「お…こんな所に病院があったんだ」





近所を散歩がてら散策し 出来心で
入った事のない道へ歩いていくと


そこそこ大き目の病院があった





『キレイな場所だね〜割と新しく
オープンしたのかな?』


「さぁ?でも確かに新築っぽいよな」





キバチヨに返事を返しつつ、何の気なしに
建物を眺めながら歩いていると







「…痛っ





少し先の曲がり角で 軽い何かが
落ちた音と短い悲鳴が聞こえた





駆けつけてみると、そこには
杖を取り落とし 苦しむ女の子がいた







本当なら、通りかかっただけのオレには
助ける義務も義理もない





でも…考えるより先に身体が動いて







「…大丈夫かい?」





オレは、倒れていたその少女を助け起こした











〜「エンバーミングは真夜中に」〜











「スミマセン…ありがとうございます
ケガの痛みが急に…」


「足 怪我してるの?」





コクリと彼女が頷いて





「大体は直って来たので、自宅からリハビリを
兼ねて通院してるんですけど…抜糸がまだなんです」







言いながら、キョロキョロと顔を動かし
落ちていた杖に視線を止める





「申し訳ないですけど…
杖を取っていただけますか?」


「え、ああ…はい」





拾った杖を手渡すと、少女はフラフラと身を起こす





「初対面で言うのもなんだけど…大丈夫?
よかったら、近くまで送ろうか?」


「気持ちは嬉しいですけど平気です…
一人で歩かなきゃ リハビリになりませんから」







あくまで強い意志を持つ否定…けれど


そこに、オレに対しての拒絶はない





「そう…君はこの近所に住んでる子?」


「はい、そうです」


「オレもなんだ また…会えるといいね」


「…そうですね」









お互い 笑顔で別れたその日から





オレはヒマな時、なるべく病院の近く
何度も通るようになった









「やぁ調子はどう?


「こんにちはマサオミさん…今日は
そんなに傷の痛みは無い方です」





杖を突きながら歩くと顔を合わせ





短いながらも会話を交わして別れる







「マサオミさん、牛丼好きなんですね」


「ああ 大好きだよ!」





彼女は闘神士でも何でもない、本当に
普通の現代っ子で


リクみたいに素直で可愛い子で





「17歳の割にはマサオミさんって
落ち着いてますよね」


「大人の魅力が出てるのさ」







…時々、正体を隠す自分にちくり
胸が痛む時があったけれど





と笑いあってる時間は 楽しかった







「抜糸も終わったし 明日、やっと
足のケガが完治するんですよ」


「そっか、長かった通院生活ともオサラバだな」


「ええ…だからマサオミさん、明日
どこかへ連れてってくれますか?







言われた言葉の意味が、しばらく分からなかった







「それってさ…デートのお誘い?


