さぁさ開演、さぁ開演!


そこ行くお方!面白い見世物はいかがかな?


なぁにお代はいただきません


代わりにアナタのお時間はいただきますが…





今はスコール暦2048年、神話も法術もすっかりと
過去の遺物と成り果てた哀しき時代


されど人の欲による争いにはキリが無く


下火へと移るまで、淘汰された人民や町や村や国
亜人・怪物に至るまで枚挙に暇なし





しかして生き残り 生き延びて栄華を果たし
或いは悪行を高らかに響かせるモノも少なく無し


いつしか"死神"すら闊歩するようになった…





この話の始まりは、至極ありふれた
英雄詩にありそうな一説をなぞるような


モイロの村で宣託の儀式を終えた男の言葉―







「次のイケニエが…決まりましたぞ」





うやうやしく告げる男の表情は、影がかかって
村人達からはよく見えない





「そうか…ならば早急にブルヴァーシェ様
元へと送り、お怒りを静めねば」


「少しでも遅れたら…
ああ!考えるだけでも恐ろしい!!


ざわざわ…とさざめく様な声音が昏い室内に満ち


男が放った次の言葉により、さざめきはそれぞれ
今後の段取りを話し合う内容へと代わる





そうして一通り話がついて


白髪をたたえた、みすぼらしい老人が厳かに告げる





「では今後も頼みますぞスタブレット殿…
お主の神託が村の未来を左右するのですからな」


「ええ、お任せください……神のご意志は絶対です





ランプに照らされ 満足げに微笑む祈祷師の顔を


一対の目が…じっと見つめていた











〜序幕 道化ノ男〜











人通りもまばらな街道で悲鳴が上がった





「いやっ、およしになってください!





琥珀色の髪を乱し、掴まれた白い腕へ力を入れ
困惑した様相を露にする娘が一人





げへへぇ〜およしになってぇ〜か
カワイイじゃねぇかおジョーさぁん!」


対し彼女を束縛するは、赤ら顔を浮かべた
ヒゲ面のごつい男





「お願いです、村へ戻らなければいけないのです
どうかお放しになってください」


うるせぇ!カマトトぶってんじゃねえこのアマ!」





パン、と頬を一つ張り飛ばされて


娘の身体と杖とが床へ転がり落ちる





訝しげな顔をするが、通行人は係わり合いを
嫌ってかそ知らぬふりで二人を避ける





「大人しくしてりゃー痛くしねぇからよ〜」


ニヤニヤと薄ら笑いながら再び腕を掴もうとして







男の鼻先を掠め、一本のナイフが壁に突き立つ





「おや失礼、練習中に手元が狂ってしまいました」





軌道を追った先にいたのは一人の青年





短めの銀髪にこげ茶と鈍色のオッドアイ


左耳だけの筒状ピアスと典型的な白塗りの厚化粧


袖と裾ががヒラヒラしたオレンジの服に緑のズボン
首には紺の、腰には黄の布を巻き両手に手袋


片手に別のナイフをもてあそぶ姿は

道化以外の 何者でもなかった







テメェか!よくもナイフなんか投げやがったな!
倍にして返してやるぁあ!!」






壁のナイフを引き抜くと、男はそのまま道化へと
一直線に突っ込んでゆく


…が 彼は僅かに上体を逸らして刃を避け


突進をかわしながらナイフを奪うと
バランスを崩した男を手招きする





「な…なめやがってぇぇぇ!!







意地でも殴ろうとする拳を巧みに避けられ


軽やかな道化のステップに翻弄され続け





ついに男は 疲れによってダウンしてしまった





「く…くそぉ!なんなんだテメェ…!!」


「私(わたくし)は道化でございます、皆様を
笑わせ、愉快な心持ちでお帰りいただくのが務め
……さぁ お帰りを





静かに告げられ、男は苦々しく舌打ちをすると
その場を立ち去っていった







見届けて彼は杖を拾い 娘のもとへ歩み寄る





「お嬢さん、お怪我は?」





手で地面を探っていた彼女は、呼びかけられて
ようやくそちらへと顔を向ける


「大丈夫です…ありがとうございました
おかげで助かりましたわ」


「どうぞこの杖を」


「ありがとうございます…きゃっ!





