温暖化って言葉が一般的になって


ソレの危険は相変わらずニュースなんかで
思い出したように漠然と伝えられている





が、大事な事だって分かってはいても
そこまでしっかり行動に移せる人は少ない







せいぜい今ぐらいの季節に


"温暖化のせいで気温の上がり方が
ハンパじゃない 今年の夜も寝苦しい"


なんて言って眉をしかめるくらいだ







…偉そうに言うオレも大したことはしていない





「個人と家庭で出来る限りの節制と
環境保護をやってるくらいだ」


「いや、それが出来るだけヤクモさんは
ちゃんと環境の事考えてると思いますよ」





テーブルの向かいに座るちゃんが
湯飲み片手にうんうんと頷く





「そうかな…普通だと思うんだが」


「そーでもないですよ、俺が見る限りじゃ
ウチもまだまだ改善の余地ありですし」


ちゃんは毎度エコバックで
買い物に行くじゃないか」


「俺はまぁ前からのクセで…でも
は結構そーいうの抜けてて」







釣られてオレも苦笑する





話題にされた当の本人は、今頃学校で
真面目に勉強してるんだろうなとぼんやり思いつつ











〜「いつか輪は破られて」〜











夏休みだし少し顔を見ていくのも
悪くないかなと気が向いて





ちゃんのお宅にお邪魔したら







「えっ…ヤクモさん!?


「あ、ゴメン どこかへ出かける所だったの?」







滅多に見た事の無い夏服姿ちゃんが
カバンを手に玄関を出た所にかち合った







「はい、学校の方で夏期講習があって…」


「おーいっハンカチ忘れてる!」





声と同時に顔を出したちゃんも
ハンカチ片手に立ち止まる





あれ?ヤクモさん、何でここに?」


「ただちゃんの顔を見に来ただけなんだ
ちょっと間の悪い時に来ちゃったみたいで…」


「あー、そうっすねスイマセン
こいつ講習に出ないと成績ヤバイらし…っ痛!


「余計な事言わないでよのバカっ!!」


痛たたたたたた!マジ痛ぇって加減しろ!!」





よっぽど恥ずかしいのか顔を赤くしながら
両手で彼女を叩くちゃん







「もうその辺でカンベンしてあげなよ
悪気は無いんだろうし」


「はっはい、ヤクモさんがそう言うなら…」





オレが諌めると彼女はすぐに大人しくなった







「でも元気そうで良かった それじゃ
夏期講習がんばってね」





言ってその場を立ち去ろうとすると





「あのっヤクモさん、今日って何も
用事は無い日なんですか?」





赤い顔のまま上目遣いで この子が訊ねる







「あたし講習、長くても二時間くらいで
終わらせてきますから…それまで家で
待っててもらえますか!?」


「いやいやいや待て、それカナリ
無茶なこと言ってんだろ」







確かにちゃんの言う通り


問われた要求は強引かつ無茶苦茶だ





…でも、ここの所立て込んだ用事はないし


じっとオレを見つめるクリっとした茶色の瞳が
どこか構ってほしい子犬のように見えて





彼女らしいその反応に負けてしまった







「いいよ オレは今日特に用事ないし」


「っていいんですかヤクモさん!?」


「ワガママ聞いてくださってありがとうございます!
本当にすぐ帰ってきますから!!」






嬉しそうにパァッと笑顔を綻ばせてから
ペコっと頭を下げて





、帰ってくるまでの間
留守番とヤクモさんのお持て成しお願いね!」



「あいよー気をつけてな」





慌てて走っていくちゃんを見送り









「……じゃスイマセンけど、どうぞ」


「こっちこそ お邪魔します」







丁寧な対応でお茶の間まで案内してもらって





冷たい麦茶とお菓子をいただきつつ
取り留めなく二人で会話を交わして









話の流れがいつの間にかエコ方面になったんだけど


どっちが言い出したんだっけなぁ…?







ともかく、その手の話が意外と盛り上がり


今はゴミの分別や処理の工夫で話している







「ゴミの分別で、割れ物の処理が
中々厄介なんですよね」


「割れ物は回収する人が怪我をしないように
箱に入れるか厳重に包んでおく手間があるからなぁ」


「ですね、あと生ゴミなんかも水気があるから
捨てるのに手間がかかりません?」


「生ゴミはウチだと畑とかの肥料にしてるよ」





ちゃんはポン!と手の平を打つ





「なるほど〜ウチには庭はあっても畑はないから
肥料にしようが無いんだよなぁ」


ちゃん家にはコンポストとかってないんだ」


「無いみたいですね、花壇も無いですから」







言われてみれば花壇は無かったけれど…





「家庭菜園やハーブなんか最近流行ってる
みたいだし、植木鉢で育てたりしないのかな?」


「あー…気を抜くと枯れるから
育てたくないそうです」







微妙に視線を逸らしているトコからすると


半分は彼女の本音が混じっているかもしれない





…どうしてだか、ちゃんが植物の面倒を
主に見ている姿が浮かぶし







「じゃあリュージ君に頼んでみたらどうだい?
彼なら野菜を育てているから、よろこんで
引き取ってくれるんじゃないかな」


「そう思いますけど、毎度生ゴミを
渡しにいくのもちっと気が引けません?」


「うーん…少し微妙ではあるな」







こうして聞くとゴミを減らすのも家庭によって
中々大変なんだなと改めて実感していると







「そうだ、帰って来たら
エコについて色々説得してくれませんか?





