オレぁ大して信心深くは無いが


ツキってモンがあるのは信じてる


特にツキに見放されてるヤツ
身近にいるモンだから信じるもクソもねーけど




…なんでこんな話をするかって?




ジャンプ買いに通りかかった路地で




「アナタ、そこの目隠れしてるアナタよ!
すっごい不吉だわオーラ激ヤバ!!」



とか牛みてぇな天人に叫ばれたからだ




「おいおい、呼び込みにしちゃ
熱烈すぎやしねぇかお嬢さんよぉ?」




正直オレ基準でイケてるツラしてるのに

第一声がそれじゃ台無しである




「嘘じゃないわ、こう見えて私 最近評判になってる占い師なの」




…あー、確かにテーブル周りTVで紹介された宣伝とか書いてらぁ




「特に仕事でのトラブルに気をつけないと
最悪の事態になるみたいよ?」


「マジでか」




軽く相槌を打ちつつ、オレには大して関係がない
セールストーク程度に考えていた




「特に作務衣の人物が危機を運ぶと出てるわね
…アナタお寺で仕事してるの?」


「需要がありゃね、生憎今回の現場は寺とは縁がねぇけどな」




適当な返事で占い師の忠告を聞き流す




その証拠にジャンプ買って、ウチで読んでる時点じゃ何も起きてない




「仕事に、作務衣…ねぇ」




確か今回の仕事は、ある会社の
粉飾決済やら脱税の証拠品を掻っ攫ってくる事


怪盗みてーな内容だが、法的に手を出せねぇなら
外法で行くしかねぇだけの話だ


問題は サポートとして着いてくるもう一人




「…アレ?アイツって確か」




オレは占い師の忠告と共に思い出す


ツキに見放されてるレベルで
毎回ひどい目にあって勝手に死にかける

万年作務衣の小娘





「いやいやいや、ないないないって」




嫌味なぐらい合致してやがるけど


流石にそうそう当たるもんでも無いだろ


オレは別に信心深くもなきゃ

占いに一喜一憂する乙女でもねぇし…







「全蔵殿こんばんは、相方はお主か」


…そう思っていた時期がオレにもありました







〜先の明るさも当人次第〜







出会い頭で既に三途リターン決めた様子の
を見て、がっくりと項垂れてしまう




む?どうした全蔵殿、大丈夫か?」


「うん、それオレのセリフ
つーか何その出オチ状態の怪我」


「トラックから脱走した牛を気絶させる際
ツノで相打ちになった」


「やだ結構な珍事」


不吉が足生やしてやって来やがった




こんなことなら、あの占い師のお嬢さんに
金払ってガッツリ占ってもらうべきだったか?


いや、でもオレが不幸になると決まったわけでは無いから!




「本当に大丈夫か?」


「そのセリフ、そっくりテメーに返すわ」




仕事始める前から
自己管理のなってねぇ小娘に喝を入れつつ


オレ達の仕事は始まった…







「っげ、待ておい 人員増加なんざ聞いてねぇぞ
…え?今朝方急に増やしただぁ?」




余計に増えた警備を掻い潜るために

適当な警備員を尾行して、物陰に着いた時点で気絶させ…




「お゛うっ!?」


「誰だ今の声は!」


慌てて一時撤退


くっそあの警備員、最後の抵抗でケツ穴に…




初っ端から策を挫かれたのと、地雷(物理)を触られ悶絶していると




「おい、誰だ貴様!ここの警備員じごばっ


「なんだ!侵入者が!?」




事前の作戦で二手に分かれて侵入したの方が
よりデカいしくじりをしたようで




そっちに集中している間に回復し




「倒れたコイツはしまってっと」


どうにか警備員に化けるのには成功した




「不吉ってコレのことか?」




というかコレだけであって欲しい切実に


あと、の被害率が
普段よりデカい気がする…引き寄せてんの?不幸




「まぁいい オレはオレの仕事をするだけだ」




精々捕まらねぇようにな、と


内心でにエールを送りながら
オレは警備員に紛れて目的地を目指す




…からがオレにとっての地獄だった







「お前も急遽雇われた新人か?」


「あ、ああそうなんだよ ついさっき
トイレ行っててさ配置離れてたんだ」


「トイレか…なぁアンタ」


「なんだよ、トイレは仕方ねぇだろ自然現象だし
オレは配置に戻らせ…っ」


近年稀に見るいい尻をしてるな?
後でアドレス交換してくれないか?」


「そっちの趣味はねえぇぇぇ!!」


アレな警備員に目ぇつけられるわ




「生体認証たぁ凝ってるね…
つか、コイツ重た…うぐっ!!


