カゴメ歌ってさ、聞いたことある?





何人かで手を繋いで一人を取り囲んで


回って後ろに来た相手を当てる
あの遊びの時 歌うヤツなんだけどさ







調べてみたらあの歌って、歌詞の内容に
色んな解釈があって 実は流産の歌だとか
徳川埋蔵金のありかを示すとか言われてるんだ







でも…歌を歌いながら皆で鬼の周りを
回っているあの動きを見てるとさ





本物の鬼を、皆で封じ込めてるように見えるんだ











〜「籠目の奥」〜











「大丈夫かい?」







とある村に立ち寄り 目的のものを手にした帰り際


通りがかった森の中で、人の泣き声が聞こえて





分け入ってみると 鎖で施錠された蔵の中に、
女の子がいたから 符で鍵を壊して助け出した







「こんな所に女の子を閉じ込めるなんて
ひどい事をする奴もいたもんだね」


「…鬼の札を……勝手に取ったの」







その子の頬や身体には、
殴られたようなアザがあちこちにあって





怯えた顔はとても痛々しそうだった







「だから私…罰として……ここに…」


「少し、目を閉じて」





彼女が目を閉じた隙に闘神符で怪我を治して





「ねぇ君 名前は?」


「……


ちゃんにお父さんとかお母さんっている?」







首を振ったちゃんに、オレはニッコリ笑いかける







「だったらさ オレと一緒に来ない?」







彼女が可哀想だったってのも勿論だけど





その"鬼の札"が封じていたものこそ
オレの手に入れた目的の代物だったから


口封じも兼ねて、ちゃんを連れて行った











それから知り合いに預けて、
徐々に彼女は別の土地での生活に馴染み





「マサオミさーん」


「おーちゃん 元気そうだな〜」







たまに手紙のやり取りや、こうやってオレへ
会いに来るようになった







「ねぇ 私、アナタの役に立ちたくて
がんばって闘神巫女になったんですよ?」







この子に巫女の素質があったことは、
連れて行ってから 判明した





けど…素質があるからといって
そうたやすくなれるハズも無いのに


ちゃんは会う度に巫女として
着実に成長していった







「そうなんだ ちゃんはガンバリ屋さんだね」





言って、オレは彼女の頭を撫でると





「だって…マサオミさんのためだもの
がんばって早く一人前にならなきゃ…」





ちゃんは俯いて、顔を紅くした







女の子らしくて可愛いその表情に





「そっか、楽しみにしてるよ ちゃん」







笑顔で、そう答えた次の日から、









たまにだった手紙が一週間 三日 一日
間隔が狭まり、量も一通から六通に増えた







顔を会わせる回数も、比例して増えた









「ねぇちゃん どうしてオレが
ここにいるってわかったの?」


「マサオミさんのいる所なら、全部わかるんです」







メシを食おうかと牛丼屋へと足を運んだ時にも
示し合わせたかのようにちゃんは現れ





「これ…朝四時に起きて手作りしました
牛丼、好きでしたよね?」


「うん 好きだけど…スゴイ量だな」


「男の人だから、たくさん食べると思って
作りすぎちゃったんです…食べてくれますよね?





はにかみながら 一人分どころか三人分
ありそうな手作りのお弁当を渡してくれたり







「怪我してるじゃないですか…!
大丈夫ですかマサオミさん!


「えっ、ちゃん いつ来たの!?」







様子を見ていたとしか思えないタイミングで
万全の準備をして オレの前にやってきたり









しかも、大抵現れるのは





オレ以外の人間がいない時







『…なんか、がいる時 僕の方を
スッゴイ怖い目で睨んで来るんだよねぇ』







降神されてない状態の時以外、キバチヨが
オレの側に現れることが減っていたので


問いただしてみたら この答えが返ってきた









さすがに行きすぎな行動を、出来るだけ
やんわりと諭そうと試みるけれど







ちゃん、気持ちは嬉しいんだけど
ちょっと距離を置いてほしいんだ…」


そんな…私はただ、マサオミさんの事が
好きで お役に立ちたいだけなんです」





本気で悲しそうな顔で泣きはじめ





「私 迷惑ですか?」


「そういうわけじゃないんだけど…」







何て言ってもちゃんは聞いてくれず


ただただ涙を流して首を振るばかりで





どうしたらいいのか分からずに、説得を
諦めざるを得なくなってしまった









そこから、オレは自主的に彼女から
距離を置いて付き合うようになった





たまに返していた手紙も ほとんど返さず
溜まったら捨てるようになった







お弁当を作ってきてくれても、食べきれないからと
断った…怪我も、自分で治すようにした











「どうして私を見てくれないんですか?」





縋るようにオレを見上げるちゃん







どうして 私を避けるんですか?」





その声はとても悲痛で、どうかすると
情に流されてしまいそうになる







「君の気持ちは、オレには重すぎるんだ
頼むから 諦めてもらえないか?