「…他の何かに聞こえました?
てゆうか、ダメですか?」





首を傾げるの手を両手で掴み





「いいや全然オッケー!むしろ嬉しいよ!」





オレは力一杯、首を左右に動かす







「明日は色々案内してやるからな!!」


はい、楽しみにしてますよ」





来るべき明日を思うと、オレはいても経っても
いられないくらい舞い上がっていた









けど…約束をした当日の朝





「ガシン、急なんだが今日お前に
やってもらいたい事がある」


「ええっ…今日じゃきゃダメなのか?」


当たり前だ 神流の命運がかかっている」





急すぎる"仕事"を任命されて







『デートとダブルブッキングなんて
ツイてないね〜マサオミくん』


「ああ…本当にな」





電話で急用があってデートに行けなくなった事と


もし早く終わったら待ち合わせ場所で
待ってるから
、とに告げて





オレはその仕事を終わらせる為に奮闘した







…だけど 結局仕事は夜までかかり


ダメだった事を謝ろうと電話しても
誰も出なかったので





ドタキャンしたからフラれちゃったのかもね
まあ何にせよ明日 ちゃんと謝ってきなよ』


「…わかってるさ」









ため息混じりに翌日、の家まで行き





ドアベルを鳴らすと…彼女の親らしき人が
泣き腫らしたような目で出てきた







「あなたが…と会う約束をしてた
マサオミさんですか?」


「はい あの、昨日急用があって
約束の場所に来れなかったので謝りに来ました
さんはいらっしゃいますか…?」





その人は静かに首を、横に振った





「あの子は昨日…事故に遭いました」







辺りの音が 一斉に聞こえなくなった











昨日のあの日、オレが来るかもしれないと


夕方まで待つつもりで 待ち合わせ場所へ
出かけた途中、急に飛び出してきた車に…





ひき逃げで犯人が分かっていないとか





ケガの具合がひどくてとか語られていたけど
オレには殆ど言葉の羅列にしか聞こえなかった







本人に謝りたい、と告げたけれども


面会謝絶され 今夜が峠だとしか
答えてもらえなかった







強く頼み込むと、入院している所だけは教えてもらえた…





そこは皮肉な事にオレ達が会った


がずっと通院していた病院







オレが…オレがあんな事言わなきゃ…」







どうしてあの日キチンと断れなかったんだ





オレは、ずっとあの時の自分の
未練たらしさが招いた結果に悔やみ続けた







ひき逃げをした、見知らぬ犯人に
殺意交じりの恨みも覚えた







けど…それ以上に に会いたかった









『…本当にやるの?マサオミくん』


「……ああ」





不安げに見つめるキバチヨを家に残し


オレは深夜 病院へと赴いた









明るい内にも一応、申し出たけれど
結果は火を見るよりも明らかだったから





その時は会えない事を承知の上で


のいる病室の場所と防犯カメラの位置などを
あらかじめ頭に叩き込んでおいた







だから侵入は呆気ないくらい簡単だった









病室に闘神符で入り込むと


ベッドの上に…機械に身体中を繋がれた
が そこにいた





防犯カメラを符でしばし動かなくして







ゆっくりと側まで歩み寄ると気配で気付いたか





「マ、サオミ…さん…?」





弱々しく開いた目が、オレを見る







「ごめ…なさ…約束…守れな…て…」


謝るのはオレの方だよ、ちゃんと断って
別の日に会うようにしてればをこんな目には」





言葉半ばには、微かに首を横に振る





違う…マサオ…さんの…せいじゃ…
だって…会いに来て…くれた…」







視線をオレの手にある沢山の花束に向け







「たくさん…お花…持っ…て…最後…に」


「何だよ最後って…笑えないジョークだぜ」





浮かべた笑顔が、引きつってるのが分かる







「ゴメ…ね…もう……多分…もたな…」


そんな事ない!はケガを治してここを出て
オレと一緒にデートするんだろ!?」





場所や時間など関係なく、オレは声を張り上げる





「やっと…自由に歩けるようになったんだろ?
歩きたかったんだろ!?なのに」








言ううちに 目からは止め処なく涙が溢れ







「死ぬとか…言わないでくれよ…!」





勝手に、ボロボロと零れ落ちていく







「……ねぇ…マサオミ、さん」


「…何だよ?」





シーツの上に投げ出されていた手が
ゆっくりと、持ち上げられる





「手…握って…ください……安心…して
天国…行けるよ…に…」










その様子で 何となく分かってしまった







これが、に触れる最後の機会だと









花を近くのサイドボードに適当に置いて


オレはのその手を、震える両手で
しっかりと握り締めた







「大丈夫だよ、は…天国に行けるさ」


…ありが…と…マサオミさ…」







うっすらと笑みを浮かべて





それきり は動かなくなった







代わりに側の機械が、ひどく耳障りな
甲高い音を鳴らし続けている









手を離し 置いておいた花を拾い上げると


眠ったようなの枕元をそれで埋め尽くし





「大好きだったよ…さようなら、





額にそっとキスを落として







カメラに仕掛けた符の効果が切れる前に
オレはそこから出て行った







その病院へ足を運ぶ事は…二度と無かった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ついに書いてしまいましたー死ネタ


マサオミ:って何でオレの話で書くの?
名前変換だとオレ全然報われて無くない!?


狐狗狸:あ、本当だ…まーでも仕方ありません
それがマサオミさんのデフォだと思ってるので


マサオミ:Σ勝手な事言うな!
オレだってちゃんと普通にイチャつきたい!!


狐狗狸:そんなバカップル的展開は今後ありません


マサオミ:…キバチヨ、必殺技行くぞ


キバチヨ:オッケー マサオミくん!!


狐狗狸:ちょっ久々のノr(強制終了)




embalming=防腐処置、死化粧などの意味があります


今回の話は 後者の意味で書いてる感じです
本当、マサオミファンの方々ゴメンなさい!




さん そして読者様、ここまで読んでいただいて
ありがとうございました!