冷たい空気が室内へ忍びこんでくる夕暮れ時





電話の呼び鈴がなり、は面倒くさそうに
台所の方に呼びかける





「ね〜ちょっと電話だよ〜」







台所に立つ銀髪の式神は 振り向きもせず答える





「俺が何してるか分かってんのか?」


「お料理」


「なら手が空いてる奴が出るのが筋だろ
大体ここお前ん家なんだし」







その言葉に 彼女は眉をしかめて





「だって寒いもん」





今いるコタツの中へともぐりこむ









そこでようやく式神は、包丁を使う手を止め
ちらりと主の方を見やり





「知らねぇぞ、ヤクモさんの電話でも」





一言呟き 再び作業を再開した







「〜〜〜っう、の意地悪!







理不尽な悪態をつき、は渋々コタツから
這い出て未だに鳴り止まぬ電話を取る







「はい、もしもし」


「― ズイブン久しぶりだな」







受話器から聞こえた声に、彼女は眼を見開いた











〜「敢えて何も言うまい」〜











「あ、お帰りリク君 お邪魔してま〜す」







授業も早めに終わり、部活も終えて午後に
太刀花荘へ戻ってきたリクは驚いた









居間の卓を囲み、とソーマにフサノシン
それにナヅナがババ抜きをしていた







「こんにちは…あの、さん
いつ頃こちらにいらしたんですか?」


「んーと 結構早い時間帯かな?」


「10時ぐらいでしょうね」





の言葉を ナヅナが訂正する





「10時って…学校はどうしたんですか!?」







今日は平日で 現役高校生の
学校に行ってなければおかしい時間帯だ







リクの疑問に、引き抜くトランプを選びながら
ソーマが答える





「今日、さんの学校の創立記念日
お休みなんだって」







言いながらトランプを引き、眉を少ししかめる





どうやらババを引いたらしい







「そうなんだ…で、三人でずっとトランプしてたの?」


「んーん UNOとかジェンガとか人生ゲームとかも
やったし、まだまだゲームはあるよ〜!」







はそう言って、ソーマからトランプをもらい
移ったババの位置を並べ替えてフサノシンに差し出す







『なんでんなゲーム持ってんだよ』





半透明のコゲンタが リクの隣から尋ねると
彼女はニッコリ笑って答える





「昔、ゲームが好きな友達にもらったんだ〜」


「ああ、確か以前もそう言ってましたね」







言って ちらりと彼女の背後を見やる


そこには大小様々なゲーム類(主にボードゲームの類)が
ちょっとした山を作っている







「けど、これはちょっと多すぎるのでは…」


「そうでもないよ その子はこの十倍くらいもってたんだよ」









ゲーム好きの友人について、の説明によると







なんでも 不思議とお金を持っている子で





面白そうなゲームがあれば、惜しげもなく
そのお金をつぎ込んで買っては


達と遊んでいたという









「たまーに飽きたのをあたしや他の子にくれたり
思い出した頃にまた一緒に遊んだりしたの」





と語るの二枚の手札をじっと見つつ
フサノシンが答える







「お前の友達って、やっぱり変わってるな」


「あーそういう事言う?フサノシン君〜」





軽口を叩きながらも 彼の動きを見る
の目は真剣そのもの









そして彼女の手にババが残り、勝敗は決した







「うにゅ〜負けちゃったぁ」





悔しげながらも楽しそうなその呟きを皮切りに
ソーマとフサノシンが席を立った





「じゃ ゲームも終わったことだし」


さん、僕もう部屋に戻ってるね」


えーっ もうちょっと遊ぼうよ〜!」







悲しげに見やるに ソーマは少し困ったように







「どうも僕ってボード系のゲーム向かないみたい
それに、ちょっと気になる事があるから」





