待ち合わせ場所のある神社の石段には
既に先客が腰掛けていた







オレンジのダウンジャケットと黒いズボン


見た限りショートヘアの少年


目深に被った帽子の下にある裏柳色の目は
真っ直ぐに、手元の本に注がれている





オレが側まで近寄って尚 本から視線を外さない







「なんだよ  またそれ読んでんの?」





こちらをチラリとも見ず、





「いいだろ、好きなんだから」







は ハスキーな声でそう答えた









一見、少年っぽい姿をしたこの女の子は
オレと同じ流派の





大体似たような経歴でこちらに来て


諜報員として共に活動するワルダチって奴だ







「てゆかさ  ーこの帽子取ればいいじゃん
折角の美人が台無しだぞ?」





と言いながら帽子を取れば そこからバサリ
肩まで伸びた髪が現れる





切り揃えられた前髪が、日本人形のような
美しさをかもし出している







無言のまま、 がこちらを睨みつけ


懐から闘神符を何枚か―







わわわわかった!わかった返すって冗談冗談!!」





慌てて帽子を差し出せば、ひったくるように奪い
は帽子を被りなおす





「これは僕なりの作戦なんだって
何回言えば分かるんだい マサオミ?」







ため息をつきながらも  が闘神符をしまったのを
見て オレは安心した











〜「光を啖らう闇」〜











「姿を状況に応じて使い分ける…ねぇ
ホント いい性格してるよな」


「君に言われたくない」









こいつは普段 服装や声音、時には符なんかを駆使し
周囲には性別を偽っている





けれど活動時には少年の姿だけでなく


別人のような少女の姿も必要に応じて使い分ける





更に戦いの最中で ワザと自ら本性を明かし
敵の油断を誘ったりもやらかす







…もちろん、それなりの実力があってこそ
そーいった技が有効になるのだが









「で、僕を呼び出したワケは何?」


「分かってるくせに アイツの…
吉川 ヤクモの調査結果だよ」







が 怪訝そうな顔でこっちを見る







「聞きたかったんだけど、何で僕に頼んだのさ
アレは君の方が詳しいでしょ」


「ああ、悪いな
今は…少しでも多く 情報が欲しいんだ」







しばらく見つめあい、 が読んでいた本を
パタリ と閉じた







「…わかった でも期待はしないでね?
アイツ、勘がいいから結構骨の折れる仕事だったよ」











それから淡々と、 の口からヤクモに関する
過去やら今までの行動経緯が語られる







大半は想定内のものだったけれども







それでも多くの収穫は見られた











「ありがとな  、この借りは今度返す」


「ちょっと待ったマサオミ…牛丼はダメだからね?


「え」





その言葉に面食らうオレなどお構い無しに





これの四作目が 長い時を経て
新しく出るって、聞いたこと無い?」







手にした本の表紙を指し示し、ニヤリと笑った









オレがこの世界で色々と影響されたのと同じように


も ある部類の本や話などに
強く興味を引かれていった





もっぱらのお気に入りは手の中にある本







この世界に昔からある
児童書"大納言バズーカ"シリーズ







元は三部作完結で、一度貸してもらったことがある







月から来た宇宙外交官の大納言ルナという少女が
地球にやってくる宇宙人達の騒動を解決する
という大筋の かなり分かりやすい内容で





タイトルについてるバズーカは彼女の武器らしく





それで悪い宇宙人を攻撃したり


投網が出てきて逃げ出した宇宙生物を捕獲したり


時には煙幕だって張れてしまう
一家に一台欲しいくらい出来過ぎな万能のアイテム





牛丼とかも出るのかな…と読みながら思った覚えが







……っと、脱線しちまった









「四作目出るなんて聞いてないよ!
てか、それ結構イイ値段してたよな!!」



「まあね、けど確かな筋の情報だよ
僕の調査結果を考えたら 安いと思わない?


