「えっと、次は砂糖っと」





ある日は珍しく料理本を片手に台所にたっていた







しかし普段料理をしないであるため
手つきが何処かぎこちない





その様子を彼女の式神、は呆れながら見ていた









「なあ 本をみて作る気があるなら
せめて計量器具をつかったらどうだ?」








その言葉に返ってきた答えがあまりにも彼女らしいもので


言うだけ無駄ということが身にしみてしまう





「だって面倒くさいんだもん〜それにあたしトロイから
そんなの使ってたら一日中かかっちゃうよ」







確かに彼女はとろい方だとも思う









しかし、例え一日掛かろうとも
何時もの殺人未遂級の料理よりかは遥かにマシ












先程から何度もの料理を手伝おうとするだったが


今日に限っては何故かまったく手伝わせてくれそうにない









いつもはに任せっぱなしの
家事に興味を持つことはいいことだと思う









しかしどうせなら掃除や洗濯など害の起こらなさそうなものに
してほしかったと心の中で呟いた











〜「彼女の料理」〜











「どうしていきなり料理なんてしようと思ったんだ?」


「だって〜、この間マサオミさんが
あたしの料理食べてみたいって言ったんだもん♪」





「お…お前の手料理をか?





「確かにあたしの料理は多少味は悪いけど
食べれないほどではないから
今度作ってあげますって言っちゃったの」









この言葉をきいた瞬間の思考の大部分を占めたのは、


明らかに大ウソだ!というツッコミだった





それでも不埒なマサオミに哀れみを感じてしまうのは
彼女の優しさ故だろう











「そういえば、マサオミさんがくるのは今日だから
は部屋の掃除でもしておいて」







彼女の言葉には露骨に驚き
それと同時に、ちらりと見えた


鍋に放り込まれた二人分以上の材料に
軽い絶望を感じた








「今日って……何時だよ!?っていうかお前の持ってる本には
煮込み料理って書いてあるけど間に合うのか?」


「大丈夫だよ、味染みてなくても
火が通りさえすれば多分食べられるから♪」










暢気なことをいっている
半ば恨みがましく半ば羨ましく見ながら





は客を迎えるために渋々掃除をはじめるのであった













「さて、にはああ言っちゃったけど どうしよう……」









が掃除のために部屋から出て行ったため


台所に一人残されたは自分自身にむかって呟いた









大雑把な彼女とて作りかけの料理を
人様にご馳走するのは抵抗がある







もう一度確認しようと机の上に置いた本を持ち上げる


と 薄い紙切れが一枚ふわりと床に落下した











不審に思いながらも紙を拾い上げた
の顔に 安堵の笑みが広がった















掃除が終わるのを待ち構えてたようなタイミングで
響いた玄関の扉のノック音





おそらく待ち人に違いない、そう感じた
素早い動作で扉を開けた







しかし、そこに立っていたのは……











ー、お客が着たぞ





は客人を案内しながら
台所で奮闘している相棒に声をかける









「いらっしゃい、マサオミさ………ええっ!?













「急に訪ねてきて、迷惑だったかな?」







そこに立っている爽やかな笑顔を浮かべた突然の訪問者


――吉川ヤクモをみた
嬉しさと驚きで眩暈がしそうであった













「………ヤクモ…さん、どうして…家に……?!







顔を真っ赤にしたは必死の思いで
短い質問をたずねてみる





ちゃん この頃頑張っているみたいだから
様子をみにきたんだ」


「あたしの…ために、わざわざ……!?





それ以外に家まで来る用事あるのかよ
というツッコミを心の中でしてから


少し意地悪な笑みを浮かべた
ヤクモにむかってのお誘いをする







「ヤクモさん、よかったら<の料理食べてきませんか?
俺は式神なのであんまり食わないのに…
コイツ俺の分までつくってしまったんで」





このままでは材料無駄になるし、と控えめながら付け加え


何気ない動作で冷蔵庫の中を覗き込む







「やっぱり…、材料使いすぎたな?
確か近所のスーパー今日安売りだったから 買い物行くよ」





!!







かすれたような小声では必死でを引き止める













、まだ三日分くらいの食料残っているでしょ!?
それにあたしの料理が殺人的ってわかってるのに
なんで勧めるのよ!!」







ヤクモに聞こえないように
二人で壁の方を向き小声で話しているのだが


小声でもの気迫がしっかり伝わるのだから
そうとう焦ってるのだろう







「大丈夫だって!今日のの料理は
いつもより料理らしい匂いがする…
今回はちゃんとレシピ通り作ったんだろ?






カクカクと何度も頷くをみながら
心の中で言葉を続ける









それに珍しくはっきりと、


おまえとヤクモさんがおいしそうに料理を食べてる姿
予測風景が見えたしな
、と







しかし いつまでもこうしていても仕方ない、
そう思った


まだ不安そうなを置いて エコバッグ担いで家を出た













「はわわっ、ヤクモさん ごめんなさい〜!
お客さんに料理なんてさせちゃって…」





慌てて室内に視線を巡らし、火加減を見るヤクモに
気づいて謝りながらちかよる







と話していた間、
代わりにヤクモが料理をしていたらしい







「それは構わないけど、火の側を離れると危ないぞ?」





ヤクモはそういって軽くの頭を小突く





「うぅ〜、ごめんなさ〜い」





素直に謝るの様子に
ヤクモは思わず微笑が浮かんでしまう








二歳しか違わないはずなのに、
時折かなり幼くみえる



ヤクモはついつい可愛いと思ってしまうのだ








ちゃんはもう出かけたのか?」


「ああ、はい 最近あの子"安売り"とかの言葉に弱くって」





この際誰のせいでそうなったのかはおいておこう、


そう自分に言い聞かせながらもの目は
明後日の方角を向いてしまう









「あはは、ちゃんはしっかりしてるな
という事は、今この家にいるのはオレとちゃんだけか…


うみぃ!?







