「こっちはもう六月くらいかぁ…」







鮮やかな新緑と辺りにちらほら咲くツツジ
季節を如実に語る









こっちでの季節の移り変わりは早い







オレの生きる世界とは周期もずれ、
風景も著しく変わっていく







初めて来た頃は慣れなかったけれども





今となっては、懐かしさすらある











大きな戦いが終わって





オレはタイザンや姉上と共に 元居た時代へと返った







けれど、千二百年後の現代にも


大切な仲間や気に入るものもあり
思い入れが深かったから





時々は 時渡りをして顔を出していた









「お久しぶりです、マサオミさん
こっちに来てたんですね?」


「うん まぁね」







リク達やヤクモに会ったついでに





オレはちゃんの家の前に立ち寄り





ちょうど帰ってきた彼女と顔を会わせた












〜「いとをかしきわがなさけ」〜













ちゃんさ しばらく会わないうちに
大人っぽくなったんじゃない?」







彼女の茶色い髪の毛は少し伸びて





物腰も より女の子らしくなった







「マサオミさんだって、ちょっと会わないうちに
カッコよさに磨きかかってますよ〜」


「そりゃまぁ オレって生まれつき美形ですから」


「性格は相変わらずですねぇ」







わざとらしくポーズをとるオレに
彼女はクスクスと笑って返す







「そっちは皆 相変わらず元気でやってる?」


「ええ、も少しはマシになったんですけど
相変わらずよく迷子になりますよ」


「アッハハハ 楽しそうだね」







まあ退屈はしませんね、という答えに


彼女達の日常が透けて見える気がした





やっぱり、その辺は変わらないみたいだ







「マサオミさんは相変わらずお姉さんや
キバチヨ君と仲いいみたいですね」


「まあね」









あっちに戻ってから、オレ達は
平穏な日常を取り戻していた







火を起こすための枯れ木をかき集めたり





キバチヨと一緒に野山を駆け回り
夕食の材料を捜し歩いたり







姉上の家事を手伝うことも慣れ





天気のいい日中などには、時折


タイザンの吹くフエの音が川の方まで聞こえてきたりする







現代に比べれば 便利さなどないけれど





オレにとっては慣れ親しんだ大切な日常









「そう言えばマサオミさんは、将来
どうするかとか考えてます?」


「え、オレ?







