ちょうど春休みの最中 四月が目前に迫る
三月の終わりごろ







夜の九時ごろ、僕の家に電話がかかってきた









「はい、もしもし」


「もしもしリクくん〜あたしだけど」


「その声は…さんですか?」







珍しいな、こんな時間に電話してくるなんて







「こんな時間に迷惑だったかな?」


「いや、別に大丈夫ですけど どうかしたんですか?」









さんの声は、いつもよりも少し大人しい感じがした







「明日 何か予定ってある?
無ければちょっと付き合って欲しいんだけど」


「修行ですか、それとも伏魔殿探索とか…」


「それは会った時に話すんじゃダメかな?」







僕は少しだけ悩んだ











電話で頼み事をすることがそもそも少ないのに
会った時でしか言えないことって…?









でも、ひょっとしたら







さんにも何か事情があるのかもしれない











「…わかりました、待ち合わせ場所と
時間を教えてください」







二言、三言話をして 僕は電話を切った












〜「幸か不幸か紙一重」〜













翌朝八時 僕とさんは近所の山にいた









山って言ってもそんなに深いところじゃなく
木の多い高原に近い場所だ







早めに咲いた桜が何本かあり





足元にはクローバーが緑色の絨毯のように
広がって群生していた





風に揺れる白い花と一緒に、ミツバチもちらほら見える







そんなのどかな光景の中







「晴れてくれててよかった〜
さー!はりきって探すよ、四葉のクローバー!!







長袖長ズボンに軍手までしたさんは
やる気満々の表情でクローバー畑を漁っていた







リュックサックまで背負っていて 正にハイキングのノリだ











……昨日の電話の様子で深刻な事態を想像していた僕は





正直 呆気に取られてしまった







『どんな用事かと思えば 葉っぱ探しかよ!』







半透明のコゲンタに、チッチッチ
彼女はイタズラっぽく指をふる





甘ーいコゲンタくん!四葉のクローバーは
見つけたら幸せになれるんだから!」


『とか言ってどーせヤクモに
会える確率上げようとかそんな動機だろ』


「あ、バレちゃった?まーいいじゃん 探そ探そっ!」





アハハと笑うさんを見て、僕は溜息をついた







「ハイキングだって教えてくれれば
ナヅナちゃんも安心したのに…」







出かける時に ナヅナちゃんは
僕以上に心配そうにしていた









「言ったら断られるんじゃないかと思って〜
ゴメンねリクくん」


「これくらいなら断りませんよ、でも
探しものなら人数が多い方がよかったんじゃ…?」


「四葉のクローバーって探す人数が多いと
かえって見つかりにくいらしいから、それにー」







満面の笑みが一転して、急に口ごもる彼女







「何ですか?」


「いやーその…」









じっと見つめていると やがて降参したかのように
もそもそとさんは言った









「リクくんってなんかちょっと薄幸そうだから
少しでも幸せのおすそ分けしようかと思って」


「僕 心配されるほど幸薄くないです!」







思わず大声で叫んでしまった







ま、まったくこの人は…













こうして、僕とさんとの
四葉のクローバー探しは始まった







でも…











「クローバーって結構細かいなぁ〜
目が疲れちゃった ちょっと休憩」


「まだ探し始めて十分も経ってないですよ!?」





ちょくちょくさんが休みを入れたり、





「去年より桜が咲くの 早くなったよね〜」


「そうですねーこれってやっぱり地球温暖化が
原因なんでしょうか?」


『お前ら二人とも ぼーっと桜見てていいのか?』





思わず桜に見とれて、二人でコゲンタにせっつかれたり





「きゃっ、ミツバチがこっちに飛んできた〜


「落ち着いてくださいさん、ミツバチは
刺したりしませんからっ」







ずっとこんな感じで 度々作業を中断しつつ







重なって四葉のように見える三つ葉や





葉っぱの一つが二つに割れたものを見つけては
少しガッカリしながらも







それでも僕らはクローバーの葉っぱを
一つ一つ、丁寧に調べてゆく









文句を言いながらコゲンタも 葉っぱ探しに
協力してくれていた











日差しが少し高くなって、







「もうお昼になってるよー一旦休憩しよう?
ついでにお弁当食べちゃおう?







さんが背負ったリュックサックを下ろして
レジャーシートを敷くと、お弁当箱を出し始めた









もうそんな時間なんだ







…言われてみれば お腹減ったな







「僕、お弁当持ってきてないから
ちょっと買いに行ってきますね」





立ち上がった所で、すかさず待ったをかけられた





大丈夫!あたし リクくんの分のお弁当持ってきてるから〜」


「え?」







予想してなかった一言に答えたのは、僕じゃなくコゲンタだ







『その弁当って お前の料理か?』


「んーん、の作った夕飯の残りもの
遠慮しないでこっちで一緒に食べよ!









ニコニコと手招きをされ、









「じゃ、じゃあ失礼します」







僕はおでこを掻きつつ 少し距離を開けて隣に座る











「はい、リクくんの分!」







渡されたお弁当のフタを開けて





さっそく眼が点になった









『な…なんじゃこりゃっ!







