ユーマくん、大丈夫ー?





壁の向こうに向かってが問い掛けると、


すぐさま返事が返ってきた





「こっちは大丈夫だ…横に気にくわねぇ赤頭がいる以外はな」


好かれる気など毛頭ない、それに
こうなった原因は 貴様の闘神士が」


何だと!?あんなんでも俺の宿主だぞ!!」





「二人とも 喧嘩しちゃダメなのー!







壁の向こうではどうやら 険悪なムードが広がってるらしい












〜「smoke herrings(2)」〜













「ともかく この壁を壊すしかなかろう
ユーマ、印を切ってみろ」





壁の向こうが落ち着いたのを見計らい、


ランゲツが壁の向こうに聞こえるように喋りかける





「よし 印を切るぞランゲツ!」







壁の向こうで印を切る音を聞きながら、


が後ろに下がり 代わってランゲツが壁の前に出る





壁越しに印を受け取れたらしく ランゲツが剣を構え







「烈紙大逆剣!」





技の名を叫び、凄まじい剣技が炸裂した!









しかし 攻撃が収まっても壁は傷一つつかなかった







「え…ええ〜!?」


「う 嘘だろ…オィ…」


「ワシの技で 傷一つ付かんだと…!?」


「一体 何で出来てるんだ、この壁!?







四者の間に動揺が走るが、思い立ってが距離を取り





「ユーマくん 次はあたしが何とかしてみるよ〜
ちょっと下がっててね」





闘神符"爆"を取り出すと 壁に向かって投げた













壁を挟んで、二人は様々な印や符を試みたが


どうやらこの壁には 闘神符の効果
式神の攻撃も、全く効果が無いようだった









「どうなっているんだ この壁は!?」





壁の向こうでユーマが叫び、ダン!と恐らくは
両拳を壁に打ちつけた音が響く







「何なんだろうこの壁〜これだけ色々やっても、ビクともしないね」





疲れたように溜息をつく
壁の向こうからが声をかけてきた









「なぁこの壁といいこの屋敷といい
やっぱおかしいだろ色々と」







「確かに 何者かの作為を感じるな」





呼応するようにランゲツが答える





「とすると、屋敷自体が何かの罠である
可能性が依然 高くなってきたな」







ユーマの呟きを最後に 皆は一時沈黙する











「仕方ないから…この屋敷を移動して
どっか合流出来るところ探そう?」









の言葉を皮切りに、


お互い別ルートでの屋敷散策が始まった













「全く…二年の月日が経って 成長したかと思えば
行動が余りに軽率すぎる…心底呆れたぞ」


「はうぅ〜ゴメンなさい〜…」









道すがら ランゲツの説教に耳を痛めながら


はとぼとぼと屋敷内を散策していた











「うう…あたしコノ人苦手なのに…」


「何か言ったか?」


「何でもないですっ」







慌ててランゲツに返事を返す











二人は散発的に出没する妖怪を 体術
どうにか捌きつつ、通路から通路へと歩き回る









しかし、一行にユーマとに合流できず







の体力と我慢は 限界に近づいていた











「このお屋敷、嫌になっちゃう 入り組んでるし
妖怪多過ぎだし 情報ないし…帰りたい


「今更泣き言か なら何故こんな所へ来た」


「っだ だって神流に関係あるって聞いたし…」











後に出かかった台詞を はすんでの所で飲み込んだ











(例え関係なくても 悪い妖怪を退治すれば
ヤクモ様に誉めてもらえると思ったもん)













思えばが 妖怪退治などと言う行動に乗り出したのも







全ては"ヤクモ様の為" だけの一念である











「他に何かあるのか?」


「え、あ、いやアハハ それにしてもユーマ君に
は何処にいるんだろう〜」







問いかけに 至極不自然な誤魔化し方
が切り替えしたその時、










「また行き止まりか!
貴様わざと迷ってるだろこの方向音痴式神!!


うるせぇ!伏魔殿に迷い込まないだけ
マシだと思いやがれ赤頭!!







向こうの方から 聞きなれた口ゲンカが聞こえてきた









「ユーマ君 そこにいるの!?





二人の声が聞こえてきた方向へと駆け、
は曲がり角を曲がった







そこに、知り合いと自分の式神の姿があると確信して








そこにいるんだな!?











だが 曲がった先にあったのは









袋小路のような部屋だけだった











「何コレ!?ユーマ君と


また壁挟んで向こう側なのーー!?」










ガクリと落ち込み 半泣きになりながらが叫ぶ







「もういや、あたし帰る!一人で帰るぅ!!


『待て 落ち着け!!』







周りの者達が止めるのも聞かず


一人で帰ろうとヤケ起こして闘神符"道"を取り出した矢先、









廊下の向こうから 大きなクモのような妖怪
子グモを大量に引き連れて、じわじわと近づいてくるのが見えた









Σいやーっ 何かこっちに中ボスみたいなの出てきたー!!」







後退るに 後ろの壁からが問いかけてきた





「なー、それってクモみたいな奴
周りにやたら沢山チッコイのがいるのか?」


「そうそう どうしてわかったの?







