きっかけが何だったのか、今では
もうハッキリしねぇけれど





「何か想い出に残るモノが欲しいね」





そう切り出したのはだった





「想い出に残るモノって?」


「この所闘いが厳しくなってきてるから
ちょっとだけ、不安になってはいるの」







ここにこうして話している宿主も


テーブルの向かい側で耳を傾けるミヅキも


共に地流闘神士としては高い実力を持っている





それでも、ここ最近の状況については
少し苦戦を強いられていると言えなくも無い





妖怪や天流の力が少しずつ増していて


更にちらちらと"不明の敵"が目撃され
情勢が不安定になりつつある







スプーンでくるりと茶をかき混ぜて


は、次の言葉を紡ぐ





「私達 いつ負けてもおかしくないでしょ
…だから覚えている内に証を残したくて」


「それって"友情の証"って事?」


「ええ…ダメかしら」


「ダメじゃないわ、むしろ賛成よ」


「…ありがとうミヅキ」





やんわりと手を重ねあって微笑み


程なく"想い出に残るもの"
タイムカプセルに決めてから





それからの事を後日相談する事にして
二人が別れた後…







俺は気になってに訊ねる





『タイムカプセルってなんだ?』


「今の自分の手紙や思い出を入れ物に入れて
土の中に埋めて、未来に掘り出すの」


『自分の埋めた手紙をまた掘り返すのか?
何でそんな妙なことを…』





理解できずに眉をしかめた俺に


アイツはただ笑って こう言った





「時が経てば、にも分かる日が来るから」











〜「そして匣は開かれる」〜











「…それってきっとノスタルジーって奴だよ」





パタパタと頭から繋がった尾を振りながら
言うコイツの横文字は相変わらずわかんねぇけど


多分、昔を懐かしむとかそんなんだと思いながら





「それじゃ話を続けるぜ」





並ぶ面子に宣言して 再び言葉を紡ぎだす









埋める日の段取りや、場所なんかは
互いに連絡を取り合って


徐々に色々な事が決まっていった







「調べたらね…ステンレスの容器に入れるのが
一番いいんですって」





それぞれが金を出し合って、タイムカプセルを
するのに必要なものを揃えていく







「長い時間に土の中に埋まってたら
中身が酸化しちゃうから、それを防ぐ為に」


「そうね、ちゃんと手紙が読めるように
慎重に中身を詰めなくっちゃ」





入れモンはステンレスの水筒


紙は専門店とかいう場所で取り寄せた
酸化しにくい珍しいやつ





そして、当日に撮った写真と手紙を


菓子についてる乾燥剤と脱酸素剤っつー
妙なモンと一緒に 入れモンに詰めて


樹脂でフタを固めて…埋める手筈だ







「ってオイ!それってやリク達が
やったタイムカプセルと同じじゃねぇか!」



「そりゃあ、嬢方のやり取りを
そっくりなぞらせたんじゃねぇんで?」





クツクツと笑うコイツの皮肉を無視して





「…確かに提案は俺がしたが
殆ど口を挟まなかったのは 知ってんだろ?





驚いた方に問いかければ、返事は
首を縦に振る形で帰ってきた





リアリ?それって偶然なわけ?」


「おぉ、入れるモンや紙や写真とかは
それぞれ別の奴がやってたからな」


「そいつぁまた面白ぇ話ですねぃ さん」


「何だよその目は、俺だってそん時ゃ
ビックリしたんだ…続けるぞ」









予定した日も 空模様はすっきりと晴れて





ゴメンねミヅキ、クラダユウさんに
写真撮ってもらうの頼んじゃって」


「いいのよ…分かってた事だから」





済まなさそうに笑うの横でミヅキは
ちょっとだけ苦笑しつつ


俺から視線を逸らしている





「……あの、今からでも交代しません?」


『なりません あなたの闘神士がそれを
承知しないのは分かっているでしょう』





ええ、そりゃもうってほど分かってます







これ以上ごねて折角の二人の記念
台無しにするほど 俺も野暮じゃない





仕方がねぇ、と腹を括って


ゴテゴテの派手なロココ調の衣装のまま
写真に写る決意をしなおし


ミヅキが式神を降神しかけた所で





「…二人とも何やってるんだ?」







思ってもみなかった奴の顔がそこに現れた







ユーマ君…どうしてここに?」


「いや、たまたま通りかかっただけだ
それよりも先程の質問に答えてくれ」





応えにくいのかやや口ごもるミヅキに代わって







「皆で、記念に写真を撮ろうとしてたの」





やんわりと返しつつ、が問い返す





「ねぇユーマ君…一緒に写真撮ってもいい?