今までその現状について考えないようにしてただったが
ヤクモから指摘され思わずおかしな声がでてしまった





一瞬にして熟したトマトのように顔が真っ赤になった
ヤクモの笑みは更に深くなっていった















「よっ、ちゃん 今から買い物か?」


「よぉ、ストーカー丼男
どうせの家に行くんだろうが やめるなら今の内だぜ?








の家に行く途中に マサオミがすれ違った、
スーパーの方へ向かう狐―――


彼女の式神であるからの第一声は
相も変わらずキツかった







「残念だけど オレ今日は
ちゃんに料理をご馳走してもらう予定だから
彼女の家にどうしても行かなきゃならないんだ♪」













今日という日を楽しみに待ちわびていたマサオミにとっては
そんな言葉一つで引き下がるわけにはいかなかった











「…一応警告はしておいたから せいぜい後悔するんだな
タイムサービスの時間に遅れるから俺は行くぜ?」














式神がタイムサービスの時間を気にして
走っていく姿は哀れにみえる







ちゃんの気力は相変わらず高いな…


マサオミはその後姿に ポツリと呟いた









かつて天流内でトップクラスの実力を誇る光明族
使役していた時も思ったのだが、





今のように常に式神を降神したままで
顔色一つ変えた事のない
彼女を見てると余計にそう感じてしまう







気力の使い方は明らかに間違っているとも思われるが……













だが、途中でに会ったため、
家には一人だろうと確信めいた期待を抱いた
マサオミは、心晴れやかに彼女の家の扉をノックする





すぐにその期待は容赦なく打ち砕かれることになるとも知らずに……








「はい、どちらさまですか……Σっお前は!?


Σ貴様こそ何故ここに!?







扉から顔を覗かせたのはではなく
自分にとって天敵のヤクモであった











常人が見たら避けたくなってしまう程の
強い警戒心とどす黒いオーラを剥き出しにした
二人の男
は、互いに無言で重圧かけつつ睨みあっていた











「ヤクモさん、どうかしました〜?」





そこに聞こえてきたのは明るいの声





一瞬にして先程までの重黒い空気は消え去り、二人して
無駄に爽やかな笑顔を<にむけた





約束通りちゃんの手料理食べにきたぜ〜♪」







"約束"という言葉を強調するマサオミに
ヤクモは片眉を不機嫌そうに吊り上げる










かな〜り強引に決められた約束だったと思うんですけど?」







ヤクモと話している時よりもかなり余裕のある笑みで
冗談交じりに答える













彼女はヤクモに対する憧れが強すぎ そのせいで
緊張ばかりしているのだが


それを知らないヤクモにとって この状況は面白くないようだ













「すまない そんな約束があるとは知らなかった…
たまには天流同士で情報交換でも、と思ったんだが
やはり迷惑だったのか?」








一方 "天流"という言葉を強調するヤクモに、
マサオミの笑顔が引きつりまくる










そんなことないですぅっ!!
お料理作るの手伝ってもらっちゃったし…
あたしの方こそ迷惑かけっぱなしで……」






「えっ!ちゃん…もしかしなくても
こいつと一緒に料理作ったの?


「そうですよ 前にヤクモ様に貰ったレシピ見ながら料理を作ってたら
本人が来てくれちゃったんです〜偶然って凄いですよね!









本人が側にいるせいか 小声で呟かれたの言葉に
マサオミは更なる絶望へと叩き落された気がした













さっきまでの二人のやり取りと 今の二人の表情を見ながらも


渦中の人間であるはずのはかなりの鈍感であるため
隠された真意に気づくことなく








二人とも大人すぎて、あたしみたいな
子供っぽい子がいると邪魔かな〜



全然的外れな意味で頭をなやませていた








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「そういや、がはじめに作っていた料理は
煮込み料理だったはず…でも家を出るとき


あいつはフライパンを持っていたような……」







買い物の途中にふと疑問におもっただったが
その先はあえて口にださないことにした









恐らく最初の煮込みもどきが自分の夕飯となるのを
真実として 改めて実感
するのが悲しかったからだ





安売り商品を物色しつつ は小さく溜息をついた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:この話はMから イラ原画のお礼に貰った話を
私なりにアレンジしてUPさせて頂きました〜ありがとうM!


ヤクモ:それよりもさっさと帰れ!オレとちゃん
これから料理を食べるんだ!!



マサオミ:オレが先にちゃんと約束したんだ!!
貴様こそ勝手に上がりこんで…とっとと立ち去れ!!



狐狗狸:ちょっと!まだ喧嘩してたの 二人とも!?


ヤクモ:しかもちゃんと仲良さげに話を…!(闘神符出し)


マサオミ:そっちこそちゃんと一緒に料理なんて…!
(上に同じ)


狐狗狸:二人とも 黒オーラ出てますからその辺で…


二人:喧しいっ!!(ダブルキック炸裂)


狐狗狸:ぎゃっぼおおおおおおぉぉぉぅ!!(吐血しつつ吹っ飛び)


二人の喧嘩は しばらく続いた(恐らく勝ったのはヤクモ/笑)