「…俺たちの目の前にもいるんだよ、そいつが





どうやら、向こう側も似たような状況らしい








えいっ!えい!あっちいってよっ!!」







四者が 符や斬撃などでクモ達を蹴散らそうと奮闘するが


避ける動きの方が早く、焼け石に水だった





刻一刻とクモ達の包囲網は狭まっていく







「くそっ こんな妖怪ども、普段ならオレとランゲツの
敵ではない…だがこの状況は…」


「うにゅ〜せめて隣にいるのがだったら…っ」







壁を背に 妖怪に追い詰められていくを見つめ





ランゲツが背中越しに、低く呟いた







「聞こえるか六花の


「ばっちり聞こえるけど 何だよ?」


「この壁 ワシ等の攻撃符の効果を跳ね返すが、
印は受け取れる これなら……」







どうやらその言葉の意味に 早くも気づいたらしく





「今回は俺とアンタは意見が合うみたいだな…ランゲツさん」





会心の笑みを含んだような返答が返ってきた







「ユーマよ」


「おい!」









式神二匹は 互いに壁越しの主人に呼びかける







「「壁越しに(俺・ワシ)が印の指示を与えるから
その通りに印を切れ!」」








闘神士二人は 瞬時、隣にいる式神の顔を見、





「…わかったよ !」


「行くぞ、ランゲツ!」





僅かな迷いを振り切って 神操機を構えた










「散るがいい…烈紙大逆剣!





っ 六花閃撃図の印に続けて
焔狐演舞陣だっ!!」



うんっ!わ…ありがとう、ランゲツさん!」


「油断するな
ユーマ、手を休めず追加の印を叩き込め!」



「わかっている…っ!





「気ぃ抜くなユーマ!、次は幻術の印!」











壁越しに互いの式神が指示を出し


それに答えるように闘神士が印を切り続ける





お互いの声が 印が壁を通り抜け


周りを囲うクモ妖怪達を、次々と蹴散らしていく







最早、今の四者にかなう者は いる筈もなかった















「ねぇユーマ君 こっちは片付いたよー」


「こちらも一匹残らず掃討した、しかしこの壁を如何すべきか…」









ユーマが目の前にある壁をじっと睨む










「……なぁ、今気づいたんだけどよ」







が壁と天井の間辺りを指差す







「あの一箇所、不自然に穴開いてねぇ?









つられて見たユーマもそれに気づき、試しに闘神符"爆"
穴に向かって投げてみた





符が爆発を起こした後、カチと機械的な音がして


目の前の壁が徐々に上へと上がっていった









「ユーマ君!!一体これどうなってるの!?」





駆け寄ったが 驚いたように尋ねた





「仕掛けの作動で壁が動いたようだが…何なんだこの場所は?


「さー?でも皆そろったんだから もうこんな所から出ようよ
幾ら調べても神流にも関係ないっぽいし、もう妖怪いないみたいだし」


「お前はぶっちゃけ面倒くさくなっただけだろーが」


それは言わないのね 帰ろ帰ろ?」









の一言に ユーマはきっぱり首を振る







「初めに言ったがオレは任務でここに来ている
全ての妖怪を退治したか確認しなければならない」


「帰りたいのなら お前達だけ帰るがいい」





ユーマに続き ランゲツもスッパリ言い捨てる







ふーんそっか…じゃあそうする、ありがとうね二人とも」









その言葉であっさりと はユーマとランゲツにお礼を言って







 帰るよ?」


「え、あ…おう」









を引きつれ さっさと屋敷を後にした













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「お帰りタイザン ご苦労様」





「ガシン、貴様 呼んだのに何故来なかった?


「えーだって、あんな古臭くて妖怪ばっかの屋敷で
引越しの手伝いなんて 面倒くさいじゃん」







やぶ睨みするタイザンなど 何処吹く風とでも言うように







「そういや前から聞きたかったんだけどさ、
あの屋敷ってタイザンがコッソリ建てたのか?」





軽やかな微笑を浮かべて、マサオミは聞いた









「そんな訳あるか…元は地流が闘神士を手早く作り出す為の
訓練施設だったのだが、色々と不都合が見られたので
閉鎖されていた物だ」







感心した様に マサオミがへぇ、と呟く







「成る程 そこをオレ達が勝手に使わせてもらってたってわけか」


「まぁ、そういう事だ」





ため息をつきつつ 腕を組みながらタイザンは言葉を続ける







「しかしその事に感づいている者も出始めたので、
引き払おうとした矢先に二匹もネズミが潜り込んでな


何とか時間を稼いでいる間に、作業を終えれて良かったが」





そこでタイザンが 思い出したようにマサオミを睨み





貴様がいれば もっと早く片がついたんだ」


「まぁまぁ、もう終わったことだろ?
…所でさタイザン ネズミってどんな奴?









マサオミの問いに、タイザンは口元を笑みの形に歪める











地流の宗家天流の者だ…いずれ、我等と
あいまみえる事があるかもしれんな」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:やっと続き書きました〜展開的にはシリーズの
「歪んだ残像」前辺りなんじゃないかと適当に考えてます(ヲィ)
ホントにホントにスミマセンでした…(汗)


ユーマ:その台詞は聞き飽きた、一つずつ説明してもらおうか
…まず、最後にがオレに帰ろうと言ったわけから


狐狗狸:多分 帰るからついでに誘っただけだと思います
本人にとっては特に意味のない行動?(マテ適当謝)


ランゲツ:次にが望んで妖怪退治に来たのに、
手の平を返したようにあっさり諦めた事




狐狗狸:これは作中でもが言った通り、
面倒くさくなったから と探索中に神流の情報も見つからなかったから




マサオミ:オレとちゃんの絡みがないのは?(黒笑)


狐狗狸:今回君ら神流二人組は、裏方だから(何)


タイザン:施設の不備やその他諸々について、
キッチリ語ってもらおうか


狐狗狸:…面倒くさいので 今日はコレでおしまい!(逃)


全員:コラ作者!!(怒)




ちなみにタイトルの"smoke herrings"は直訳すると
「燻製のにしん」となります


「元の目的から目を逸らさせる」という意味があるので
それにかけたシリアス話を目指して書きました


…出来上がったものはシリアスとは程遠いシロモノですが(苦笑)




施設の不都合は、まー簡潔に妖怪の異常出現とか施設の維持が
困難とか ご想像にお任せします(待てやコラ適当謝)