知り合って、側にいられるぐれぇになって
そこそこ経つけれど
あんたはいまだに 手放しでは懐かない
鈍いって思われちゃいるけれども
あっしだけは気付いてるさ
本当は、無意識にうそぶいてるだけだと
一体 どのぐらい言葉を重ねれば
どのぐらい触れ合えば
あんたは、照れや意地を捨てて懐いてくれる?
ねぇ……さん
〜「嘯く貴女に、覆いを」〜
「……寒ぃな」
ぽつりと小さな呟きが向かいから漏れる
「雨降ってやすからねぃ」
「んなこたぁわかってらい」
不機嫌そうな呟きが戻ってきて、思わずあっしは
喉の奥で笑みを零す
「…何がおかしいんだよ オニシバ」
「あまりにも普段通りの受け答えだなと
思っただけでさぁ」
「悪かったな、愛想が無くてよ」
そんなに眉をしかめちまって…
せっかくのベッピンが台無しですぜぃ?
でも、ずっと寒い穴倉に足止めじゃ
さんが不機嫌になんのも頷ける
洞窟の入り口を見やるが、相変わらず雨は
激しく地へと叩きつけられている
伏魔殿であってもお天道様は気まぐれで
この娘と会えた途端に、空から
ポツリポツリと雫が振り出してきやがった
慌てて駆けて 目に飛び込んだ洞窟に
入り込み、こうして雨止みを待っている
…この範囲は現世の季節とさして変わりはなく
火の気のねぇこの岩穴は、寒さに慣れてる
あっしですらちぃと堪える
もう一度あの娘に視線を戻すと
屈んだまま強張った身体を抱きすくめる両腕を
しきりに擦って震えている
…あちらさんは余程冷えると見える
「さん、一人で離れて寒かないんで?」
「…別に」
「声が震えてんなぁ気のせいですかぃ?」
「あぁ気のせいだろ」
まったく強がっちまってまぁ
「離れてるより、も少し寄ってた方が
マシだと思うんですがねぇ さん」
言ってこちらへと手招きをする
この娘はじっとあっしを見つめながら
しばし悩んだ後に、
「…寄るのはいいが 抱きつくのはナシな」
身を起こし 側へと寄り添ってきた
「あっしだって、そうそうちょっかいを
かけたりはしやせんよ」
「どの口でウソ吹いてやがんだテメェは」
二人きりであっても、きつい口調と
睨むその視線は変わらない
それが時折 ちょいと空しい
「なぁ、寄ってもあんま変わんねぇぞ」
「せっかちですねぃさん
そんなすぐにゃ温まりやせんよ」
それでも、くっついてる腕の辺りは
ほんのりと体温を分け合っちゃいるのだが
忍び寄る寒さはそれっぽっちじゃ補えない
「っちきしょー 燃やすもんがありゃ
楽に暖が取れんのによぉ…」
六花の種族の中でも火の術に長けているらしく
さんは印なしで火を生み出せる
…しかし、燃えぐさがねぇ上に
この雨で空気がじっとり湿ってりゃ
その力も使いどころがないわけで
重々承知してるからこそ、イライラと
尻尾をぱたつかせているのが伺える
「たく、なんでこんな日に限って
伏魔殿に雨なんか降りやがるんだ!」
「お天道様に文句言ったって始まらねぇでしょ」
「うるせぇよ、んなことは分かってらぁ!」
「…その乱暴な物言い もうちょっと
抑えられやせんかねぇさん」
ギッと、金色の目が鋭くこちらを向く
「こっから早く戻れるか、このクソ寒いのが
どうにかなんなら考えてやるよ」
吐き捨てて この娘は完全にそっぽを向いちまった
……まったく、ワガママなこって
焚き火が出来ねぇ以上、互いに寄り添って
抱き合うぐらいしか無さそうなのに
寄り添うまでしか許してくれない上に
こうやって無茶な文句まで突きつけて…
温厚なあっしでも、少々腹が立ってくる
上着をさんに貸してやれればいいが
さすがに今の時期でこの天気だと
羽織るもんがなきゃ 式神だろうと風邪を引く
一張羅で包んで腕の中に囲えば、大分
寒さはしのげるだろうが
それには長さがちょいと足りねぇみたいだ
「頬…赤いですねぃ」
ボソリと呟くと、さんはようやく
こちらへ首を向ける
「だから寒いんだっつ…オニシバ、お前
何やってんだ?」
あっしが上着の右側を摘んで広げたのを見て
慌ててこの娘は止めようとする
「上着かけようとしてんだったらいいよ
そこまでしてもらっちゃ寒いだ」
「半分は、見当違いってとこですねぃ」
「…はい?」
首を傾げるその様子に構わず、左側も
同じように広げると
そのまま覆いかぶさろうとして
さんはとっさに立ち上がって
斜めへと横切って向こう側へ逃げる
「なっ、何のつもりだ!?」
「寒さをどうにかしようとしてるだけですが?」
威嚇するかのように上着を広げたまま
じりじりとあっしは距離を詰める
「ちょっ…なんでにじり寄ってんだ」
「そりゃまぁ、ねぇ?」
「ねぇじゃねぇよ お前少し止まれ!待て!」
ため息混じりに ゆっくりと首を横に振る
今更、そんなワガママが聞けますかぃ
少しの合間 さんは逃げ回っていた
…豪雨の降りしきる外へ飛び出す気はないらしく
あくまでこの空間で動き回っている
しかし…ろくな燃料も無く、しけった空気で
火もロクに起こせねぇ岩穴の中じゃ
奥まった隅まで追い詰めるのは時間の問題だった
「や…寄るな!来るなっ!」
「そいつぁ聞けないねぇ…」
岩壁に張り付くこの娘へ一歩ずつ近づきながら
あっしは、淡々と言葉を続ける
「もう逃げられやしないんだし
観念してもらいやしょうか、さん?」
この後の状況を回避できないと悟ったらしく
「…っ、わかった」
身を強張らせて俯くと、目をきつくつぶり
それきりさんは押し黙る
おやおや…一体何をすると思ってたんで?