僕の心を代弁するようにコゲンタが
お弁当の中身を見て 顔をしかめた









お弁当のおかずのスペースには…











醤油で煮浸しにされた、ふきのとう
大量に詰め込まれていた


むしろ ごはんとふきのとうだけしかない







さんのお弁当の中身を見ても
そこに ごはんとふきのとう以外の物は見えない









「あの さん」


「なーに?」


「どうしてこのお弁当、おかずがふきのとうだけなんですか?」







あー、と何ともいえない苦笑いをして
さんはこう答えた







「ごめんねーそれ、のせいなの」


『どういうことだよそりゃ』





たずねるコゲンタに、彼女はお弁当のふきのとうを
はしでつまみながら





「昨日 スーパーでふきのとうがすっごく
安かったらしくて、つい買いすぎちゃったんだって」







つまんだふきのとうを口に運び、
ほんのちょっとだけ顔をしかめて







「おいしく料理されてたけど ちょっと苦いから
さっさと片付けちゃおうとおもって」


『…弁当のおかずとして入れたのかよ』





コクリ、とさんは首をタテにふった





「ちょっとこれは極端なんじゃ…」


「食べ物を無駄にするのは良くないし、家に
まだ煮浸し残ってるからそうも言ってられないの」


『そういや、の奴は留守番か?』


「ううん、罰として昨日の晩から神操器に
閉じ込めてあるの」








それで ずっと姿を見なかったんだ……









何ともいえない空気を抱えながらも


食べたふきのとうのお弁当はおいしかった















それからも、僕らはずっと
四葉のクローバーを探しつづけ…











『なぁ、今 五時の鐘の音が鳴ったぞ』





コゲンタがそう言った時には、辺りは茜色に染まっていた









「あちゃーもう夕方…」


「日も暮れそうだし、そろそろ帰りましょう
さすがに夜はまだ冷えますよ?」


「そうだねー帰ろうか…付き合わせてごめんねリクくん」







悲しげなさんの言葉を、
僕は首を横に振って否定する







「いえ、誘ってくれてありがとうございます」





彼女の手を両手で握って笑いかける





「今度は、みんなでクローバーを探しに来ましょう
きっと見つかりますよ?」



「…うん そうだね、そうだよね〜!
よし、じゃあ帰ろっか!!









ガッツポーズをとって、さんは
そのまま即座に歩き出した







立ち直るの早っ!てゆうかちょっと待て!!』


「まっ、待ってください…!」









先へと走っていくさんを追いかけようとして、







ふと足元のクローバーに違和感を感じた











「あ これもしかして…」







屈み込んで、そのクローバーをよく見つめる









すごく小さかったけれど







葉っぱは 確かに四枚だった











「どうしたのーリクくん 置いてくよ〜?」


さん!四葉のクローバーここにありま」





立ち上がりながら、僕が指差して告げた途中で





「本当!?」







ものすごい勢いで走りよったさんに


僕は思い切り突き飛ばされ 側にあった木にぶつかった







しゃがんで葉っぱを確かめると









「やった〜!四葉のクローバー あった〜!!」







そのクローバーをぷつりと引きちぎって
大事そうに両手で包んで、







「リクくん、見つけてくれてありがとう!!









嬉しそうな顔で…さんが笑った











「こら
まずリクにぶつかったの謝れよ!!」


「いいよコゲンタ、大したことないし」





本当はちょっと痛かったけど…







その笑顔に、こっちも少し幸せを分けてもらえた気がした











「よかったですね さ…」







喜んでいられたのも、そこまでだった





後ろで ガサリと葉っぱが鳴って
なにか重たいものが落ちた音がした









振り向くと、そこには





ぶつかった木にあったらしき 大きなハチの巣







…しかもこれ、スズメバチの巣


大分前におじいちゃんが太刀花荘に巣食ってたのを
撤去してたのと同じだし





もちろん巣から 怒ったスズメバチが次々と出てくる









『リク』


「リクくん」


「…はい」







僕らは顔を見合わせ、







「「『逃げろ――――――――っ!!』」」









ハチたちの群れから 一目散に逃げ出した








――――――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:リクとの話でギャグチックなのないなって思い
書いてみました 某ブルース聴きながら


リク:さんのキャラクターが、いつにも増して
破天荒になってるような…?


コゲンタ:リク!たまにはにガツンと言ってやれよ
押されっぱなしじゃね―か!!


狐狗狸:そうでもないよー まあでも今回の話は
ずっとのターン!的なものだし仕方ないって


リク:そのネタはどうかと思うんですけど…


コゲンタ:最後が木から落ちたハチから逃げるって
昭和のオチだろそれ…


狐狗狸:いや、最後のオチは妖怪出現でも良かったけど
それだと君ら二人が倒しちゃうからねー


コゲンタ:当ったり前だろ!
オレ様とリクの実力なら朝飯前だぜ!!



リク:可哀想なさん…もとい、あの
ふきのとうのお弁当は何で思いついたんですか?


狐狗狸:あれは内輪で生まれたネタだから…それより
あの曲聴きながら書いてたらさ


リク:なんですか?


狐狗狸:でリクくんが○魚子に見え


コゲンタ:ドラマと曲の影響受けすぎだ!
別の版権のネタを混ぜんのやめろっつの!!



狐狗狸:ああ、コゲンタはおじさん


コゲンタ:人の話聞けやあ!(西海道虎鉄出し)




毎度毎度、グダグダでスイマセン
gdgdの方が正しいかな?)