パシャ、とフラッシュと共に軽い音を幾度も響かせ、





は 手元のメモ帳に何かを書き込む









その一連の作業を終えて、彼女はぐるりと周囲を見渡す







さすが今話題の水族館 どこを回っても
幻想的でいい雰囲気だわ〜」









闘神士ながら 売れっ子の作家である彼女が
水族館にいる訳は…











「先生 次の話は水族館モノで行きましょう
今の季節にピッタリですし」







とある暑い夏の夜、討伐の仕事を終えて





帰ってきたにかかって来た 担当の電話に
この一言がイキナリ出てきたのだ







「ピッタリ…と言われましても、資料がないと
流石に書けないんですけど」







やや面食らいながら、それでも不満を織り交ぜた
ニュアンスでこう切り出す





しかし、担当もそれで引き下がらず







「なら、僕 丁度知り合いから話題の水族館のタダ券
もらったんで 今週辺りにでも行ってきたらどうですか?」









切り替えされて、立場としても体力としても
担当に異を唱えられず







かくして は貴重なオフの日に





水族館へとやって来たのだった












〜「群青の楽園」〜













「あーあ これが執筆の為の資料取材じゃなきゃ
思いっきり水族館をエンジョイできるのに!







つまんなさそうに言う





半透明のジョニザは呆れた視線を向ける







「…既にエンジョイしてるだろーがボケ」









の手にはガイドブックやカメラ、メモ帳の他に
水族館のグッズ餌付け用の餌







更には水族館特製のお菓子などをしっかりと抱え







頭には水族館のマスコットキャラがあしらわれた
キャップをかぶっている





ぶっちゃけ 縁日の子供状態と変わりない









「だって生まれてこの方 水族館なんて
初めてですよ初体験ですよ浮かれらいでか!








興奮して頬を上気させる







「…何がそんなに面白いんだよ、こんな魚と
水だらけのやたら暗くて無駄に広いルーム内の」





ケッ、と吐き捨てるようなジョニザの言葉に
はみるみる、まなじりを吊り上げて





なにおぅ!ジョニーにはわからないだろーけど
私にとって水族館は憧れの地なのさ!!


「ジョニーって言うなコラァ!」







普通の人ならば ジョニザの威勢のいい怒号
柄の悪さに萎縮するのだろうが





は普通からは ネジが一本と


もとい、かけ離れた珍しいタイプだったので





ジョニザに負けず劣らず 威勢のいい怒号
罵詈雑言を捲くし立てる







「うるさい 水族館をけなすやつは
ジョニーからジョニ男に格下げしてやるっ!」



「何処ぞの豆腐屋と一緒にすんな!
アホみてぇに土産バカスカ買いやがって このクソ女!」



「むっかつくぅぅ!あんたなんか神操機ごと
ピラニアの水槽に沈めてやる!!」



「ハン、出来るもんならやってみやが…」





そこで ジョニザが何かに気付いたかのように
言葉を途切る





「何さ黙っちゃって こっちはまだ言いたいことが」







が尚もケンカ腰で口を開いた、言葉半ばで





ジョニザがの目の前まで顔を近づけて
手を 口の方に抑えるようにする







お前 ちょっと黙れ」


「むっ、何で…









そこではようやく気付く







自分達に奇異な視線を向ける 他の客の存在





「何あの人 さっきから一人で騒いで…」


「ままー、あの人 へんー」


しっ!指差しちゃいけません!」









降神していないジョニザは普通の人の目には見えない





ので、端から見れば一人が独り言を言って
勝手に騒いでいるように見える







「…ここはもう十分資料取ったし、
人の少ないところに行こうかな」





流石にばつが悪くなったのか、がそそくさと
場所を移動した














「まったく ジョニーのせいですっごい恥ずかしかったよ」


「ハ、自業自得じゃねーかバカ女」







二人が目から火花を散らし 再び口ゲンカが
始まるのかと思いきや









「…まあいいや 折角の水族館を
くだらないケンカで台無しにしたくないもん」





と言って、があっさりと引き下がった







この場所に やけに思い入れがあるみてーだな」





何気なく呟いたジョニザの言葉に


うん、と頷いて







「小学校の卒業遠足の時、熱出して水族館に
行けなかった時からずーーーっと憧れてたの」


「だったら行けばよかったじゃねーか」







つっけんどんなジョニザには真顔で怒鳴る







「一人で行って面白いわけ無いじゃん!
こういうのは誰かと一緒に行くのがいいの!」










あまりに真剣なその様子に ジョニザは少したじろいだ







「親は結局連れてってくれなかったし
友達は誘っても駄目って言うし…」





少し沈みがちに水槽に目を向けて、





「仕事が両方忙しくて行くヒマがないし諦めてたから、
今回は本当にラッキーだったよ」







水槽に移るガラス越しに寂しげに笑う





ジョニザは呆れたように、







「仕事でも、かよ しかも連れもいねぇし」





そう言うと は振り向いて


なんてこと無いかのように言い放つ









「代わりにジョニーがいるじゃん」







不意をつかれ ジョニザは少し呆然としていたが







「…代わりかよ、お前みたいなネジの外れた
バカ女と契約してやってるだけ感謝して欲しいぜ」





うっすら笑みを浮かべて、いつものような
憎まれ口をに向けた





「ひっど、ジョニーみたいな柄の悪い式神と
わざわざ契約してるこっちこそ感謝して欲しいよ」







ムッと頬を膨らませ 水槽の方に
はそっぽを向いてしまった









ジョニザは の隣に近寄って、







 こうして並ぶとよ」


「何?」


「デートしてるみたいじゃねーか、オレ達」





は何度か瞬きをして、ようやく 明るい笑みを見せた





「ジョニー見えるの 今は私だけだけどね」


「だからジョニーって言うなって毎度言ってんだろ」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:夏ネタって事で 水族館の話を書いてみました
意外とジョニーとの掛け合い、好きなんです


ジョニザ:好きならもっと書け ってーか
相変わらずジョニー呼ぶなコラ


狐狗狸:だってジョニザじゃ長ったらしいからジョニーだもの


ジョニザ:と似たようなアホっぽい理屈こねんな


狐狗狸:いいじゃん、最近じゃ豆腐/屋ジョニー
類似品のジョニ/男も人気だし


ジョニザ:それがオレ様となんの関係があるんだよ!




水族館といういかにもな場所を生かしきれてない
無糖に近い微糖な夢でした(でしたって…)




さん そして読者様、ここまで読んでいただいて
ありがとうございました!