監視カメラ潰し、死角で気絶させた警備員を
持ち上げた際に腰が悲鳴をあげるわ




「この赤外線センサーの位置
どう見ても痔持ち殺しな配置だよな!?」


リンボーまがいの事をさせられるわで、




オレの元には(主に尻への)不幸が息つく間もなく襲いかかる







…しかも




「すばしっこい侵入者がいる!
目標はこの近くに逃げ込んだ模様!!」





のヤツが囮になってるかと思いきや


オレの方へジワジワ近づいたりするから余計に焦らされる




「くっそ…これで仕事しくじったら恨むぞあのバカ娘」




ボヤきながらも、何とか目的地にたどり着き

金庫に仕舞われた粉飾決済やら脱税の帳簿を掻っ攫う




俺の方はこれでよし、と」




懐に証拠を仕舞い、天井を抜けて

逃げる算段へ… とここまでは良かった







ただ、警備員だけでなく


屋上にまで警備用のロボを
積んでやがったのは予想外オブ予想外だった




「その金を真っ当に仕事に回せよぉぉ!」


「全くだ」




ぬっ、とすぐ側にが現れた




「囮役お疲れさん、つか何?そのカッコ」


「牛だが?」


「見りゃ分かるわ、理由聞いてんだよ」


「着て紛れた」


「言葉が足りねぇぇ!!」







普段通りのツッコミを行ってから問いただせば


どうやらビルのオーナーは牧場なんかの権利も持ってるらしく


そこの商売用の牛の着ぐるみが転がっていたから
それを着る事で難を逃れたらしい




「…ってソレ、ガキ用だよな?今どうなってんのお前の身体」


「多少関節を外してはいるが動きに支障はない
天井も通れるゆえ便利だった」




それでか、焼け出された子牛みたいに
黒いすす汚れがまだらになってんのは


まぁなんだ、天人のハーフってのも便利なモンだ




「しかし、脱出はどうする?」


「カメラはともかく、ロボまでぶっ壊すと
話が拗れちまいそうなんだよな…」




オレ達はあくまで裏側の存在

決して表沙汰になっちゃいけねぇ奴等だ


ここのビルのオーナー一同も後ろ暗い事やってんだし
多少の設備破壊なら向こうが勝手に揉み消すだろうが




…屋上のアレは、どう見ても別んトコからレンタルした兵器くせぇ




アレを壊しちまったら、テメーを棚上げして今度は
こっちへ責任追求を迫ってくるだろう…兵器貸したトコと共謀して




「全く面倒な事になったなオイ」


「別の部屋の窓から、壁を伝って逃げるのはどうだろうか?」


何階建てだと思ってんだこのビル
流石に無理がありすぎるだろが」




悪事で肥え太ったのか十階はゆうに超えるビルなだけあって


ロボから隠れてるこの物陰からも見事な眺めが見られる




「…全蔵殿、お主は目的の書類などは手に入れたのだな?」


「ああ、テメーが連中と追いかけっこしてる間にバッチリな」


「なら、これも受け取り候え」


言うや否や、着ぐるみの隙間から

ip○dみてーな絡繰がニュッ




「何これ、どやって持ってきた」


「逃げ回る最中、これ持って指示してた者がおったので
気絶させて奪った


「…そのカッコでか?」


「槍が出せるなら問題はない」






にゅ、と出した槍先がオレの尻へ触れかけ
今出さんでいい!しまえしまえ
頼むからこれ以上(ケツに)負担かけんのやめてっ!」





あっぶねぇ…血の惨劇が起こるトコだった


ともあれ、大人しく槍をしまった
が奪ってきた絡繰を見てみる




「…ははぁーん、なるほどな」


「その絡繰に何が?」


「ありまくりだぜ、でかした




どうやらがぶっ倒したのは、ここのオーナーか
その側近の人間だったらしい




警備員の配置やら各階のスイッチ


あとは電子化された別の帳簿
…おそらくロボを通しての癒着の証拠が入ってやがった




「私では内容を見れなかったが、どうやって中身を見たのだ?」


「事前情報と、あとは勘だな」




案外テメーの生年月日とか、近しいモンをパスに設定する輩は多い


ソレを見込んで いくつか打ち込んだら当たりが来ただけの話だ




「だが、あのロボの止め方までは操作出来ねぇみてぇだな…」




操作パネルかなんかありゃ一発なんだが


世の中そう、上手くはいかねぇか







「全蔵殿」


「なんだよ」


「私がこのまま囮を務めれば、手薄になった場から
お主は安全に抜けられるはずだ」


「お前さん自ら囮を継続するってのか」


「左様」




言いつつ、アイツは勝手に移動ルートをこっちへ教えてくる




…事前情報としてビル内のマップは、お互い頭に叩き込んである


威信にかけて賊を捕らえる、とかビル内の連中が息巻いてたし
その作戦は上手くいく可能性は高いだろう




だがが行く方は シャッターを下ろせば
袋小路が出来上がるポイントがある


つまりアイツが囮を務めた場合


オレの逃亡と引き換えに、確実に囚われ場合によっちゃ
今までの奴らの悪行全部擦りつけられて牢屋送り…


