日没で空の端が黄金に染まる頃





日の色に淡く縁取られた雲と、いまだ
薄青い空を切り取って


白い月が ぽっかりと







『アイツ…何やってんだろ』







俺は天を仰ぎ、ここにいない宿主を思う







実体はないのだが ある時のクセで
庭の窓にある縁側に座り込んでぼんやりしてる





普段は家事やらワガママやらに追われて
こうしている時が一番幸せなんだが







昨日からそういった雑事から開放されて


喜び勇んでいたのは 実質ほんの数時間





…気が付けば、手持ち無沙汰になった
今の状況に飽き飽きしてたりする







『っていやいやおかしいだろ俺





ブンブンと首を振って自分で自分にツッコミ入れる











〜「夕暮れの月」〜











思えば今までの契約者が二人揃って
ほぼ毎日っつっても差し支えねぇほど
呼び出しまくってたのが特殊なんであって





大抵は戦う時とか、滅多な用がねぇなら
降神しねぇのが普通だろ







なのに"掃除しなきゃなー"とか思って
ついついホウキを手に取ろうとしちまうし


気が付けば"タイムサービスに遅れる"とか
考えて 時計チラチラ見てたりするし


台所を行ったりきたり…





『いや、どーせアイツいねぇんだし思いっきり
羽が伸ばせるチャンスじゃねぇかよ』







言い聞かすように呟いて





俺は縁側にごろりと仰向けになって目を閉じる







アイツが戻るまでの間のこの束の間の平和を
満喫するには、寝るのが一番









そう決断して眠ろうとしていた矢先に、





さーん、いませんかー?」





玄関の方で 聞き覚えのある声がした







…それは、かつての俺の宿主と同じ流派でありながら
宗家に敗れてから仲間となったガキの声





あの戦いが終わってからデカイ会社の社長になり


それからは滅多に会えなかった相手







『……しょーがねぇな』





俺は身を起こすと、窓を抜けてそのまま
玄関へと向かい そこから姿を現した









、ずいぶん久々だなソーマ』


「久しぶりーさんは?」





以前よりも少しだけ成長したソーマが
戸口に立ったままニコニコと笑いかけてきた







…思ったとおり、期待している笑みを浮かべてる


これを崩すのはちっと辛いが 嘘を
ついても仕方が無いからな







『わざわざ仕事の合間縫って着てくれた所
悪ぃんだけど、の奴はいねぇんだ』


えぇっ!どうしてさ!!」


『アイツ 昨日から修学旅行とかいうのに
行ってっから明日まで戻ってこねぇの』









一昨日の夜中に何度も荷物を確認しては
ニヤニヤしていたの浮かれようと





夜明けもまだ早い頃から


「お土産、楽しみにしててね〜」と





見送る俺へ手を振っていた笑顔は、記憶に新しい









『てゆうか、闘神士だったら旅行でも
普通は神操機持ってくよな?』







ソーマの横に現れたフサノシンの言う事は正しい





普通の闘神士だったら、どんな時にも
対応できるように神操機を極力手放しはしない







…でも は"普通"には当てはまらない







『平和になったし 俺がいると楽しめねぇから
留守番代わりに置いてきやがったんだよアイツ』


『ありえねぇー…』


「うーん…さんらしいね」





唖然としてる二人の言葉は、悪いが俺には
同意することしか出来ない







まぁ 何はともあれワザワザ来てもらってて
申し訳はねぇんだけれど


がいないと分かったなら帰るだろうと





『降神されてたら、家にあがってもらって
茶ぐらい振舞えるんだけど…悪いな』





高を括って侘びの言葉を口にする





が、落ち込んでいたハズのソーマの口の端が
何故かニッと吊りあがる







「いーよ その代わりさ」


『その代わり…何だよ?』


「ワザワザこのためだけにスケジュール調整
したから、その間ヒマなんだよね」





大人のような口調で捲くし立てながら歩み寄り





「だから しばらく話し相手になってよ





上目遣いで誘うようにささやいた







この反撃にちょっと驚かされるが、俺は
動揺を見せる事無く 呆れたように返す





『立ち話でか?』







そこでハタ、とソーマの顔が子供らしいものに戻る







「うーん…やっぱり寒いよねぇ外は、
ファーストフードの店に行ければいいんだけど」


 お前どーせ降神されてねーんだし
そのままオレ達について来いよ、迷わなきゃな


『一言余計だアホウドリ』





からかうように笑うフサノシンに一瞥くれてから
改めて目の前の相手を見つめ直す





社長って仕事がどれだけ大変かは知らないが


前まで気兼ねなく会えてたのが、ぱったりと
顔を見せなくなるぐらいではあるようだ







そんな中でいなかったとはいえ
会いに来た奴の頼みを無下に断るのもなぁ…


あと、この様子じゃ簡単に引きさがんねぇだろうし







『…そうだ、ソーマお前 闘神符持ってるか?』


「一応何枚か持ち歩くようにはしてるけど…なんで?





