二月二日の午後四時四十五分







「明後日 あたしと一緒に太刀花荘に
来てもらえないかなぁ?」









道で出会ったばかりのがユーマにこう言った









「出会いがしらにどういう意味だ 


「そのまんまの意味だよ?」







渋い顔のユーマと対照的にニコニコ顔の







「…なぜオレが しかも天流宗家の住処
こなければならんのだ」


「だって もう頼めるのユーマくんしかいないもん」


「知るか、他のやつにでも頼め
これでもオレは忙しいんだ!」


「そこをなんとか〜ね?お願いお願いお願い〜!!


「ああもうウルサイ!」









道端でしばらく二人の言い争い(?)は続いていた












〜「節分戦争」〜













そして翌日、二月三日の午後二時三十六分









太刀花荘の前で待っていたの前にユーマが現れた







「頼みを聞いてくれてありがと〜ユーマくん」


「…あまりにお前がうるさいから来ただけだ」







憮然とした顔をするユーマだが、頬が
ほんのりと赤くなっている









嬉しそうにニコニコと笑みをたたえ







「で、さっそくこれに着替えてほしいんだけどー」







は衣装を差し出した







ユーマは無言で 衣装を受け取り











その衣装と、の顔とを交互に見比べた









「これは鬼の格好か?


「うん!」







満面の笑みを浮かべる











…若干 沈黙した空気が流れ、







「やっぱり帰る」







きびすを返し、一歩踏み出そうとする
ユーマの服の裾を が両手で掴んだ









帰んないでよ〜せっかくみんなで節分しようと
リクくんとソーマくんにも声かけたのに〜」


ますます嫌だ!他の奴等にそんな間抜けな姿を
見せたくなどない!!」







必死で振り払おうとするが、服をつかむ手は離れない







「着替えてちょうだい お願い〜





上目遣いで目を潤ませ、が頼み込む







その可愛らしさは普段のギャップと相まって
大抵の男心に効果抜群の一撃







…しかし、彼女の性格をある程度
把握してるユーマには





じっと見つめるの姿が逆に恐ろしく見えた








(こいつのことだ…着なかったら強制的にでも
着させるつもりに違いない)









「……今回は大人しく着てやる」


ホント!?わーいありがとー!!」











二月三日の午後三時七分









太刀花荘の前に 着替えを終えたユーマと
リクとソーマ、そしてがいた







アハッアハハハハ!
ユーマくん鬼の格好似合いすぎ〜!!」


「指差して笑うな!!」







目を吊り上げるユーマの現在の格好は


鬼の角ヘアバンド、首から下だけの全身タイツ(
トラ柄のパンツにオプションで金棒…





どこからどうみても立派な赤鬼







おまけにタイツとトラ柄パンツは妙に
クオリティが高い







「だって似合ってるから仕方ないじゃん
リクくんやソーマくんもそう思うよね〜?」







笑うが 二人に同意を求める







「え、えと あの…」


さんが頼んだのに笑いすぎじゃあ…」







ユーマの格好(もしくはの態度)に引いてか





或いはユーマの視線に気圧されてか





リクとソーマの二人は言葉を濁しつつ
若干、後ろに下がっていた







「てゆうか、ランゲツさんにまで衣装は
やり過ぎじゃねーの?」







の顔にも 斜線が入っている









ランゲツの格好もユーマとさほど変わらず
クオリティの高さも同じぐらいだ





ただ、タイツの色は黒い









「ワシが鬼とは…些か不本意だな」







いつもの憮然とした顔をさらにけわしくして
ユーマと並んで立たれると 怖いくらい似合う







何も知らない子供が二人を見たら





恐らく泣きながら全力で豆をぶつけるだろう











「やはり脱ぐ!そして帰らせてもらう!!」







耐え切れず憤慨して、帰ろうとするユーマ





が寂しそうにため息をつき、







「あーあ、せっかくさんが作った衣装なのに
ガッカリしちゃうだろうなー」









その一言に ユーマの動きがぴたりと止まる









「え、あの衣装 さんのお手製なんですか?」


「そうなの、一昨日頼んだら作ってもらえたの」


「ロココ調じゃないよこれ」


「それだと全力で否定されそうだったから
わざわざ念を押して注文しといたの」







すごく残念そうにしてたけどね、と付け加える









一筋の汗が頬を流れるが 気を取り直して
ユーマが口を開く







「…一応着たわけだし オレにはもう関係な」


「それに〜」







だが彼の弁解を無視し、の言葉は続く







「引き受けるっていったのに、約束破るなんて
男として卑怯な気がするなぁー」


「でっでもさん いくらなんでもこれは…」


「リクくんは黙っててくれるかな?」







助け舟を出そうとするリクを
笑顔に潜ませた圧力で沈黙させ





ダメ押しとばかりに は最後の一言を放った







「きちんと約束も守れないで 立派な地流宗家に
なれるものなのかなぁ?












