「… また、稽古を抜け出したのか?」
降神されて 襲いかかった妖怪を退治した後
霜花のクロイチが振り向いて 開口一番に
自分の闘神士のへ溜息混じりに告げる
は整った表情を少し不機嫌そうに歪める
「別にいいでしょ あんな、無理やり
行かされてるだけのレッスンいくらサボっても」
それに答えるからは どうでもいい、という
感情が思い切りにじみ出ていた
「自分の都合だけで勝手に抜け出すのはよくない、
それに親も心配するだろう」
「固い事言わない あなた、私の式神でしょ?
折角降神したんだし、何して遊ぶか考えてよ」
溜息混じりのクロイチの言葉など気にも留めず
口の端をにっと吊り上げては言った
〜「命令違反」〜
の家はかなり裕福な家庭で 一人っ子だった
物心つく前から 両親は彼女を教育係に任せきりで
教育係はに家庭教師や色々な習い事に通わせていた
初めは真面目にその日々をこなしていた彼女も
だんだん嫌気がさしてきていた
そんながつい最近 クロイチと契約を結んだ
一人でいることが多く、親しいものが近くにいない
にとって クロイチは丁度いい退屈しのぎに移ったのか
降神している していないに関わらず
彼はのわがままに 毎度毎度付き合わされる羽目になる
「何か面白い話をして」
「どうせだからこのまま海にでも行きましょ?」
「ペット用に妖怪でも捕まえてきてよ」
「あなたに似合う首輪を買ってあげるから 選びなさい?」
彼女の望み通りにしても、はまた新たに無茶な要求をし
あまりにも出来ない要求だと断れば
「あなた式神でしょ?それなのに出来ないの?」
と冷たく突き放される
それでもクロイチはの態度に対し、愚痴を零すことなく
に答え続けた
彼女の式神だということもあるが、に対して
特別な感情を抱きつつあることもまた事実だった
しかし 先月の誕生日を迎えた辺りから
のわがままはエスカレートしていった
クロイチに対する態度はもはや、八つ当たりに近く
流石に彼も辛抱できなくなりつつあった
「、もうそろそろ遅くなる 帰ったらどうだ?」
彼女の要求を何とか叶え、クロイチは若干疲れの滲んだ声で呟く
しかしは首を横に振りながら
「嫌よ、まだまだ遊べるでしょ?」
とこの上なく楽しそうに笑う
「…もうじきこの辺りは暗くなる、女のお前は
狙われるかもしれんのだぞ?」
「そしたらクロイチが守ってくれるでしょ?」
いさめる様なクロイチの言葉に、は不適に微笑む
「そういう問題じゃない、それにお前の気力だってもう
かなり減っている…早く家に帰って休め」
途端には冷めた目をして冷たく吐き捨てた
「どうでもいいわあんな家、どうせ二人とも
私を邪魔者としか見てないんだし…あんな家族なんか要らない」
それが、クロイチの堪忍袋の限界だったのか
「ねぇ!どうせならこのまま二人で家出でも―」
のその言葉を遮る様に ぱしん、と乾いた音が響いた
「…っ 何するのよ!」
ようやく事の起こりを理解し
は 叩かれた右頬を抑え、クロイチを睨む
しかしクロイチはその目をじっと見つめ返す
「叩かれて尚 口にしなければ自分のいった言葉の
愚かさが判らないのか?」
「な…何よ あなた、私の式神のくせに
私に偉そうにお説教でもしようって言うの?」
彼の言葉の迫力に 少したじろぎながらも
負けじと言い返す
それに構わず クロイチは言葉を続ける
「確かにお前の境遇は不幸とも言える、だが今のお前は
恵まれている事に気づかず甘えているだけだ」
「知ったようなことー」
「オレはお前より辛い境遇の闘神士を 何人も見てきた」
言い返そうとするを 厳しい口調が遮った
「皆、自分の境遇を嘆きながらも 精一杯闘っていた
……だが お前は逃げている、目の前の境遇に闘う事から」
クロイチの言葉が容赦なく の耳を突き刺す
「…だったら どうしろって言うのよ」
痛いほどの静寂を破ったのは 俯いたままの
「私は今まで父さんや母さんに構ってもらいたくて努力してきたわ
望み通りのいい子をずっと演じてた…」
言いながら 上げた彼女の顔には自嘲気味の笑み
「でも二人は私の事なんかかまってくれた事なんか無い、
物心ついたときから ずっとよ?」
それが彼女の言葉とともに、ぐしゃぐしゃに歪んで
「誕生日だって本当は、豪華なプレゼントなんか要らなかった…
父さんや母さんと、一緒に 会話をしたかったのに…!」
悲鳴のような声で は大粒の涙を流して泣き出した
はじめて見るの様子を、クロイチは
無言で眺めていたが
やがて、静かにに歩み寄り 口を開いた
「ならば、本人にそう伝えればいいだろう」
「…っでも、二人とも、忙しいから、って私の事
全然相手にしてくれないし…っ」
泣きじゃくるの涙を クロイチは指ですくい取る
「子供であるお前が何故 親に気を使う?
諦めず何度も話しかけて、届くまでわがままを言えばいい」
涙をあらかたふき取り それでも不安げに見つめてくる
の頭に、そっと手を乗せて
「心配するな 」
「…ク…ロイチ……」
「オレは"進路"を司る式神だ…お前が望む道まで導いてやる
だから、闘う事から目を背けるな」
手のひらの温かさと優しい言葉に の涙は止まらず
しばらくの間 地面に涙が吸い込まれていった
「…ようやく 落ち着いたか?」
の涙が乾いたことを確認し、クロイチが呟く
「ええ、その…ありがとう、クロイチ」
泣いた手前でばつが悪いのか 視線をそらしつつが呟く
辺りが暗くても判るぐらいに、頬が赤く染まっている
そんなの様子に 少々照れくさくなったのか
「…さぁ、帰るぞ」
そう言ってクロイチが足早に歩き出す
「ちょっと、勝手に一人で先に行かないでよ!」
慌てて後についていき、彼の手を握る
「何故オレの手を握る 手を引かねばならぬほど
疲労してはいないだろう」
「固い事言わないの あなた私の式神でしょ?
それに、導いてくれるって言ったんだから 私の役に立ちなさいよ」
困ったような顔をしたクロイチを見て、嬉しそうにが笑った
そして、クロイチも苦々しく笑う
「そうだな…お前が闘うなら、導いてやろう」
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:ようやく夢書きました…何か原作の雰囲気かけ離れてる
捏造的な夢を書いてしまいスイマセンでした…(土下座)
クロイチ:というより の頬を叩く描写に問題が…
式神の力では 首が折れてしまうぞ
狐狗狸:グロイ事言わないでっ!てゆうかビンタした時はきっと
怒り心頭ながらも手加減してたんだからっっ!君は悪くない!!
クロイチ:いいのかそれで…それよりオレの話を敢えて書くとはな
狐狗狸:だってアニメに君が出てれば霜花族勢ぞろいだったのにー
三人とも妙に私のツボをつくキャラしてたし
クロイチ:…そう言われても 仕方なかろう
狐狗狸:まあでも 一番はオニシバだけどさ☆
てゆーか二丁が一番おいしいポジションでグッジョブ!!
クロイチ:…本当に悲しんでるのか?(汗)
さん そして読者様、ここまで読んでいただいて
ありがとうございました!