『ねぇ今日から夏休みなんだって?』





言いつつ上から顔を覗き込むと


暑そうにウチワをパタつかせながら
はやる気なく声を上げる





「社会人の休みなんてたかが知れてるけど
世間的には夏休みに入るかな」


『でも休みには変わらないんでしょ?』


「まぁね」





答えを確認し、ボクはニッコリ微笑んで言う





『じゃあ明日ボクの服を買いに行こうよ!』







けれどの顔はだらけきったまま





『もう、ノリが悪いなぁ〜新しく服を
買いに行くんだからもっと楽しそうにしなきゃ!』


「…前に服買ってからそんなに経ってないぞ?」


『何言ってるのさ、夏には夏相応の
ファッションがあるの!』












〜「一際目立つ色彩は」〜











その時や時期によっての流行色やデザインを
細かくチェックするのがオシャレの基本!





だから季節の変わり目は気が抜けないの、と


熱弁を振るうボクにようやく理解を示したのか
感心したようにが頷く





「コマキは本当に着飾るの好きだねー」


うん、大好き!だって着飾ったら普段よりも
もっとキレイになった気がするじゃない!』


「そういうモンかねぇ…オレにはその辺
ちょっと分かんないなー」


は女心が分かってないんだから
ダメだよそんなんじゃ!』


「かもな、それなら明日
ちょっと早起きしてお店に見に行くとするか…」


『最低あの店あの店は回るんだからね?』


「はいはい、ただ店に行く前に
ちょっと銀行寄るからな?金の心配もあるし」


えぇ〜、ちゃんとボクの服買えるだけの
お金はあるよね?』


「コマキがあんまり高いの買い過ぎなきゃな」









冴えない見た目通りにのお財布は
ハッキリ言ってペラッペラ


付け加えてボクが頻繁に服とか色々なものを
おねだりするんだけれども…





不思議と生活がみすぼらしくならないのは





ごく稀に働く"謎の仕事"のお陰らしい







"謎"って言ったのはその依頼が来る度に





コマキはここでお留守番な?
…大人しくしてたら、明日服買ってやるから」





忠告して が神操機を闘神符で
しっかり封印しちゃうから







何をしているのか気にならないわけじゃないけど


言い聞かせるの表情が、どことなく
知ってはいけない雰囲気を漂わせていたので





二度目くらいで…黙って待つことに決めた







それにいつも、はちゃんと帰ってきて
ボクの服を買いに行ってくれてたし













約束の日はいい感じに晴れていて


日差しはきついけれど、空が青くて
とってもキレイだった







『お金降ろしたんだったら早く降神してよ〜!』


「分かった分かったから ここじゃ人も
多いし、もう少し向こう行ったらな?」





せがんで物陰で降神してもらって


ボクは意気揚々とお目当ての店で、服を物色する







う〜ん やっぱりこの店センスいい〜!





夏の新作も色使いやデザインが爽やかで
どれもこれも目移りしちゃうな〜!!







「ねぇねぇっ、コレなんてどう?」





試着した姿をお披露目するけれども







「あーうん 似合う似合う」





はずーっと気の抜けた顔で頷くばかり





もぉ!さっきからそればっかり!!」


「だって、それでもう10着目だし…」


「こういうのは妥協しちゃいけないの!」


「さいですか…オレにはあんまり分かんないなぁ
どれ着てもコマキならそこそこ似合うし」







それって本気で言ってる…?







「…なら たまにはが選んでみてよ!」


「えー、オレが?





微妙に嫌そうな顔をするにボクは続ける





ボクはどれ着ても似合うんでしょ?
…ヘンなの選んだら承知しないからね?」


「ハイハイ 分かりましたよお姫様」







ため息を一つ吐きつつ…程なくして
幾つかの服が手渡された









あんな事を言うだけあってか





のセンスは結構ボクの好みに合ってて


選んでもらった服はどれも、それぞれ特徴が
あって可愛いものばかりなんだけど…







「何かの選んだ服って…赤系が多いね」


「赤いのキラいか?」


「ううん そうじゃないけど…
ボクはどっちかって言うと涼しげな青の方が
夏らしいイメージかなーって思うんだ」





けれどは首を横に振ってから







「何言ってんだ、コマキの髪の水色と
この服の赤はとっても夏っぽいだろ?」





自信ありげに言って 笑う





「水色と赤の配色は夏にピッタリなんだよ」







…普段が生返事ばっかりなだけに





キッパリ言い切られると、満更悪い気もしない







「そうかな?可愛い?