きょとんとした顔をしていたけれども





少し間をあけた後、ユーマは首を縦に降った





「…構わんが、妙なことを頼む奴だな」


「ゴメンね ありがとうユーマ君
場所は…ミヅキの隣でいいかな?」


「ちょっ、ちょっと…!」







かなり顔を赤くしてはいたけれども





なし崩しに並び順は、ユーマの隣にミヅキ


その側に俺と宿主って形になって





「…このボタンを押せばいいのだな」


「ああ、力を入れ過ぎないよう頼んます」





シャッターを押す役は、当初と代わって
たまたま降神されてたランゲツさんに







…正直ちゃんと撮れるのか不安だったが


出て来た写真は、思ったよりも
ずっとマトモに撮れていて驚いた







「じゃあオレはもう行くから」


「うん…気をつけて ユーマ君」


「本当にありがとうね」







撮ったばかりの写真を容器に入れながら





「…、お願いがあるんだけど」


「何?」





ミヅキはチラリと去っていくユーマを見て


おずおずと、こう呟く





「約束の日にタイムカプセルを掘り出せたら
…写真をもらってもいい?







対するこいつの返事は 決まっていた







「うん、約束するわ」


「あ…ありがとう…!





嬉しそうなミヅキの様子を見つめて
同じように嬉しそうにする宿主







どうして好きな奴の写った一枚の写真を
ためらいも無く 譲る約束が出来るのか


どうしてあんな笑顔が出来るのか





その時の俺はずっと不思議で仕方なかった







「…でも、今なら何となく分かるような気がする」


「アイツも不器用な奴なんだなぁ」





確かにお前の言う通りだ


もそうだけど の奴も
好きな相手に奥手になりがちなんだよなぁ…





「闘神士と式神は、案外どこか似るモンでさぁ」


「それについては僕もそう思うよ フィーリングが
合わなきゃいいパートナーになれないよね〜」


「ヘンな所でだけは仲がいいなお前らは」





その仲の良さがあって、なんで俺が絡むと
ケンカをするのか教えて欲しい





「…お前も不器用なんじゃねーのか」


「失礼なこと言うんじゃねーよ」











それから長い時が流れる中





ある闘いをきっかけには俺の契約を破棄し





納得できず彷徨っていた俺と


式神を失ったとが出会って





俺は二人目の宿主と戦いの日々に舞い戻った







「この辺りは特に語る必要はねぇから
ちゃっちゃと飛ばすぞ?」





三人が頷いたのを見て、口を開く









そして闘いが終わり


闘神士としての使命は残されていながらも
平和な日々を過ごす中で





宿主と仲間達とで、タイムカプセルが埋められた





"お互いの絆の証と 記念に残る想い出を
未来へと繋いでいく"
為に







既に言った通り進言したのは俺で


ほんのちょっとは記憶に残る部分を
口に出したりはしていたけれど





二人がタイムカプセルを埋めたやり取りだけは


がどれだけせがもうが脅そうが





絶対に、口を割らなかった







「お前 あののしつこさに
耐え切ったってのか…ある意味スゲェな」


「流石に、今までで一番ヤバかったけどな」


「知らなかったの?って意外と
ガンコなんだよ でもそこがキュートだけど」





何じゃそりゃ…誉めてんのか?貶してんのか?