唐突に頼まれて 少し面食らってしまった





「え…それならちゃんから
協力してもらうよう言えば済むんじゃないか?」


「いや、それがアイツ忙しいだの何だのって
理由付けて聞きゃしないんですって!」





ブンブンと千切れんばかりに手を横に振り





「説得が無理でもヤクモさんが環境保護について
色々考えているのを知れば、多分あいつも
ちゃんと意識し始めると思いますし!」







妙に力説するちゃんの様子に
思わず気になって問いかける





「…そんなにちゃんってエコに無関心なの?」


「契約して初めの頃とかはTVつけっ放しとか
本当アレでしたもん」









それからズラッと並べられたのは


子供とかならよくやりそうな、電気のムダ使いや
分別されてないゴミの捨て方とか





…なるべくなら"気をつけようね"って言えるものばかり







「いつだったか天ぷら作った後の油を、そのまま
流しに捨てようとしたことがあって焦りました」


「それは…ちょっとマズイかな」







当時の話によると、片付けを手伝ってくれてたらしく


料理はほとんど前の式神に任せてたから
油の捨て方が分からなかったのだとか







「今は流石にその手のは減りましたけど
夏や冬の温度が極端な時期も、エアコン付けすぎて
電気代やガス代が嵩んだりしますよ」


「え、請求書まで目を通すのかい?」


「いやまぁ…払うのは俺じゃないって
分かってても ついつい気になっちゃって…」





本気で専業主婦みたいな口振りに


普段の彼女の行動が透けて見えるのが
どことなく切ない









関心が無い云々で言うなら確かに
無関心の結果でもあるし





それらに気をつけるのがいい事ではあるけど







「…そこまで厳しく言う必要は無いと思うよ」


「そうですか?」


「うん エコってのは個人で出来る範囲から
始めていくものだからね」





真っ直ぐに視線を向けながら、オレは続ける





「それにちゃんもちょっとずつは
そういうの気をつけてるんだろう?」


「ええ、はい…」


「なら 強制したりあんまり押し付けずに
本人のペースに任せるべきだよ」







二、三度金色の瞳が瞬き 彼女から謝られた





「そうですね、スイマセン…前の所は
その辺しっかりしてたから ついその感覚で…」


「環境の事を心がけるのは悪いことじゃないよ
要は自分のペースで少しずつ守れればいいんだ」


「勉強になりま…うぉっ!?





出し抜けにガトン!と鋭い音がした





「ああ、カレンダーが落ちてきたのか」


「ビックリした…留め具が緩んでたみたいですね
ちょっとアレつけちゃうんで待っててください」







立ち上がって、一旦別の部屋へと移動し





椅子を手に戻ってきたちゃんが


壁に椅子を立てかけ 座席を踏み台にして
落ちたカレンダーと留め具を手に壁を睨む







「また落ちるとがうるさいからな…
もーちょい上に付けとくか」





危うげな状態で足を伸ばしつつも


どうにかカレンダーを取り付け終えて







「これでよし…っと、お、おぉ!?


「危ないっ!」





一息ついた途端に 彼女が足を滑らせたので


咄嗟に身を起こし、床に叩きつけられる
直前で小さな身体を受け止めた





「よかった…気をつけなきゃダメだよ
式神だって怪我したら痛いだろ?」







支えられながらも体勢を直して







「そうですね、油断しててスイマセンでした
助けてくれてありがとうございます





素直に謝りながらも、ふっと
柔らかく微笑んだちゃんを見て







一瞬 身体中が熱を持った気がした









そんなわけ…そんなわけ、無い







彼女は妹みたいに思ってる女の子の式神で


口は悪いけど家庭的で優しい、いい子で


こうして話してると楽しいって思える





…そう それだけのハズ







「どうかしましたか?ヤクモさん」


「いや…気にしないでくれ」







それ以上の追求をされたくないオレに
味方するかのように





「ただいま〜」





玄関の戸が開いて、ちゃんの声がした







「あ、あいつ帰って来たみたいなんで
お茶もう一人分用意してきますね?」





さっきの頼みは気にしないで下さい、と
呟きながら 銀色の式神が台所へ消え


入れ違いに式神の主が現れる





「戻りました〜遅くなって本当に
ゴメンなさいヤクモさん」



「お帰り そんなに待ってないから大丈夫だよ」


「そう言ってもらえると嬉しいです〜
あの、側に座ってもいいですか?」







こくりと頷けば、彼女はやや遠慮がちに
二つの湯飲みの合間へと座った





「そう言えば あたしが帰ってくるまで
二人で何の話をしてたんですか?」


「ああ、温暖化とかについて…かな?」


「なんだか難しそうですね〜でもあたしも一応
エコとか目指してるんですよ?」


「うん…ちゃんから聞いてるよ」







楽しげに笑うちゃんの笑顔





普段なら釣られてオレも楽しくなるのに







どうしてか、チクリ微かに胸が痛んだ








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:えーと、テーマ的には"対象外の人を意識したら"
って感じで書いたんですが…どーなんだこれ


ヤクモ:自分の胸に聞いてみろ


狐狗狸:……はい ひどい出来ですねスイマセンでした


ヤクモ:分かってるならいい、それにしても
ちゃんの主婦っぷりは上がる一方だな


狐狗狸:否定は出来ませんねー…前の所で仕込まれて
がそれを最大限発揮させてるので


ヤクモ:環境の事についても影響されてるみたいだしな


狐狗狸:いい事だと思いますよ?強制するのは
少しアレだってのは同意ですけど


ヤクモ:でも何でワザワザ環境保護の話を?


狐狗狸:あー…この夏の暑さと職場にて目に付いた
"エコ袋カード"が起因してます(苦笑)




教訓:自分の出来るペースで環境大事に
高台に登ったら足元注意(ちょっ…!)