オレは今、とんでもない神キュウチに立たされちまっている




テキはあの神腹が立つ邪神

…だったらエンリョなくぶっ倒せたんだが


今回のテキはムラサキツンツンイカレ邪神じゃなく


そいつの悪い手下どもでもない




「面倒な抵抗は止めろ 著しく時間の無駄だ」




そう…今のオレのテキはカフィルだ




「だっちゃらお前の方があきらきめろ!
神は絶対負けたりしにぇーぞ!


"諦める"ワケにはいかない、そういう依頼だったはずだ
…分かっているだろう?」




言われなくても十分分かってる


分かった上で、こうしてる




「著しい契約違反はお前の方
間違っているのはお前なんだ、グラウンディ


「っそれでも!オレには出来ゅない!




オレの足元で、抱きしめてる腕の中で


ふるえながらキューキューと鳴いてる
コイツらと神バッチリ目が合う


「オレにはコイツらを殺せばい!!」







立ち寄った町でオレ達二人が受けたのは


新年祭とかで忙しくてカラダこわした駆除人のオッさんに代わって

家や建物を住処にしてる虫やネズミを、一匹残らず駆除すること


神カンタンな仕事だと思ってた




…ついさっきまで




「なーお前ばんで虫やネズミの逃げる先とか分かるんだ?」


「奴等には一定の習性がある、それに則り
先んじて罠を仕掛けるのは著しく容易い」




そこそこ長い日数を期限でもらったオレ達は


マノレーグから伝わった粘着剤をぬった板とか


虫やネズミが死ぬ毒が混ぜてあるパンみたいなヤツとか


神変な金具がついた"ネズミ捕り"とかいうのを
いくつかしかけてから 家の外や中とかをうろついて




虫やネズミが入りそうだとカフィルが言う
ヒビ割れとかをオレの神チカラで直して回り




時間をおいて罠を見に行って




「うおぉ…ほんぴょにかかってる」


「死骸はこの袋に放り
外の一角にまとめてから燃やすのが面倒がない」




ゴロゴロ転がってる虫やネズミの死体を
ホウキとチリトリで回収したり




…神ヤだったけど仕事だから仕方なく回収したんだ!

努力しまくった神をホメてたたえろ!あがめろ!!




