神話の神々がいた時代より


定められた季節が巡る始まりを新たな年と節目がつけられ祝われた




"最後の神"が世界を去ってからは


新年の祭は"神を迎えるモノ"
"迎えた神を持て成すモノ"の二つで分かれ


国や地域により形式などが変じていったものの


神とともに来たる新年と豊穣を願う想いは
時や国を隔てても変わらない




このイトビの町でもそれは同じだったが




祭の主役をかけて!オレとお・ど・り・で・勝負だ!」


比較的温暖な地域とはいえ、寒風吹きすさぶ広場で
半裸に近い格好をした男に


隆々と盛り上がった筋肉を見せ付けられながら
道化師に勝負を挑む光景は


有史以来初めての珍事であろう







情報収集を兼ねたジャグリング芸を広場にて行った直後




「失礼、そちらお二人で舞踊大会には参加されるのかな?」




唐突に近づいてきた半裸の男に問われ




「ええ 少々事情もありますので」




相手に合わせた態度でカフィルが当たり障りのない返事をしたら


いきなり大会にかこつけての宣戦布告をされて現状に至っている




「お断りいたします
せっかくの祝いの催しに無用な争いは不要かと」


なにぃ!?貴様それでも男か!
挑まれた勝負を逃げ出す奴が何処にいるっ!」



「いいからオマヘはなたか着ろっ」


「何を言うかお子様め、すでにオレは
踊り子としてバッチリ正装してるぞ!」




短く刈り込んだ頭を動物の牙らしきモノで出来た冠で飾り立て


褐色に色付く剛健な身体を包むのは派手派手しい柄の腰布一枚


道行くまばらな人々の奇異に満ちた視線を集める姿の男に
堂々と胸を張られてグラウンディも言い返す言葉に詰まった







〜舞ヲ競イテ神笑ウ〜







とにかく!
貴様に恨みはないが道化師ならば容赦はせんからな!」


「…何故道化師を著しく目の敵に?」


"道化師は負かせ!特に銀髪のヤツ!"がウチの家訓だからだ!」


「なんばぢょそのカクン!?」


「なんか爺さんかそのまた爺さんの代くらいに銀髪の道化師に
負かされたのがきっかけで出来たって聞いてる!」




見上げ気味に少女は隣の道化へささやく




「…おいカフィル、昔なりしたんだコイツのジーさんに」


覚えなどない 仮に真実としても著しく逆恨み甚だしい家訓だ」




そうこうするうち




「勝つのはオレだが油断はせんからな!せいぜい技を磨いておけ!
ではツレを待たせているから今日の所は失礼する!