「それじゃ折角なんで、そこの旦那と一緒に
嬢方のくだりを聞かせてもらおうかねぇ」





何でか知らねぇけど微妙に黒いものを
覗かせてるこいつに若干気圧されながらも


俺達はもう一つのタイムカプセルの話をした









五人で手紙を持ち寄って





写真を撮る段で、飛び入りで一人と一匹増えて


けれど笑顔で入れ物を埋め終えて







「十年後に、みんなでここに集まって
一緒にタイムカプセルを開けようね!」








宿主と手紙を入れた仲間達は
未来での再会を約束しあった







「そっか、それでマサオミくん
あんなに慌てて時を越えたんだね」


「しかし実際現れた時は驚ぇたよな」


「てか、さり気に場所でちょっと揉めたよな」


「うんうん ポジション争いしてたよね
僕もそれだけはよーく覚えてるよ」





特にヤクモさんとマサオミとで
位置にこだわりまくってたっけなぁ…


ま、終わった今となっちゃいい想い出だが





「そちらさん方はずいぶんと楽しそうですねぃ」


「ひょっとして仲間に入れてもらえなくて
ジェラシー感じちゃってる?」


ついでで写真に写れたのが そんなに嬉しいたぁ
ずいぶんと安上がりな連帯感ですねぃ」





目の前で火花を散らしてガン垂れてるこいつらに


"犬猿の仲"ならぬ"犬龍の仲"っつー単語を
当てはめてぇと思うのは俺だけじゃねぇハズだ





「…こいつら 仲がいいんだか悪ぃんだか」


「大体こんなもんだ、気にすんな」







言ってやると 途端ににらみ合ってたこいつらが
残る一人を目でけん制して言う





「それで、どうしてこんな話をワザワザ?」


「僕もちょっと気になったんだよね」


「「お前らが聞きたいっつったんだろーが
しかもコイツと話してるトコに割り込んで!!」」






期せずしてツッコむ声音がハモった





「そうなんだけどさ…シークレットだった話を
どうして今頃語りだしたのかが聞きたいんだ」







期待に満ちた目をしてるコイツだけでなく


他の二人も、質問の返事を待っている







「…そろそろ、の方が開けられる年だから」





短く言うと そのまま俺は歩き出す





「どこ行くんだよ?」


「決まってんだろ…俺はあっちにも
顔出しちまってっから、先に見届けに行くんだ」


「けど一人だとまた迷子になるよ?」


「うるせぇなあ…だったらお前がお供してくれよ
どうせもう一個の方も見に行くだろ?」





俺の後について行く 一人が低くささやいた





ガキの頃の約束が、果たしてキチンと
果たせるモンですかねぃ」







…そいつの言う事も 一理ある





あいつらにとっての十年は長いから
約束を覚えていられるかも怪しいもんだし


覚えていたとしても、皆で揃って
約束を果たせるかも保証できない…けど







「お前ら俺の宿主どもをなめてんだろ?」





俺には確信があった





アイツらは仲間やダチとの約束を絶対に破らねぇ
例え、どんなに無茶なモンだとしてもだ」







"きっと、約束は二つとも果たされる"と







「お前らの宿主だって 大体決めた事は
しっかりやり通すだろーが」


「「「…確かに」」」





納得したように笑っていた三人の野郎どもと


俺の顔は きっと似たようなもんだったろう









『……ほら、ちゃんといたじゃねぇか』





タイムカプセルを掘り出し、中を見て
笑いあう長髪の女達と 赤髪の男







それを並んで木の上で見つめながら


果たされた約束の一つに、微笑んでみせた








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:これにて陰陽大戦記の夢小説は終了
相成ります…ご愛読ありがとうございました


コゲンタ:こっちでも出れるたぁ思わなかったが


キバチヨ:なんで僕らのネームが伏せられてるの?


狐狗狸:ワザとです 場所が伏魔殿なのか
式神界なのか分からないのもそうです


オニシバ:あの娘の前の闘神士が約束した年
書いてねぇのもそうだってんで?


狐狗狸:…ええ、そうです
(うっかりじゃないです決してそして断じて)


コゲンタ:つか あの二人が約束を果たせたのは
どーいうワケなんだよ?


オニシバ:少なくともミヅキ嬢は
記憶を失くしてる筈でさぁ


狐狗狸:そこは…何となくその年が彼女の
意識に引っかかってて、ユーマが写真を撮った
やり取りを思い出して 電話をあの子にかけて


キバチヨ:あの場所に来たと?フーン


狐狗狸:……どうせご都合主義ですスイマセン(土下座)




学パラ等で突発的に細々と書く事はあると思います


が、ジャンルとしてはここで掲載を終了します
(作品はそのまま残しますが)




さん そして読者様、今まで読んでいただいて
本当にありがとうございました!