妙に低く、軽快な英単語の流れるロックが聞こえる
「何か聞こえる…?」
辺りを確認して、買い物帰りのは
広場の光景に目を奪われた
「なんだ…あれ」
広場でマサオミとキバチヨがブレイクダンスを
ラジカセのリズムに合わせて踊っていた
しかもその様子はかなり本格的で、
路上で踊るパフォーマーも顔負けするほど
華麗でサマになっている
「…何やってんだあいつら」
声をかけようか悩んだが、
係わり合いになりたくなかったらしく
は二人を無視して先を急いだ
「早く帰らねぇとがキレるな」
相方の仕打ちに怯えながらも、は
足早にある通路へと進みかかった
一瞬 景色が歪んだような感覚が現れ
すぐさまそれが消え去った
「あれ?今なんか ヘンな感じがしたような…」
首を傾げつつ進んでいく
すると聞き覚えのある音楽を耳にし、辺りを見回す
見慣れた先ほどの通りと広場 そして
ブレイクダンスを踊るマサオミとキバチヨの姿
「え…またあいつらが踊ってる所だよ
何だ 俺また迷ったのか?」
彼女はため息をつきつつ広場の二人を無視して
神経を集中させながら家へと目指す
だが、ある通路へと足を踏み出した途端
景色の歪む感覚に再び襲われ…
後ろを振り向くと またもや先程の通路にいた
そして 三度目の二人が踊る現場を目撃し
は不意に悟った
「…あいつら!」
まなじりを吊り上げて彼女は広場へと駆けていった
〜「キリキリ舞」〜
「テメェら、何かしただろ!!」
開口一番に怒鳴られ、キバチヨとマサオミが
目を丸くして驚く
「何かってどうかしたの ?」
「しらばっくれても無駄だぞ…さっきから
お前らのいる広場ばっかうろついてんだ!」
マサオミがアハハと爽やかに笑いながら
肩をすくめて軽く言う
「気のせいじゃないの?
ってか、いつもの君の方向音痴じゃない?」
「いくら俺でもあんな短い距離で二度も三度も
同じ所を通るほど迷うかあぁっ!!」
「伏魔殿や奈落には二度三度じゃきかないくらい
迷い込んでるくせに〜」
「真面目に答えろ!!」
どうやらマサオミはの反応を楽しむために
ワザと火に油を注ぐような発言ばかりしている
はじめは楽しそうに見ていたキバチヨだが
さすがにが哀れに思えてきたのか、
マサオミをつついて助け舟を出す
「マサオミくん、もう正直に話した方がいいって」
面白かったのに、と軽く呟いてから
苦笑交じりのため息と共にマサオミは白状した
「はいはい じゃあぶっちゃけるとオレ達は
君に用があってこの辺りに堂々巡りの符を貼ったんだよ」
「俺に用だと…?」
ハリセンを取り出しながら敵意を噴き出して
身構えるに、キバチヨはパタパタ手を振る
「ああ安心して、バトルとかじゃないから」
「そ、そうなのか」
その説明で一応警戒を解く彼女の様子に
マサオミは引きつった顔をする
「あれ キバチヨとオレとじゃ随分あからさまに
態度が違いません?」
「恨むなら普段の己の行動を恨め」
ピシャリと言い切られ、マサオミは二の句が
告げなくなってしまった
「それで用って何だよ?」
腕を組んで上目遣いに睨むは
誰がどう見たって不機嫌そうだ
「なんか…目茶目茶怒ってるから説明しにくいな
下手に説明すると見ないで帰りそうだし」
「フゥ〜マサオミ君が無駄に怒りをあおるから
いけないと僕は思うけど?」
確かに、はじめに説明をろくにせず
からかっていたのはマサオミだ
「やっぱりこんな回りくどいことせずに
僕がに頼めば良かったんじゃ…」
「でもこうでもしなきゃ絶対無下に断られてると
オレは思うんだけどなー」
「それは、そうかもねぇ」
怒りオーラを背負う彼女をちらりと見て
マサオミは、こう提案した
「だったらさ、いっそ説明する前に見せちゃう?」
少し考えて、キバチヨがニッと笑った
「……それ ナイスアイディアかもね」
「だから何なんだよ、ちゃんと話せよ!!」
待ちきれずに叫ぶの目の前に
キバチヨは手の平を向けてしゃべりだす
「とりあえず、全部話す前に…そこにシッダウン!