とにかく死体を集めたり、まだ生きてるヤツにトドメさしたり

逃げ回るヤツや見つけたヤツをナイフや神チカラでしとめたり


そんな感じで 紙に書かれてた場所の駆除を
次々と終わらせていってた







〜駆逐者ト利己主義〜







よっし!あとはこのボロっちいヤシキだけだな
ちゃっちゃた片付けるぞー!」


「あまり破壊するなよ」




取り壊す予定とかいってた このヤシキは
やたら古くて床とかカベがくさってた


うっかりヒビや踏み抜いた穴開けちまって


神チカラで直したのも一度や二度じゃない




「うえぇ…あのユーレイ船もももい出すぜ」


「"思い出す"な、あの船よりは経過年数が著しく少ないぞ」


「ボロさ加減でま神同じだろ…」




ボロいだけあって虫がやたらと多くて


粘着剤板やケムリだけじゃ神足りねぇくらい
出てくるから、何度も叫んだ




…つーかあの黒くて早いのが顔面に飛んできたりしたから
思わず床を使ったカベでたたき返して怒られた


しかたねーだろアレは







まあ色々ありつつも駆除を進めて


カベや床も 持たされた粘土とかオレのチカラでふさいでって




ほとんどの部屋を埋めたなってトコで




「…壁の向こうから鳴き声がした」


うぇっ?けど、ここの向こうは
もう片っけたトコだろ?まだ残ってんのか?」


カフィルがミョーなコト言い出して




カベに耳つけたら、ホントにキューキューいってる鳴き声がして




周辺の部屋を 図面と照らし合わせて回ってみたけど
全部駆除終わったトコで


さんざ調べてなんもなかったけど




鳴き声が聞こえるカベをたたいたカフィルが




「…どうやら屋敷に隠された空間がある」


とか神トンデモねーコトを口にした




「マジかふぇい!」


「はじめは壁の隙間にいるかと考えたが
鳴き声と、壁面を叩いた際の反響音から考えると
隙間では著しく矛盾する」


「けど、それっぴょい入り口見なかったぞ」


「絡繰仕掛けか見落としたか、或いは封じられたのか
…考えるだけ面倒だ」




気にはなるけど、カフィルが"駆除を引き受けた以上は
一匹残さず駆除する"
っつった言葉にオレも神納得したから


その部屋に入るための方法を考えて




二階建てかつ、屋根裏部屋の存在はない
目的の部屋が二階とするなら内部観察はコレが一番手っ取り早い」


「うげ…神にそんなキダなそうなトコ進ませんのかよお前」


"汚かろう"が仕事は仕事だ、老朽化著しく狭い箇所なら
小柄で目方の軽いお前が適任なのは道理だろう」




天井板を外し、そっからオレが入り込んで
部屋の真下まで行って大体の状態を見る


あの神づかい荒い道化は天井のオレを部屋のトコまで
声で誘導しつつ、別に入れるトコを探すらしかった




「あのヤロー神をなんだと思ってんだ
…いちゅかブンギャって言わせてやるぜ」




神チカラで作った光をともしたナイフ片手に


クモの巣やホコリに苦しめられ


黒いのに合うかもしれねぇ恐怖に神戦って




「こね辺かー?」


「あと二歩ほど右だ」


「わかきゃらな…ヌガパビャッ!?


神モロくなってた天井ぶち抜いちまって




隠し部屋に落っこちて、オレは見た




うす暗く神ホコリだらけのボロめな家具とか並ぶ
部屋のスミに固まって


ベッドに落ちたオレをジッと見つめる…




「かっ、がまいいっ…!