そう言って、リクの側をすり抜けざま







「リク あと大変だろうけどよろしく」





足早に自室へと退却していった







「え、ちょっとソーマ君?」


『今のはどー言うことだよ!』





戸惑う二人に、フサノシンが同じように
通り抜けざまにささやく







「…ソーマとオレが一番の相手してたんだよ
さすがに疲れるだろ?いくらなんでも」







二人に続いてナヅナも腰を上げる





「キリがいいので私もお買い物に参ります」


ナヅナちゃんも〜?またホリンちゃんを
降神してお留守番とか無理かなぁ?」


「申し訳ないのですが、私はさん程
気力が高い訳ではありませんので 失礼します」





そそくさと逃げるようにその場を後にし







の茶色の目が、自然に残ったリクへと向いた





「リク君は 付き合ってくれるよね?」


「え、あの…」









元来大人しい性質のリクが、彼女の頼みを
断れるわけは無く







それからリクはコゲンタを降神し
と立て続けのゲームをする羽目となった













「ねぇっ もっと遊ぼうよ!」


「ええっ…ちょっと休みません?
それにもうこんな時間ですし、お帰りになられた方が」







立て続けのゲーム三昧で時刻は六時半を回っていた







しかし、は力一杯首を振る





「や!もっと遊ぶの!!」


「けど、休みだからっていくらなんでも
朝早くからずっと遊び続けてたら疲れませんか?」


「ううん平気だよ リク君達と遊ぶの楽しいし
だからもっと遊ぼうよ、もうちょっとだけでいいから」







次はこれ!が新しいゲームを
卓上に出して勧めている









…いつもよりも奔放過ぎる





リクは、そう思った







それに普段なら、真っ直ぐ家に帰るはずなのに









さん…ひょっとして何かあったんですか?」







そう問えば、途端に彼女の表情が少し強張った







「…何もないよ、遊びに来たかったから
来ただけ それはいけないこと?」


「それは…」





言いよどむリクに変わり コゲンタが答える







「いけなかないけど それだけでもねぇだろ」


「なぁにそれ、コゲンタ君は
あたしが何か企んでるとでも言うのかしら?」


「誰もんなこと言ってねぇけど
お前、なんか隠してるんじゃねぇか?





続けざまの詰問に、は口を閉じてしまう







「…言えねぇってことは、何かあったろ?
あの狐とケンカでもしたのか?」







コゲンタが再三尋ねた、その時だった









『…俺が何だよ?』





神操器から出てきた半透明の
機嫌悪げにあくびをかみ殺して呟く







「なんだいたのかよ、話は聞いてたろ?」





は頷き コゲンタの方を向いて答える





『ケンカはしてねぇ ワケはに聞け』


「どういう事ですか、さん」







の方を金色の目で見やり







『…俺の口からは言えない、それだけだ』





そう言うなり、も口をつぐんだ









「何があったのか…言える事だけでいいので
聞かせてくれませんか?さん」







真摯な紫色の眼差しに、







「…いいよ」







沈黙を守っていたが 折れた











話は、昨日の夕方の電話に遡る









「― ズイブン久しぶりだな」


「…お父さん、何か用なの?」


実の親に対してその言葉は無いだろう
何、明日母さんとそちらに帰ろうと思ってな」





は淡々と答える





「ズイブン急だね どの位いるの?」


「まあ、精々一日くらいだろう
二人とも忙しい身だからな 分家なりには」


「その仕事って、実の娘を一人でほったらかす位
忙しいものなの?」







急に、受話器の声が厳しさを増す







「お前の勝手のせいでもある事をちゃんと自覚しているのか?