首を傾げるソーマとフサノシンに笑いかけ





寒い思いをしないで済む方法を知ってんだよ
話し相手してやるから、縁側に来な』







言って 俺は家の中から縁側へと先に歩いていく











庭の縁側に座り込み、





「闘神符ってこういう使い方も出来たんだね」





"暖"の字で囲まれた結界の中で 温かそうに
くつろぎながらもソーマは感心したように呟いた







『あー…言いだしっぺの俺も
まさか本当に出来るとは思ってなかったけどな』





俺は苦笑まじりで頭をかく









元々はこの時期、外に出たりなどの行動に
辟易していた





もー、何で寒いのぅ〜! 火出して!」





しょっちゅう俺を呼び出して焚き火をさせたり





「寒い寒い寒い〜





と連呼しながら冷たくなった手や頬を
尻尾やら身体に容赦なく引っ付ける事が多くなり







とうとう耐えかねた俺が、





「そんな寒いなら闘神符で暖でもとりやがれ!」







半ば自棄になってへ叫ぶと







「……そのアイディア いただき!」





その言葉で逆に閃きを得たらしく、
アイツが闘神符でイメージして編み出したのが―







この"冬でもぬくぬく暖房結界"だった









って意外と変なとこで知恵回るよな』


『それについては否定はしねぇ、つかできねぇ』


「これさー夏なら"冷"にすれば、猛暑も
乗り切れるよねー」


『まぁ クーラーは使わなくてよくなるな』


「…闘神符の効果に固定がかけられるなら
特許が取れそうなスゴイアイディアなのになぁ」





眉を潜めて言ったソーマは、まさに
仕事をしてる大人顔負けの表情をしている







『子供のクセに商売人の顔になるなよ
んな事ばっか考えるより、空でも眺めてみろよ』







言って、俺は二人に指し示す







金色に染まった端と淡い色に縁取られた
何とも言えない色に輝く雲の広がる群青の空と





そこにまだ浮いている 白い月を







わー…久々にこんなキレイな空見たよ」


『ソーマ ここんとこ室内にこもりっぱだったもんな』







素直に喜ぶその顔を見て こちらもつい
釣られて笑顔になっちまう







さんも 同じ空、見てるかな…」


『見てるんじゃねぇかな きっと』


「そー言えばは、僕とさんが
仲良くしてても咎めないんだね」





これまた急に、何を言うやら…





『知らない中じゃねーし、お前は
マサオミみたいに邪まじゃないだろ?』


『まーアイツは下心ミエミエだよなー』





違いない、と笑いあったのを皮切りに







俺達はお互いの日常を色々と話し合う









『まだ大戦の決着がついてねぇ頃はもうちっと
戦ってたんだけどな…今じゃすっかり所帯じみちまったよ』


『お前んトコは元々だろー?オレなんか、
ソーマが社長になってから更に甘えん坊さが増して』


『それこそ元々じゃねぇかバーカ





…つもりがいつの間にかお互いの宿主のグチ
発展し、睨み合いにまで進展していた







「二人ともケンカするなよー、てゆか
フサノシン 余計な事言うなよっ!」


『ふーん、それじゃあ朝起きた時に歯磨き
手伝ってーっていまだに言ってくるのは誰』


「あああぁぁっもう!!」





慌てふためいて言葉を遮るソーマを眺めながら





『ウチとどっこいどっこいだな…本当』







ため息混じりに俺は呟いた







『あとソーマの好みってさ、やっぱ銀髪
ツインテールなんだぜ〜秘書が同じ格好だし』


「わああぁっ黙れよフサノシン!」


『それってもろナヅナ意識してんだろ…むしろ
よりも先に会いに行けよな』







特に他意はなく言った言葉は
ソーマにとっては結構キツかったようで





行ったよ!でも…留守だったから…」





うつむいたその顔に、見る見る涙が溜まり始める





『あぁ、そうか からかって悪かったよ
ほら泣くな!ゴメンってばソーマ!







必死で謝り倒すと、ソーマはスッと顔を上げて


ひょいっと涙を引っ込めて笑った





「…へへ 引っかかった〜


『今のソーマは一々それ位じゃ泣かなくなったんだぜ
案外騙されやすいなお前』


『んだよ、心配して損したぜ』







フサノシンと一緒にケタケタ笑っていたソーマが
急に 真面目な声で言った







「でも僕、のそーいう所結構好きだよ?」


『…は?』


「もし僕が七歳年上だったなら、
十分守備範囲になってたかもね?」







クスリと笑いかけて こちらに視線を寄越す
その仕草はに時折見せるそれと同じ





"子供"じゃなく、どこか"男"を思わせる









…本当 妙な所だけ大人びてやがる







『式神からかうには十年早いんだよ マセガキ』





そう呟いて、ソーマの頭に
当たらないチョップをかましてやる





「冗談だって 本気にしないでよ」


『そーそー、色気のカケラもねぇコイツを
好きになったって』


お前らぁ 今度降神された際には覚えてろ?』







二人に捨てゼリフを吐いてから





俺は、もう一度だけ ボンヤリとした
白い月を仰いでを想った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:かなり久々に狐で闘神士との絡みを
書きたいなーと思って、ソーマとの話にしてみました


ソーマ:一月末で修学旅行っておかしくない?


狐狗狸:いや、季節は冬の間ってことで
大まかにしか決めてないから 一月でもないよ


フサノシン:うっわアバウトだなお前


狐狗狸:なんとでも抜かしなさい


ソーマ:てゆうかさんならまだしもナヅナや
のこと、そんな風に思ってないんだけど


狐狗狸:まーウチの狐はさておき、
ナヅナちゃんは結構意識してるじゃん公式でも


フサノシン:大戦が終わった後 秘書が
ツインテールになったのも事実だしなぁ


ソーマ:Σフサノシンっお前どっちの味方だよ!




風景の描写と、大人の面を見せるけれど
それでも子供なソーマを書いてみたつもりです