オレが彼女と会ったのは、ちょうど夕方くらいの時間





「…何でテメェがここにいんだよ」


「相変わらずキツい言い方だね、オレだって
偶々ここを通る事だってあるだろう?」


「ほとんどは白々しく偶然を装って、だけどな」





渋い顔をしているのは ちゃんという
天流の闘神士の式神、六花の





同じ流派だから仲良くしようと言っても


彼女には手ひどく嫌われている







オレが前に因縁のある相手だと
無意識に気付いてなのか


それともちゃんに寄ってくるオレが
個人的に嫌いなのか





…ああ、両方かもしれない







とにかく 買い物帰りらしい彼女と
路地でバッタリと鉢合わせした







ちなみに冒頭の辺りで言った言葉は
今の時点において本当だ





……ただ、ちゃんが言った通り


偶然を装ってちゃんやリクに会う方が
圧倒的に多いからそう思われて無いだろうけど







「目当てのモノは買えたのかい?」





膨らんだ手提げ袋を見つめつつ聞いてみると





ハッ、テメェにゃ関係ねぇだろ」





普段通りの突っぱねた返事が戻ってくる







いつもならここでオレが余計な事を言って
ちゃんをからかって


そのままなし崩しに口ゲンカが始まる





…そう、いつもならば







「まあ そうかもね」





同意してゆるりと笑ってみせると


途端に彼女が目を真ん丸くした











〜「それは逢魔刻の幻」〜











「っ何だよ気色悪いな…お前、何か
変なモンでも食ったのか?」


「そう言うわけじゃないよ」


「ああそう、じゃあ俺行くから」







そそくさとその場を立ち去ろうとした所を





「待ちなよ」





短く、けれどもやや強く止めてみせる







「はぁ?何だよ一体?」





立ち止まり こちらを見やる金色の目を
真正面から見据えながら





「どうせ特に用事も無いから
ちゃん家まで送ってってあげる」





すっかり板に付いた爽やかなスマイルを披露した







普通の女の子には、これだけで大抵は
イチコロなんだけれども





オレの事を良く知っている人や


ましてオレを毛虫の如く嫌っている
ちゃんには 全くといって効果は無い







「俺が方向音痴だからってバカにしてんのか?
それとも俺をダシにと会おうって魂胆か?」





値踏みするような険のある眼差しを


ごく自然な動作で 首を横に振って流す





「どっちもハズレ、たまにはちゃんが
ちゃんと帰れるようにしてあげようと思っただけさ」


「……どうだか、何か企んでんだろ?」


「疑うならそれでもいいよ オレは
何もせずついてくだけだから」







しばらく間を置いてから、ちゃんは
くるりと背を向けて





「ああそう じゃ勝手にしろ」





言い放って足早に歩き始める







「それじゃお言葉に甘えさせてもらうよ」





やや後ろの、許容範囲内の位置を維持しながら
オレは彼女へとついていく











今回はそこそこ遠目のスーパーまで
買い物に行かされたのか





ちゃんの家まで それなりに距離がある







「そこ、左だよ」


ぐっ…それぐらい分かってる」





時折、最低限ながらも的確に指示をすると
悔しげに呻きながらも軌道修正がなされる









「なぁ 何で俺を送る気になった」


「さぁね、気まぐれって奴かな?」







笑いながらのその一言に嘘はない







特にこれといった目的はなく、本当に彼女が
ちゃんと帰れるよう家路に付き合ってあげるだけ





きっと"いつも通りのオレ"ならば


何の見返りもなしにこんな事をしはしない







…自分で言うのもなんだけれど、本当に
気まぐれが働いたんだと思う







「お夕飯は、何を作ってあげるの?」





そんなオレの様子に調子を狂わされてか







「鶏肉と野菜がそこそこ安かったから
簡単に、ポトフって煮込み料理にするつもり」





ちゃんの口調は、いつもよりも
やや和らいでいるような気がした









「荷物重そうだね ちょっとだけ持とうか?」





ちょっとだけ近寄って袋に手を伸ばすフリを
してみると、瞬時に距離が開かれる





いい、これくらい自分で持てる」


「そっか…交代したくなったらいつでも言ってよ」


「…そいつぁどうも」





口に出す台詞はトゲを引っ込めているが


態度や身振りは、あまり普段と変わっていはいない







あくまでオレに対する疑いを捨てきれず


けれども現状に戸惑ってもいる…





そんな心境が透けて見え 内心クスリと笑う







「今 心の中で俺をバカにしたろ」