勝手に光明の契約を破棄したばかりか
地流にいた六花などと契約し直した事


―まだ 許したわけじゃないぞ」


「その事は、前にも説明した
そっちがちゃんと聞いてくれなかっただけ」


「お前のような子供に この世界の事情が
理解できると思っているのか、








にべも無く言い放たれ、彼女は沈黙した







「明日の昼間には戻る 出て行くのは
明後日の朝、だろうな…それじゃあな」











そして、一方的に電話は切られたのだという









「…それで、太刀花荘に来たんですね?」







リクの言葉に はコクリと頷いた







彼はの家庭事情について 今まで
聞いた事は無く、また聞かされたことは無かった


けれどそれは 無理に聞くことも無い
思っていたからである









語り終え は立ち上がる





「聞いてくれてありがとうリク君
話し終えたら 何だかスッキリしたよ」





ゲームを手際よく片付けてまとめ、それを
降神したに全て持たせて







「もうこんな時間だし…帰るね?







そう言って部屋を出る前に笑ったの顔には
普段の明るさは 微塵も無かった







垣間見えたのは、無縁の筈の悲しみ









気付けばリクはの手を取ってこう言っていた





さん こんなに暗いのですし、良ければ
ウチに泊まっていきませんか?」







彼女はそこで立ち止まり、ひどく戸惑った







「いくらあたしでもそこまでリク君達に
迷惑かけらんないよ」


「迷惑なんかじゃありませんよ!」







語気を荒げるリクにはビクリと驚く







「僕にとっては さんにそんな顔をさせる方が
よっぽど辛いんです…!」











しばらくお互いがじっと視線を交わし







やがて、が口を開いた







「……一応、家に電話だけさせて」


「わかりました」









その電話の内容を 二人は聞かないフリをした









「…終わったよ、承諾はしてくれたみたい
なんで一晩ここに泊めてもらう事にするね」


「ええ ナヅナちゃんやソーマ君には
事情があって一泊すると伝えておきます」







コクリと頷き、は苦笑して







「悪いね…ありがとう、リク君


「いいんですよ」













そうして、帰って来たナヅナや部屋にいたソーマに
リクからの簡潔な説明がなされ







「と言うわけで、一晩だけここに泊めてもらう事に
なったから よろしくね〜」





は太刀花荘に一泊することとなった







「まー事情ありならしょうがないよね
よろしく、さん」


「寝床は私達と一緒にしましょうか…しかし、人数が増えたと
なると料理の献立を変更する必要がありますね…」


「あ、俺も食事の準備 手伝わせてもらうわ
泊めてもらってる手前でもあるしな」









ガヤガヤと賑やかにしゃべる中心から少し離れて
リクとコゲンタはの様子を見ていた







「…やっぱり、はああやって笑ってこそだな」







楽しそうに笑うその顔から、


あの時の悲しみを見ることは全く無い







「そうだね」









分かち合えないその悲しみを 訪ねず
追求することもなく







例え、束の間であったとしても





リクはの笑顔を取り戻せた事に安堵した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:リク夢を書くと、どーにもシリアスっつか
暗めっぽいのが出来るのはどういうわけか


リク:さんのお父さん…初めて話に出てきましたね


狐狗狸:うん、一応別の話でも仄めかしてはいたけど
は両親共に健在ですよ


コゲンタ:の割には家にいねぇみたいだったよな


狐狗狸:は流れの天流でなくちゃんと分家筋があり、
両親は主にそっちの仕事も兼ねてあちこちを
移動してるため家には滅多に帰らない…ってなってます


リク:あの、ここでそれを語っていいんですか?


コゲンタ:いいんじゃねぇの?こいつそーいう
蛇足っぽいことやんの好きだし


狐狗狸:シャラップ ちなみにが流れじゃないと
知ってるのは宗家のリク君や伝説の闘神士ヤクモさん
後は友達の片方くらい…かな?


リク:ナヅナちゃんやユーマ君達は知らないんですか?


狐狗狸:薄々感づいてはいるけど詳しくは
聞かされてないから分からないってトコでしょう


コゲンタ:の昔のダチって本当に何モンだよ


狐狗狸:今となっては知る由も無いですが
案外 似たもの同士だったのでは?




作品の展開や出来については、まさに
今回の題名に習います