定だけお願いいたします…それだけ行っていただければ
後は監修が無くとも私(わたくし)どもだけで結構」


馬鹿な!素人に適切な爆弾の設置など出来るものか
たちまち先程のように雪崩に飲まれて仕舞いだ!!」


「その通り、何せ玄人はこの村にいないのですから」


挑発するような物言いに、厚ぼったいまぶたが
引きつったのを見て取って





「どうか私(わたくし)を助けていただいた腕前と
勇気を、今一度ふるっていただけませんか?」






うやうやしく頭を下げる道化を眺め、爆弾屋は問う





「不慮の事故とはいえ、今しがた死の淵をさまよって
おきながら 尚もあやふやな伝承などを信じて谷へと
足を踏み出す気なのかね…一体 何故?





道化は ただこう答えた





「私(わたくし)には なさねばならぬ事があるのです」







無言で見つめあい ややあってポーネントが口を開く





「…食えぬ男だ、しかし我輩には協力の義務も無い」


言い放ち、くるりときびすを返そうとした彼の腕や肩を





黙って見ていた村の男達がガッチリと掴んで引き戻す


あに言ってんだ!さっきの威勢はどこいった!」


「あ、アレは単に馬鹿にされたまま戻るのが癪で
貴様らの作業能率の遅さがあまりにも目に余ってだな」


それならソレでいいから発破だけやっちまえ!
いい加減山道が使えねぇのはオレらも不便だし!!」


ききき貴様らも知っていよう!我輩はあの事故で」


「戻った所で黙々と爆弾を作り続けるだけじゃろうに
それなら少しは己の恐怖と向き合ってみぃ!」





必死で抵抗するも、猫背の中年一人の力では抗いきれず


ズルズルと山道の入口辺りへと引っ張られていく





グジグジと煮え切らない男だねぇ!いい加減に
働かないなら、あたしらがケツ引っぱたくよ!?」


「しょーだっやっちぇまへ!オレが神許ゅーす!!」


女性陣もそれに参加しそうになったのを見て





降参だ!協力すればよいのだろう、必要な物を
店から持って来るから我輩から離れんか!!」






ほとんど悲鳴に近い声で、爆弾屋は叫んだのだった









その後 見張りの若い衆つきで店に戻り


現場へと引き返したポーネントの監修により
発破の設置と、雪崩対策が始まり





…翌日 見事な号令によって導火線に火がつき


白い壁が、衝撃を伴って崩れてゆく





「ああぁやはり爆弾はいい!とてもいい!
だがやはり事故は恐ろしい、早く帰りたい!!



