江戸の街こと、かぶき町


清濁合わせ呑んだこの歓楽街も様々な窮地に立たされながら
その度住人の手によって復旧を果たし月日を重ねた


最終回発情期も過ぎ、年号が変わってもなお


この街は変わらずに正月を迎えた




「宇宙カピバラが脱走したぞー!」




…が、相変わらず騒ぎの種は尽きない




子牛ほどの大きさをした群れが、人で賑わう歩道を
わらわらと走り出し


弾丸を鼻面に放たれ


キュルキュルと鳴き声をあげながら立ち止まる




「大人しく檻に戻りやがれぃ」




まだ煙が立ちこめるバズーカの筒先をチラつかせた沖田が
怯えるカピバラ達へ淡々と命令し


カピバラ達は、元々管理されていた所へと大人しく収まっていく




「こっちは年明けやらなんやらで浮かれた連中や
土方抹殺に忙しいんでぃ、干支の生きモンが
手間かけさせるんじゃねーや」


「いや隊長、カピバラはネズミの範疇に入るんですか?」


「細かいコトは気にするなぃ、バ管理人がサボってたせいで
1月ほぼ過ぎて企画の〆切ギリにこの話アップしてんだし」


それ以上いけない




…くどいようだが、この話内では
"正月"と言えるくらいの時期である


仕事明けする所は出てきてても鏡開きは
まだ先くらいと捉えてもらいたい


いいね?