何やら自己完結して半裸男は去ってゆく




「あの神デブみたいぬゅヤツが
ほかにもいるなんて思わなかったぜ」


「全くだ、面倒な相手に絡まれたな」


「まっ!なんにせよ一番にかっぺ
神賞金を手に入れんのはオレらだがな」




先ほどの半裸男ばりに自信満々な少女へ




「…お前のくだらんイタズラが原因だという自覚はあるのか?」




彼は冷やかな言葉を浴びせたのだった







イトビは舞踊が盛んな文化圏にある為

新年祭の催しには当然踊りが興じられる決まりがあるが


伝統ある踊りを伝える村や町と違い、外からの人間が
気軽に参加できる催しとして舞踊大会が毎年開催されていた


人数や踊りの種類などは問わず


素人から本職までが集い、賞金をかけて踊りを披露し祭を盛り上げる




…ゆえに新しい式刻法術の使い方を覚え


調子に乗って道化に一泡吹かせようとした結果
少女が高価な商品を壊したため


弁償させられ路銀が乏しくなった二人が
大会に参加するのは必然であった







そして舞踊大会当日


地元の若者五人組による創作ダンスから始まった舞踏合戦は


観客と審査員である町長らからの投票により
参加者が一喜一憂を繰り返し


会場の熱気を高めて行く




「今のは色っぽかったですねー」


「技術は拙いですが情感がこもってましたね
これは意外な伏兵かもですな」




審査員席の解説を聞きながら


化粧も用意も万端な二人は、自らの出番を
他の参加者同様舞台袖で待つ




「…あんなムチメチな女の変な踊りろりオレらの方がうまいぜ」


「結局練習では三割しか成功してないのに
その著しい自身はどこからくる」




少女の言葉に若干やっかみが混じっているのは気のせいではない


しかし道化は面倒だったため

その部分には敢えて触れずにおいた




そうこうするうち半裸男の出番となり




「それでは次はミサン諸島出身の踊り子である
ニックさんの演舞です!どうぞ!


「見せてやるぜ!
ミサン仕込みの最高のナウルダンスを!!」





紹介と同時に勢いよく飛び出した半裸男ことニックの両腕には


それぞれ両端に布がまかれた松明が握られ
片方の天に向いた先端にはが灯っていた




「なんばだたでっ!?あんなにつかっていいのかよ!!」


「…黙って見ていろ」




袖から鳴り響く太鼓の旋律に合わせ


燃え盛る火炎を物ともせず


掛け声と共に踊り子は松明をくるくると回しながら
胴体や股下をくぐらせ


時には後ろ手で放り投げて受け止め


炎を掴み、火のついていなかった部分や松明へ
順繰りに点火を行なったり


振り回す際にわざと消し、激しい動きを交えながら再点火するなど


一歩間違えれば大惨事となるであろうパフォーマンスを見せていく




観客達の目が 彼の舞により躍動する筋肉と
それを照らす炎へ釘付けになるのが


舞台袖からでもよくわかった




「あんな派手だら勝ち目が減るかむっ…どうするカフィル!?」


「なるようにしかならんだろう」




演目が被るくらいは予想していたが


伝統的かつ"炎"とゆう要素を使いこなす本職の演舞の後では


道化師と見習い助手による
即興のナイフダンスなど霞んでしまうだろう




「じゃ、じゃあオレが覚えたアレを使って神演出をすりぇれば」


「式刻法術や奇術ならまだしも舞踏としては邪道とみなされ
最悪失格だろうな、第一何をするつもりだ?




根本を指摘され沈黙した少女に代わり







『火ぃ使う踊りなんてわかってるねぇ
でもちょおっと火力足りないかなぁ?


答えたのは、二人の側にある壁から
顔を半分覗かせたエブライズだった




半透明な彼の 血のように赤い瞳は


人々の視線が集中する野外型の特設舞台の上で

両端に炎を灯した松明を操り踊りを魅せる半裸男に注がれている




『いい時に起きれたからぁ、もっと面白くしてあげるねぇ』


「何をする気だ」




太鼓もちょうど最高潮に達し


火の部分を足に乗せてジャグリングのように
松明を振り回したニックが


おもむろに炎を握った、その瞬間




邪神は鋭い爪のついた指先をくいっと軽く上へと持ち上げる




消えるはずの松明の火が


まるで意思を持った生き物のように手のひらから
筋肉質な身体を這い回る





「え、お゛っあぁあ!?




取り落とした松明の炎も後に続いて彼の身体へと集い


まるで赤い蛇をまとって踊るような有様に周囲の客達も沸き立つ




…しかしアレが舞踊の振り付けではない事を知っているのは




筋肉ダルマの松明なんて最高の見世物でしょ!
眠いから眠くなる前に燃えつきてくれるとありがたいねぇ』


ゲテゲテと笑い、壁に潜り込むようにして
消えた邪神の側にいた二人のみ




「水をかければ演目と大会は台無し

放っておけばあの男は死ぬ…面倒な事態となったものだな」


「たしきゃかに、オレがいなきゃそうだってただろうな」


「…出来るか?」




見下ろす焦げ茶と鈍色の瞳を受けて




「神をだんらと思ってんだ!」


ドンと胸を叩いて答え

その拳を開いてグラウンディは祝詞を唱える




「"すべての意思はここにあり(レェサニサ!)"」




たちまち草色をした少女の姿が溶け込むように
周囲の景色を透過し、消え去った




間髪入れず足音だけがざわつく舞台を縫って進み


いまだ戸惑う踊り子へ迫る




太鼓を叩いていた者が相方の異常を感じとり、演奏を止めた直後




「オッさん、あわちゃず棒拾え」


小さな呟きと二度目の祝詞が聴こえてきたのを
道化の耳はしっかりと捉えていた




「…おぉっ?おう!おおーお!!