メンドくすぇ!ここまで来たんだから
とっとととハリャくくりやがれおっさん!」





膝頭をガクガク震わせ半泣きになりながらもどうにか
ポーネントは、村人と共に雪壁の撤去をやり切って





おおっ!やったなポーネント…あれ?」


「大変じゃ!こやつ失神しおった!!」





……その場で気を失って 自宅に運ばれた









更に翌日 旅の準備も終えて道化師と少女は





「真に、面倒をおかけしました」


「まあこちらとしても 再び山道が行き来できるように
なったから、そう言う意味じゃ感謝しとるが…」





村長を始めとする村人の面々へ、謝罪を兼ねた
別れの挨拶を済ませて 山道の入口へと進んで行く







谷へ進む二人を見送るのは 金髪の修道女一人





「この先高低差が激しく、道が入り組んでいると
聞いています…お二人とも お気をつけてくださいね」


「ご忠告ありがたく受け取っておきます」


「つか センティもちゅいでにオレらと来ればいいのに」


「グラウンディさんのお気持ちは嬉しいのですけれど
私はもう少し村に留まってから、出発しようと思います」





少し寂しげな笑みで手を振るセンティフォリアに背を向け


白い壁の消えた道を踏み出していく彼らが、





あわただしく追いかけてきた足音に振り返った





「村の連中は、全く、現金に過ぎる、我輩が協力の姿勢を
見せた途端にっ見舞いだの相談で押しかけてくるから
おかげで貴重な研究の時間が…ぜはっ」


「落ち着いてください どうしたのです?」





荒い息を整え 面を上げたポーネントが歩み寄り





「…不本意ながら世話になったからな、ロクに礼儀を
知らぬ村人一同に代わって 餞別として特別に試作の
小型爆弾を譲渡してやろうと思ってな」





カフィルの手の平へ、卵大の灰色の物体を三つほど落とす





「…このような品を無償でいただいて宜しいのですか?」


「単に村人どもの代理だ、しかしもし運良く生き延び
村に再び訪れ 気が咎めたなら我輩の店に顔を出すがいい
値段次第で爆弾を販売してやる事もやぶさかでは」


「マジみぇんどくせっ!そこは素直に"また会いに来い"
いいじゃねーかよおっさん!」


「…ふふっ!本当に賑やかですこと!」





爆弾屋の店主が不思議そうな面持ちでまぶたを押し上げ
愉快そうに笑うセンティフォリアを見やる





「おや?貴女がその様に笑うとはいささか意外ですな」


「あ…申し訳ありません、お許しください」





とっさに両手で口を押さえた彼女が ほんの一瞬だけ
"しまった"とでも言うような表情を浮かべたが


次の瞬間には苦笑交じりのものに変わっていたので





二人は気づかずに微笑み、カフィルもまた
面倒なので特に指摘をしなかった











そうして修道女と爆弾屋店主に改めて別れを告げ


ラクミ村を後にして カフィルとグラウンディは
雪のつのる山道を歩き始めた







交通が途絶えていたせいか、少し荒れてはいたものの


通り道として使われていた辺りは 旅慣れた者や
地元の人間にはそれほど苦も無く歩けるようで


特に風も強くなく、天候も穏やかで比較的楽に進める





…かと思いきや





「ま…ミャジできっついぃぃ


「山道だからな」







少女には十分に厳しいようで、ガチガチ歯を鳴らし
身を震わせながらマント越しに身体を抱いて


地図を持つ彼の 数歩後ろを必死についてきていた





「言っておくが、谷へ下れば著しく険しさは増すぞ」


わきゃってらぁ!…っぷしゅん!」







しばらくは黙々と歩いていたものの 分かれ道に沿って
下って行くうちに背後のくしゃみの回数が増え





谷へと通ずる洞穴へつく頃には雲行きも怪しくなり


グラウンディの鼻や尖った耳の先が赤く染まって

端から見ていて痛々しい様相になっていたので





立ち止まり、カフィルが担いでいた袋を探る





「…にゃんらよ 先に行くんじゃらりのか?」





答えず 彼は袋の中から一抱えほどの皮袋を取り出す





「水なんきゃいりゃねーよ、よけっ身体神冷えりゅし」


「誰が飲めと言った」


ふぁあ?じゃにゃんで出したんだんよ」





訝しがる少女の手が届く位置へ 皮袋が突き出される





「温めろ、術で」


「火ぃるれもちゅけろってのか?それに」


「…中身だけ湯に変えるんだ」





意図が分からず、しぶしぶ両手で袋に触りながら

必死に中身が熱に包まれる様を想像し





「"全ての意志はここにあり!!(レェサニサ)"」


グラウンディは式刻法術を発動させる





…果たして、外気の寒さで半ば凍りかけていた
皮袋の中身は見事に高温のお湯に変化した





「っあぢぢぢでぃ!!