「誰に話してんでぃ」


「いやアンタもなんですが」







そんな何とも言えない会話をしつつ、いくつかの揉め事を
物理で)収めながら徒歩での巡回を行う沖田が


広場にて打ち立てられた梯子と


その頂上でバランスを取って市民へ手を振る
法被姿の女性を目にして立ち止まる




「なんでぃありゃ」


「あー、出初式っすね」




視線を追って梯子の女性を見た部下へ




「見りゃ分からぁ つーか火消しにも女がいるのな」


「今はその辺自由っすから、あとあの火消しの娘っ子は
前々から巷で有名でしたよ?」


「ふーん」




さして興味なさげな声をあげ、沖田がその場を去ろうとした




まさにその寸前




「すごいな辰巳殿」


「ありがとな!」




なんてやり取りを梯子の女性とする
見慣れた作務衣の女性を見つけたので




じゃねぇか、久々だねぃ」




彼が軽く声をかけると


服装などが変われど、相変わらずの無表情が彼の方へと向けられた







〜年明けだからこそ色々気をつけて行こう〜







「総悟殿か、明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします」


「おう、明けよろ」


「短っ」


「そちらのお主も明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします」


「えっ、あ、はいよろしくお願いします」




互いに挨拶を終え、沖田が口を開く




「しばらく顔見なかったが、どこ行ってたんでぃ?」


「宇宙だ」


「ほーん、何しに?」


「…用事だな」


「省くのは令和でも変わらずかぃ」


「よくは分からぬが、しからば私はコレで」


「ちょい待てぃ




呼び止められ、は再び足を止める




「まだ何か用だろうか?」


「仕事始めだってーのに付き合い悪いと損するぜぃ

こういう時は挨拶まわりのついでに
土方狩り付き合うってのが恒例だろぃ」


「それ沖田隊長だけです」




冷静な指摘や恒例行事化した土方への嫌がらせ
(もとい抹殺)にも特に動じず彼女は答える




「挨拶まわりはすませねばならぬが
それとは別に用向きがあるゆえ」


「兄貴か?」


「兄上ではないな」




出来た一拍の間に、梯子での演目が
終わって起きた周囲からの拍手喝采が挟まり


無表情のまま拍手を送るへ沖田が問う




「珍しいねぃ、いつもは兄上兄上うるせーじゃねーかお前」


「確かに兄上の供回りは最優先だが
私にも付き合いというものがあるのだ」


「それも仕事かぃ?」




"兄"以外で自分よりも優先された事象に、興味半分で訪ねると
意外な名前が挙げられた




「そよ姫殿からの頼みだな」


「マジでか」


姫様から?それはオレ達が聞いても大丈夫なヤツですかね」




隊員の言葉に、少しだけ考えてから




「お主らも一応知ってもらった方が良いな」




は少しばかり人の輪から離れる提案をし


広場に流れる木遣り歌へ紛れる程度の声量で
掻い摘んで事情を話す




宇宙火鼠という生き物は知っているか?」


「なんでぃそりゃ」


「あー…なんか聞いた事あるような」


「密輸されたその生き物の回収だ…痛」


「初オシオキくらいたくなきゃ省略グセ直しやがれ
はいもう一回」




軽く叩かれた額をさすりつ語られた概要によれば


宇宙火鼠という外来生物が数匹密輸され
江戸に持ち込まれた情報が入ったので


手が空いており動ける人員でその捕獲に当たるよう
姫が命じているのだとか




「数は少ないが機密性が高い故、はじめは御庭番や
信女殿達が声をかけられていたようだが人手が足りぬらしくてな」


「で、なんでオレらの前にお前がそれを引き受けてんでぃ」


「帰還がてら挨拶まわりで訪れたら頼まれた、時間がかかるなら
真選組にも話をすると申されていたぞ」


「なるほど…で、宇宙火鼠の特徴は?」




教わった特徴によれば、幼体らしく大きさはひと抱えほどで
やたら艶やかな白い毛並み


雑食性だが習性はどちらかというと地球の猫に近く

地球の猫を怖がらない為か一見すると
野良猫と見分けが付きにくいとか


皮膚と毛が火に強く、火の中でも身体が燃えずに活動でき
その際には体毛が朱色へ変わる事と


自身の危機には火を吐ける点が猫と見分けるポイントらしい




「ちょっ、さらっとトンデモない事言ったね!?
火を吐くとかヤバいじゃん」


「賢い個体ゆえ余程でなくば吐かぬらしいが
扱いは気をつけた方がいいぞ」


「気をつけてどうにかなるモンなの?」


「まーうっかり轢いちまわねぇように気をつけらぁ
お前も気をつけろよ」


「うぬ」




そんな感じで立ち去る彼女を見送り


沖田と隊士も市内巡回に戻りつつ、一応は気をつけて
路上の猫などを注視するも


この時は特に問題は起きなかった







「お?」




沖田がそれらしい生き物を見かけたのは


巡回後 屯所の敷地内にて、一人で黙々と
怪しげな仕掛けを施している時である




「なるほど、たしかによーく見りゃネズミの耳と尾でぃ」




近所の野良猫と遜色ない大きさのネズミは

視線を受けてやや警戒したように後退る




「怯えなくてもいいじゃねえかぃ、こっちきて
ちょーっと手伝ってくれたらチーズやるぜぃ?ネズ公」




ちょいちょい、と手招きする沖田だが


白いネズミはなおも警戒を解かずにヒゲをひくつかせるのみ




本能的に危険を感じ取っているのは流石の一言だが


令和になっても変わらぬドS(おきた)にその反応は逆効果で




「オトして土方の乗るパトにでも放り込」


言いつつ間合いを詰めて 彼はネズミの背後へ回ると
その首の後ろへ手を伸ばした




が、間一髪で手の動きに間に合ったネズミの口から炎が吹き出す




「あづづあぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛!?」




見た目が猫に似ていたのも相まり、反射的に
首の皮を掴んで宙吊りにする方を先に選んでしまった沖田は


その反撃で大いに取り乱し


火のついた袖ごと地面へ勢いよく転がり悶える




火は無事に消え 火傷もほとんど無かったが
当然ネズミは逃げ出しているし




「どした総悟ぉぉ!?」




騒ぎを聞きつけた近藤や他の隊士が慌ててかけつけて来ている




宇宙生物といえどネズミ一匹にしてやられ、泥まみれかつ
涙目の状態を人前に晒してしまった沖田の内心も


地獄のように燃え盛っている




「…心を燃やされただけでさぁ」


「何それ、柱に会ったの?」


「まあネズミ狩るなら
オレほどお誂え向きなチョイスはありやせんね」


「賊でも入ったのか?なんだその火傷…って
なんで口に包帯巻き始めたの?ねぇ」




本人にとって不幸中の幸いなのは、この場に土方がいない事だが


それは沖田にとってなんの慰めにもならない




"ぐねぐねと曲がった刀身を持つ日本刀"