不意に視線を投げかけられ、驚いた


…勿論 顔には出さないけれども





「そんな事はないよ 別の事を考えてただけ」


「ミエミエの嘘をついても俺にはわかるんだよ」







"予測の式神"の勘はバカに出来ないらしい





感心しつつも、オレはふぅと悲しげにため息







ちゃんってさ、ちょっと黙ってれば
結構可愛いのにね」


「…んな安い台詞 言われても嬉しくねぇよ」





憮然とするその顔へチチチと指を振り







「君は確かに式神だ、でもそれと同時に
一人の女の子でもあるんだぜ?」





微笑みかけながら、さり気なく空いている手を
取って優しく握ってみせた







「何だよその手は…俺を口説く気か?」


「それも悪くなかったりして」





楽しげに言ってみると 掴んでいた手は
とても勢いよく離れた





「…冗談はよしてくれ」


「今のは割りと本気だったんだけどな」





呟いてみせると、白い肌に赤みが差した







夕焼けの光ではない 赤







「お前っ、狙いじゃなかったのかよ?」


「勿論そうだよ」







さらりと言って見せると、ちゃんが
呆れたような顔でこっちを見つめ





次の瞬間 片手で額を押さえて呻く







「……俺はお前の事が時々本気で分からなくなる」


「よく言われるよ」







これ以上の会話が無駄だと悟ってか





息を吐いて 再び歩き出した彼女について
オレも足を進め始める









つややかな銀髪は黄昏時の日によく映えて


獣然とした狐の耳と尾が、夕暮れの空気に合わせ
柔らかく振動している





紙のように白い肌に黄金のような瞳を携えた
少し幼なめながらも凛とした横顔


腕の中に納まりそうな小柄な身体…







「本当、黙ってたら騙される男の一人や二人
いそうだよなぁ…」


「何か言ったか?」


「いいや何でも?」





否定すると、興味が無かったのか
聞こえなかったのか 今度は追及されなかった





変な所では鈍いんだよなーこの娘


…まぁだからこそ 好きになった奴が
いるんだろうけど(約二名ほど)







今更言うのを忘れていたのだが


オレのパートナー・青龍のキバチヨは
家でマンガ読みながら 留守番している





そうでなきゃきっと、最初にちゃんと
会った時点で顔出してただろうし


こうやって一緒に歩いてもいなかっただろう







……悪いとは思いつつも、キバチヨの不在に
少しだけ感謝した











他愛ない話をしながら、特に何事もなく
ちゃん家に辿り着いた







「それじゃ、次は迷子にならないように
気をつけなよちゃん」





立ち去ろうとするオレを 彼女は不可思議だ
言いたげな顔で見つめている





「…本当に帰るのか?」


「言ったじゃない、ちゃん家に
送っていくだけだって…じゃあな」







手を振って今度こそ退散しようとして







「待て マサオミ」







ちゃんに引き止められた







無言のまま、問いかけるように顔を向けると





「テメェは気にくわねぇけど…送ってくれた
礼は別にしなきゃいけねぇだろ?」







やや苦々しい表情をしつつも 彼女が
家の玄関を指し示す







あがって、とちょっと話でもしてけよ
茶ぐらいなら入れてやる」


「…珍しい事もあるもんだね」


「別に テメェと同じ気まぐれだ」





"気まぐれ"か…


その単語が妙におかしかった





「そっか、ならお言葉に甘えようかな?
ちゃんにはちゃんと説明してくれるよね?」


「…面倒くせぇけどやってやる」





ぶっきらぼうな発言に、笑いながらオレは
お宅へと招かれた







そう…全ては逢魔刻に起こった幻


たまにはこんな気まぐれでの話も悪くない








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:普段ケンカ腰の相手が態度を変えて
そのギャップにこっちも戸惑う…的なモノを目指し


マサオミ:そして撃沈したのだった〜


狐狗狸:Σオチを先に言うなぁぁ!!


マサオミ:だって読めちゃうもんその台詞は
ちゃんでなくたって


狐狗狸:そこは敢えて黙っといてやってよ!!


マサオミ:けど、確かに彼女は黙ってたらそこそこ
可愛いと思うし ちゃんと一緒に
立ってたら結構普通に女の子してるんじゃない?


狐狗狸:同意 ウチの子はみーんな性格で
損してる部分がデカイのです


マサオミ:そーいうキャラと駄文しか書けないクセに


狐狗狸:うむぐぐぐ…




書き忘れてましたが、これは大戦中の設定(のつもり)
となっております…色々抜けた文で失礼しました!