「ああ、この夏はそのファッションでピッタリだよ
もうそれだけで十分可愛い」


「…じゃあボク これにする!」









決めたその一着をレジで会計した時に


ちょっとだけ顔を引きつらせていたような…
多分、気のせいだよね











「よーしそれじゃ家に帰るか」


「そーだね…







袋を持って家へと歩き出すの後ろについて
歩いていた途中で





電気屋さんのTVに流れたCMに目を惹かれた





…ハー○ンって新しい味が出たんだ〜


今夏だし、今日スッゴイ暑いし
冷たいアイスとかオイシイよね〜







「どうしたコマキ TVじーっと見…


〜ボク、ハー○ンダッ○が
食べたくなってきちゃった 買ってよ


「えー…さっきの服で結構使ったしなぁ…」







財布を開いてじっと黙っていたけれど





やがて顔を上げて…手を交差した







「やっぱりダメ、そんな高いアイスは却下」


ヤダヤダ!ボクはアレが食べたいの!!」


「いくら言ってもお金が足りないんだから
我慢しなさい」


「やーだー!のケチ!!」









散々ごねたけど、結局お目当てのアイスは
買ってもらえなくて







ボクはしばらくに背を向けて 膨れ面







もう!安月給だからハー○ン買えないのに


どーしてボクが我慢しなきゃいけないのさ!







「これだけ暑いとアイスだよなぁーやっぱ」





しかも自分だけソーダアイスなんて買って…







ジッと睨んでいたら、
アイスを真ん中から二つに割って


その内の片方を ボクに差し出した





「ほら 半分こ」


いらないそんな安アイス」


「ふぅんそっかー…暑い日に食べるアイスは
格別にウマいのになぁ」





そう言って、はアイスを食べ始める







ボクはどこか別の所に興味があるフリをしながら


時折チラッと 青いアイスに視線を送る







うぅ…そんなおいしそうに食べててズルい







でも"いらない"って言っちゃったから





今更"ちょーだい"なんて言えないし……







「ゆっくり食べてるともう一本が
溶けて無くなっちゃいそうだなー」





これ見よがしに片手のアイスをちらつかせながら





「実はオレ、この一本でもう満足なんだよね」


「えっ…そうなの?」





言った言葉に 思わずボクは聞き返す







「うん つい釣られて二本になるやつ買ったけど
そうするともう一本が無駄になっちゃうなー
誰かが食べてくれると助かるんだけど…?」







どこかやる気なく放たれた一言の最後は
明らかに ボクへと向けられていた







「……仕方ないなぁ、ボクが食べてあげるよ」


「本当?」


を助けたいから食べるんだからね?
別に…このアイスが食べたいわけじゃ…」


「分かってるって ありがとコマキ」





口の端を吊り上げるの手から
アイスを受け取り 口へと運んだ







半分に割ったハズのアイスは、それでも
そこそこ大きさがあったみたいで





何とか食べ終わった頃には


口の中がすっごい冷たくなってた







…あったかい飲み物が飲みたい」


「えぇ〜何で?」


「アイスで口の中が冷たくなったから…」


「全く、ワガママだなぁコマキは」


「だってがアイス食べてくれって」


言いかけた文句の言葉が止まる







ボクの口を、が口で塞いだから







しばらく生暖かい息がお互いの口を行き交って







「…これで温かくなったろ?」







口を離し、ニッコリと笑った





のバカっ!!」





ボクは容赦なく両手で叩きまくった





痛い痛い本気で叩くなって」


「何で口が冷たいって言ったらキスするの!?
信じらんないっ!!」



「いーじゃん手軽に温まるし…それに
コマキの顔色も夏仕様に」


「バカ!!」





ベッチンと思い切りのいい音が辺りに響いた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:夏っぽい感じで甘いもの書けないかなーと
つらつら指を動かしてたら


コマキ:こんなつまんないお話が出来たんだね?


狐狗狸:うわヒデェーのっけからその物言いは
ナシでしょ?


コマキ:だってボク、恋するなら王子様みたいに
カッコいい人がいいもん!


狐狗狸:…さんだってよーく見れば
味があっていい感じの人だと思うけどなぁ


コマキ:うーん……普段からもうちょっと
真面目にしてて羽振りがよかったら考えるけど


狐狗狸:ワガママだなぁもう しかし自分で書いてて
何だが"謎の仕事"ってなんだろ?


コマキ:分かんないけど、お金が沢山手に入って
ボクがキレイな服もらえるなら何でもいいかな〜


狐狗狸:え、えー…




こういう恋愛(?)もたまには悪くないかと…
えーと色々とゴメンなさい




さん そして読者様、ここまで読んでいただいて
ありがとうございました!