君は とても大切な存在だから









オレは世界と、彼女を守るその為にも
戦うことを決めた












〜「時の欠片」〜













最後の戦いへ向かう少し前――









『ねぇヤクモ、本当に あそこへ行くの?』


「タンカムイ…もう決めた事だ」







あの場所へ向かう事に不安を抱く式神たちを
宥めながら、オレは決意を硬くする







「そこで戦って、奴の ウツホの目論見を
食い止める…その為に今日まで伏魔殿を探ってたんだ」


『けど、いくらなんでも無茶でんがな』


「十分わかってるよ だけど誰かが
やらなくちゃいけないんだ」









心配そうに見つめるリクドウから視線を外し







オレは、虚空を見つめて呟く









「これ以上、戦いが激化して皆が
傷つくのを見たくない」










そう、オレは守りたいんだ 皆を…ちゃんを













神流の情報を探るため、そして天流宗家の行方を
探すために伏魔殿を歩き回り







色々と分かった事があった









神流の狙い、1000年前の出来事について
天流や地流の分家の情報…







知っていくうちに、驚くべき事実が次々と見つかっていく











『それは、本当ですか ヤクモ様!?』


「…正直、自分でも信じがたいな」









驚くブリュネにオレがそう漏らしたのも、







その情報の一つと自分自身の推測で
察したことによってだ











同じ流派の、 ちゃん







彼女は、恐らく天流分家のとある一族の血
受け継いでいるらしい









一族自体は大分昔に滅んだけど、







一族の人間は散り散りになりながらも
生き延びていたようだ











その一族は、他の分家にはない特徴があった









宗家を陰で支え、
あるいは盾となり式神と共に長く働くため








気力が尋常じゃない位突出する者が多かった







ただ、気力の高さだけで強さが決まるわけでもなく







一族の大半は 日陰者の扱いを受けていたらしい











『気力の高さが強さではない、か』







淡々と呟くタカマルに、オレは頷きながら







「でも、あの気力の高さがあればこそ 光明族や
六花族を長時間降神できるんだろうな…」









ひょっとしたら、ちゃんの前の地流契約者も







その一族の血が混じっているのかもしれない











その一族は 気力の高さと反比例して
寿命が普通の人より早く訪れると聞いている







ちゃんは 知っていたのだろうか」









自分の背負う、運命の大きさを







宗家のために戦う 一族としての使命を









知っていて、なお あんなに笑っていたのだろうか…














オレは符を一枚取り出して念じ 空中に投げる







符は甲高い音を立てて、とある場所への
近道に繋がる襖へと変わる









『どこへ行くのでおじゃる?』


「…ちょっと、彼女に会っておこうかと思って」







何か言いたそうなサネマロに、オレはふっと笑って







「大丈夫だよ すぐ戻るから」









襖を開けて、そこをくぐり抜けた















行き先は ある家の前







入り口を数回ノックすると、間延びした
呼び声と足音が近づいてきて









「ヤクモさん、こんな時間にどうしたんですか!?」







玄関を開けて ちゃんが驚く







オレは何でもないフリをして笑った







「ちょっと話がしたくなってね」


そうなんですか?あ、こんな所で話すのも
寒いですから 上がってください!!」









ちゃんは買い物らしく、家には
オレとちゃんの二人だけ







出された温かいお茶を一口すすり





彼女に話しかける









「最近 調子はどうだい?」


「やたらと伏魔殿に妖怪が多くなりましたけど
おおむね、いつも通りですよ?







たどたどしく ちゃんは続ける







「まぁ正直ちょっと大変ですけど、リク君達も
がんばってるし あたしも負けてられませんよ!


「ははは 頼もしいな」









久々の他愛ない話を楽しむ一方で、







これからオレがやる事を、ちゃんに
告げるべきか迷ったけれども









余計な事を言って、





彼女を危険に晒したくなかったから









結局 何も言えなかった











「どうしたんですかヤクモさん?」


「なんでもないよ、大丈夫…もうこんな時間か」







時計を見て オレはぽつりと呟く









名残惜しいけれど、いつまでもここにいられない
オレは 行かなければならない







ちゃん そろそろ帰るね」


「じゃあ、あたしお見送りしますね?」









彼女に見送られて 玄関先でオレは
ニッコリと笑って別れの言葉を口にする







「今日は楽しかったよ それじゃ」







言って ちゃんが頷いたのを見て









オレは背を向けて歩き出そうとして―











「………あの、ヤクモさん」









声をかけられた







振り返ると じっと上目遣いにこちらを見る
茶色の優しい目









「何かあったら また、来てくださいね?
あたし、いつでも力になりますから







そう言って微笑む彼女が 愛おしくて











オレは腕を伸ばして、ちゃんを
強めに抱きしめた








温かい身体と慌てた空気が直に伝わる









「え…や、ヤクモ…さん…!?


…ちゃん、少しだけこのままで
いさせてくれないか…」










ほんの少しでいい







オレは 彼女のぬくもりを
確かにここにいる愛しい人を感じていたい













どれくらい時が経ったのだろう







オレが身体を離すと、ちゃんは
とまどって顔を赤くしていた











「いきなりごめん ちゃん」


「え、あ あの いえ…気にしないでください







耳まで真っ赤にして俯くちゃんの頭を
優しく一つ撫でて 微笑んだ







「じゃあ またな、ちゃん













オレは 今度こそ彼女に背を向けて歩き出した







世界を護るため、命を賭して
式神たちと戦うそのために
















せめて…もしオレが全てを失っても







ちゃん 君だけはオレの時
覚えていてほしいと願いつづけてる








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:の隠れ設定を独白めに書いてみました〜


ヤクモ:これは…オレが柱になる少し前辺りなのか?


狐狗狸:時間軸としてはそっちを意識したつもりです
一応は(だっての話と対だし これ)


ヤクモ:珍しく今回 オレでシリアスで夢らしい話
出来たじゃないか、色々不満はあれども


狐狗狸:一言多いです てかの一族の事は
どやって知ったの?


ヤクモ:伏魔殿の式神や仲間とかから情報を聞いたり
文献なんかを調べて…かな


狐狗狸:なるほど〜まあ役割は宗家の為に活動をするのと
敵流派の攻撃を防ぐのとって感じだよね


ヤクモ:ちゃんは 彼女なりにがんばってるよな


狐狗狸:うん、暴走気味だけどね




珍しくほのぼのとお開き