そして ルックアップ!!」
「え?お、おう」
英語の意味がわからないものの、
身振り手振りの様子と雰囲気で
とりあえずは地面に座り込んだ
買ったものの入ったエコバッグは
自分の身体の隣に置いてある
「それじゃ 行くぞ、レッツスタート!」
マサオミがラジカセの音源を入れ、二人は踊り始めた
先程と同じ軽快なロックに合わせての
華麗なブレイクダンス
息ピッタリのタイミングでのバク転
見るものをあっと言わせるアクロバットの数々
怒鳴っていたことも忘れ、は
感心したように踊る二人を見つめている
そして 曲の終わりと同時に二人が
フィニッシュのポーズを決める
一拍置いて、立ち上がったの拍手が
パチパチと辺りに響き渡り
キバチヨとマサオミの二人は満足そうに笑う
「って、拍手してる場合じゃない!」
我に帰り 自分にツッコミを入れてから
は二人に再びたずねた
「結局、そのヘンな踊りが俺と何の関係があるんだよ」
「オゥシット、これはブレイクダンスって言って巷で
流行ってるクールな踊りなんだよ?」
「ああそう、それで?」
「ブレイクダンスをマスターしてちゃんに
カッコいいオレを見せようかと思ってさ」
ビシッとカッコいいポーズを決めるマサオミ
は眉間にしわを寄せてため息をつくと
キバチヨの肩をトントンと叩き、
「なぁキバチヨ…言っちゃなんだがお前の宿主
バッカじゃねぇの?」
「うーん、僕も最近そう思うんだよね〜」
「ちょっキバチヨー!」
苦笑いするキバチヨにマサオミが必死になって
自己弁護を始める
「好きな子にカッコいい姿を見せたいと思うことの
どこがバカだって言うのさ!!」
「ベクトルの問題だと思うんだけどなぁ」
「何だよ キバチヨだってノリノリで
参加したのは「ワアアァッ それはシークレット!!」
このままズルズルと二人の口ゲンカになりそうだと
察知したらしく、が話題を切り替える
「で?俺をここに足止めする程の用って何だよ?」
「そりゃーダンスの完成度を一度
誰かに見てもらおうかと思ってさ!」
「んな単純なこと、口で言えば済むだろ」
「マサオミくんは自分や僕が言ったぐらいじゃ
断られると思ってたんだよ」
言われては 確かに、と思った
普段から毛嫌いしている相手から
そんなアホみたいな理由で自分一人を呼ばれたとしたら
例えキバチヨの口を介していても
"絶対に罠だ"とにべも無く聞き入れなかったろう
(もう少し こいつらを信じてやった方がいいのかもな)
心の中で呟くと、ため息をついて
「動機がアホなところはともかく…」
「アホじゃない オレは真剣だってば!!」
頬を子供っぽく膨らませるマサオミを無視し
「まぁ、踊りとしては悪くねぇんじゃねーの?
正直 よくわかんねぇけど眼を引くしな」
先程拍手をした手前もあって、少し照れ臭そうに
ボソリとは呟いた
「「イエーイ!」」
嬉しそうにハイタッチをする二人
その様子を見ていて妙な微笑ましさを
感じると共に、ある疑問が彼女にわきあがる
「てゆうか、わざわざ俺に頼まずリクとかに
見せに行ってもよかったんじゃ?」
たずねるに、マサオミがニコっと笑い
「いやーそれがさ キバチヨがどうしても
ちゃんに見せたいって」
「ワアッ!?ま、マサオミ!!」
慌ててマサオミの口を押さえるキバチヨの顔は
ほんのり赤く染まっていた
じっとキバチヨを見つめて は口を開く
「ああそう、じゃあもう用は終わったな?」
「え うん終わったけどさ」
「じゃ、俺は帰るから 道を元に戻しといてくれよ」
片手を挙げてあっさり言うと、
「それじゃダンスがんばれよキバチヨ またな」
「ああ、バイバイ 」
キバチヨと挨拶を交わしてエコバックを
拾い上げると すたすた広場を出て行った
広場には呆気に取られる二人が佇んでいる
乾いた笑いを浮かべて符の効果を剥がすと、
マサオミは相方を見やる
「スルーされたなキバチヨ」
「…マサオミのバカ」
「ゴメンて悪かったって、機嫌直せよ〜」
彼はヘコんで地面に座り込んで影を背負うキバチヨを
懸命に慰める羽目に陥る
「しっかしちゃんってさぁ、あれ
素で気づいてないのか?それともワザと?」
「そこは僕にもハードだけどね…」
「まあ、ガンバレ 思いはきっと伝わるって」
ちろり と緑色の目がマサオミを見やり
「に相手にされてないマサオミ君に
言われても説得力ナッシングだよ」
「それは言うなよ…」
呟いた言葉により 影を背負う男はもう一人増えた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:ダンスネタが浮かんだのでキバチヨで
話を書きました…微糖な話だなぁ(苦笑)
キバチヨ:今回も微妙だし、どうしてと
ステディな間柄になれそうな話がないのさ
狐狗狸:ゴメンね それは私が二丁のカプのが
好きだからだと思う
キバチヨ:ふぅん…なら僕の話もっと増やしなよ
狐狗狸:って言われてもそんなにホイホイ
ネタが浮かぶもんじゃないし〜
キバチヨ:アイツとの話だとすぐ書けるのに?
そんなのアンフェアでしょ!やる気だしなよ!
狐狗狸:少しは考えてみるから落ち着いて…
マサオミ:あのー二人とも オレもこの話に
出てる登場人物の一人なんだけど
キバチヨ:シャラップ!今それ所じゃないんだから
黙っててよマサオミ君!!
狐狗狸:あ、スンマセン、素で忘れてました
マサオミ:…今回のオレの扱いってかなりヒドい(泣)
交渉は結論がつかぬまま持ち越しに
追記:に見せに行ったブレイクダンスは
それなりに高評価だったそうです(作文?)