"ある外国軍人達が持っている銃と似たハンドガン"をそれぞれ携え




「ネズ公ごときが、オレの調教から逃げられると思うなよ?」


「総悟おぉ!どっから持ってきたのその武器!
それぞれの世界に返してきなさい!!」





ニヤリとエグい笑みを浮かべ
沖田は"宇宙火鼠狩り"を決意したのだった







から聞いていた宇宙火鼠の情報を近藤達へと共有しつつも




「何匹いるかは聞いてねぇですが
ちょっくらネズミ狩りに参加してきやす」


「おう、ネズミとはいえ気をつけろよ?」


「近藤さんこそストーキングした軒下でうっかりケツに敷いて
ケツ毛燃やされねぇようにしてくだせぇ」


「いやいや猫くらいのデカさなら敷く前に気付くって
「軒下に潜る方を否定しましょう局長ぅぅぅ!」




みたいな会話と共に




「この件、土方さんにはオフレコで頼みまさぁ
あの人こういうの向いてねぇでしょ」


「まあ向き不向きって点じゃ不向きだろうけど
ちゃんの話からするといずれオレ達にも
話が来てたろうから時間の問題」


「単体ならまだいいんですがね?
万事屋の旦那とエンカ率高ぇのが一番厄介なんでさ」


「コラボでも大概引っ張ってこられる立ち位置だしなぁ…
しかし借りを作るのがアレとはいえ万事屋に手伝いが頼めんのは
プラスじゃ「あの人動物に嫌われてやすからねぃ
不向きな土方さんと下手に組ませでもした日にゃ
…江戸が炎上しちまうかもねぃ」


「い、いやいやまさかまさかぁ」


「いくら何でも炎上って、ねぇ?」


「可能性は無くはないでしょ、そうなる前に
火種摘んどきてぇって話でさぁ」




と不安を煽り"土方や万事屋が関わらないウチに
宇宙火鼠確保を終わらせる"
よう釘を刺す沖田だが


当人の狙いは"ネズミにしてやられた失態の秘匿
「地の文だからってオレがいつまでも見逃すと思うかぃ?」


スミマセンデシタ当方何モ感知シテマセン







とにかく "宇宙火鼠狩り"に動いた沖田が
妙に騒がしい街中を散策を行い




程なくとの再会を果たした




「総悟殿、仕事か?」


「お前と同じくネズミ狩りでぃ」


「それは助かる あと一匹なのだ」




無表情の申告に気のない返事をしながらも


沖田の脳内では今もなお火鼠確保と

"引き渡す前に行う調教の方法"
"土方への嫌がらせ利用の為の計略"が巡っている




冬場だからって正月早々ボヤが多すぎらぁ!
なんだってんだい」




不機嫌そうな辰巳が何人かの火消しと共に走って来たのは
ちょうどその時である




「先程ぶりだな辰巳殿、ネズミを知らぬか」


「さっきぶり…あぁ?ネズミ?


「オタクら困らせてるボヤの元凶でぃ」


「どういうこった」







簡単に事情を説明し、辰巳からも話を聞けば


出初式と前後しての小火騒ぎや不審火の始末に
てんてこ舞いになっているとか




「ただでさえ冬は火事が多いってのに
迷惑なネズミ持ち込みやがって」


「その怒りは最もだな、万一兄上に火傷を負わせでもしたなら
皮を剥いでも怒りが治まらん」


「一応は生け捕りって事忘れんなよ?