フッ、とユーマは小さく笑い





「そこまで言うなら…全身全霊をかけて
鬼役をやりきってくれる!」








瞳に炎を宿らせ 握りこぶしを作って宣言した







「そうこなくっちゃ〜……ふふっ」


「兄さん…上手く乗せられたのに気付いてない…!」







こっそりと不敵な笑みを浮かべたことに
ソーマだけが気づいていた







「地流宗家のぱぅわーを見せてくれる
覚悟しろ !」






決意十分に 力強く指差すユーマ





「よーし、あたしも張りきって豆投げるんだから!」







言って が後ろに回していた両手を一旦離し









意気込んで胸の前で組んだ手の中には、
黒光りする少し大きめの銃があった







「「「「ちょっと待て何だそれーーー!!」」」」





男四人の総ツッコミがその場で唱和する







はきょとん、とした顔で四人と手元の銃を見比べ







「何って?特製の豆鉄砲だけど?」


「そうじゃなくて、何でそんな銃を
持ってるんですか 怖いですよ!?


「ああ大丈夫大丈夫 これオモチャだから」





目を見開いて驚くリクに、気楽な感じで手を振って





「毎分200発撃てる電動式なんだって
最近のオモチャってすごいよね〜」







キラキラした目をする







その姿に リクは呆然とするしかなくなった









ソーマが銃を指差して







「豆鉄砲って…ひょっとして、今日の豆まきに使うつもり?」


「だって、一度やってみたかったんだもん
節分で豆鉄砲を鬼に発射するのを!!









あまりに危ないその発言に、ユーマは怒りをあらわにし







「それは豆まきとして反則だろ!」


「「問題点そこ!?」」


「そうだよ でもそんなの関係ないもん♪」


「「言い切ったーーーーーーー!!」」





ボケ二人組とツッコミ少年ズのやり取りを


いつの間にか離れた場所を陣取って
式神二人は冷静に見つめていた







「…俺の宿主のボケぶりは知っていたが
ユーマのやつも 相当なもんだな」


「否定はできぬな」







そんなランゲツとのやり取りも気づかぬ四人









「ならマサオミ辺りを鬼にすればよかったろ!」


「もちろん頼みに行ったもん、そしたら
嫌な予感するからって逃げられちゃって〜」


「さすがマサオミさん、危機察知能力
長けてるよね」





うんうん、とリクが納得したように頷く





「えっちょっと リクまで…」


「だから本当 鬼役頼める人がユーマくんしか
いなくって〜本当ありがとうね!


ふざけるな!そんな節分ならばオレも帰」


怒鳴り声を上げるユーマを無視するように







「さあそれじゃ、豆まき始めるよー!
みんなーがんばって避けてね☆







笑顔で宣言し、銃を乱射した





たちまちユーマに そしてリクやソーマにも
豆の弾幕が降り注いだ







「問答無用かーーーー!?」


さん 僕らにも豆当たってます!
というよりこれ節分じゃないで…イタタ!!


「兄さん、リク、とにかく太刀花荘の中に逃げよう!」







ソーマの一言で 三人は太刀花荘の中へと入っていった









「逃がさないわよ〜特に鬼は!







銃を構えなおし、もまた太刀花荘の中へと
入っていった…











「あいつら、完全に節分の仕来たり
無視してやがるな…ちょっと止めてくるか」


「無論 ワシも行くぞ」







深いため息をつき、式神二人も後を追った













二月三日の午後三時四十八分









この日、太刀花荘で行われた豆まきは
もはや 戦争に近いものであった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ユーマ話でギャグ夢 そして節分絡みを
書きたかったのでガガーッと書きました!


ユーマ:で、当日に更新か


狐狗狸:うん 本当はこの豆まきの様子も書きたかったけど
やたら長くなりそうなんでこのやり取りだけにしました


ユーマ:…なぜオレがボケなんだ!だけだろ!!


狐狗狸:いや、なぜも何も あなたは立派なボケキャラです


ユーマ:なんだとぅ!?(目から炎)


ランゲツ:ワシまでこの衣装を着る意味があったのか?


狐狗狸:仕方ないじゃないですか、さんがあなたの分まで
用意してくださったんですから


リク:僕 気弱な役ばっかりですね…


ソーマ:てゆうかコゲンタとかフサノシンが出ないのは何で?


狐狗狸:とりあえず私のサイトでは リクくんは一応白だから
あと、コゲとフサがおらんのは仕様です(爆)


コゲンタ:ほぉ〜う 本当はテメェの手抜きだろが!


フサノシン:だよね、二人で豆投げねぇ?


狐狗狸:ぎゃー実体化してた!って痛だだだ!!
豆投げないで 式神の力で豆投げないで!!!




鬼の代わりに狐狗狸がしこたま豆を食らったそうな