昼と言うには遅いが 夕方と言うにはまだ
幾分か早いくらいの時間に


やや乱暴に扉を叩く音がして





「はーい、どちらさま…ってさん!?
ああああのっ どうかしましたか?」


「おうリク…ちょっと用があってな」





慌てて玄関を開けたリクは、何やら渋面をした
六花のと対面した







元々 愛想は然程いい方ではない彼女だが


少しやつれ、目の下に隈がうっすらと
縁取られたその様相は更に鋭い印象を強調している





というか…最早凶相といっても過言ではない


おまけに口調もいつもより刺々しい







平素のを知るリクでさえ、何か
深刻な異変が起きている事を感じ取った





いや リクだけではない…







用って何だよ つか妙にげっそりしやがって
妖怪かと思ったじゃねぇか』





神操機から出てきた半透明のコゲンタも
その辺りは同様に思っていたようだ











〜「夜中を過ぎたら」〜











しかしその言葉には答えず、金色の瞳は
ただただリクを見据えるばかり





「少し 話したい事があるんだ…いいか?」


「あの、どのような…?」


「……俺の宿主の事だ」







の苦々しくしかめた顔つきに


内容に対するものすごい不安を感じ取り
コゲンタが真っ先に口を挟む





絡みの厄介ごとを解決しろっつー
相談はゴメンだぜ?』





凛とした可憐な顔が見る影も無いほどに


この上なく険悪な目で が半透明の
式神を睨んで吼える





「違ぇよ、こっちはマジなんだ黙ってろ白猫」


『んだとやんのかチビ狐ぇぇぇ!!』


「背はほとんど変わんねぇだろぃ!
しばくぞゴルァ!!」






ほとんど殺気に近い闘気をまとって口ゲンカをする
その姿は、ヤクザ同士の恫喝と変わりない







始めこそは仲裁をしていたものの


全く己の声が届かないのを認知し、リクは
静かに 問いかける







「…コゲンタ さん」


「『ああ゛!?何だよリク!!』」







勢いで視線を向けた二匹は―そこで凍りつく







「僕に本気で怒られる前に ケンカをやめて
仲直りした方がいいと思わない?」






張り付いた笑顔のまま、小首をかしげ





晴れやかな空さえも染めんばかりの
禍々しいオーラを背負うリクにようやく気付いて







おおおおオレが悪かった!ちょっと言い過ぎた
だから仲直りしよう なっ!!』


っおう!いや俺こそ大人げなかった!
こっちこそすまねぇコゲンタ!!」





冷や汗ダラダラ垂らしまくりながら式神二匹は


先程までの態度を百八十度変えたのだった











辺りはもうすっかり暗く、時計の針も
十時をとっくに過ぎていた





規則正しい者ならば 床についている筈の


いや…夢の中に旅立っていてもおかしくは無い時刻







「あーよかった、野球なんかのせいで
間に合わなかったらどうしようかと思った〜」





寝巻き姿でTVの前に陣取って
お菓子袋とココア片手に チャンネルを合わせていた







ってコラファイル整理したら
寝るんじゃなかったのか!!」


「えぇ〜だって知ってるでしょ?
この日はこのアニメを見る日なの」





怒鳴るはTVを指差す


そこには最近始まって間もない
深夜アニメのOPが流れている





「お前あんまりこういう話は見ないだろ?
しかも夜中って…!」


「だあってぇ これに出てくる司令官の人と
敵の幹部の人すっごくカッコいいんだもんV







OPに出てくるキャラの名前を呼びながら
嬉しそうに笑うその姿は


ヤクモを追っている時とよく似ている







っ!お前ヤクモさん一筋じゃねーのか!」


今も昔もこれからもヤクモ様一筋よ!
けど〜それとコレとはべーつ♪」





ニッコリと笑いながら、はお菓子袋を
開けて 中身をパクリと口に運ぶ





んな理屈が通るかぁぁぁ!それと
夜中なんだから菓子とかも禁止のはずだろ!?」


「ちょっとぐらいならいーじゃーん
後で歯だって磨くからぁ ね、お願いお願い♪


「お前それで全部許されると思うなコラァァァ!!」











こうしたやり取りは 今に始まった事ではないらしい







「…前からちょいちょい夜更かしするクセは
あったんだけどよ、その番組のせいで余計に
ひどくなっちまってな」


「はぁ…そうなんですか」







短い相槌しか打てぬリクに構わず、
深い深いため息と共に指で額を押さえ





「注意しても直んねぇし 朝寝坊とかも
増えてきててよ…俺までとばっちり食ってんの」





おかげでやつれたしこの隈だ、と


まるで残業に喘ぐ中間管理職のようなセリフを
年若い闘神士と式神に吐く





……彼女自身もコゲンタとそう変わらぬ立場で
あるだろうにも関わらず、である







『で、相談ついでにグチりに来たってか?』


むしろグチだな 言わなきゃやってられっかよ」





不機嫌に呟き、は出された茶をすする









リクとコゲンタは頭の中で今聞いた話を
整理しつつ 互いに顔を見合わせる