「〜っとに、いい性格してるよな
わかったよ ちゃんと買っておきます!」







痛い出費だが 仕方が無い







の言う通り、得られた情報は
かなり有益なものだったし


それに 断って の報復を受けるのも怖い





直接的・間接的に人を貶めるやり方
コイツの方が上手だからだ







「分かればいいのさ」







ニンマリと満足げに笑い、再び本を読み出す











「ああもーホント、今月ピンチだ…」





薄くなっていく財布にオレは落胆しか出来ない


ホント バイトでもしようかなぁ……









「正義の味方ってさ ズルイよね」





呟きに、オレは を見やる







本から目を離す事無く 多分オレに向かって





「悪人が相手ならどんな事したって
みんなから褒められるんだもん」







オレは、 の側に腰を下ろす







「自分のいる側が正義だって
主張したくなったのか?」


「…僕は 正義だの悪だのっていうことは
正直どうでもいい」





整った顔立ち、案外長いまつげ


淡い緑色の目は 何の光も宿さないで
それが、 を人形らしく見せている







ページを捲ると、そこには幾つかの活字と


悪の宇宙人を足蹴にする 大納言ルナの挿絵が







「けど…一度でいいから、なってみたい」


「―正義の味方にか?」







性格が捻くれているクセに





は、正義の味方に焦がれている









その正義側を主張した奴等に オレ達は
ヒドイ目に合わされたというのに











………いや、あの事がなければ







きっと はこんな擦れた性格になる事はなく





そして、オレと共にこっちで仕事することも
無かったのだろう









あの村ではオレ達は 単に仲間としてしか
付き合えなかったから…











「そんなつまんないモノ、 には向いてない」







だから オレはこう言うんだ







「…つまらない、かな?」


「どうせあっちにとっちゃオレ達ゃなんだから
悪らしく正義の味方を蹴散らしてやろうじゃないの」







は再び本を閉じ 口の端を歪ませる







悪が正義の味方を、か…マサオミも面白いコト言うね」







けれどその目は…笑っていない





むしろ何処か諦めているような感じだった









だから 肩を抱き寄せてささやく







「オレは 本気だぜ?


「……そう







少しだけ  の目が優しくなった気がした











オレの腕をそっと離して、石段から立ち上がると







「じゃあ僕、帰るから 約束は忘れないように」


「分かってるさ」







は そこから立ち去っていく







オレンジのジャケットが小さくなって消えるまで
石段に腰掛けたまま じっと見つめる











「…そうさ、正義の味方なんて蹴散らせばいい」







オレ達がだと言うのなら


どんなことをしてでも、正義の味方を
全部叩き潰せばいい





そうすれば オレ達は悪じゃなくなる







全てが…元通りになるんだ







平和なあの頃のように









…オレは、勝って証明してみせる
みんなの為 そして―」







強い木枯らしが 最後の言葉を掻き消した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:名前変換でオミさんのマジ夢は書いた覚えが
無かったなーという事で一つ


マサオミ:また大納言バズーカ!?ドンだけ好きなの!!


狐狗狸:結構気に入ってます、捏造モノのハズが
しっかり凝った設定まで作り出しちゃったくらいですから


マサオミ:凝りすぎ!
何かもうそのままフツーに作品として出せるよな!?


狐狗狸:多少のツッコミ所は"児童書だから"
オッケーされちゃいかねませんな


マサオミ:…ってそんな事より この話って
ヤクモが姉上と戦う前の話設定なのか?


狐狗狸:んー まあ、大体神流の正体が
露見し始めた辺りくらい設定?かな


マサオミ: のくれた情報ってのは…?


狐狗狸:まあ式神それぞれの属性だとか
動きのクセとか…ご想像にお任せします


マサオミ:適当すぎ!
つかこの話も妙に暗いだけで とイチャつけてな


狐狗狸:いーから君は黙って最新刊買ってきなさい




こちらでの初・マサオミ夢が肩透かしで
ホンッッとにスミマセンでした…




さん そして読者様、
ここまで読んでいただいてありがとうございました!