戦いも終わり、特にすることもなく
のんびりとすごす日々







時折やってくるさんとの会話が
ちょうどいい張りあいになっている





けど、今回はそんなのんびりとしたものでなく





ちょっとばかし、何とも言えない雰囲気をまとっていた













「ほれ、今日バレンタインだろ?煎餅渡しに来てやったぞ」







言いながら、さんは手に持った袋を
あっしに突きつけるように手渡す







「わざわざすいやせんねぇ あっしのために」


別にテメェのためにじゃねぇよ、世話になってるから
渡しに行けってがだな」









つっけんどんな口調は変わらないけど





視線が少し逸らし気味で、白い頬が赤くなっている












〜「甘い毒」〜













「嘘が下手ですねぃ」


「るせぇ笑うな!」







ひとしきり笑ってから、







「どうせ来たなら、しばらくあっしの
話し相手になって下せぇよ さん」





近くの岩に腰掛け、隣に来るように手で誘ってみる





「…のやつが夕飯までには
帰れっつってたから、それまでだぞ」







ため息つきながらも さんは隣に腰をおろした













「で、今年もあいつのせいで夜中まで
チョコ作りを手伝わされて散々な目にあったぜ」







話し相手になってもらうつもりが、気がつきゃ
いつの間にか逆にこの娘の話を聞いていた









どうやら今年も嬢ちゃんは







ヤクモの旦那に渡すチョコの為にさんも
巻き込んで色々と奮闘したらしい









「そいつぁ大変でしたねぃ」







相槌を打ちつつ 煎餅を一枚取り出してかじる


醤油と米の味が口の中に広がり、二口三口
そのままかじり続ける







「まあ…交換条件で手伝うとは言ったんだけどよ」












その言葉と共に、急にふわりと違う匂いが漂う









…ん?この匂いは…チョコ…?











匂いの元を探して視線を動かすと、それは







さんが手に持った一口大の何か
この娘の口の中から香った







あっしの視線に気付くと それを隠して





「これは俺の菓子だ」


「…ひょっとして、交換条件ってなぁ
そのチョコなんですかぃ?」





聞くと、さんは気まずげな顔をして







「そうだよ…しょうがねぇだろ これ結構うまかったしっ」


「へぇ、そんなにうまいんですかねぇ…あっしにも一つ」


「お前 甘いの苦手っつってたろうが」







遮るその言葉と眼は、かなり鋭い







「それにこれ、からのもらいもんで
数少ねぇから余計渡せねぇ」


「たかが菓子の一つくらいで意地悪だねぇ」









心外だとばかりに、この娘の顔が不機嫌に変わる









「別に意地悪してる訳じゃねぇ、犬にゃチョコが
猛毒だって聞いてっからよ」


「どっから得た情報ですかぃそれ」


「……がこっそり言ってたのを聞いた」







嬢のことだ、多分嘘ではねぇと思う







脳裏に"毒殺"という言葉が浮かび、思わず背筋が寒くなる











さんは、あっしが納得して諦めた
思ってか チョコを再び食べ始めた









この娘は意外に頑固だから
面と頼んでもチョコはくれねぇだろう







しかし もらえねぇとなると


余計欲しくなるのが人情ってやつで





どうにかして 味わえねぇもんかねぇ…







「…テメェ 何か企んでやがんだろ?」


「いいや何も?」


「どうせチョコをどうやって俺から
奪おうかってことだろ?」






相変わらず、そういう雰囲気にゃ鋭い





「残念だな これが最後の一個だ!」







さんは口にチョコを放り込むと





味わうように転がして―飲み込んだ







「お前の欲しいもんは、もうなくなったぜ」









勝ち誇ったように笑ってるところ悪いんですがね







あっしの狙いは、そっちじゃないんでさぁ









「…甘いねぇ







お返しにニッと笑い、身体を抱き寄せて





唇を重ねると 舌を滑り込ませた







「む!?」





今更気付いて抵抗したってもう遅い







叩きつけられる拳に構わず、あっしの舌が
口の中を這い回る









少しの苦味とまろやかな甘い味が広がる







十分堪能して、ようやっと唇を離した









「結構甘いもんですねぃ ごちそうさま







直後さんは 顔を真っ赤にして
渾身の肘鉄をあっしの顔面に放った







「っテメェ チョコが毒になって死んじまえ!」





怒った顔でそう叫び、一人で去って行っちまった











「痛てて…」







顔を抑えながらも チョコを味わえた満足さ
笑みが抑えられなかった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:久々シリーズものですが、在り来たりオチ…てか
途中なんか微エロ!?


オニシバ:…色々と説明不足じゃないんで?


狐狗狸:それは認めますけど、仕方ないじゃないですか!
バレンタイン間に合わせるために急いだんです!!


オニシバ:当日に間に合わなかったってのに
これで急いだって言われてもねぇ(ため息)


狐狗狸:それは言うなあぁぁ!!(泣)




本当 バレンタイン当日アウトでスイマセン