おびえてるハミネズミの一家




「なんだよーお前みゃが鳴き声のヌシかー」




たずねるオレに酒ビンくらいのヤツ
多分親の片方がキューって鳴いた


人なれしてんのか?神かしこいな




今まで駆除で片付けてたの、神汚くてキョーボーな
ドブネズミとかばっかだったから


野生の、しかも子連れのハミネズミは駆除だと初めて見た




何匹かいる ちっこい子ネズミが
ちょっとずつオレの方へ寄ってきたから


ゆっくり手を伸ばしてみると


プルプルふるえるカラダでよじ登ったヤツが

手のニオイを嗅いだり、オレを見つめ返す




「…オレを怖がっかり かんだりしないのか」




めったにない反応と神かわいい姿に
思わず顔がゆるんだオレの耳へ




「グラウンディ、状況を報告しろ」


壁越しからのカフィルの声が届く




「あぁ悪い悪いテンギョー神モロくてな
かくし部屋に落ちたんだよ」


「そうか、内部はどうなってる?」




見たままの光景と、ハミネズミの一家がいるのを教える


…他には虫とかいないな、よし




「どうやら換気用の空気穴から部屋へ入ってきたらしいな
目立たないように作られていた配管を見つけた」




言われてカベの上側を見回せば確かに


ベッド側の後ろに、ちっちゃく空いてる
四角い穴みたいなのが見えた


親はギリギリ通れるサイズだな…高さあるし


他に入れそうなトコないから、最近ここに入ったのか?もしかして




そう考えると、段々逃がしてやってもいいような気がしてきて




「ハミネズミのあや、親子なんだけど」


「固まってるなら面倒がなくていい」


言いかけたオレの言葉を遮って




「お前が天井裏を塞ぎつつ脱出、空気穴から薬草を燻した煙を
流して弱らせ 壁に穴を開けて罠を張れば一網打尽だ」




カフィルはいつものように、そう言った




「い、いるのはハミネジュミだけだぜ?神人なつっこしし」


「比較的温厚なハミネズミでも、屋敷に居ついているなら
人の食物に味をしめ壁などに被害を出すのは著しく目に見えている」


「でもあたりアレれないし迷いきょんできただけだから
外に出る時一緒に出すだけで」


「駆除でネズミを山と殺しておいて、情が移ったからと
害になりうるネズミを見逃すのか?お前は」





少しだけ言葉に詰まる




カフィルの言ってるコトは正しい




でも、ワガママだとしても


このハミネズミは殺したくない…だから




面倒だ、早めに天井から出ろ」




アイツが神ヨウシャなく
ケムリを流し込んできたのを見て、とっさに


「"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!"」




カベに手をついて ケムリが流れる空気穴をぴったりとふさいだ




「…何のつもりだ」


「お前があきらめるまで、オレは
ハミネズミと部屋にこめって神テイコーしてやる!」




叫んだ直後に、向かいのカベからアカい刃先
何度か飛び出して引っ込むのを見たが


神チカラですかさずカベを直して


ついでに、外側にいるカフィルの腹あたりに当たるように

カベの一部を棒みたいに変形させて飛び出させて引っ込める




「…面倒だ」




もう一回カベが切られる前に




「"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!"」


カベ自体を一時的にグニャっとやわらかくして切れないようにする




キューキュー鳴いてハミネズミ一家全員が
オレの方へとよってくる




オレは、大きい一体をなでて答えた




神安心しぞ!
お前たちはこの神がしっかり守ってやるからな!」








…こうして、ハミネズミ一家を守るため


かくし部屋にこもっての戦いが始まった




カフィルは すぐに音を立てずに動き出した




けど、ハミネズミ達が大体の方向を教えてくれたし


何より武器になる材料は部屋の中に神たくさんあったから


カベねらいはすぐに術でふさぎ
間に合わない時は即席カベを作って、押し出すコトができた




いっぺん天井からケムリが流れてきたが




「"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!"」




天井ふさいで、元の空気穴開け直して
なんとかいなすコトができた




「上は天ジョーんトコ入れないからこるない
…床なんかとかしとくか」




棚みたいなのを使って、部屋いっぱいの長さの板を作り出して


床から少し離した位置で十字になるようにくっつけ

板にハミネズミを移しつつ、中心にオレが乗った




直後に床へデカい穴が空いたから


ベッドを変化させたハンマーをそこへ飛ばしてひるませ
すぐに穴をふさいだ




「へっへーん!どうだバカ道化!
オレの神チカラ思い知ったた!!





なにがきても防げる以上、神チカラと家具を
ムダづかいせずに期限ギリまで粘れば


カフィルもハミネズミ殺すのをあきらめる







そう考えてたオレは気づかなかった


だれでもない、自分の腹からわきあがってくる神強い苦しみ




「…っ、と、とととトイエ…!




そういやココ、今までの場所と違って
トイレがまともに使えるトコじゃない




部屋にトイレなんか当然ない


でも、ドア作ったらハミネズミが殺される


かといって ココでもらしちまったら神として
いやダメだろ!ダメだ


つか神寒いんだよこのヤシキ!

だからカラダが冷えて…っおう!




何度目かのカベ破壊に、ちょっと遅れながらもなんとか対応


ぐっ…苦しい、ヤバい、トイレ行きたい




「面倒な抵抗は止めろ 著しく時間の無駄だ」


「だっちゃらお前の方があきらきめろ!
神は絶対負けたりしにぇーぞ!




…そんなわけで神 ただいまキュウチ真っ最中




言い合いの合間にあさく息はいて
ガマンしてるけど、どこまで持つか


いや気を抜いたら持ってかれる




「…そこでの籠城は、お前に著しく不利だ
暖もなく食事や休息も見込めない」


「神にふかねっ不可能はねーんだよ」


守っているネズミにも同じ事が言える、最近入り込んだなら尚更
出られなければどの道死ぬ…早いか遅いかだけだ」




そうだ…コイツらも寒さを感じるし、腹が減ったりする


ここにい続けたらオレより先に死んじまう…でも…!




