季節に場所、時間すらもいい加減なこの世界の


見上げた空の色は絶妙な深さを保った紫





キレイではあるけれども今はあまり
見たくない色の空だ







「何だってアイツは…」





言いかけて 後の言葉をため息で濁す







起こっちまったことをグチグチ蒸し返しても
気分が悪くなるだけだ







俺らしくない雰囲気を変えたくて


適当に転がっていた軽めの木の実を二三個拾い





「一番初めは一の宮、二は日光の東照宮
三は佐倉の…」





それをお手玉代わりに数え歌を口ずさむ







しばらくこんな事をする機会が無かったから
腕がなまってるんじゃねぇかと思いきや


案外、身体は覚えてくれてたみてぇだ





クルクルと円を描いて右へ左へと
舞って落ちる木の実を見つめながら


終わりまで来た歌を再び繰り返す











〜「狐の歌に寄せられて」〜











あー何か楽しくなってきたかも…久々に
何処まで出来っか試してみようかな







「へぇ〜ジャグリング上手いね





唐突に響いた一言に、俺は木の実を取り落とした





「…き、キバチヨ!?何で!?







やや斜め後ろに佇んでいたキバチヨが
笑いながら木々の合間を縫って俺へ歩み寄ってくる







「あれ 歌やめちゃったの?続き聞きたいのに」


「聞いてたのかっどこから!!」


「えーっと、出だしの部分かな?」


「誰にも言うなよ あと歌ってたのも忘れてくれ」


「誰にも言わないってのは約束するよ
でも、忘れるのはノーだよ」





聞き捨てならねぇ一言に思わず詰め寄る





「忘れろ絶対忘れろ!
頼むから記憶から消去してくれっ!!」



「どーしてさ、とってもキレイな歌声だったのに」


「それがこっ恥ずかしいんだよ!!」







ひとしきり叫んでから気を取り直して問いかけた





「…で 何でお前がここにいるんだ?」


「理由はが一番良く知ってるんじゃない?」







キバチヨの切り返しに、思わず押し黙ってしまった





そう俺は今回 自分の意思でここにいた









きっかけは夏頃にリュージから裾分けしてもらった野菜







豊作続きだっつってたから覚悟はしてたが





…まさか、箱一面にみっしりナス
詰まったシロモンを渡されるとは予測外だった


おかげでメシには必ずって程ナスが
入るもんだから、いー加減も飽き飽きで







もーヤダ!このままじゃあたしナスになっちゃう!」


「ワガママ言わず食え、まだ半分も減ってねぇんだし」


「リク君達にも分けて少しでも減らそうよ〜」


「間に合ってると思うぞ」





お決まりのようなグチりあいが





「大体が"夕食浮いて助かるから"って
受け取るのが悪いんじゃない!」



んだと!?お前だって"野菜はヘルシーだし
結構好き"っつってたろ!!」





いつもの勢いで口論へ発展し







気が付けばいつもの勢いで







「…家出してきたんでしょ」





経緯を先取りした一言に、今度こそ俺は
呻き声を漏らした





「何で六花族でもねぇのに分かんだよ」


「だって聞いたモン 他でもない本人から」


「…要するに連れ戻すよう頼まれたのか、アイツに」


「そー言う事 察しがいいね〜」







話の脈絡からいって、それくらいしか可能性が
思いうかばねぇからな…でも







「探しに来てもらった所悪いが、今回ばかりは
が謝るまで帰らねぇからな」


ダメだよ!こんな場所にキュートな女の子が
一人でいたら危ないじゃないか」


「手垢所か風化しそうなぐれぇ古い言い回しだな
仮にも式神の俺が早々危険にあうかってんだ」





しかし目の前の相手はチッチと指を振る





「オ〜ゥ 分かってないねは!」


「何がだよ」







聞き返せば、急に真面目な顔になった
キバチヨがこっちを見つめて口を開く







「僕はあの変態ストーカー犬
注意しろって言ってるのさ」





"変態"の単語が出た時点で


俺は自分でも無様だと思えるほど盛大に吹きだした





「っななななななん、何でアイツが出てくる!?


「何言ってるのさ が話してくれたんでしょ
ここでよく顔を会わせるって」







ああそうだった、確かに話したな







や他の奴に言ってもロクに相手に
された試しがなくて


かと言ってアイツだと余計ヤバイ方向に傾くから
迂闊に相談やグチすら吐けず





そんな中、キバチヨは俺の話を
親身になって聞いてくれる方だったから


時として誇張を交えつつ悪し様にあの野郎を
罵った形でグチを吐いてた気がする…







でも それも全部あの変態が悪いんだ





やたらと俺が一人の時を狙って現れる


いけすかねぇ笑みを浮かべた、しつこくて
腹黒で変態の二丁犬が…!