ふっとその姿を笑ってから
あっしは 上着で包み込むようにして
その小さな身体を抱きこんだ
…思った通り、ちょいと足りなかった丈も
壁で挟んでいるのと 抱きしめて
密着してることで十分補えているようだ
「目、開けても平気ですぜぃ?」
「う…え?」
ゆっくりと目が開き、この娘はあっしの顔と
自分の周りを見回して
「オニシバ、何だよこれ」
「これで ちったぁ寒さがしのげますぜぃ?」
「ま、まさかこれをやるためだけに
俺をここまで追い詰めたのか…?」
ちょいと意図的に脅してたのは認めやすが
素直に話しても、意地っ張りなあんたは
大人しくくっつかせちゃくれねぇでしょう?
いまだに目を丸くして驚いているその顔を
覗き込み くつくつと笑ってささやく
「期待してやした?さん」
「巫戯けんな離れろそして死ね」
…言ってる言葉はいつもよりも辛辣ながら
その赤い頬は隠せてないようで
「そいつぁ、あっしの目を見てから
言ってもらえやすかねぃ?」
「うるせぇ」
「でも、温かいでやしょ?」
更に言葉を重ねりゃ、上目遣いにこちらを見やり
「……温かいよ その、ありがとな」
さんは ようやく素直に口を開く
「どういたしやして…それにしても
耳の先も赤くなっちまって、痛そうだねぃ」
「いいよ触んなく…んっ」
「頬も、こんなに赤く染まっちまって
さぞかし寒かったろうねぇ」
「っこれは、その…」
頬に触れた手をアゴまで下げ、
ちょっとだけ持ち上げて目線を合わせる
「おやおや 唇まで赤くなっちまって」
「おいオニシバ、お前ワザとや…っん」
そう言いながらも、抵抗する素振りは
まったく見えやしない
二つの覆いの中でなら さすがのあんたも
うそぶく事を止めてくれるようで…
あれ程うっとおしかった雨音が
今だけは、心地よくすら響いた
雨が止み、外へと出られるようになった途端
さんはすぐさま洞窟から飛び出し
早く帰ろうとせがむ
…さっきまでの甘えようが ウソのようだ
「雨は止んでもまだ寒ぃねぃ さ…」
もう一度だけ抱きつこうと伸ばした手は
ハリセンによって勢いよく叩き落とされた
「一々俺に抱きつくな、この変態発情色情魔犬!
お前なんか近所の雌犬がお似合いだっ!!」
普段のように言い放ち、この娘はあっしから
ずりずりと後ずさりをする
いくらなんでもその物言いは傷つくねぇ
あっしはため息混じりにサングラスをずらす
「…口が悪い狐だねぇ、ちょいとキツく仕置き」
「Σスイマセンでしたっ!」
おやまぁ 威勢がいいのは口だけかぃ
…でもこれを言うと、またあんたは意地張って
ケンカ腰になるんで 胸の内でのみ呟く
覆いが無くとも、あっしの前でうそぶくのを
この娘が止められるのは……いつの事やら
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:かーなりブランク空いたオニシバ夢ですが
何とか書けました…
オニシバ:またぞろ似たようなネタを…
狐狗狸:それは言わないで下さいってぇぇ〜!
つか相変わらず、あの後何したんですか?
オニシバ:そいつを聞くのは野暮ってもんでさぁ
狐狗狸:…まーその後のの発言からして
何やったかは大体想像できそうだけどね(苦笑)
オニシバ:早いトコ、二人きりでもさんが
甘えてくれる話を書いてほしいもんでさぁ
狐狗狸:……長らくの間 お疲れ様でした
オニシバ:そりゃどーいう意味ですかぃ?(銃構え)
二丁主体の出番と私の人生 終了☆(う゛ぉぉい!)