その日 伏魔殿にやって来たこの娘は、普段はない
神妙な雰囲気をまとわりつかせていた









「…今日はまたえらく渋い顔してやすねぇ さん」


「……まぁな、ちょっとについて
思う所があるから 隣で愚痴らせてもらうぞ





そう言いながら 隣に座る









余りにも警戒なく隣にいるもんだから ちょいと驚いた







「…珍しいですねぇさんから
あっしに近づいてくるなんざ」





クク、と喉元で笑うと 妙に不機嫌そうな目をされる







「…何だよ、文句あんのか?


「いや 別に…所でここへはまた迷い込んだんですかぃ?」





あっしの問いかけに この娘は激しく首を左右に振り







"たまには息抜きも必要よね♪"とか言って 散歩してこい
っつってがここに置き去りにしやがった


その言葉に続くように
何考えてんだあいつ、と呆れたような呟きが聞こえた











…そりゃ〜まぁ あの譲ちゃんの事ですからねぇ
発想自体は思い付きってこともあるだろう







本人は心配なのか巫戯けてんのかわからねぇけれども


さんと一緒にいられる時間を作ってくれた
ことにゃ感謝してもしたりない









「ああそうだオニシバ、念のため先に言っておく





突然鋭い目つきで睨まれ 冷水をかけられた気にさせられる







「今回俺がここからのとこまで戻る間
絶対に何も手ぇださないって誓えよ」







…そりゃ殺生な;





「……軽く触れ合うのも 駄目ですかぃ?」


寂しげに顔を覗きこむと、さんはう、とうめいて







「…肩を抱くのまでなら……許可してやるよ





「それじゃあ、誓いやしょう」


「Σ何かその笑いは怪しい 誓うんだったら
今ここで指切りしろ指切り!






そう言って 半ば無理やり右手の小指同士を絡まされる









…そんなにあっしは信用できやせんかね?











〜「ボーダーライン」〜











他愛もねぇ話をちょいと交わして 唐突にさんが
愚痴の話を切り出してきた





のやつ 前からマサオミと妙に仲がいいんだよな


「あ〜…あのお方とですかぃ」





さんはガシンの旦那が反りに合わねぇらしい









何でも 普段の物腰もつかみ所がないのと





前の闘神士と別れる原因になった
"例の戦い"の相手かもしれない事





そしてまぁ…譲ちゃんに何かと係わってくるから
あまり気に入ってはいない、とは言っていた









「二人して時々、俺の知らない事を話してたりするし
聞いてて あいつの過去に初めて驚く」





言いながら 呼吸を取って遠くを見る、金色の目







が過去を話してこないのも…前の契約者との
俺の過去を何となく知っているのも 解ってはいたんだ」











前に一度だけ さんが過去を語った事があった











2年前に"例の戦い"で別れた前の闘神士と会うまで、





この娘は自分の兄弟に疎まれ 式神界から追放され


そのせいで伏魔殿でしばらく彷徨うようになり


いつしか自分を狙っていた妖怪どもを滅ぼすぐらいの
強さを見につけたが


憎しみにまかせ暴れすぎたため
しばらく封印されて動けなかった…らしい










「でも、言う事も聞くこともできず 距離をおいていると?」


を信頼してないわけじゃないけど…
引いた線を越えられなくてな」





言いながら 寂しげに苦笑いをするさん







…この手の話になると、いつもこんな顔をしていた









「もしその話題に触れたら、あいつがいなくなる様な気がして…」





「本当に そう思ってるんですかぃ?」













しばらく、お互い何も言わなかった











けれども 寂しそうに…何処か自嘲めいた口調
さんが口を開いた







「俺は 臆病なんだよ、
俺が過去にやってきたことがに牙を向いてきたら
…そう思うと 言えないんだ」









普段は信じる人の為に強いのに、こういう時だけ酷く弱気









今更…と呆れながらも、沈んだままにさせたくねぇから





溜息混じりに あっしは言葉を吐いた







「いっそ全部ぶちまけたらどうです…
さんが心配するほど
譲ちゃんは弱かねぇ筈ですぜ」


「そりゃそうだけど あいつだって…


「それとも あの子の強さが信じられないんですかぃ?





「そんな訳無いだろ!確かにはワガママで


自分勝手だけど明るくて強い奴だって事は


今、誰よりも俺が知ってる!!」









…そんだけデケェ声でがなれりゃ 十分だ





いつも 自分の境遇に少し不満を言ったりする割には
信用している相手に対する一途さは、やっぱり変わらねぇ









「なら 思った事を素直に言やぁいいんですよ…
二人の過去がどうであれさんと譲ちゃんは今、
信頼しあってんですから







我ながら似合わぬ台詞を吐きながら、彼女の頭を
クシャクシャと撫で回す









「…ん、そうだよな ありがとオニシバ





撫でられながらも 苦笑して礼を言うさんを見ていて







その顔に、何か癒されていくような気がした















「ありがとな…また、辛くなったら来てもいいか?」


「勿論 会った時にゃ何時でも相談に乗りやすよ」





あっしのその一言に さんは
はにかんだような、嬉しそうな笑顔を見せた







その笑顔を見れるなら どんな事でもしてみせる









アンタが闇を溜め込むのなら 望まなくとも線を越えて、
闇を全て斯き出してやる












「必ず…受けとめやすから」





隣にいるこの娘に、聞こえないように そっと呟いた








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あとがき(と言うか楽屋裏)


狐狗狸:こっちもやっと書けたシリアスだけど、
やっぱり前に書いた過去がらみの話とあんまり変わってない(泣)


オニシバ:つか 何気にさんの設定追加してやせんか?


狐狗狸:うん、実は載せてないけどね〜
自分の兄弟のせいで妖怪に狙われ&不信のトラウマ
付けられちゃってるの


オニシバ:何気にキツイ過去っすねぇ…


狐狗狸:うん それで逆に力つけて妖怪殺してて暴れすぎたから
しばらく封印されてて、前の契約者のお陰で出して貰えて
トラウマも大幅改善されたの


オニシバ:へぇ…流石は親バカを自称するだけ
ありやすね あのお方は(汗)


狐狗狸:そう思う だから…との仲を認めてもらうのは
結構遠い道のりだよ(苦笑)


オニシバ:ふっ 障害はでかい方がやる気がでまさぁ(不敵笑い/何)