差し出された杖を受け取ろうと身を起こすも


バランスを崩し、娘は道化の胸へよろけかかる





「あなた様は…服にを仕込まれてますのね?」


驚いたように訊ねる焦点のない瞳へ、道化は
苦笑して答える





「物騒な旅路のため用心をしておりますので…
失礼ですがどちらまで?」


「この街道から西へ入った、モイロという村へ
そこの使いとして来ております」


「奇遇ですね…私(わたくし)もそちらへ
用があります、お供させていただいても?





支えられて立ち上がり…彼女は頷いた





「どうぞ」











山すそに広がる森を少し開拓して出来たであろう
村は、どこか陰うつな空気を醸していた







レミィ!遅かったじゃないか、心配したぞ!」





入り口で娘―レミィを出迎えたのは
髪を短く刈り込んだ青年だった





「その声はアリンね お使いは済んだから安心して」


「そっか…って、そちらの方は?」





不審げな眼差しを浴びて、一歩後ろに佇んでいた
道化は小さく肩を竦める





旅の道化師でございます、お嬢さんとは
道中でご一緒させていただいたまでです」


「ご謙遜なさらないでください 怖い方から
私を助けてくださったではありませんか」


「大したコトなどしてはおりませんよ」


「と、とにかく彼女を助けてくださって
ありがとうございます…レミィ、家まで送るよ」


「…ええ、ありがとうアリン」





彼に支えられるようにしてレミィは村へ
よろよろと歩を進めていく







道化は奇異の視線を浴びながらも村の中を歩き





小さな宿を見つけて、部屋を取ると


すかさず外へ出て広いスペースへと進み


群がってくる子供や、訝しげな大人を前に





「さぁ皆様…どうぞお見逃しのなきよう
今回お代はいただきませんのでご安心を」



口上を張り上げ 芸を始める







手始めに一つの玉を空中で投げて受け取り


後ろ向き、一回転しながらキャッチするうちに
徐々に玉の数が増え


六つの玉が宙に踊る光景が子供らを騒がし


口へ手を突っ込めば、そこからスルスルと
一本の剣が飛び出てきて彼らの度肝を抜く





最後にジャンプしながらの宙返りを披露し





「すっげー!!」





子供のみならず 数人の大人の拍手をも
いただいて彼は芸を終え





お楽しみいただきありがとうございます…
村長へご挨拶させていただきたいのですが
お住まいをお教えいただいても?」


「あ、ああ…それなら構わんが…」





教えてもらった村長の自宅へ赴いて







話を済ませ 再び外へと出て行く





…そこで先程のアリン青年にかち合った





「道化師さんか、オヤジに何か用でも?」


「いえ、ほんの挨拶と…村でのお話を
お伺いしたまでですよ」





微笑む道化に、彼は苦々しい笑みで返す





「気を使ってくれなくてもいいさ…この村での
変なウワサはもう有名だからな」


「それは失礼をば…時にアリン様
先程のお嬢さんは村の使いとお伺いしましたが」


「え、ああ…彼女が何か?」


「いえ…供もつけず 盲(めしい)だ娘さんが
村を出るとは不思議だと思いましてね」





真顔でそう言う道化へ、アリンはどこか
沈痛な面持ちをして言葉を紡ぐ





そう思うのも無理はない、けど彼女は
…レミィは元々この村の人間じゃないんだ」







琥珀色の髪と瞳を持った彼女は貴族の家へ生まれ
蝶よ花よと愛でられ 健やかに育てられていた





…けれど、安泰だったハズの家が没落し


何もかもを失い 父親共々モイロへ落ち延びた






アリンが村長を説得した事により親子は
村に住むことを許されたものの


余所者である故に二人は冷遇され


今も尚、その扱いは変わっていないという







「…彼女の目は、村へ訪れた時から?」


ああ、ひどい熱病に罹ったらしくて…父親が
生きてるウチは二人で何とか生活してたんだ」


「今はお一人なのですか?」


「そうさ…時々オレも手伝いに行くけど
オヤジが快く思わないし、村のヤツらから
受ける扱いは然程変わっちゃいない」





憂うように小さくため息をついた彼の向こうに