けれど オレは距離を取り続けた







「……私を助けてくれたのは、アナタなのに」


「確かに助けたけど 君が好きだったからじゃない
あれは単なる偶然なんだよ、ちゃん」







少しきつい言い方だったけれども、彼女には
きちんと本音を言うべきだと思った











この日から、ちゃんの手紙も来訪も
全部 ぱったりとやんだ







「やっと分かってくれたのかな?」


『さーね?』





始めはオレもキバチヨも首を傾げていたけれど


その内、まったく気にしなくなっていった…







でも それは甘かった









リク!どうしたんだその怪我は!?」


「分かりません…
いきなり、横手から何かで殴られて…」







リクが襲われたことを皮切りに





次々とオレと関わりのある知人が襲われたり
行方不明になったりする事が起こって







一人で過ごすことが当たり前になるのに


さほど時間はかからなかった













「ただいま〜キバチヨー」







ある日、帰ってきて部屋に戻ると







お帰りなさい マサオミさん」





ちゃんが 部屋の中央に座っていた







ちゃん…どうやって入ってきたんだよ!」







いや、それよりも…なんだよその姿







顔や服に散った その赤い飛沫はまるで…!









部屋を見回して、オレの神操機が
見当たらないことにようやく気付く





「キバチヨは…オレの神操機はどこにやった?」


「ごめんなさい どうしても二人の時間を邪魔されたく
なかったから…伏魔殿の奥深くに、封じ込めたの







なんだって…!?







急いで助けに出ようとして―玄関の手前で
見えない壁に弾き飛ばされた





「無駄ですよ…アナタが戻った瞬間に強力な結界を
発動させました 闘神符程度じゃ突破できませんよ?」


「な…ちゃん、どうしてこんな!


「…言ったでしょう?
アナタの役に立ちたくて闘神巫女になったって」







言いながら、ちゃんは一歩ずつ近づいてくる







「だからずっと符術とか、たくさん たくさん
勉強したの…今ならアナタの式神なんかよりも
私の方が絶対に強いわ」


「ふざけるな!」





その一括で、彼女の歩みが止まる





冗談もいいかげんにしろよ!君がどれだけ
強かろうと、オレは絶対にゴメンだ」


「でも私はアナタの事が」


「態度や言葉でいい加減わかれよ、
オレがそんな君を嫌いなこと」



「……ごめんなさい」







俯いた彼女に 少し言いすぎたかと口を閉じる









でも、上げた顔に浮かんでたのは涙でなく







「あの鬼の札を、取らなければよかった
助けてもらった時 村から逃げる前に
お参りに行けばよかった」








この場に似つかわしくない―微笑み







「そうすれば マサオミさんが鬼に
喰われてしまう事は無かったのに」



「何を言ってるんだちゃん…
オレはなんかじゃ」


「ううん、私には分かるの…ここにいるのは
愛しいマサオミさんの皮を被った鬼





首を振り、彼女がいつの間にか手にしていたのは





「でなければ、私を避けたり逃げようとしたり
ひどい事を言ったりしないもの」








血のついた 大き目の包丁







「…今、アナタを鬼から解放してあげますね?」









ちゃんに、もうオレの声は聞こえていなくて





持てる限りの符で抵抗して どうにかここから
逃げられないか手を尽くしたけれど


足に 腕に傷を負って、動けなくなった







さしずめ、カゴメ歌の鳥のように







後ろから近づいたちゃんの声が 耳に届く





「マサオミさん 大好き」









あの時 彼女を助けなければ、村から
連れて行かなければ…こんな事には…







籠の中に入っていたのは、やっぱり鬼だったのか









自分の視界が 赤く染まるほんの直前







ぼんやりと、そう思った……








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:カゴメ歌にかけたヤンデレ話を書こうと
してみたんですけれど…うーむ、これって


マサオミ:どう考えてもアノ作品の影響モロ受けだよね


キバチヨ:ストーカー一直線だよね〜これ


狐狗狸:まーヤンデレの典型パターンは詰めてみたつもり
影響については最近のBGMが原因です


マサオミ:どうしてオレの甘い話が少ないかなぁ
ちっとは始終イチャついてる話書いてくれても


狐狗狸:そんな落ちの無い話は却下します


キバチヨ:アッハハハハハ、だーよねぇ♪


マサオミ:ちょっ、キバチヨまで…!




カゴメ歌あんま関係なくてスイマセン、村と鬼の札は
言うまでも無く捏造ですので




さん そして読者様、ここまで読んでいただいて
ありがとうございました!