「言い方不穏だなお前ら…まあいい
現場はこっちだが邪魔はすんなよ?」




しかめっ面をしながらも改めて現場へ向かう




その道中 通りがかった河原で焚き火をしている
ホームレス達が彼らの視界に入り




「総悟殿、いたぞ」


「あん?」




緑色の視線を追って沖田も


チロチロと燃えるボール大ぐらいの炎の中で寛ぐ
朱色の生き物の姿を捉えた




「マジか、お手柄だぜぃ


待ちやがれてやんでぃ!
何でバズーカの照準合わせてんだあぁぁぁ!?」



「騒ぐんじゃねぇやいネズミが逃げんだろぃ」


「そっちはネズミ捕まえる所か死滅させようとしてんだろ!」


「直撃はさせねぇよ、気付かれねぇ距離から
先手を打つだけでぃ」


二次被害がデカすぎんだろが!
テメェ本当に警察かよ!?」




バズーカ発射を辰巳が阻止している辺りで


異様な気配に気付いてか、炎の中にいたネズミが走り出し


すぐ側の橋の橋脚を伝い
橋桁と橋脚の隙間へ潜り込んでゆく




「チッ、器用なネズ公でぃ」


「合間へ潜るか…下手に手を出せば橋が燃えるなアレは」







言いつつ河原へ降りた両者が思案していると




火消しを先に現場へ行かせた辰巳が
梯子を持ってきてそこへ割って入る




「ほれ、コレでがネズミ追い立てて
オレらが捕まえりゃ万事解決だろ」


「用意がいいじゃねぇか」


「辰巳殿、助力感謝いたす」


「火種を防ぐのも火消しの仕事だからな」




間をおかずに橋脚のすぐ隣へ垂直に梯子が立てられ




瞬時に駆け上がったが頂点で起立して槍を素早く組み立て


刃先が虚空へ振るわれたと同時に

沖田が梯子の根元を蹴ったため




「ぬあっ!?」




結果的に、生み出された"飛ぶ斬撃"は
ネズミから大きく外れた位置へ刻まれ


バランスを崩したは片足を引っ掛けた状態で
梯子へ逆さ吊りになる




「ちょっ、いきなり何してんだい!」


「いや足が滑ったんでぃ、てかその技ネズ公が
死んじまうだろが?」




どうやら逆さ吊りになった時点で
梯子の縁に頭を打ち付けたらしく、意識がない


ついでに言うと脈も無い 心肺停止的な意味




「ちょっ!これまさか死んで…おい


「足がまた滑ったあぁぁ!」




彼女の この場面での三途行きは予想してなかったらしく


内心の焦りをごまかすように沖田が
橋脚へ向かって梯子を蹴り倒す




ごと傾く梯子を慌てて辰巳が支え


ネズミは当然驚いて、反射的に梯子から逃げるように飛び降りて




「捕まえだぜぃ」




一足飛びで間合いを詰めた沖田に捕らえられ


今度は逃げる間もなくシメ落とされた




「…一丁あがり、計算通りでぃ」


「嘘つけテメェぇ!
さっき"やっちまった"ってツラしてたろ!」



「いやいや気のせいだろぃ、まぁおかげで
ネズ公も油断したし囮役ご苦労様でさ」




さも"想定内"という空気を醸しながらも




「んじゃコイツはオレが処理しとくから
アンタは職務に戻っていいぜぃ」




いつも通りを装って沖田は、宇宙火鼠を
手にその場を立ち去ろうとした




…が、その手から宇宙火鼠が奪われる




すまぬな、三途へ参っていた
火鼠を捕らえてくれてありがとう総悟殿」


リスポーン早っ!いやソイツはちゃんと連れてくから
心配しなくても「辰巳殿にも感謝いたす、しからば私はこれにて」




私的利用(土方への嫌がらせ)の構想を
描いていた総悟の事などいざ知らず




驚異的な速さで復活したは火鼠を抱えると


一礼してその場から立ち去った







…茫然とする沖田へ 辰巳は一言




「なんつーか、お疲れ様」


と声をかけて職務へと戻ってゆく




この後、徒労からかしばらく沖田は
大人しくなっていたそうな







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:期限伸ばし&ギリギリ1月内という暴挙ですが
年号変わったし、令和特別版!と言うコトでご容赦


沖田:しねぇぜぃ


狐狗狸:ですよねー…執筆遅くなってスイマセンでした


辰巳:てゆうかオレにあの二人をどうにかさせるとか無理だろ
一人ですら持て余すわバーロー


近藤:ああうん、ウチの総悟がゴメンね


狐狗狸:こちらもウチの夢主がゴメンね




読んでいただいて ありがとうございます
2020年もよろしくお願いします!