身体へ触れた微かな感触と聖書の祝詞を契機に


自身を焦がさんと猛り蠢いていた炎の勢いが弱まり


爪先で掬う感じで拾われた松明へと戻っていくのを
ニックは目の当たりにする




その不可思議な光景は観衆の度肝を抜き




スゴい、アレどうなってるのかしら」


「ホントに身体燃えてんのかと思ったぜ!やるなアンタ!」




歓声に反応して踊りを再開した彼に合わせ、再び太鼓が鳴らされる




そのドサクサに紛れて戻ってきたグラウンディが
いるだろう位置を見下ろし


カフィルはうっすらと微笑んだ




「…よくやった」


「ひゅふん、まーな







その後、ニックは無事踊りきり


舞踏大会は特にハプニングらしいものもなく終了した




「ちきしょー…あの神火男まじゃで優勝かっさらっちまった」


「周囲の反応からして著しく妥当だな」




疲労感を背負い 宿へと戻ろうとする二人は




「おお!いたか道化師とお子様」




すっかり普段着に身を包んだ本日の主役に
呼びかけられて立ち止まる




「何か御用でしょうか?」




問いかけに、細身の男を伴ったニックは

憮然とした面持ちでこう言った




あの時、オレを助けたろ?しらばっくれても無駄だぞ!」




幼い頃に振り付けを叩き込まれて以来


炎の扱いに注意を払ってきた彼にとって
あり得ない動きをした炎にまかれた時


苦しみ悶える中 死を覚悟していた




そして炎の扱いに長けていたからこそ


状況は分からずとも式刻法術により自分が助けられた事を理解した




「これでも耳には自信あるからな
術を使ったのそこのお子様だろ?」


「お、おぇういまっ」


ならこの勝負は無効だ!戦うべき相手に
救われ手にした勝ちに意味はない」


「ちょっと待てニック!まさかお前優勝取り消すっつーんじゃ」


「当然だろ?お前の演奏でオレ自身が全力を尽くす事が大事だと
馬鹿野郎!せっかくの好機をフイにする気か!
名を挙げて二人で有名になるんだろ?!」





互いの主張により口論を始めた踊り子と奏者へ割って入り




「無粋な真似を致しました事は著しくお詫び申し上げます」


道化師は優雅に一礼する




「しかしあなた様の演舞が何であれ台無しになるのが惜しいと
思いした事、あの一件を抜きにしてもあなた様の優勝は
揺るぐ事は無かったかと」


ううむ…しかしだなぁ」




道化の言葉に頷く相方を横目に、ひとしきり唸って
反論し続ける踊り子は

最後には根負けする形で言いくるめられ




「よーし、なら礼代わりにメシをおごるぞ!
それならいいだろ!」


うおぉ神太っばらだなお前!何食ってもいいのか!?」


「構わん!好きなだけ食えお子様!」


「まぁいいけど…すいませんね
アイツ昔っからガンコで自分勝手で」


「いえ、助手も似たようなものです」


結果 四人は揃って食堂へと繰り出すのだった







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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ニックは離島の出身でケスタが大発生する前に
島を出てるからジュケモ村のいざこざは知りません


筋肉:え?貴様ら島で何かしたのか!?


少女:失礼じゃコト言うな!オレらはむしろ
あの村を神チカラですくったんだっつの!


筋肉:ほう!中々やるな、見直したぞお子様!


少女:当然だ!オレは神だあらな!!


道化:…著しく似た者同士波長が合うのか?




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