急な質問に オレは少し考えてしまう







「そうだなぁ〜まだ考えてないんだけど
ちょっとした野望ならあるよ」


「へぇ どんなことですか?」





興味ありげなちゃんに向かい
オレは えへん、と咳払いを一つ





牛丼神社を作って 牛丼の素晴らしさ
現代にまで語り継ぐことさ!」


ホンットに丼好きですね でもマサオミさんらしい」


「あと姉上も近いうち結婚するし、オレもそろそろ
お嫁さんを探した方がいいのかなって考えてるよ」


「スゴイな〜マサオミさん ちゃんと
将来のこととか考えてるんですね」







感心しているその様子に、少し嬉しくなりながらも





オレは質問の意図が気になった







「でもいきなり将来のことを聞くなんて どうしたの?」





ちゃんは苦笑交じりに答える







「…進路のことを 聞かれたんですよ、学校で」







そういえば、リクもそろそろ中学を
卒業すると言っていたっけ





「何をしたいか自分でも分からなくて
進学するって答えたんですけど…」





不安を帯びたような声で 彼女は続ける





「ユーマ君はお家の神主さん継ぐみたいだし
ソーマ君は会社の社長さん ヤクモ様やリク君も
進む道を決めてるのに、あたしだけ見つからなくて…」


「大丈夫だよ ちゃんなら」







沈んだ顔をさせていたくなくて、口を開く







「まだそんなに焦んなくても、君ならきっと
納得できる道を見つけられるよ」


「本当ですか?」


マサオミお兄さんを信じなさいって
これでも君より年上なんだから」







胸を張って言うと、ちゃんは
どこかほっとしたような顔をして





「そう…ですよね」





納得したように頷いた









あまり会えなくても







励ますことしか出来なくても、







やっぱり彼女には笑っていて欲しいから







その為なら オレは幾らでも言葉を尽くす











「それにもし進む道が見つからないのなら
オレがちゃんをお嫁さんにするからさ」


「またその話ですかぁ?」





ちゃんは迷惑そうに突き放すでもなく


柔らかな笑顔で こう言うのだ





「何度も言いましたけど
あたし、ヤクモ様一筋ですから」







そう返されるとわかっていながらも





オレは彼女に冗談のような愛の告白をして





彼女はそれを笑顔で断る









会った時に 必ずと言っていいほど繰り返してしまう









もし万が一に… その"万が一"
どうしたって、捨て切れなくて





けど、ハッキリと終わるのが怖くて







自分の本音なのに こんな風に
茶化すようにしか言葉を伝えられないでいる











「…もし ヤクモが別の人を好きになっても?」


それでも、あたしはヤクモ様一筋です」





再度の問いかけにも、彼女の笑顔はまるで崩れない









わかってはいるつもりだ





悔しいけど、ちゃんはずっと
ヤクモの方しか見ていなくて





オレと彼女は 生きている時間が違いすぎて







ちゃんが好きだというこの気持ちは







報われる事が…ないのだと









「でも あたし、マサオミさんのことも好きですからね?」





優しくそう言うちゃんの"好き"





「…ありがとう オレも、好きだよ」





同じように返すオレの"好き"は 意味が
かみ合っていないことも知っている







……それでも、









オレの気持ちが伝わらなくても







ちゃんは、オレが側にいて
笑う事を 許してくれる










大丈夫ですよ、マサオミさんなら
そのうち素敵な子が現れますから」


「嬉しい事言ってくれるね〜」


「さっき励ましてくれた、お返しですよ」







微妙な空気を変えるように、オレは
空を仰いで 目を細める







「今日は 本当にいい陽気だね」


「もう梅雨なのに まるで夏みたいな陽気なんですよ?」









言われてみれば、セミの鳴き声
聞こえてもおかしくないような雰囲気だ







本来ならば この時期は雨が多くて





じわりと湿気を帯びていても
おかしくない時期のはずなのに…







まるで一足先に夏が来たみたいで





少し 可笑しくなる







「でもまだ六月だからか、それほど
蒸し暑くも無くて過ごしやすそうだね」


「本当 それだけが救いですよ」


ちゃん、暑いのダメだもんね」







その一言が気に障ったのか、彼女は
ちょっとだけムッとしたような顔をしたけれど





すぐさま 微笑みを取り戻す







……ちょっと、大人になったなぁ







「あたしもそうなんですけど 
毛皮だから暑いの苦手なんですよ」


「へぇ〜そうは見えないけどなあ」


「ですよね、狐っぽいところなんて
耳と尻尾しかないですし」







本人がいたら怒鳴られそうなことを
言い合いながら、オレ達は笑った











こっちでの季節の変わり目は本当に早い







もうすぐ 夏がやってくる











「もうそろそろあっちに帰るから
元気でね ちゃん」


「はい マサオミさんとまたお会いできる日を
楽しみにしてますね?」







それでも、この距離は変わらない





これからも ずっと








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:久々にこう マサオミさんでほのシリっぽい
話を書きたくてがんばったのに、何か違う…


マサオミ:その略式は何かヤダなぁ


狐狗狸:それもそうだね、じゃほのアス


マサオミ:そーいう問題じゃないって
てゆうか、また同じようなネタだよねコレ


狐狗狸:……どうせワンパだよほっといてよ


マサオミ:そこまで言って無いじゃん、てゆうか
梅雨なのにツツジってありなの?


狐狗狸:少なくともウチの近所では咲いてますよ


マサオミ:でも若葉にツツジは先月っぽくない?


狐狗狸:ツツジが嫌ならジャスミンでも可ですが
バス停の辺りに咲いてますから


マサオミ:あるんだ(笑)…てゆうかこの話では
ちゃんやリク 卒業する位の年なの?


狐狗狸:話が大戦終わって少し年月経過してるって
感じだからね それに進路指導とか六月からじゃん


マサオミ:へぇ〜そうなんだ


狐狗狸:…オミさんは学校行ってなかったから
知らないだけでしょ この不良〜


マサオミ:それは言わない約束な?




サブタイの「いとをかしきわがなさけ」


昔の言葉で 意味は"本当に滑稽な私の恋心"
見たいな感じだと思ってください