必死で頭を働かせる


ふるえて鳴いてるコイツらを、どうにか殺させず
外に出せる方法…!





空気穴はケムリのニオイがついてるせいでイヤがってる

天井も同じ理由でダメ


部屋のどっかに穴を開けて逃がすヤツだとカフィルが
粘着剤板とか毒パンの罠張ってそう




どっかに抜け道がないか…!




苦手だったけど考えて考えて、神考えすぎて
頭が吹っ飛びそうなくらい考えて


カラダの方もガマン出来なくなった頃に


オレに一発逆転のアイデアが閃いた







「…わかった、ドアをづかる」


「そうか」


「けど 少し時間かかるこら待っててくれ」


「…面倒なことはするなよ?」




足元を支える十時板と、残る家具を
こっそり利用して小声で神チカラを使い




「心配なぎから」




ハミネズミ達に声をかけてからドアを作ると


さほど立たずカフィルが開け


数歩進んで 辺りを見回す




「…取り壊す予定とはいえ、派手に
「"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!"」


やるなら、ここしかない




握った見えないヒモを伝って


ヒモとつながった"見えない車輪型のカゴ"が走り出す




「なっ…!?」




おどろくカフィルには、いくつもの音が
後ろに走り抜けていくのしか分かんないハズ


ヒモは走り出した時点で切れるように がんばって思念を送った




ひぇっへー!コレでどこにハミネズミがいるか
わからがいぎゃ…っうう!」




チビりそうになって屈み込んじまうが


ギリギリまで作ったいくつものカゴにまぎれたハミネズミ一家は
これで無事に近くの窓や階段を伝って外へ







―駆け出したカフィルが無造作に手を伸ばす




何もない、ように見えるその両手から


キューキューと鳴き声が




「なんっ…やめろおぉえああぉ!!


叫んで走ってカフィルへ体当たりする、が


あっさり片手で受け止められた




「やめれぉ!殺じゅな!くろすなぁあ!」


涙で前がにじんでボヤけて、それでもヤツの手にある
ハミネズミ達を助けようともがく




「落ち着け、そこまで嫌か」


「いやぎかなまかさあってんがろお!」


「著しく言語能力が落ちてる」




いまだキューキューと助けを求めるハミネズミ達とオレを見比べて


…カフィルが静かに言った




「ハミネズミは、ここにいるので全部か?」


「うぶぇっ?」


「著しく手間だが…お前の方が余程面倒だからな
コイツらは一旦俺達で預り 森へ返す」


「…殺さなびのか?」


「その方が楽で確実だが
お前がそこまで抵抗するなら仕方ないだろう




心底嫌そうにため息をついていたけど


カフィルが見えないカゴを、しっかり駆除のとは
別の袋に分けて入れたのを見て


オレは ひどく安心した




力が抜けて…


足の間があったかくなったのに気づいた瞬間、顔が熱くなる




「…俺は何も見ていない、早く宿に戻るぞ」




別の意味でこぼれる涙をぬぐいながら、オレはかくし部屋を後にした







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:猫みたいな狩人、ってイメージでネズミ駆除の話です
ハミネズミは草食性なハムスターっぽいのをご想像くださ


グラウ:"すべての意思はここにあり(レェサニサ)!"


狐狗狸:ごばうっ!?(頭にハンマー直撃)


グラウ:神ハジィかしいトコ書きやがって!亡者の国に落ちろ!
どぅかなんでハミネズミのいるトコわかっぱんだ!


カフィル:音と気配で探っただけだ、しかしお前に懐く
動物と遭遇するとは…面倒な偶然もあったものだ


狐狗狸:そこもまた偶然の妙ですよ(流血)




読んでいただいて ありがとうございます
2020年もよろしくお願いします!