直後、少女が取り落とした皮袋を右手で受け止めて


解いた黄色い腰巻の布で持ちやすく包みなおすと
カフィルは再度 彼女に皮袋を手渡す





「これで少しはマシだろう 冷めたら自分で温め直せ」


「え、あああありがと…
ふぉ前は、くしっ!…いいのかよ?」


「今更面倒だ」





更に何かを言おうとする相手を置き去りに

荷袋を担ぎ直して、道化は洞穴へと進んでゆき


即席の暖房具を抱えて グラウンディも後に続く









雪が地下水となって溶け出しているのか
ごつごつとした岩肌は、湿り気を帯びて冷たい





通り過ぎる風が 唸りを上げて辺りにこだまし


どこか心もとない松明の火を 大きく揺らめかす





「こりゃ竜ぐりゃいいても、おかしくねぇかも…」


「少なくとも 事故を起こした何かはいるだろうな」







昔から、別の山道から迷い込んだ旅人や興味本位で
谷を探検しようとする村人などが後を絶たず


そこから無事に戻ってこられた者は


必ずといっていいほど "巨大な何か"の姿を目撃していた





ラクミ村ではそれが"竜"として伝えられ、不用意に
谷や洞へ近づいてはならないとされていたが


村の若い衆や 交流のある者は全く本気にしていなかった





…十数年前の夜に山から恐ろしい咆哮が響き渡り


谷底の辺りから一際強い火柱が立ち、間を置かずに
同じ方角に何か巨大な地響きが聞こえ


その振動で起きた雪崩と落盤が 山道を塞ぐまでは







「しっかすしっ、竜っつってもどんなんきゃ
いまいちオレにはピンとこな…うおっ!?





少女の頭を押さえ込むようにして屈ませながら
自身も屈みこんだカフィルの頭上を


バサバサと コウモリの群れが通り過ぎていった





「うふぉ危ねー…てか口で言えみょカフィルっ!」


「面倒だったんでな あと袖を掴むな」


「こうれもしなきゃしゃき行くだろお前は!」


「…"先"な、遅い方が悪い」





その一言で余計に文句を垂れられて、辟易しながらも
彼は相方と共に 下り気味な洞穴を抜ける







開けた視界の先は、山道の入口よりも頑強な絶壁を持つ
山によって両側を囲われていた





荷台がどうにか通れるくらいの幅の道を辿って歩くと


二人の左側の壁が途切れ、切り立った崖に変わってゆく





「ひえー神深ぇ〜…ここ落ちたらひほたまりもねーな」


「ああ、"一溜まり"もないな 気をつけろよ」





谷風に煽られ 凍りかけの雪に足を取られつつも


慎重に進んだ道化師と少女はやがて、かけられた橋と
繋がっている広めの岩棚と直径5m程度の洞窟





そしてその入口を塞ぐ巨大な岩石を目にした





げ!なんだりょあれっ、アレも竜のせいか?!」


「俺に聞くな…今から引き返すのは面倒だ」


当ったちり前だ!一本道だと分かりきっちぇる以上
神なら前進あるのーみっ!!」



勇ましく言ってグラウンディは カフィルのローブを
片手で強く握り締めて、橋へと足をかける





「引っ張るな著しく生地が伸びる」


「遅い方ぎゃ悪いんだろっ!」





嘆息する道化師を引っ張りながら岩石の前へ到着し





「っし、こなな岩オレにかかればあっつー間だぜ!」





皮袋を小脇に抱えたまま 岩に手をつくグラウンディへ





「この間のような失敗は」


するなよ、と彼が指摘をしかけたのと眼前の岩が
一部めくれ上がったのがほぼ同時で





次の瞬間にはそこから現れた赤子サイズの眼球


ギョロリ、と二人を睨んでいた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:おっさん面倒くさかったー!次は真面目に
竜との一戦を予定してます!!


カフィル:著しく遅延したな、今回も


グラウ:もひゃやコーレーになっちまっちぇん
じゃねーか!しっかりしろよ管理人!!


狐狗狸:"恒例"って言いたいんだろうけど…お怒りに
ついてはまさに謝るしかないね うーむ


センティ:けれどカフィルさんがご無事で本当に
よかったです…これも村の方々とポーネントさんの
ご助力のおかげですね


グラウ:いやいや、センティだって働いれたろ?


カフィル:…つくづく、ご迷惑をおかけしました


センティ:いえ私は大してお役には…


グラウ:まーまーケソンしゅるなって!
神のホメ言葉は素直に受けとっとけぃ!!


カフィル:"謙遜"な…お前はもう少し自重しろ




センティフォリアとは、ここで一旦お別れです


次回 いきなり谷の竜と対面した二人は…!?