いや、最悪腹いせに闇に葬られてもおかしかねぇ




「ふざけんな」


「私は至って真面目だが?」


「ああ、知ってるよ馬鹿野郎




こんな時でも無表情なのも


基本的にお人好しなのも


テメーで進んで貧乏くじ引いて
それで人を助けてよし
とするトコとか


「勝手に他人(ひと)の不幸まで取るんじゃねぇ、半分返せ」


「いやお主の不幸を取ったつもりは無いが」


うるせぇ、とにかくその案は却下だ

こっからはオレが仕切るから
テメーは黙ってオレに着いてきやがれ」




言えば、牛の着ぐるみの向こうで


が微笑んだような気がした




「…承知した」







―そっからの脱出劇も、まぁひどいモンで


オレは命とケツを護りながら
命からがら と脱出を果たし


きっちりと仕事をやり遂げたのだった




「全く…こんな仕事は懲り懲りだぜ」


「同感だな」


「お前は早く着ぐるみ脱げよ」


「…着たまま動いたから変な風になった、手伝ってくれ


「はぁ!?」




ついでにバカ一名を着ぐるみから助けるミッションで
ケツに一番の大ダメージを負った事は


この日最大の不幸だった、と記憶している




「つーか着ぐるみの中あんななってたのかよ
グロいわお前」


ぐろ?よく分からぬが助けてくれてありがとう
一人では出られず困っていた」


「ほっといたら一生着ぐるみ生活だったかもな?お前さん」


「…ソレは困る、兄上や父上に私と分かってもらえなくなる
「ちょい待てナチュラルに三途行くの前提かよ」




本当、しばらく牛は見たくねぇ…







そう思って数日が経ち


例のビルのオーナーが社会的に死んでんのを
TVで見てから 薬局へ行こうと

いつか通った道を通れば




「あら、アナタ
上手く不吉な未来を回避したみたいね おめでとう!




牛顔天人の占い師が、満面の笑みでオレへと話しかけてきていた




「おかげさんでな、それより商売の方はどうだい?お嬢さん」


んもぅ順調よん?必ず当たるクーダンの占い師ってねぇ」


「ふーん、じゃあ」




言ってオレは占い師に近づいて、蹄まじりの手のひらを取る




「礼がわりにお食事に行くのはどうだい?」


「んもぅ!素敵な殿方!
情熱的すぎてクラクラしちゃう!!」



牛は見たくねぇと言ったが、牛顔のお嬢さんは話が別だ


ついでにこの間の嫌な記憶を楽しい食事で
上書きをし「あらやだ!!」




どうかしたのかと振り返れば




「おお、全蔵殿こんにちは」


「おう、つーかまた怪我してんのか?」


「今回は焼肉屋の看板が掠ったな」




牛に呪われてんのかコイツは


そんなオレの思考を他所に、占い師は
血相変えてを凝視する




「作務衣のアナタ、名前は?」


「え… と申すが」


「そう、率直に言うけど アナタ不吉の塊だわ…
こんなハッキリ死相が見える人、仕事して初めて見たわ


「先ほどまで三途で父上と語らっていた故」


「聞いてねぇ、つか頭の流血手当てしろ」




掠ったとか言った焼肉屋の看板、絶対デカイのが
上から頭に直撃したパターンだなコレ




さん、悪い事は言わないからお祓い行きなさい?

それとアナタの不吉は人を巻き込むから、お祓いを受けるまで
ソーシャルディスタンスを保つのを勧めるわ」


「そぉしゃる…すまぬ外国語は疎くて」


「人から距離とれっつってんの!」




至極真っ当な事を言われてんのに


占い師から責め立てられ、アイツの緑色の瞳が少し陰ったのを見て


…なんとなく腹が立った







「いやいや、そこまでヒドいヤツじゃねぇんだよコイツ
使い所によっちゃ幸運もたらしてくれっから」


「え、いや彼女の不吉オーラは超ヤバ


「あーすまねぇ怪我人の手当てで薬局行く用事あるんで
すまねぇがお食事は別の機会にな?お嬢さん」


テメーから仕掛けたナンパを蹴って


の手を引いて薬局へと向かえば




「…良いのか?私と共にいても」


「占い如きに日和ってんじゃねーよ
テメーの死亡フラグは今更だろが




アイツは、ホッとしたようなツラをしていた




…全く、子守なんてツイてねぇ


だがまあ 気分は悪くねぇ







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今回の元ネタは「件(くだん)」という妖怪ですね
牛の姿をしていて、当たる予言をして行くやつ


全蔵:マジで大当たりしたんだけど


狐狗狸:ご愁傷さま、ちなみに不吉な予言しかしていかないから
回避するためには番の「件」を見つけないとっていう


全蔵:あーその回 ぬ〜○〜で見たわ ガチで怖いよなアレ


狐狗狸:ちなみに回避のために「件」の写真や
絵図を持つのも効き目があるとか言われてますよ


全蔵:ああそう、そんなんよりに聞くまじないとか教えてくれ




読んでいただいて ありがとうございます
2021年もよろしくお願いします!