法衣に似た怪しげな装いをした、陰気な男
通り過ぎていった





「あの男は?」


スタブレットとかいう、村の端に住む
いけ好かない祈祷師さ…信用しない方がいいよ」





肩越しに一瞬睨みつけたアリンの目つきには


ハッキリとした嫌悪がにじんでいた









彼と別れて道化は、端にひっそりと建つ
ツタまみれの祈祷師宅へ訪れた





「道化師殿でしたかな?ご用件とは何でしょう」


「この村で起こる災害や変死…目撃されたモノ
ついてのお話がお伺いしたいと思いまして」





ワカメのような黒髪の下で、片眉が跳ね上がる





「おやおや、随分と尾ひれがついたもので…」


「それではこのウワサは、いくつかは真実と
捉えてよろしいのですね?」


「確かに多少は災害もござりましたが
ウワサほどではございませぬ、まして死者や
目撃談など偽りも甚だしいですな」


「そうですか…それは失礼いたしました」





頭を下げて立ち去りかけるその背へ

スタブレットは呼びかける





「…道化師殿、アナタへご忠告差し上げますぞ
今夜中に荷をまとめ 村を出た方が宜しいかと


「ご親切にありがとうございます」







貧相な面構えから放たれる視線を感じつつ


家を後にした道化師は、化粧を落として夜を待ち







……辺りが寝静まった頃を見計らい、フードのついた
ローブマントをまとって宿を抜け





村の周辺の散策を始める









村長宅とスタブレットの家を除いた村内の
建物にはそれほど差は無いが


代わりに、森に近い家屋の壁や納屋に…


奇妙な破壊痕があった





畑の被害も多く残され、村人の墓の中には
無残に砕かれたものもいくつかある





彼はそれらを確認し 森の奥へと進んでゆく









なーなーなー!今回くらいはそろそろ
当たりひけそうかぃ?カフィル』







唐突に、どこにでも転がっていそうな軽い声音が


道化―カフィルの脳内に響いてきた





「…貴様が邪魔しなければ済む話だ」





明るいうちとは真逆の 冷淡な呟きを零し


歩を進めるも、声は構わずこう告げる





『だーって見てるだけじゃつまんないじゃんよぉ
様々な難関を越えてこそぅ!ゲームはより面白く
楽しめるモンになんだろぉ?』


「著しく面倒なヤツめ」


『オレにそんな口聞くんだぁ〜何だったら
もうちょっと難易度上げちゃうぅ?ねぇ』





不快の気持ちを裡に静めたまま、彼は口を閉ざし
足音を殺して前進していく





『おーいなんか言えよぉ〜寂しいだろぅ?
ひょっとして怒ったとかぁ?なぁなぁぁ〜





無言を貫く相手に、声はなおもしつこく騒ぎ立て


いい加減我慢の限界に達したくらいに


カフィルはようやく一言答える





「もう俺に話しかけるな」


アレ?ひょっとして人目の心配ぃ?
それだったら安心してよカフィルぅ〜』


軽い口調を変えぬそのままで、声の主は







闇の向こうで 邪悪に唇を歪めた





『もう 手遅れだからぁ』





同時に周囲の木々や茂みから姿を現した村人達が


手に手に農具を持ち、布にくるんでいたランプを
かざしながら彼を囲む








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ファンタジー第三弾!この話はちょっと
毛色を変えていく…予定!


カフィル:著しく弱腰だな


狐狗狸:慎重と言って、あと出来れば道化師時の
口調でしゃべってくれた方が会話弾むんだけど


カフィル:面倒だ


狐狗狸:全くもう…しかしまぁ次回ぐらいには
こっちでの"魔法"や声の主の正体を書きたいな


カフィル:…確か、次で終わらせる予定とか?


狐狗狸:一応はね でも私の場合伸びる可能性あるし
出来れば上手く納めたいんだけどねー


??:納めろっ!オレが初っぱにゃから出ねぇとか
まったきゅもって意味わかんねべしにょっ


声:うわーセリフ噛みっ噛みじゃんダッセェ!
でしゃばって満足にセリフ言えないとか恥ずかしぃー


カフィル:煽るな、面倒だから




声の主の名や、レミィの絡みも出すつもりです


異変と村の"もう一つの顔"が明らかに…!?