の奴、ミーハーなんだな
まぁ あいつらしいっちゃらしいのか?』


「夜中にファイル整理って…いやそれより
ヤクモさんファイルって…?」







前からの夜更かしについても気になったらしく
聞こうと、どちらかが口を開く前に





「あー…夜更かしするクセがつき始めたのは
ちょうどヤクモさんの事を知ってからだな」





が 先に答えを提示する







「え、あ、そうなんですか…大変ですね」


「ちゃんと寝なきゃ集中力が欠けて、ヤクモさんの
役に立つ事だって出来ねぇって言ってるのに」


「まぁまぁ さんはそれだけ強く
ヤクモさんの事を思ってらっしゃるんですよ」





相手の気を落ち着かせようと和やかに話しかけるも





「だったらなおさら睡眠をおろそかにすんのは
本末転倒だと思わねぇか?リク」






と軽く睨まれつつ言われると、あっさりと
リクは言葉に詰まってしまう







呆れ顔で耳掃除をしつつ代わりに彼が口を開く





『なーんかくだらねぇなオイ
そんなもんヤクモに頼めば、あっさり解決』


言えるかよ!確かに解決はするだろうが
その後、のヤツが俺にする事を考えると…!」





比喩なしで白い肌が分かりやすいくらい青ざめ
ガタガタと身を振るわせる彼女の様子を


一人と一匹はどこか納得のいく顔で見つめ





『わ、悪ぃ 今のはオレが悪かった





またしても済まなそうに謝るコゲンタ







「ったく、相談はおろかこーいうグチが吐けんのは
お前らの前だからだっつの」







湯飲みを口に運んでいたリクが、思わず動きを止める







え?マサオミさんには、相談しようと
思わなかったんですか?」


「『それはない』」





リクの一言を 二匹は揃って否定する







「…やっぱり、さんは マサオミさんを
信用してないんですか?」





少々悲しそうな言葉を、肯定も否定もせず





「それ以前に アイツに貸しを作りたくねーだけ
俺はアイツが個人的に嫌いだから」







端的にはそう答え コゲンタもまた





『そこはオレも同意したい』





と腕を組みつつ頷いた









茶をゴクリゴクリと飲んでから、
くわぁっと大きな欠伸を一つ







「眠そうですね」


「眠いよ のせいでここの所は…特にな…」







リクの問いかけに目をシパシパさせつつ
答えて頭を左右に振るが





やがて やって来た眠気に耐え切れなくなったらしく







「あ゛ー…眠ぃ 悪ぃ、ちょっと…寝る…」


『えっオイちょっと待』





コゲンタの制止の声も届かぬうちに、睡魔の世界に
引きずり込まれ は卓上に突っ伏す







自分のその状態を予測してか 先程の湯飲みは


既に中身が空の上 己の手が届かぬ位置に
置き直されている







「…よっぽど疲れてたんだろうね」


『ったく、黙って寝てりゃそこそこ
可愛いツラしてんのによ』





声のボリュームを下げて話す両者の目は穏やかで優しい





『…なぁリク こいつに毛布か何か
かけてやろうぜ、風邪引かせんのもなんだしよ』


「そうだね」







立ち上がってリクは寝室へ行き、持ってきた
タオルケットをの背にかけてやる









「リクくーん いるー?」





そこに 玄関からどこか間延びしたような
女の子らしき声が彼を呼ぶ







扉の前には、やはりというか何と言うか
気まずげな顔をしたがいた







「あ、さん どうしました?」


「あのね が帰ってこないの
…そっちにお邪魔してないかな?」


いるぜ、今ちょうど誰かさんのせいで
寝不足がたたって寝てるとこだよ』





ボソリと言ったコゲンタの一言に
が目を丸くする





そんな事まで言ったの!?のヤツ…
何か、迷惑かけちゃってごめんね」


「いいんですよ ただ…」







困ったように笑う彼女に





「夜中を過ぎたら、眠った方がいいですよ?」





微笑みながら リクはそう言う





さんは さんの事を
相当気にかけてたみたいですから」


あんまり夜中に色々しすぎて、アイツを
心配させすぎんじゃねぇよ』






二人の言葉には笑みと共に首を振る





「……うん、分かった ありがとう」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:との絡みは本気で久々になる
この二人との話です


リク:展開やテンションはいつもと変わりませんね


コゲンタ:つかコレ お前のことだろ
夜更かしも深夜アニメも菓子食うのも!


狐狗狸:Σはっ半分はね…でもミーハーな所は
モデルから持って来てますよ 


コゲンタ:なんつーかのヤツ、同じ
式神のクセに異様に苦労してねぇか?


狐狗狸:こき使われてるから に(笑)


リク:あの…お二人はウチに来る前、ひょっとして
ケンカされてたんですか?


狐狗狸:ご名答 それでまぁまた
家出する形で飛び出しちゃったわけです


二人:…なるほど




実はここだけの話、サブタイは某秘密結社
キャラの寝起きセリフから…うわっなにすr