「……、顔が怖いよ?」





ヤベ また顔に出ちまってたか





「悪い悪い、あの野郎の被害を思い出したら
ついイラっと来ちまってよ」


「そー言うの良くないよ〜アイツのことは
忘れて僕みたくスマイルスマーイルv







ホンット底抜けに明るいなコイツ…正直
少し羨ましくなる







「心配はありがてぇが、俺はここを動く気はねぇ」


「…強情だねは だったら
帰る気になるまで僕も側にいていい?」


「いやお前をつき合わせたら逆に悪ぃだろ
これはと俺のケンカなんだから」


「いーの、僕は自分の勝手でここにいるんだから
例えノーって言われても離れないよ?」







沈黙の後、ため息をついて俺は落ちたままの
木の実を拾い集め





「分かった じゃ少し付き合えよ」





言って先程の続きを同じように始めた







人前で歌うってのはあまり好きじゃねぇが


さっき聞かれて置いて今更黙ってても
絶対コイツが歌えとせがむのが目に見えてるからな…







あーもう 歌わなきゃよかった







「ねぇ、その歌誰に習ったの?」


「前の宿主だよ アイツ孤児院でガキ相手に
お手玉見せたりとか上手かったらしくてな」







まだあまり闘神士との関係に馴染んでなかった頃





俺が適当な小石でお手玉してたのを見たアイツが


手製のお手玉を取り出して、数え歌―というらしい
その歌を歌いながら目の前で腕前を披露して見せた





妙にその光景が気に入って


教えてもらったのを、一人の時にこっそり
やってみてたのを覚えている







「…なんで歌詞の意味は知らねぇ」


「そっか〜、でも関係ないよ の歌声
すっごいキレイだしCD出せちゃうんじゃない?」


「無理だろ俺式神だし」





けれどキバチヨはやたらと熱っぽく反論してくる





え〜そんな事無いって!
僕だったら絶対欲しいけどな」


「同感、あっしも聞いてみたいでさぁ」





少し前の繰り返しのように、唐突に声が響いて
驚いた手から木の実がすべり落ちる







…但し声の主は 今一番会いたくねぇ奴





「おまっ…どっから沸いて出やがった!!」


「よりによって妖怪扱いたぁヒデェや
泣いてもいいですかぃさん」


悲しいなら止めれば?ストーカー行為」





木陰につったってたオニシバがこちらに歩み寄り


キバチヨの対面上に立ちはだかる





「そーいうアンタは付きまとってるとは
言わねぇんで?」


「僕はをホームまで連れて帰る
約束してるからいいの」


「それが送り狼にならねぇ保証はありやすかぃ?」


「よくそんなセリフが言えるよねぇストーカーさん」







あぁまたかよ…





何でこいつらと一緒の時に出くわすと
俺絡みでケンカが始まるんだ


もしかして俺がいなきゃケンカしてねぇのか?





てーか居辛ぇ、ひたすら居辛ぇぇ…







暗雲のように立ち込める険悪なオーラに
いたたまれなくなって







お前らあてつけか!俺へのあてつけか!
大人しく帰りゃいーんだろコンチクショー!!」





二人へ向けて叫ぶと俺はさっさと歩き始めた







面食らった空気の後 二人分の足音と気配が
背後からついてくる







「一人で帰るからついてくんな!」


「「それは絶対無理(だよ・でさぁ)!!」」





こんな時だけハモんじゃねーチクショー!!





余計腹が立ったから何が何でも一人で帰る!
手助けしたら二度と口聞かねぇぞ!!」


振り返らずに言ってやれば、アイツらも
流石に押し黙り…







「女の子を無事に送り届けるのが
ジェントルマンだって教わったんだよね」







キバチヨの声が案外近くに聞こえて





気づけば両手で抱きかかえられていた







「っは!?ちょ何してんだキバチヨ離」


「しっかり捕まってて 跳ばすよ!」





遮った一言で反射的に首へしがみつけば


次の瞬間、地を蹴ってキバチヨはすごい勢いで
この場から駆け離れる





速…っ 俺一人を抱えたままで速度を落とさず
木々の間を縫って進めんのかよ…





悔しいけど、コイツスゲェな…







あっという間の一連の行動に驚いていたからか


それともこの速さに諦めたのか
オニシバは追って来ていない





…でも 次会う時絶対ぇヤバそう







「どうして落ち込んでるの?





誰のせいだと思ってんだバカ野郎





「ひょっとして怒ってる?
ソーリー、ちょっと強引だったよね」







しばらく語り続けるキバチヨに無視を決め込む







「…ねぇ何で口聞いてくれないの?
本当に二度としゃべらないつもり?」







段々と走る速度が緩むとともに
話しかけるその表情が寂しそうに変わってゆく







同情に訴えかけようったって、効くもんか


お…俺は怒ってるんだからな!







「フーン 意地張って黙ってるつもりなんだ〜…」





やや低めの声で呟き、キバチヨが立ち止まる







無視しすぎてキレたのかと不安になった刹那





唇に少し固いような感触がした







一瞬遅れて 緑色の目が至近距離に


それからもう少し経って、間近に
キバチヨの笑顔が見えて…見えて…





「っ何すんだぁーーーー!!」


「ワオ、声が大きいよ


叫びたくもならぁ!
いきなり人の顔に何晒してんだお前!!」


「だってずっと話しかけても無視してたんだもん
ちなみにコレも向こうじゃ挨拶なんだよ♪」


「嘘つけぇ!!」





ツッコミを入れるけれども笑顔を全く崩さないキバチヨに


俺は 今更ながら歌ったことからの諸々を後悔していた








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:久々に狐のツンデレモードで甘い話を
書けたかな〜と自己満足に


キバチヨ:展開はグッズグズだけどね


オニシバ:そこらの三文小説よりヒデェやこりゃ


狐狗狸:自己満足に…浸ることすら許されない(涙)


キバチヨ:てゆうかこのサイトでリュージ君
野菜ネタに使われすぎじゃない?


狐狗狸:…うん、そこはかなり反省してる


オニシバ:とりあえずキバチヨ殿とアンタは
ここで散ってもらいやしょうか(銃構え)


キバチヨ:おっと、僕をデリートしようったって
甘いよ〜ストーカーさん?(矛構え)


狐狗狸:え?両側から挟まれるって何この不吉位t




オチはいつも通りなので省略


夢主式神の短編はここで打ち止めになりますが
作品は十月にシリーズを更新予定です


後少しほど お付き合い頂けますよう
よろしくお願いいたします!